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8 新しい生活 5

 「あれ、今日はお仕事ではないのですか?」


 朝食の乗ったワゴンを押しながらモニカはラフな格好をしているカイトをみて首を傾げた。

 毎朝騎士服を着こんでいるが、今朝は白いワイシャツに黒いズボンといういで立ちだ。


「たまには俺にも休日というものがある」


「今日お休みなんですね。ゆっくり過ごせますね」


 朝食を並べていくモニカを見ながらカイトは頷いた。


「お前も使用人としてきたわけではないのだから、毎日働かなくてもいいんだぞ」


(やっぱり優しいわ)


 自分を気遣ってくれているカイトの言葉にモニカは微笑んだ。

 人間とは思えないほどの美しさに優しさも持ち合わせているカイトに胸が高鳴る。

 

「働くというほどお手伝いをしておりませんから。逆に、ワンちゃんの餌やりとたまの落ち葉拾いしか仕事をしていなくて申し訳ないぐらいです」


「……そうか」


 朝食を並び終えて、モニカが席に着くのを待ってカイトは食事を開始する。


「では、頂こう」

「いただきます」


(私の事を待って食事してくれるのも優しいのよね)


 ちょっとしたことだが、全てのカイトの行動に優しさを感じてモニカは胸が高鳴って息を吐いた。

 叔父と意地悪ジーナ達は、やれ持ってくるのが遅いや愚図など酷い言葉を言われていたがこの美しい人は決してそんなことを言わない。


 花嫁はいらないと言っているが、モニカを置いてくれている。


 カイトが朝食を食べる姿を盗み見しながらモニカは朝食を食べ終わた。


 食べ終わった後の食器を乗せてワゴンを押してキッチンへ向かう。

 洗い物をしていたポーラが笑みを浮かべて食器を受け取ってくれる。


「いつも助かるよ。ありがとう」


「とんでもないです」


 ポーラが洗い物をしながらモニカを見つめた。


「どうですか?ちょっとはお屋敷に慣れました?」


「はい。お陰様で。皆さん優しくてとても居心地がいいです」


「そうかい。坊ちゃんも顔の割には優しいでしょう?」


「はい、とても優しくて素敵で毎日ご飯を一緒に食べるのが緊張します」


 素直に言うモニカにポーラは微笑ましいと頷く。


「坊ちゃんは見た目が人間離れしているから一見冷たそうに見えるから損をしているよねぇ。まぁ、見た目と違って人間臭すぎてイメージと違うってガッカリされることも多いけれど」


 過去を思い出しているのか渋い顔をしているポーラ。

 洗い終わった食器を乾いた布巾で拭きながらモニカは小さく頷いた。


「確かに、第一印象よりよくお話される方だなと思いました」


 正直なモニカに食器を洗いながらポーラは苦笑する。


「そうですねぇ。まぁ、あれが坊ちゃんのいい所なんですよ」


「犬と同じベッドで寝たいという私なんかの希望を覚えていてくださって、シロをお風呂に入れてくれたみたいなんです。おかげでわんちゃんと一緒に寝る夢をかなえることが出来ました」


 モニカの言葉にポーラはニッコリと笑う。


「そうさね。坊ちゃんは優しいんですよ。優しすぎるのがいけないというかなんというかねぇ」


 思わせぶりないい方に、何かあるのかとモニカは首を傾げた。


「なにかあったのですか?」


「まぁ、いろいろあったというか。私からは言えないから、坊ちゃんか誰かに聞くといいよ」


 誰かと言ってもこの屋敷にはポーラとセバスしか今のところ見当たらない。

 たまに来るダミアンに聞ける雰囲気でもなく気になるがモニカは仕方なく頷いた。



 クロとシロの餌やりも終わり、手が空いたモニカは読み終わった本を返却しようと図書室へと向かった。

 休日だというカイトは執務室に籠ってしまい姿を見かけない。

 彼の邪魔にならないように静かに読書をしようと新しい本を探しに向かった。


 相変わらず薄暗い廊下を歩き、階段を降りる。

 昨晩一緒に寝たおかげか、すっかりモニカに懐いたシロが尻尾を振りながら後ろ歩いてくる。

 

「シロが一緒だと、心強いわ」

 

 人の気配がない薄暗いお屋敷を歩くのは何か恐ろしいものが出そうで不安だ。

 ましてや、4人の花嫁が死んでいるという恐ろしい話を聞いているから恐怖心が増してくる。

 

 後ろをついてくる犬に気を取られていたおかげで、図書室がある階よりも1つ下へと降りてしまった。

 半地下のような廊下を歩いていることに気づいて立ち止まった。


「間違えちゃったわ。このお屋敷広すぎるんですもの」


 人の気配が一切しない暗い廊下を手に持ったランプで照らしながら、恐怖を紛らわそうとシロに話しかけた。

 シロは尻尾を振ってモニカに答えてくれる。


 慌てて戻ろうとするモニカだったが、シロが尻尾を振りながら廊下の奥へと歩いて行ってしまう。


「シロ!どこに行くの?」


 明かりがともっていない真っ暗な廊下を歩いて行く犬に声をかけるが、止まる気配がない。

 モニカも仕方なくついて行くと、廊下の奥が明るくなっている。

 目を凝らしてみると、外に通じているようだ。

 

 シロは廊下から外へと飛び出すと草の匂いを嗅ぎまわり始めた。


「外に通じているのね」


 半地下のようだが、外の景色が見えてホッとしながらモニカもシロに続いて表に出た。


 中庭のような広い空間に、四方は屋敷に囲まれている。

 吹き抜けを見上げると、どんよりとした雲が広がる空が見えた。


 薄暗い室内から明るい外に出た事でほっとしながら広い中庭を見回す。

 モニカの背丈ぐらいの雑草が生えていて荒れている様子がうかがえる。


 数年間人が入っていないような気配を感じて、嬉しそうに草と戯れているシロを振り返った。


「シロ。早く帰りましょ」


「ワン!」


 返事をするものの、草と戯れることを辞めようとしない。

 モニカはため息をついてもう一度中庭を見回した。


 荒れている背の高い草の合間に石像の様なものが見えた。


「なにかしら……」


 なんとなく興味を惹かれて草をかき分けながら進んでいくと墓石の様なものが見えた。

 まさかこんな荒れた庭に墓などあるはずがないと思いながら、よく見ようと草をかき分け進んだ。


 近づいて草をかき分けて観察しようと石碑の前に座った。

 黒い四角い石碑は文字が彫ってある。

 モニカは指先で撫でながら文字を読み取った。


「……ノエミ・ベッツアここに眠る……」


 ベッツアと言えばカイトの家系の名前だ。


(カイト様のお母さまかしら)


 カイトが自分の親の墓を荒れ放題にしておくはずがないのではないかと思い、心臓がドキドキしてくる。


「まさか、死んだ奥さんたちの墓ってことは無いわよね」


 近寄って来たシロの頭を撫でながら呟いて、他にも墓があるのかと目を凝らすと少し奥に石碑を見つけた。

 よく見るとポツポツと離れて2つの墓石が見えた。


 震える手で、墓石に書かれている文字を草をかき分けながら読んだ。


「オルガ・ベッツアここに眠る。ラダナ・ベッツアここに寝る……どれもベッツア家の人なのね」


 全部で3つの墓石が裏庭にあることを確認してゾッとしなら心を落ち着かせるために犬の頭を撫でる。


 モニカが来るまでに死んだ花嫁は4人。

 一人足りないが、カイトの母親でなければ死んだ花嫁の可能性は高い。


 死んだとは聞いていたが、この裏庭に埋められているのかもしれない。

 なぜ亡くなったのか未だに聞けずにいるが、死因が解らないことにはだんだんと自分も死んでしまうのではないかと不安になってくる。


(カイト様が殺したわけではないとしたら病死とか?でも、カイト様は愛していなかったとは言っていたような気がするわ)


 それでもこの中の女性は一人ぐらい好きだったのかもしれないと思うと胸が痛む。


「……シロ、早く戻りましょう」


 荒れた中庭に並ぶ3基の墓石に恐怖を感じながらモニカは犬に声をかけた。

 雑草と戯れるのに満足したのかシロは尻尾を振りながらモニカの後についてくる。


 (私って、新しいカイト様の花嫁ってことになっているのよね。この人達みたいに死んだらここに埋められるって事かしら)


 誰も来ない荒れ果てた庭に埋められるのは寂しい。

 

(でも、カイト様の傍に居られると思えばそれも悪くないのかしら)


 どうせ身寄りがないも同然だ。

 できれば両親と一緒の墓に埋葬してほしいが、屋敷からとても遠い。

 叔父さんや意地悪ジーナがモニカを引き取ってくれると思えず、モニカは大きなため息をついた。


「でも、私は死なないわ!」


 カイトに愛されることは無いだろうが、絶対に意地悪ジーナより長生きしてやると心に誓った。



 

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