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第13話 竜に乗る

 朝食を終え三十分ほど食休みを終えた所で、食堂に一人の牧夫が宮田と荒木を呼びに来た。馴致担当の松沼だとその人物は名乗った。

 松沼の後を宮田と荒木は黙ってついて行く。すると牧場内に簡単な調教場があり、既に三頭の竜が用意されていた。


――


 ここでいう竜というのは恐竜の事である。

 大昔は何種類もの恐竜がいたのだが、現在は数種類を残し全て絶滅してしまっている。


 かつて、まだ人類が石を道具にしていた時代、恐竜は人類にとっての最大の脅威であった。恐竜は食物連鎖の頂点に君臨しており、非力ですばしっこいわけでもない人類は食物連鎖の底辺であった。

 そんな人類だったが、他の生物に二点だけ勝る点があった。手先の器用さと智慧が働く事。地球上のほとんどの生物が本能という衝動に忠実な中、どういうわけか人類だけが本能という衝動を抑える事ができた。


 そんな人類は徐々に他の生き物と共生していく事を覚えていった。狼を従えて護衛としたり、山猫を飼いならして害となる小動物を狩らせたり。そんな行動の一環として恐竜を飼いならそうとした。

 いつしか、恐竜は狩るべき対象の人類と共に生きる事を選ぶようになり、人類に使役されて食物を得るようになっていった。


 だが、残念ながら近年になって、竜の役割は終わりを告げてしまった。

 燃料革命が起き、それまで木を燃やして食事を作って、竜に物を運ばせていた産業が、全て石油と電気に取って代わられるようになってしまった。


 竜の処分は世界的な問題となっていき、竜を絶滅から救おうという機運が高まった。そんな中で一つの答えとして施行されたのが『競竜』であった。

 生き残った竜のうち、空を飛ぶ翼竜、地を駆ける駆竜、地を走る走竜、地を這う伏竜、海を泳ぐ泳竜、この五種の竜が競竜として持て囃される事になった。


 だが今度は竜を生産動物として扱い始めることになる。用が無くなれば絞めて食用にするという行為が横行。全ての竜を救う事は難しいだろうが、せめて競竜以外にも竜の行き場をという声があがるようになった。

 こうして、乗竜や、竜杖球といった竜を使った競技が国際的に行われるようになってきたのだった。


 竜杖球は国によって使用される竜が異なる。

 国際大会では『呂級』と呼ばれる四本脚の駆竜を使用する事になっているが、国によっては『八級』と呼ばれる走竜を使用している国もある。女性の大会は『止級』と呼ばれる泳竜で行われる事が多い。

 国や大会によって使用する竜が違うというのは竜杖球だけでなく、竜術大会も同様だったりする。


 呂級の竜は見た目は非常に馬に似ている。以前は馬の祖先なのではないかと言われた事もあるくらいだが、それは今は学術研究で完全に否定されている。


 草食の馬に対し呂級は雑食で、蹄も一枚である馬に対し呂級は五つに割れている。胎生の馬に対し呂級は卵生である。馬同様に長い尻尾、長いたてがみが生えているが、呂級のそれは体毛ではなく羽毛である。膝から下に羽毛は生えておらず、ぼこぼことした恐竜独特の皮膚が向き出しになっている。

 とはいえ、その顔はほぼ馬のそれ。だが鳴き声はどこか大型鳥類のようである。特徴的なのは耳の後ろに珊瑚のような角が生えていることである。


 口内に一部尖った歯が生えている。この尖った歯は『竜牙りゅうが』といい、ここに革輪を引っかけ、その革輪から伸びた革紐を左右に引く事で竜を制御するという仕組みになっている。この革製の竜具を『くつわ』と呼ぶ。轡は竜に騎乗していう事をきかせるための必須の竜具であり、これがないと背に乗った人は全く制御ができない。


 竜牙に輪をかけるというのは、どうしても竜にとっては負担となってしまう。そこで普段竜を曳く時には顔に革紐をかけるだけにしており、その竜具は『頭絡とうらく』と呼ばれる。竜にもよるのだが、どちらかというとこの頭絡の方が竜は嫌がる。


――


 松沼はまず轡の付け方と鞍の乗せ方から指導した。だが宮田は昨年二年生として大会に出場しており、荒木は中学で乗竜大会に出場している。二人からしたらおさらい程度の事であった。


 二人がそれなりに経験があるとすぐに察した松沼は、じゃあおさらいとして『常歩(なみあし)(=歩き)』からやってみようと言って自身も竜に跨った。


 宮田は久々の事で最初少し戸惑ったがすぐに慣れた。荒木はかなり久々であったが全く問題なく竜を歩かせた。宮田には少しだけ騎乗の姿勢を矯正したが荒木に関しては全く指導をしなかった。


 二人の騎乗姿勢を見て松沼は初日ではあるがさらに先に進んでも大丈夫と判断した。次に調教場に乗り出して『速歩(はやあし)(=スキップ)』に入った。


 竜杖球は競竜ではないので、速さが武器にはなるものの竜への疲労を抑える為にこの『速歩』を多用する。自分の守備位置に向かう時や、自分が守備にも攻撃にも参加していない時などは速歩でゆっくりと移動する。

 これも宮田も荒木も特に問題無くこなしていった。

 そんな二人を見て松沼は俺の教える事なんてほとんど残っていないと言って笑い出した。



 その日はそれで労働も練習も終わりだった。最後に竜を水洗いし、刷子はけで水を落として竜房に納めた。

 宮田と荒木はありがとうございましたと松沼に礼を述べた。

 松沼は明日は乗り運動した後、『駈歩(かけあし)(=スキップ)』に入るからと言って微笑んだ。



 民宿に戻る前に昼食を食べて行けば良いと松沼に言われ、三人は食堂へと向かった。

 食堂で荒木と宮田が目にしたのは、大きな皿にあれだけ盛ってあった肉がほとんど無くなっているという光景であった。そしてさらに驚いたのは、朝見た山盛りの肉がもう一皿用意されていた事であった。


「なんだ君たち、それっぽちしか食べないんか。ちゃんと肉を食べないと、疲れが取れなくなってしまうぞ」


 そう言って松沼は自分の皿に山のように肉を取った。宮田はまだ朝の肉で胸やけしており、荒木は見ただけでげっぷが出た。


 よく見ると他の牧夫の人たちも同じように皿に山に肉を取って焼いている。その滴ったタレと肉汁で野菜を焼いて食べている人もいる。麦酒があればいう事無しなんだがと松沼が言うと、学生の前でそれはまずいだろうと他の牧夫が笑い出した。



 牧場から戻った宮田と荒木を広岡先生が出迎えた。二人の乗った車を見ると、広岡は嬉しそうな顔をして右手をぶんぶんと振って手招きしている。


 宮田と荒木は、運転手に礼を述べて明日もよろしくお願いしますと頭を下げて車から降りる。

 そんな二人に広岡は能天気にもどうだったどうだったと興奮気味に聞いてきた。宮田は露骨にうるさいなあという顔をしており、荒木は飯が旨かったと一言返答した。広岡はそうじゃないと他の話を聞き出そうとするのだが、宮田にしっしと追い払われてしまったのだった。


「二人とも、このあと少し休んで四時間の勉強があるからね。教頭先生もう準備して待ってるから、準備でき次第食堂に来てね」


 宮田と荒木はぴたりと足を止め、ゆっくり振り返り、冗談だろと呟き広岡の顔を睨んだ。

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