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26 嫌な訪問者 2

「そうだわ。結婚したらアンタは私のお付きにしてあげる。部屋の掃除や髪の毛を梳かしたりしてくれるだけでいいのよ。アンタも幸せよねぇ、私みたいな主人をもって」


 クローゼットの中に入っていたドレスを手に取ってた高笑いをしているレジーナの声すら聴きたくなくてモニカは耳を塞いだ。


(もう無理。お願い、誰か助けてほしい)


 吐き気を押さえながらぐっと唇を噛んでモニカは心の中で叫んだ。


「アンタがなかなかな死なないから、きっと花嫁が死んだ話は嘘だったのよねぇ。危うくアンタに出し抜かれるところだったわ。あれだけ美しい人と結婚できるなんて私幸せだわ!」



「ちょっと!勝手に部屋に入って、なんでモニカちゃんを奴隷みたいに扱う話をしているのよ!」


 鬼の形相をしたナタリアが勢いよくドアを開けて入って来た。

 驚いているレジーナの手からドレスを奪い取るとドアを指さして大きな声を出す。


「出て行きなさいよ!モニカちゃんが安静に寝ていられないでしょう?勝手に屋敷に来て我がもの顔でウロウロしないで頂戴!」


「はぁ?貴女だれなの?カイト様に言いつけてやるんだから!」


 意地悪く言うレジーナにナタリアは怒りを抑えながら睨みつける。


「はぁ?カイトに言いつけてやるですってぇ?それはこっちのセリフよ!こっちが優しさで一晩泊めてやろうって言うのにいい度胸しているじゃないの!」


「少しだけ顔がいいからっていい気になるんじゃないわよ!あんた首にしてやるんだから」


 レジーナの言葉にナタリアの血管がブチ切れる音が聞こえた気がした。

 怒りで顔を真っ赤にしているナタリアはレジーナを指さして大声で捲し立てる。


「だから誰に物をいっているのよ!私はカイトの姉よ。この屋敷の権限はカイトにあるの!その次はモニカちゃんそして私よ。レジーナだっけ?あんた部外者なんだから指示に従いなさい。ほら、さっさと出て行きなさいよ!モニカちゃんが休めないでしょう!」


 乱暴にレジーナの肩を押して廊下に放りだすと勢いよくナタリアはドアを閉めた。


「なんなのあの女!頭おかしいんじゃないのぉ?もう無理、歴代の花嫁たちを思い出すわ!」


 キーっと怒りをぶちまけた後、大きく深呼吸をして冷静さを取り戻したナタリアはモニカが寝ているベッドへと近づいてきた。


「大丈夫?体調はどう?」


 ベッドの上で丸くなっているモニカの顔を見てナタリアは顔を顰めた。

 真っ青な顔をしてモニカは辛そうにしている。


「気持ち悪いです。レジーナ様が居なくなったからだいぶ良くなりました」


「あんな女を様付けて呼ぶことは無いのよ!本当に嫌な奴!明日になったら追い出すから気にしないでね!ゆっくり静養するのよ。何かあったら呼んで頂戴ね。レジーナの事は私とノーラで見張っておくから大丈夫よ」


「ありがとうございます」


 青い顔をしてぐったりと横になっているモニカを見てナタリアは心配そうに何度も振り返って部屋を出て行った。

 一人になりモニカは大きく深呼吸をする。


「大丈夫。きっとカイト様は私を追い出さない……追い出さない」


 心を落ち着かせるために呟くが不安で胸が押しつぶされそうになる。

 レジーナが新しい花嫁になったらきっとカイトとお似合いだ。

 カイトもレジーナを愛したらどうしよう。


 ぐるぐると不安が押し寄せて息が荒くなる。

 何度も空気を吸い込んでいるが息苦しくなり咳き込んだ。


「大丈夫、大丈夫」


 そう言いながらも涙がボロボロとこぼれてくる。


「無理よ。私は顔に傷がついているのよ。きっと私は醜い。醜い私はレジーナ様のお手伝いがお似合いなのかもしれないわ」


 やっとレジーナのいない世界に来たと喜んでいたがやっぱりこうして彼女からは逃げられないのだ。

 絶望的な気分のまますべて忘れてしまおうとモニカは目を閉じる。





『殺された。私は死にたくなかったの。カイトを傷つけたのは悪かったと思っているのよ』


 白い花嫁衣裳を着た綺麗な金髪の女性が涙を流している。

 またこの夢か。

 レジーナが来たから悪夢を見ているのだとモニカはもう見たくなくて目を開けた。


 日はどっぷりと暮れていて部屋の中は真っ暗だ。

 眠ったおかげで少しだけ体調が良くなっている。

 ゆっくりと起き上がり、ベッドサイドに置かれていた水差しからコップに水を注いで一口飲んだ。


 吐き気は収まっているが、目が回るのは収まっていない。


 ベッドからそっと降りて壁伝いに手をついて歩く。

 部屋に備え付けのバスルームへ向かうと冷たい水で顔を洗った。

 顔はさっぱりしたが、気分は重い。


 暗い冴えない顔をした自分の顔が鏡に映っている。

 右頬には獣に襲われた時の三本線の傷がついている。

 赤くミミズ腫れになっている傷をそっと撫でた。


 痛みは無いが、この傷がずっと残るのだろうか。


(レジーナも綺麗な顔をしていたわ。男の人は皆綺麗な人が大好きだもの)


 もしカイトがレジーナの方がいいと言われれば自分はどうなるのだろうか。

 行く所がないために屋敷に残ってレジーナの言いなりになるのか。


 (そんなのは嫌よ)


 涙が勝手に出てきて乱暴にぬぐう。

 

(カイト様に相談しよう。レジーナをお嫁にするのなら私をレジーナの目の届かないところに置い欲しいって言おう)


 涙を止めたくても勝手に出てくるためにハンカチを握りしめてモニカは壁伝いに歩きながら部屋を出た。


 物音1つしない暗い廊下を歩き、同じ階にあるカイトの部屋の前に立つ。

 目が回るが壁を支えにしていれば大丈夫だ。


 夜中にカイトの部屋に来るのは失礼だと思ったが、レジーナが寝ている夜中であれば話を聞かれることもないだろう。

 何度か深呼吸をしてドアをノックしようと手を上げるとスッとドアが開いた。


 突然ドアが開いたためにバランスを崩したモニカをカイトが支える。


「何をしているんだ。人の部屋の前でウロウロと……」


「すいません。お願いがあってきました」


 青白いモニカの顔を見てカイトは眉をひそめる。

 明らかに体調が悪そうなモニカの肩を抱くと部屋へと招き入れた。


 モニカの部屋と変わらない広さのカイトの部屋は、ソファーとローテブル、キングサイズのベッドが置かれている。

 カイトは就寝していたにもかかわらず、休日に着ているラフな格好をしていた。


「すいません。お休みの所」


「まだ寝ていなかったから大丈夫だ」


 カイトの優しさかと思ったが、机の上に置かれている書類の束が目に入り夜中まで仕事をしていたようだ。

 仕事の邪魔をしていることに心が痛んだが、それよりも自分の行く末を相談しないとと決意をする。


 モニカをそっとソファーに座らせるとカイトはすぐ横に座って顔を覗き込んできた。


「顔色が悪い。まだ体調が悪いのか?」


「眩暈がしますが、だいぶ良くなりました」


 実際は良くなるどころか寝る前よりも酷くなっている。

 目が回るから気持ちが悪いし、気分も落ち込んでいる。

 ポロポロと涙をこぼしながら言うモニカにカイトは困惑しながら背中を撫でた。


「泣くほど良くないのか」


「それもありますが、私を追い出しますか?」


 泣きながら訴えるモニカにカイトは首を傾げる。


「どうしてそうなるんだ?何度も言うが俺は何があろうとモニカを追い出したりしない」


 カイトにそう言ってもらえると嬉しいが、レジーナが住み始めたらこの屋敷に居られそうもない。

 モニカはしゃくり上げながら首を振ってカイトを見上げた。


「追い出されないのは嬉しいです。でも、レジーナ……様のお世話係は無理です。私にはできません」


「何を言っているんだ?」


「だって、レジーナを新しいお嫁さんにするんですよね」


「はぁ?」


 本気で驚いているカイトにモニカは涙を流しながら訴える。


「だって、レジーナの方が綺麗です、頬に傷もないし。レジーナの方が見栄えします。私よりもレジーナの方が可愛いし美しいもの」


 本格的に泣き出したモニカをカイトは抱き寄せた。

 力強く引き寄せられてカイトの暖かい胸に顔を埋める。


「俺がいつあの女がいいと言った」


 静かに言うカイトの胸に顔を埋めながらモニカは首を振る。


「でも、男の人は皆レジーナ様がいいもの」


「そんなことは無い。あんな性格の悪い女を選ぶ男なんているのか?」


 吐き捨てるように言うカイトに驚いてモニカは抱き付ながらも顔を上げた。

 青い瞳と目が合って心臓が跳ね上がる。


「でもすごく美しいわ」


「見た目を超えて性格が悪すぎるだろう。あの女を屋敷に置くことは無い!ましてや、俺の花嫁だと?あんな女と縁を結ぶぐらいだったら一生独身で構わん」

 

 はっきりというカイトにモニカはポロポロと涙をこぼしながら納得できない表情を浮かべた。


「私が落ち込んでいるから励まそうとしていますか?」


「そうではない」


 カイトは困ったように答えて天井を仰いだ。





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