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第37話 瑞穂代表

 四年に一度、世界的な大会というものが開催される。

 一つは国際競技大会、もう一つが世界大会。

 なぜそんな大きな大会が二つもあるかといえば、それぞれ運営組織が異なるから。

 前者は出場登録をしている世界各国の支援金によって運営されている。

 後者は各国の競技連盟の供出金によって運営されている。


 この二大会は何度も対話の場を設け、幾度となくお互いが食い合わないようにと協議を重ねてきた。その結果、今では出場資格を制限するという事で合意がされている。


 国際競技大会の出場条件は十八歳以上、二五歳以下である事。

 世界大会は年齢制限は十八歳以上なだけだが、その国の職業戦に出場経験がある事という条件がある。

 共に国籍主義でその国に国籍がある事が必須条件で、帰化した者でも五年経過しないと出場資格が得られない。


 竜杖球は世界大会は開催されていたのだが、国際競技大会では長く参考競技とされていた。

 だが、世界大会の参加国が増えた事で三回前から晴れて正式種目扱いとなった。


 国際競技大会と世界大会はもう一つ大きな違いがある。

 国際競技大会は開催時期が九月と決められている。これは、北半球と南半球の季節や気候を考慮した結果。

 一方の世界大会は各国際連盟で開催時期を調整している。同じ年に多くの競技で大会が行われるため、その日程はなるべく重ならないようにと配慮がなされている。 

 この二つの大会は二年おきに大会が行われる事になっていて、次回は来年の国際競技大会。場所は中央大陸西端の国、イベロス王国の首都トレド。



 九月に入ろうという日付。

 にわかに見付球団が慌ただしくなった。


 九月から行われる国際競技大会の予選に向けて、瑞穂代表選手の発表が行われる事になったのだ。

 前回大会は四年前、そこでは見付球団の選手は一人もお声がかからなかった。八年前には若松が呼ばれている。結果は残念ながら予選敗退であったが。


 今回、もしかしたら広沢、荒木、栗山あたりが呼ばれるのではないかと噂されている。実際、球団事務所の方にも、その三人を呼ぶかもしれないという通達が来ている。


 代表に呼ばれている間は、体調管理の事を考えて、試合に出場させられなくなってしまうのだが、それを差し引いても、選手の知名度が上がる事への恩恵の方が大きいと球団側は感じている。


 午前中に練習を終えた選手たちは、昼食を取り、夕方少し前に事務所の大会議室に集められた。大会議室には大きな電視機があり、それを皆でわいわい言いながら見ようというのだ。

 一応、広沢、荒木、栗山の三人は私服ではなく一張羅でと通達が来ている。


「三人に通達は来てはいるものの、果たしてってとこだな。実際、前回は尾花に通達が来たけど、最終的に名前は挙がらなかったもんなあ」


 からからと笑いながら若松が言うと、尾花は「嫌な事を思い出させるな」と抗議。それに杉浦と渋井が大笑いした。


「ヘラルトも今日発表だったんだろ? どうなんだよ、入れたの?」


 杉浦がそうたずねて、通訳が訳すと、ヘラルトは苦笑いした。


「ア-、ムツカシイ、ネ」


 そう言って首を横に振るヘラルトに、八重樫がずいぶんと瑞穂語が上達したと言って嬉しそうに笑った。


 角は相変わらず寡黙で、皆の会話を聞きながらくすりと笑っているだけ。

 広沢はガチガチに緊張していて、荒木と栗山はもし選ばれたらどうしようと言い合っている。


 そんなこんなで、がやがやと騒いでいると、竜杖球連盟の公式放送が始まった。

 最初は七月に連盟会長に就任したばかりの武田富三郎が、何だか良くわからない事をぐだぐだと演説した。

 どうやら今回の大会の位置付けやら、参加する意味やらを喋っているらしい。


 武田会長の挨拶が終わると、今回の瑞穂代表の監督の発表となった。

 代表監督は金田という人物で、これまでいくつかの球団で監督をし、何度か瑞穂戦に出場している、名監督といっても差し支えない人物である。関根監督同様にこの年代にしては背筋が伸びていて、かつ細身。異常に眼光が鋭く、若い頃はさぞかしやんちゃだったんだろうなという印象を受ける。


 金田の話は各球団宛てで、瑞穂の国威のためにぜひ協力をお願いしたいといった感じの内容であった。


 その後、いよいよ選手の発表がされた。

 まずは守衛から。守衛は台北の香川と太宰府の伊東。

 獅子団で一緒だった伊東が選ばれた事で早くも広沢と荒木、二人で盛り上がっている。

 次に後衛。後衛は四人で、西府の岡田、直江津の愛甲、北府の南牟礼、稲沢の彦野。

 岡田は猛牛団、彦野は龍虎団で、共に非常に苦戦させられた選手であり、荒木としても納得の人選であった。

 続いて中堅。中堅は五人で、幕府の原、川相、太宰府の石毛、小田原の高木、多賀城の大石。

 この時点で広沢と栗山は落選が決定。なかなか代表入りは難しいと二人で言い合っている。

 最後に先鋒。先鋒は三人で幕府の槇原、太宰府の工藤、稲沢の鹿島。


 結局、見付球団からは誰も採用が無かった。

 あんなに盛り上がっていたのに、大会議室はまるでお通夜会場のように静まってしまった。


「この選定には非常に悩んだ。結局、比較的選手層が厚いと思われる球団から選手を選ばせてもらった。他にも選びたい選手は何人もいたのだが、それによって球団の戦力が著しく低下する事を恐れて今回は呼べなかった。極めて残念な話だ」


 選手発表の後で金田はそう発言した。


 その発言で大会議室はさらに沈んでしまった。

 正直言って、荒木くらいは選ばれるんじゃないかと皆が思っていた。だがその荒木にはお声がかからなかった。その理由が、もしかしたら選んだら集団として崩壊しかねないかもと言われたのである。

 つまりは他の選手がショボすぎると。


「あれだな、うちらとしては、後はヘラルトが代表で選ばれるのを期待するしかねえな」


 そう言って大杉がヘラルトの肩をポンと叩いた。

 するとヘラルトがすくっと椅子から立ちあがった。


「オカシイ、ネ! ナンデ、アラキ、エラバレナイ! アラキ、カシマヨリ、ウエ、ネ!」


 ヘラルトは皆の方を向いて本気で怒り出してしまった。

 そんなヘラルトを「みんなわかっているから」と言って八重樫がなだめた。角も「だんくう」と言ってヘラルトをなだめる。


 なかなか納得がいかなかったようでヘラルトは「オカシイ」を連呼した。

 そんなヘラルトを、本当に瑞穂語が上達したと若松と杉浦が言い合った。


 当の荒木は、どこかほっとした顔をしていた。

 そんな荒木を見た広沢が、何で良かったという顔をしているんだと指摘。もっと悔しがれと。


「いやあ、だって、海外ってあのデービスみたいな質の悪いのがわんさといるんでしょ? また怪我させられて欠場はねえ」


 そう言ってカラカラと笑う荒木に、皆が一斉に「お前はちゃんと肉を食え」と指摘しまくった。

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