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9 新しい生活 6

 図書室へ戻ろうと遊びに満足したシロの頭を撫でて室内に戻ろうとすると、廊下の奥からダミアンの声が響いた。


「墓場から気配がする!誰か居るんだよ!もしかしたら幽霊じゃないの?」

「幽霊などいるものか!」


 真っ暗な廊下の奥にランタの明かりが近づいてくる。

 ランタンを持っているカイトの後ろに隠れるようにダミアンが歩いてきている。


 目を凝らしているモニカをみて、ビクビクしていたダミアンが指をさした。


「あ!モニカちゃんだ!幽霊の正体はモニカちゃんか!」


 安心したように喜んでいるダミアンにカイトは冷たい視線を向けた。


「たとえ幽霊だとしても、その臆病さはどうにかならないのか?」


「幽霊は怖いだろう。それもカイトに恨みを持っている死んだ花嫁たちだよ。カイトは間違いなく呪い殺されるよ」


 力説するダミアンをカイト鼻で笑った。


「バカらしい。幽霊でも俺の前に出てくる勇気があれば出てくるがいい」


 そう宣言するカイトにダミアンは呆れたように肩をすくめた。

 モニカはそんな二人をみてオズオズと声を掛ける。


「あの、すいません。図書室に行くはずだったのですが迷ってしまって」


 花嫁たちの墓場だったのかと確信してモニカは墓を見る。

 3基の墓石は雑草の中に隠れていてよく見えない。


 申し訳なさそうに言うモニカにカイトはまた鼻で笑った。


「墓と言っても実際はこの中庭に死体は埋められていない。あの女どもが実際埋められたら迷惑だ」


「えっ?じゃあ、これは一体……」


 遺体が埋まっていない墓の意味を考えてモニカはハッとして頷く。


(そうか。カイト様は歴代の妻たちを愛していたのかもしれないわ。それを忍んで建てたのかしら)


 思い出を忘れないように墓石を立てて悲しみを癒しているのかもしれない。

 眉をひそめたモニカをカイトは睨みつけた。


「お前が思っているような事じゃない。あいつらの嫌がらせだ」


「嫌がらせ?」


 全く意味が解らないとモニカはますます眉をひそめる。

 カイトは思い出したのかイライラしながら舌打ちをする。


「この家に嫁に来たせいで娘が死んだと怒った親たちが勝手に墓を作って行ったんだ」


「勝手に作った?」


 ますます意味が解らないと首を傾げながらモニカは墓を見る。

 確かに誰かが訪れている様子がない寂れた墓達。

 地面に女性達は埋まっていないというのなら理解できる。


「僕も異様だと思う。早くこんな気味が悪いもの撤去した方がいいんじゃないのか?」


 気配の正体が幽霊ではないと解ったダミアンはすっかり元気になったのか、偉そうに腕を組んでカイトを見つめた。

 確かに誰も眠っていない墓ならば撤去しても構わないだろうと思うがカイトは気に食わないようだ。


「なぜ俺がそこまでしないといけないんだ。勝手に作った人間がやるべきだろう。こっちだって暇じゃないんだ」


「気味が悪いし、外聞も悪いだろ。遺体が埋まっていなくても呪っている霊がでてくるかもしれないじゃないか!」


 嫌そうな顔をして草に埋もれている墓をみて言うダミアンにカイトは首を振った。


「あいつらの為に労力を使うのがバカらしい。思い出したくもない」


「気持ちはわかる。俺だって記憶から消したいぐらい忌々しいからなぁ」


 二人の会話を聞きながらモニカは勇気を振り絞って聞いてみる。


「あの、一体何があったのですか?」


 ずっと気になっていたことだ。


「言いたくもない!」


 吐き捨てるように言うカイトにモニカは驚いて一歩下がった。

 自分が怒られたわけではないが、それぐらいの気迫だ。

 過去を思い出したのか沸々と怒っているカイトにダミアンは苦笑しながら間に入った。


「本当に酷いことがあったんだよ。僕の口からは悪くて言えないけれど、いつかカイトから聞けると良いねぇ」


「何があっても言わん!思い出したくもない!あの出来事を口にするのも嫌だ」


「す、すいません」


 カイトのあまりの迫力にモニカが思わず謝るとダミアンは首を振った。


「モニカちゃんは何も悪くないから気にしないでいいよ。ね?」


 昔を思い出して怒っているカイトも頷いてくれる。


「そうだな。確かにモニカは何も悪くないが、この女たちの事は思い出させるな!思い出すだけで腹が立つ!」


「だったら墓石も撤去しなよ。気味が悪いよ。雰囲気がもう幽霊でそう……」


 ダミアンの言葉にカイトは首を振った。


「絶対に嫌だ。あいつらが勝手に作っていたものを、なぜ俺が撤去しないといけないのだ!もし幽霊でも出てくる勇気があれば一度話してみたいものだな!」


 墓に向かって怒鳴るカイトにダミアンは呆れたように首を振った。


「モニカちゃん。こんな風にカイトが怒るから過去の事は聞けないだろうけれど。いつかきっと話してくれる時が来るよ。本当の夫婦になればね」


 呆れを通り越してから居ながら言うダミアンをカイトは怒鳴りつける。


「本当の夫婦なんてなるか!俺は女が嫌いだ」


 何度も聞くカイトの女が嫌いという言葉にまたモニカはハッとする。

 カイトとダミアンを交互に見て眉をひそめた。


「あの、大変失礼なのですが……。カイト様は女性がお嫌いということは、そっち方面の方なんですか?」


 図書室に置いてあった本棚に男性同士の恋愛を描いたものもあった。

 モニカの趣味ではないが、そう言う世界もあるのだと初めて知ったが、実際にあることなのかもしれない。

 カイトが男性を好きだという可能性もあり得ると恐る恐るモニカは聞いた。

 

「そんなわけあるか!」


「そ、そうでしたか」


 カイトに怒鳴られながらも、男性が好きではないとわかりホッとする。


(万に1つでも私を好きになってくれる可能性がまだあるってことよね)


 何となく希望を見出したような気がして、ホッとするモニカをみてダミアンはにやりと笑う。


「あー……。なるほど?」


 ダミアンの意味ありげな視線を感じてモニカは心の中を見透かされたような気がしてドキッとする。


 カイトに好意があることを知られてしまったかと思わず俯いた。

 俯くモニカをみてダミアンはますますニヤニヤと笑う。


「先ほどまで、幽霊かもしれないとビビっていたくせに今度はニヤニヤ笑ってお前は一体なんなんだ」


 不気味な笑いをうかべているダミアンを薄気味悪いとカイトは見つめる。


「僕は口が堅いし。ちゃんとしているから大丈夫。心配しないで」


「はぁ?」


 意味が解らないというカイトだが、モニカは俯いたまま頷いた。


(カイト様に知られなければきっと大丈夫)


 女が嫌いだと言い切っているカイトにもしモニカが好意を持っていると知られた追い出されるのでないかと不安になる。

 歴代の花嫁たちの毛嫌いをしている様子から女性を嫌いになる何かがあったようだがいまだ判明していない。

 何があったのか気になる。


 いつかカイトが話してくれればいいなと思いながらモニカは彼を盗み見る。


 中庭から吹いた風が銀色の長い髪の毛を揺らす。

 

(きっと太陽の下でカイト様を見たら髪の毛がキラキラと輝いて綺麗だろうな……)

 

 薄暗い室内でしか見ていない大好きな人の姿を想像してモニカは俯いて密かに微笑んだ。





 

 

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