第61話 歓喜到来!
同点に追いついてから、獅子団は怒涛の連続得点となった。
襲鷹団の水野選手の打ち出しで再開したのだが、中盤の岸川選手が球を確保しきれない。何とか川相選手に繋ごうとするのだが、途中で栗山に奪われたり、打ち出す前に辻に潰されたりしている。
栗山が奪った時は渡辺へ、辻が奪った時は荒木へ球が渡る。
渡辺の得点力は低いのだが、荒木はそうではない。一度は渡辺の『宇宙開発』で獅子団の選手たちを脱力させたが、その後、荒木に渡った際は綺麗に篭に吸い込まれて行った。
渡辺も練習を思い出し、三点目はきっちりと決めた。
さらに荒木が四点目を叩き込む。
この四失点目で国松監督は、岸川選手に代えて香田選手を投入した。だが、そんなものは焼石に水であった。この時点でもう後衛の二人が全く機能していなかったのだ。
あっさりと荒木が五点目を叩き込み、さらに六点目を決めた。
もはや球場の観客はお祭り騒ぎとなっている。
応援しに来た球団が一方的に得点しているのだ、見ていてこんなにも爽快な事はないだろう。
後半残り六分。
荒木が得点して、自陣に戻るという時に観客席がわっと湧いた。どう考えても観客が興奮するところではないのに沸いている。
選手たちは全員、観客が見ている電光掲示板に視線を移した。
そこには他会場の途中経過が報告されていたのだった。当然注目すべきは龍虎団と大鯨団のところ。
二対二の同点となっていたのだ。
だがまだ試合は残り六分ある。勝ち越されたら龍虎団の優勝、このまま引き分けたら獅子団の逆転優勝。
◇◇◇
川相選手が観客に竜杖を掲げて挨拶している荒木をじっと見つめている。
目の前で優勝されるのは襲鷹団として屈辱以外の何物でもない。だが、もはやこの点差はどうにもならない。
あの出来事、荒木を潰そうとしたあの出来事から全ての歯車が欠けて噛み合わなくなってしまった。それまで得点王だった槇原は急失速して龍虎団の鹿島に抜かれた。
近十年の成績は全て優勝か二位かであった。だが今年、大鯨団と猛牛団に抜かれ四位まで順位が落ちた。
何とかここで引き分け以上に持ち込んで目の前の優勝だけは阻止しよう。そんな消極的な事を試合前に国松監督は言っていた。
前半を終えて一対〇。中休憩でも国松監督はこの調子だと選手たちを鼓舞していた。このまま先鋒を二枚にして叩き潰してやろうなどと言っていた。
そしてその結果が目の前の惨状である。六対一という何とも残酷な点差が電光掲示板に表示されている。さらにはもう最後の交代札も切ってしまっている。
もはや万策は尽きてしまった。
試合が再開され、早々に獅子団に球を奪われ、渡辺が走り込み篭に打ち込んだ。
村田選手が良い反応を見せ、竜杖を当て弾き出す。
だが渡辺と反対側に弾き出した先に荒木が陣取っている。
もはや村田選手も心が挫けてしまっているようで、荒木の打ち込みには反応はしつつも対応はしなかった。
球は篭の前で一度跳ね、篭の中へと踊り込んでいった。
それほど盛り上がる場面でも無いように感じるのに観客席がどっと沸いている。
選手たちにはその意味がわからなかったが、恐らく龍虎団の方で何かあったのだろうと感じていた。
完全に意気消沈している水野選手の打ち出しで試合が再開となった。
水野選手もこれまでそれなりに工夫はしている。岸川選手では駄目だと感じ、川相選手に球を渡してみたり、斉藤選手に渡して速攻を試みたりしている。だがその全てが渡辺、辻、栗山の三人に潰されてしまっている。時には小川が前に出てきて攻撃参加したりもしている。
もはや水野選手もどうしていいかわからない。とりあえず川相選手に球を流した。
これ以上の失点は嫌だ。
川相選手は慎重に球を確保しながらじっくりと攻め上がって行く。その川相選手に栗山が守備に付く。さらに小川も積極的に守備に来る。
悲しいかな、その前に球を他の選手に渡したいと思っていても連携が悪く、誰も近くにいない。
仕方なく前方に大きく打ち出し、自分で追いかける。そこでやっと水野選手がやってくる。
川相選手が最初に追いつきはしたのだが、追いついたきた栗山に竜を体当たりされ、後方に球が零れてしまった。
零れ球に小川が反応し前方に大きく打ち出す。そこに辻が追いつく。
そこで試合終了の長い笛が審判によって吹き鳴らされた。
◇◇◇
最後、両軍が中央で横一列になって観客に一礼すると観客席から一斉に歓声があがった。
試合は終わったのだが、獅子団の選手たちは競技場から去らなかった。全員その場で電光掲示板を凝視している。
襲鷹団の選手たちもそれに付き合って電光掲示板を見つめている。
何の場内放送も無く、ぱっと電光掲示板に他会場を結果が表示された。
その瞬間、観客たちが今日一番の大歓声をあげた。
二対二。
龍虎団も大鯨団も残りの十分間得点できずにそのまま試合終了を迎えたのだった。
”獅子団! 優勝おめでとう!”
興奮しきった大音量の放送が球場内に流れる。
選手たちは竜の背の上で両拳を握りしめて喜びを噛みしめ合っている。
辻と佐々木が涙を流している。
感極まって鴻野が竜を走らせ始めた。
秦が竜杖を掲げて踊っている。
「桜井! やったぞ! 優勝だぞ!」
佐々木が観客席に向かって叫んだ。すると辻と栗山も桜井と叫んだ。
補欠席にいた選手たちも全員竜にのって競技場に入り込んでいる。
その竜の背には一緒に日野監督や指導者たちが乗っている。
笘篠が竜杖を掲げて観客に挨拶している。
野口の後ろに大石が乗って、二人で大喜びしている。
川相選手が荒木に近づいて来た。
「優勝おめでとう! 俺はまだ何も球団から言われて無いんだけど、荒木君は一軍昇格が決まってるんだろ。必ず俺も一軍に上がってやるから、その時は対戦を楽しみにしてるよ」
川相選手が手を差し伸べる。荒木がその手を取った。
「先に一軍で待ってるよ!」
そこに槇原選手がやってきた。
「荒木! お前来年から一軍なんだろ。俺もだ! 一軍ではこんな風に一方的にはやられないからな!」
槇原選手はそう言って荒木の肩に手を置いた。荒木も満面の笑みで槇原選手を見る。
「一軍でも大暴れしてやりますよ! 幕府球団相手だろうと通用するってところをみせてやりますよ」
荒木がそう強気に言うと、槇原選手と川相選手は顔を見合わせて笑った。今は言わせといてやると言って、槇原選手が豪快に笑った。
”ご来場のお客様! 再度電光掲示板をご注目ください!”
そんな放送が入り、大歓声をあげていた観客席が少し静かになった。
選手たちも何事だとその場で足を止め電光掲示板を注視し始めた。
一番下に斎藤(襲鷹)を表示。
その上に山本(龍虎)を表示。
さらにその上に槇原(襲鷹)を表示。
そしてその上に鹿島(龍虎)を表示。
その段階で観客席では早くも歓声が上がった。
少し時間を置いて、一番上に荒木(獅子)が表示されたのだった。
その瞬間、観客席がわっと湧いて大歓声が沸き起こった。
”荒木選手! 得点王おめでとう!!”
球場内に興奮気味の放送が流れたのだが、歓声にかき消え気味であった。
二位の鹿島選手との差はわずか一点。
両軍の選手たちが荒木の竜を取り囲んで、思い思いにおめでとうと声をかけた。
恥ずかしがって荒木がぺこぺこと頭を下げる。そんな荒木の背を槇原選手がパンと叩く。
「職人選手なら職人選手らしく、ちゃんと観客の声援に応えてやれよ!」
すると鴻野も反対から荒木の背ををパンと叩いた。
「そうだぞ、荒木! 見付球団ではそういうの習わないのか? ほら、恥ずかしがってないで行ってこいよ!」
荒木の前にいた選手たちが道を開ける。
荒木は観客席に向けて竜を歩き出させた。
一歩、一歩、ゆっくりと竜が歩を進める。
突然竜がばっと走り出した。
観客席と平行するように荒木の竜が駆ける。
荒木が竜杖を天に掲げる。
「みんな! 応援ありがとう! 来年も声援よろしく!」
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