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第51話 帰って来た

 襲鷹団との一戦が始まろうとしている。


 守衛が大石、後衛が小川、佐々木、中盤が笘篠とましの、辻、鴻野こうの、先鋒は渡辺。

 日野の口からそう本日の先発が告げられた。



 あれだけ強かった襲鷹団だが、吉村、駒田という主軸がいなくなり、さらに山田が追放となって、守備が上手く機能しなくなっている。

 だからといって襲鷹団が強敵でなくなったわけではない。その爆発的な攻撃力は未だに健在なのだ。


「だから、どれだけ相手に攻撃させないかが鍵となる。笘篠を中心に早め早めに攻撃の芽を摘んでいけ!」


 日野監督の檄に全員が立ち上がった。


「六連勝だ! 六連勝して優勝するぞ!」


 最年長の鴻野がさらに檄を重ねた。

 否が応でも士気が上がる。

 

 皆が手にした竜杖で床を打ち、カツカツという音が鳴り響く。


「おし! 行くぞ!」


「「「おう!」」」


 鴻野の掛け声に、皆で一斉に返事をして控室から出て行った。



 競技場へと向かう途中で、球場内に選手名の発表が放送された。

 相手の先発は、守衛が村田、後衛が畠山、佐々木、中盤が川相、岸川、山内、先鋒は水野。


 吉村、山田の代わりに畠山と佐々木が入り、駒田の代わりに岸川が入っている。あの一戦以降、ずっとこの三人が変わりに入っているらしい。

 それまで平均失点は限りなく零に近かったのだが、この三人になってから平均して二失点を喫してしまっている。だが決して三人の能力が低いというわけではない。とにかく連携が悪いのだ。

 監督の牧野も守備が安定するには時間と経験が必要と考えているらしい。粘り強く使い続けているのだが、なかなか一朝一夕には改善されないらしい。


 どうやら、あの一件で襲鷹団は観客にも見限られてしまったらしい。

 これまでは龍虎団、大鯨団には劣るものの、それでも二軍としてはかなりの観客動員数を誇っていたのに、今日は空席が目立ちまくっている。恐らくは荒木の一件でかなり印象が悪くなってしまったのだろう。



 審判が球をぽんと投げ、襲鷹団の攻撃で試合が始まった。


 水野選手が球を後ろに流し、川相選手が岸川選手に球を打ち出す。そこに辻が竜を寄せに行く。

 岸川選手は焦って川相選手に球を戻そうとするのだが、そこを笘篠に奪われてしまった。


 笘篠は奪った球を鴻野へ打ち出す。鴻野はそのまま敵陣に球を打ちながら運んで行く。

 渡辺の動きを封じようと畠山選手と佐々木選手が守備に入っており、鴻野への守備は山内選手だけが入っている。

 だが山内選手を気にせずに鴻野は攻め上がっていく。


 このまま篭まで攻め込んでいくかと思ったところで、鴻野は大きく競技場の反対側にいる辻の方に球を打ち出した。辻が竜を全速で走らせる。

だが打球が思った以上に強く、辻は追いつく事ができず、球はてんてんと競技場から出てしまった。


 守衛の村田選手からの打ち出しで試合再開。

 大きく打ち出された球は岸川選手に渡った。岸川選手がそれをすぐに川相選手に渡す。


 川相選手に笘篠が守備に付く。二人は竜をぶつけ合いながら徐々に獅子団の陣地に切り込んでいく。

 川相選手はある程度まで攻め込んだところで山内選手の先に球を打ち出した。


 山内選手は竜を走らせ、それを鴻野が追う。鴻野が追いつく前に山内選手は中央に球を戻す。そこに水野選手が竜を走らせた。


 明らかに水野選手の動き出しが早い。佐々木が水野選手に竜を合わせに行くのだが追いつかない。

 反対側から小川が体当たりしようと竜を寄せていくのだが、水野選手は二人より竜を前に押し出し、竜杖を振り抜いた。


 球は綺麗に篭の右上ギリギリに飛んでいく。

 大石も反応はした。

 竜杖を伸ばして弾き出そうとしたのだが、球はその先、梁と竜杖の間をすり抜けて行った。



 一点先制され、渡辺の打ち出しから試合は再開された。


 球を受け取った笘篠は、じりじりと攻め上がっていく。

 先鋒の水野選手が下がって来て笘篠から球を奪おうとする。だが笘篠は全くそれを意に介さず、竜の速度を上げて攻め上がっていく。それに合わせ、辻と鴻野も攻め上がっていく。


 球は笘篠から辻へ、辻から渡辺へ、渡辺から鴻野へ。

 敵陣深くに切り込んだ鴻野が球を中央の渡辺へ戻す。

 竜を走らせた渡辺の前の絶好の場所に球が転がる。

 畠山選手、佐々木選手を振り切り、渡辺は竜杖を振り抜いた。


 球はかなり良い軌道を描いて篭に向かって行く。

 ところが篭に近づくにつれ大きく上方に逸れて行き、遥か上空へと飛んで行った。


「馬鹿ちん! もっと落ち着いて行かんかい!」


 辻が怒鳴ると、渡辺は鼻に皺を寄せて悔しがった。



 そこから試合は暫く一進一退が続いた。

 襲鷹団は笘篠に阻まれて中々水野選手まで球が回らず、一方の獅子団は最後の打ち込みまで行くのだが、渡辺が決めきれない。

 結局、一点を先制された状態で前半が終わってしまった。



「渡辺、お前打つときちゃんと目開けてるか? いくらなんでも制御下手すぎだろ」


 荒木に指摘され、渡辺はバツの悪そうな顔をした。

 野口が二人に背を向けて肩を震わせている。


「目は開いとるんですけどね。枠に行かんちゃん」


 渡辺が気分を沈み気味にしていると、栗山があんな打ち方ではああなって当然だと言って笑い出した。


「お前、打つときに肘が曲がってるんだよ。肘を伸ばして打つ練習しろよ。そういう指導ってこれまでされなかったの?」


 栗山の指摘に渡辺は目を丸くし、そんな指導された事が無いと、かなり驚いた顔をする。

 試合が終わったら指導者に言っておくと言って鴻野と笘篠が渡辺の肩に手を置いた。


 日野が手をパンパンと打って視線を集めた。


「渡辺は前半で終わりだ。後半は荒木に出てもらう。笘篠も栗山と交代する。出すけど、荒木はもし駄目そうならすぐに合図してくれ。野口と変えるから」


 荒木は無言で頷いた。

 つられて野口も頷く。


「今の襲鷹団は勝てる相手だ。ただし点が取れなかったら勝てるものも勝てない。だからまずは一点取りに行こう!」


 日野の檄に全員がすたっと立ち上がる。

 竜杖を掲げ「おお!」と声をあげた。



 竜を前に荒木は鼓動を早めていた。

 竜が心配そうな顔で荒木の顔を覗き込む。

 それに気が付き、荒木はニコリと微笑み竜の首筋をパンパンと叩いた。

 竜が嬉しそうに大型鳥類のような鳴き声をあげる。


 竜の背に跨った。

 視線を競技場に向ける。

 少し前までは当たり前だった景色が、今は非常に眩しく感じる。


 カチャカチャという蹄の音が響く。

 競技場に選手交代の案内がされる。荒木の名が告げられると、少ない観客から歓声が上がった。


 荒木は竜を一旦止め、観客側に竜を向けて竜杖を掲げた。

 観客がそれに応えて歓声を送る。

 俺を待っていてくれた人がこんなにいたんだ。それを知り、思わず頬がほころぶ。


 竜を走らせる。

 風がひゅうという音を立てて後背に流れていく。

 帰って来たんだ。この心地の良い空気を味わうために、俺はまたここに帰って来たんだ。

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