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第14話 試合を観戦

 早朝から牧場へ行き、竜の世話が終わると竜の騎乗練習、民宿に帰ると勉強。

 確かに合宿とはそういうものかもしれない。だが、あまりにも、あまりにも楽しみというものがない。


 広岡は、四日目くらいから、明らかに部員たちの士気の低下を感じている。川上教頭も午後の勉強の時間でその事は感じてはいる。だが羽目を外させるわけにはいかないという考えもある。広岡としては、部活動も勉強も楽しくやらないと身には付かないという信条であり、勉強効率を上げるためにも何とかできないだろうかと川上に相談していた。


 部員たちが牧場に行っている間、広岡と川上はどうしたものかと頭を悩ませていた。当初は旨いものがたらふく食えるのだから士気は下がらないだろうと、二人も安直に考えていた。ところが夕飯に美味しそうな肉が出ても贅沢にも食べ飽きたと言い出す始末。

 もう食べ物でつるのは限界となっている。とはいえ、遊びといっても遊ぶような場所は近くには無い。広岡は数札と花札を持ってきているが、小学生じゃあるまいしと見向きもされない。


 そんな折、広岡の先輩土井さんから、竜杖球の職人選手の人たちの試合を観にいかないかと誘いがあったのだった。


 川上は観戦代も安くないのだからそこまで甘えるわけにはいかないと難色をしめした。それを土井は笑い飛ばした。

 職人選手の試合と言っても一軍球団の人たちじゃなく、二軍球団の人たちだから観戦代はタダみたいな金額なのだとか。

 だがそうは言っても職人選手は職人選手。気分転換にもなるだろうし、高い技術の人たちの試合を観る事も十分練習だと土井は言った。



 こうして竜杖球部の面々は、朝早くから輸送車に乗って苫小牧の球場まで向かう事になった。


 竜杖球の職業球技戦で一般の人たちが競技番組などで目にするのは、いわゆる一軍球団と呼ばれる組織の試合である。だが、一軍球団に所属できる人数というものは限られており、入団したばかりの若手、試合で負傷した者、活躍が不振な者などは下部組織である二軍球団に所属している。


 だが、ただただ練習をさせても試合勘のようなものがどんどん失せてしまうし士気も下がる。さらに彼らは費用はかかるが収益を生み出したりはしない。そこで二軍球団は新人のみを集め北国各地で試合を行う事でわずかではあるが興行収入を稼がせている。


 実はこの二軍球団の試合は真の竜杖球好きには人気が高い。よほどの事が無い限り、採用したばかりの新人選手は二軍球団に送られる事になる。つまり、この二軍球団には未来の職業球技戦で大活躍する選手が含まれている可能性が極めて高いのだ。


 そういう選手は見ればすぐにわかる。一方で新人選手もこれから自分を売っていかなければと思えば観客に対しての奉仕も篤くなる。自分の愛用品に署名して観客にあげたりという事も頻繁である。そのため、活躍している選手の二軍時代のお宝品というのが時々話題になったりする。



 どうやら川上は竜杖球というものを初めて実際に目にしたらしい。観客席に入り競技場を見た時から興奮しっぱなしであった。

 来た当初はそれでも、土井に麦酒を薦められても生徒の前ですからなどと言って自制していたのだが、試合の中休憩には部員を引き連れて、君たちもお酒以外なら好きな物を飲んだら良いと財布の紐を緩ませる始末であった。


 ただ、どうにも規定がわからないらしく、周囲に今のはどういう事か、あれはこういう事なのかと質問をしまくっており、気が付いたら隣が広岡と浜崎部長になっていた。



 予定されていた試合を観戦し終え伊達町の安達荘に戻る事になった。

その帰りの輸送車の中で土井は、すっかり竜杖球が好きになった川上に職業球技戦の二軍球団の説明をした。


 ――一昔前、それこそ職業球技戦が始まった頃は、どの球団も二軍球団を抱えていた。元々、球技協会は野球や蹴球しゅうきゅう(=サッカー)、闘球とうきゅう(=ラグビー)、篭球ろうきゅう(=バスケット)といった人気球技の職業球技戦のように、各地域ごとに総当たり戦を行って、その中の成績優秀だった球団のみで全国戦を行うという方式を模索していた。ところが、初期の球団は少なすぎて、いきなり全国総当たり戦となってしまっていた。


 ここで事業計画を何とか遂行せねばと球技協会が勇んでしまった。とにかく球団を増やさねばと躍起になってしまった。

 そうして急いで球団を増やしたのだが、元々一軍でしのぎを削っていた球団と、数合わせで入ってきた球団とではあまりにも実力が違いすぎた。結局、元々あった球団が毎回全国戦に残る事になり、後発の球団は窮乏していく事に。そのせいでまともに二軍球団も運営できない状況であった。


 そこで元あった球団が、後発の球団の二軍球団を吸収するという形で今の六球団が形勢されている。もちろん各地域で同じ二軍球団という編成は許されず、北国、東国、西国、南国の各球団によって一球団が編成されている――



「なるほどねえ。では、例えばうちの学校の近くだと『見付球団』という球団があるのですが、そこはどうなっているのですか?」


 川上の質問に土井は記憶を辿り、確か見付は後発球団ではあるが、数合わせではなく途中参加の球団だったはずと回答した。

 先ほど見てもらった試合の片方の球団である獅子団。実はこの獅子団の構成球団の一つが見付球団である。先発である太宰府球団が見付球団を吸収し、数合わせの沖縄球団、苫小牧球団で一つの獅子団という球団になっている。


 一軍球団は複数の企業による協賛を得て都市名で運営しているが、二軍球団は複数の一軍球団の支援で運営しているため、そういった名前が付けられず動物の名前を付けている。

 見付球団の所属する獅子団の他には襲鷹しゅうよう団、猛牛もうぎゅう団、大鯨たいげい団、龍虎りゅうこ団、昇鯉しょうり団がある。

 獅子とは何とも強そうな名前なのだが、残念ながら成績は芳しくない。昨年の成績は六球団中五位だったはず。


 四球団で一つの二軍球団を運用するとなれば、資金の豊富な球団は他球団の良い若手選手を引き抜いてしまうという事もある。もちろん採用した球団が選手とは専属契約を交わしている。当然球団側もその中に何年間は契約破棄できないというような文言を入れたりしている。

 だがこれが選手側から非常に評判が悪い。一軍球団の選手層の問題で二軍球団で甘んじているという選手もそれなりにおり、そういう選手からしたら、引き抜かれるなら早めに抜かれて活躍したいという風に考える。元々自球団に憧れや愛着がある選手も当然いるが、多くの選手が最重要視するのは自分の生活だからである。



「後発の職業球技戦だから当たり前なのかもしれませんけど、中々に苦心の跡が見られますね。今日観戦してこんなに面白い球技なのかと感動したわけですから、観てもらえさえすれば人気になりそうなんですけどね」


 川上の意見に土井はくすくすと笑い出した。

 それはどの球技も同じ事。馴染みの無い球技ほど、競技人口が少なく観戦者も少なくなりがち。だから蹴球や野球のような曜日を占有する球技には中々なれないのだと説明したのだった。



「えっ! ほんとかよ!」


 輸送者の後ろの方で浜崎が大声をあげた。すでに全員観戦疲れをしており、何事かと浜崎の方に視線を移した。浜崎は自分の声が思いのほか大声だった事に気付き、照れ笑いをする。

 窓側に宮田、通路を挟んで川村と藤井が座っていて、その前に伊藤と戸狩が座っている。恐らく浜崎と宮田の会話は周囲にはぼそぼそとしか聞こえていないであろう。川村にしても戸狩にしても特に会話に加わろうという感じでは無い。


 宮田と浜崎は民宿に到着するまで何かを話し続けていた。宮田は冷静に、浜崎は終始興奮気味であった。

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