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第50話 襲鷹団戦に向けて

 十一月になり、合同練習が行われた。


 残る試合は六試合。獅子団の順位は僅差の二位。

 その六試合の中で襲鷹団戦が二回、龍虎団戦は一回。この三戦がどうなるか、そして、残りの三戦をいかに落とさないかが重要となる。

 皆の注目は復帰した荒木の状態に注がれていた。


 竜杖球では落竜自体はさほど珍しい事では無い。だが、その落竜によって大怪我を負うと、それが心傷となって以前のように竜を操れなくなる選手がいる。

 戦線を離れて調整しても心傷というものはなかなか治らないもので、そのまま引退していく選手も多い。


 まだ復帰早々で長時間の競技は難しいというのは日野監督もわかっている。

 だが、それでも以前と同じような動きができるようなら前半だけ、後半だけという使い方ができる。

 そこに期待している。


 最初の軽い運動では全く問題が無いように感じる。だが、問題は対人戦がどうかという事である。

 後半の実戦形式の練習が始まると、最初の組に荒木は入れられた。


 最初に守備から入ったのだが、相変わらず守備は拙い。思わず日野も苦笑いである。


 その後中盤の選手が大きく敵陣に向けて球を打ち出した。

 荒木の最大の武器である後衛との追い比べとなった。

 反応はするが、追い出しは一拍遅い。だがそこからの追い出しは尋常じゃない速さで、あっという間に二人の後衛を置き去りにした。

 その速さを活かして少し前に球を打ち出し、さらに単騎でその球に追いついて、竜杖を振り抜く。


 最初に日野が見出した時と何も変わっていない。

 練習が終わると日野は荒木を呼び出し、残り六試合の正規選手への編入を命じたのだった。




「なんで俺なんだよ! 普通に考えて外れるのは野口だろうがよ!」


 荒木の復帰を祝う飲み会で伊東が荒れていた。

 今回、荒木が正規選手に選ばれた事で、弾き出されるかのように伊東が外されてしまったのだった。

 伊東としても荒木の復帰は喜ばしい事だとは感じているし、祝いたい気持ちも当然ある。だが、その代わりに自分が弾かれるのは納得がいかない。


「各球団の人数の兼ね合いなんだから、しゃあねえじゃねえか。荒木の代わりに渡辺が入った時に先発をもぎ取れなかったお前が悪いだろ」


 そう言って同期の小川が宥めた。

 それでも納得いかないと言い張る伊東に、小川と栗山は先発をもぎ取ったのだから、どう考えても原因はそこだろうと秦が諭した。


「くそっ! あんな宇宙開発野郎なんぞに!」


 そう言って憤る伊東に、わかってないと言って小川と秦が呆れた顔をする。

 監督の日野はなるべく四球団から均等に選手を拾い上げようとしてくれている。渡辺がどうこうではなく、秦、小川、栗山が先発に定着した段階で見付球団の枠が一杯となり、最も危なかったのは伊東だったのだ。


「まあ、二か月の辛抱だろ。その間俺もしごいてやるから、腐らずに頑張るこった」


 そう言って片岡が伊東の肩に手を置いた。

 先月の中頃、荒木が温泉で復帰練習に明け暮れていた頃、岩下と片岡が見付の球団本社に呼ばれた。

 結果は契約終了であった。

 岩下も片岡も何となく予想はしていたが、改めて言われるとやはり辛いものがあった。だがそれから半月ほどが過ぎ、片岡は高野をしごいており、岩下は荒井と池山をしごいている。

 さらに新たに指導者となった石井も指導に加わってくれていて、明らかに二人の実力は上がっている。


「そうだぞ、伊東。そうやって腐ってると、高野にまで先をこされちまうぞ」


 そう言って岩下もゲラゲラと笑った。

 すると高野が、どっちが先に正規選手になるか勝負しましょうと言って笑い出した。

 真面目な伊東はそれにカチンときて、お前なんぞには負けんと啖呵を切った。


「果たしてそうかな? 俺はどっちかわからんと見てるけどな。伊東は先発しかやれないけど、高野は中盤もやれるからな。鴻野が抜ければそこに高野という選択肢が生まれるかもしれんぞ」


 そうなれば球団の枠の関係で伊東はまた呼ばれなくなる可能性があると片岡が指摘。思わぬ分析結果に伊東の顔が青ざめてしまった。


 そこから少し酒が進むと、今度は優勝争いの話へと話題は移った。

 現在首位の龍虎団と二位の獅子団との勝ち点差は五。勝てば三点、引き分けで一点で積み上げていった勝ち点の差がそれである。

 前の試合の龍虎団戦に引き分けたのが大きかった。それによって引き離されず、逆転が狙える勝ち点で止まったのである。


「荒木が怪我してから、うちは引き分けが多いんだよ。そこを全部勝ちに持っていかないと、龍虎団には追いつけないんだよな」


 焼き鳥の串を指揮棒のように振りながら小川が指摘。

 荒木が抜けて、明らかに獅子団は決定力は弱まってしまった。荒木から渡辺に代わった事で迫力みたいなものが失せてしまったらしい。


「俺や笘篠さんが何とか攻撃を繋げるんですけどね、点が入らないと相手の士気が上がっちゃうんですよね。そのせいだと思うんですけど、最近試合運びがえらくって」


 ぐいっと麦酒を飲み、栗山は荒木の顔を見て頷いた。


「そうは言うけどなあ。笘篠に比べて栗山は打ち出しが弱いんだよな。もっと遠くまで打ち出せるように上半身を鍛えてくれよ」


 まさかの荒木からのダメ出しに栗山は笑顔が固まってしまった。

 そんな栗山を池山と高野が笑い飛ばした。


「それを言うんなら、荒木さんももう少し守備上手くなってくださいよ! 諦めるのが早すぎなんですよ!」


 栗山の反撃にゲラゲラ笑っていた荒木の笑顔が固まる。

 それを小川と秦が笑い飛ばした。


「そう言ってやるなよ、栗山。信じられないかもしれないが、これでも去年からしたら守備は各段に上達したんだぞ」


 小川がゲラゲラ笑いながら言うと、あれでですかと高野と池山が驚きの声をあげた。あれで上達したと言われたら、元はどんなだったんだと言い合った。


「高校時代、俺、先輩たちから守備なんてしなくて良いから、とにかく球が行ったら追いかけろって言われたんですよね。三年の時も似たような感じで。守備練習ってろくにした事が無くって……」


 バツの悪そうな顔で荒木が麦酒を口にすると、高野が『猫扱い』と言って大笑いした。

 『猫扱い』という高野の指摘が妙に的を射ていて、一人、また一人と噴き出した。気が付いたら全員が腹を抱えて笑っていた。



 数日後、襲鷹団戦の会場である網走に向けてひたすら車を走らせた。

 朝早くからひたすら北東に向かって竜運車を走らせる。荒木、栗山、小川、三台並んで走っていく。

 途中士幌町でお昼休憩となった。士幌町の周辺は農業が盛んで、食事が非常に美味しい。網走に行く選手は全員ここに寄っている。そのせいで、荒木たちが立ち寄ると、太宰府球団の選手たちが先に食事をしていた。


 太宰府球団の面々は、絶対に今度の試合勝とうと言って先に網走へと向かって行った。

 ある程度食事が済むと、沖縄球団の大石と野口がやってきた。


「優勝しようぜ! ちょっと手を伸ばせば首位の奴らには届くんだから」


 そう言って大石は荒木の肩にぽんと手を置いた。


 どうやら皆気合いは十分だと、荒木たちは鼻息を荒くした。

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