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第53話 一進一退

 獅子団の先発は、守衛が大石、後衛が小川、佐々木、中盤が栗山、辻、鴻野こうの、先鋒は渡辺。

 対する大鯨団の先発は、守衛が藤田、後衛が南牟礼みなみむれ、高橋、中盤が弓岡、高木、銚子ちょうし、先鋒は右田みぎた


 大鯨団の攻撃から試合は始まった。

 大鯨団は、最初から高木選手と銚子選手の二人を要として攻撃を組み立てており、球が競技場の反対から反対へと飛びながら最後は右田選手に決めさせようとする。

 だが、右田選手の決定力がそこまで高くは無く点が入らない。


 その大鯨団の攻撃に栗山が無効化されてしまい、辻と鴻野の二人が必死に守備している。

 ただ、一度栗山に球が渡ると、一気に攻撃の流れが変わる。

 弓岡選手が守備にまわるも、栗山はそれをものともせず渡辺を走らせる。

 渡辺は竜を走らせる速度だけは荒木と遜色無いくらい速い。後衛二人を軽々と置き去りにする。

 だが、どうにも最後の打ち込みの制御が悪く篭の中に飛ばない。


 前日の飲み会では点の取り合いになるんじゃないかと言い合っていたのだが、驚く事に全く点が入らないまま前半終了近くまで時計が進んでしまったのだった。


 時間的に最後の攻撃になろうという時間帯であった。

 栗山が放った球が大きく右に逸れてしまい、渡辺に渡らず南牟礼選手に渡ってしまった。

 南牟礼選手はそれを冷静に弓岡選手に。弓岡選手は栗山が守備に駆けつける前に大きく高木選手の前に打ち出した。


 高木選手と辻が球を追う。

 辻もそれなりに竜を追う速さは速い。だが、高木選手はそんな辻よりも早く球に追いつき、銚子選手では無く直接右田選手に球を送った。

 右田選手は小川の守備をものともせずに竜杖を振り抜いた。


 右田選手の打った球は大石の竜杖によって弾かれた。だがそこに運悪く銚子選手が詰めていた。銚子選手には佐々木が守備に向かっていたのだが、佐々木が竜杖を伸ばすより先に球が打ち込まれ、無常にも篭の中に吸い込まれて行った。


 こうして一点を先制された状態で前半を終える事になった。



 正直、この点差は日野にとってはかなり想定外であった。

 まさか栗山を封じられる事でここまで得点力が下がるとは。ここに来てとんでもない弱点をさらけ出してしまったと感じている。


「渡辺と荒木、鴻野と広瀬を代える。恐らく向こうは後半は星野が出てくると思う。前半よりかなり攻撃力が上がってくると思うから、打ち合いのつもりでやってくれ」


 できれば栗山も笘篠に代えたい。

 だが荒木を途中で交代させるかもしれないという事を考えると、栗山は代えられなかった。



 球場内に後半の選手交代が告げられた。

 日野監督の思った通り、大鯨団は後半、弓岡選手に代えて星野選手を、右田選手に代えて大門選手を投入してきた。

 星野選手が少し下がった位置で、先鋒は大門選手のみ。銚子選手と高木選手が前半よりも下がった守備位置に位置取っている。


 後半戦、荒木の打ち出しから試合が開始となった。

 荒木は球を後ろの栗山に下げた。

 栗山はコツコツと短く球を打ち出して、ジリジリと攻め上がっていく。そんな栗山に大門選手と星野選手の二人が守備に付いた。

 最初の大門選手の守備はかわした栗山だったが、星野選手の粘り強い守備に苦戦。栗山は一旦小川に球を渡した。


 今度は小川に大門選手と星野選手の二人が守備に付く。だが、その前に小川は球を広瀬に渡した。


 広瀬の守備に銚子選手が付く。

 広瀬は銚子選手の守備にたじたじとなり、栗山に球を渡す。だがその途中で星野選手に奪われてしまった。


 星野選手は大きく敵陣深くに球を打ち込んだ。

 その球を追う大門選手と小川。だが大門選手の方が竜が速く、先に竜杖を振り抜く。

 球は篭の右上に飛んでいく。

 大石選手も竜杖を伸ばしたのだが、その竜杖を弾いて球は篭に向かって行った。


 これで二対〇。


 だがこの失点で栗山はある程度の戦力差を把握した。

 相手は攻撃は強いが守備はそこまでではなく、数滴不利さえ作られなければ攻撃自体はそこまで制限されない。

 ただし右翼の広瀬と銚子選手は完全に銚子選手に軍配が上がる。当然敵もこちらの右翼を穴だと感じただろうから、こちらとしては徹底して左翼から攻め上がれば良い。


 荒木から球を受けた栗山は左翼に寄りながらじっくり攻め上がった。

 すると、先ほど同様、大門選手と星野選手が球を奪いに来る。さらにそこに高木選手もやってくる。


 栗山は三人を十分引き付けたところで小川に球を下げた。

 前進して球を受けた小川は大きく辻の先へと球を打ち出した。


 辻と高木選手が球を追いかける。だが辻の方が球に近い位置にいたせいで、先に球に追いついた。

 辻はすぐさま荒木の先へと大きく球を打ち出す。


 南牟礼選手、高橋選手、守備二人を引き連れ荒木は竜を走らせる。

 高橋選手は全く荒木に対応ができず、南牟礼選手が一人で荒木に食らいついていく状態になった。だが、荒木が球に追いついた時には、すでに一竜身の差が付いていた。

 そこから竜を減速させる事なく球を一旦前に打ち出し、さらにその球を追いかける。


 南牟礼選手がさらに引き離され、荒木は最高速のまま竜杖を振り抜いた。

 球が凄まじい速度で篭に飛んでいく。

 守衛の藤田選手も竜杖を球の方へ伸ばしたのだが、それよりも早く球は篭に飛び込んで行った。


 相変わらず凄まじい竜の速さだと南牟礼選手は舌を巻いた。



 大門選手からの打ち出しで試合が再開。

 大門選手は銚子選手に球を渡す。やはりというか、相手の右翼が穴だと認知されてしまっている。

 銚子選手に広瀬が守備に付くのだが、まるで子供扱い。だがそこに栗山が守備に入る。すると銚子選手は球を星野選手に打ち出した。


 星野選手は球を大門選手の先に打ち出した。大門選手、小川、佐々木の三人が球を追う。

 最初に追いついたのは大門選手であった。だがすぐ横に小川が追いついていた。

 小川の守備で大門選手の竜杖は空を切り、残された球を佐々木が大きく後方へ打ち出した。


 栗山と銚子選手が球を追うが、若干栗山が早い。栗山は大きく球を前に打ちだした。


 その球を南牟礼選手と高橋選手が追う。その二人の横から荒木がすっと上がっていく。

 三人が竜を寄せ合って球に向かって行く。

 荒木の竜が二人の竜よりも徐々に先に行く。


 球に先に竜杖を当てたのは荒木であった。

 荒木によって打ち出された球を再度三頭の竜が追う。だが、先に高橋選手の竜が徐々に引き離されて行き、南牟礼選手の竜も引き離されて行った。


 荒木は竜杖を構え、竜を最高速で走らせたまま球に向かって竜杖を振り下ろした。

 球は篭の左下に向かって低い弾道のまま飛んでいく。

 守衛の藤田選手が竜杖を伸ばす。

 だが全く届かず、球は籠の中へと突き進んでいった。



 これで試合は振り出しに戻った。

 だがまだ時間は半分以上残っている。


 自陣に戻ろうとした荒木に南牟礼選手が近づいて来た。


「荒木君、大怪我したって聞いてたけど全然前と変わらないじゃない。あれは誤報だったの?」


 荒木が豪快に笑い出した。


「誤報じゃないですよ。ちゃんと胸にまだ鉄板が入ってますよ。だけどほら、走るのは俺じゃなくこの仔だから」


 荒木が笑顔で竜の首筋を撫でる。

 竜が南牟礼選手の竜に向かって大型鳥類のような鳴き声で嘶いた。

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