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25 嫌な訪問者 1

 「あれ、ダミアン様お久しぶりです」


 カイトを見送るため玄関に立っていると、笑みを浮かべたダミアンが自分の家のように入って来た。

 

「おはよう。怪我の具合はどう?」


「お陰様で、良くなりました」


 たまに引きつるような痛みはあるが激しい運動をしたり大笑いをしなければ生活に支障は無くなっている。

 ほうきを持って玄関を掃いていたモニカを上から下まで見てダミアンはニッコリと笑う。


「確かに元気そうだ。髪の毛も少し切ったみたいだけれど良く似合っているよ。それにもうメイド服を着ていないことだし、玄関の掃除なんてしなくてもいいんじゃない?」


「なんだか落ち着かなくて」


 困ったように言うモニカにダミアンは肩をすくめる。


「もっと私は妻よって感じで居た方がいいよ」


「はぁ」


 妻と言っても書類上だけだ。

 カイトに認めてもらわないと妻とは言えない。

 もやもやと考えていると身支度を終えたカイトが階段を降りてきた。

 後ろにはノーラがくっついて歩いてきている。



「カイト叔父様、行ってきますのチューは?」

「そんなものはしない!」


 毎朝繰り返される会話にダミアンはニヤニヤしながらカイトを出迎えた。


「おはようございます。上司殿」


「お前が朝から来るなんて珍しいな」


 チューを迫るノーラを追いやりながらカイトはダミアンを見つめた。

 ダミアンは困ったように両手を上げる。


「ちょーっと厄介な情報を手に入れてね……」


 そう言うとカイトの耳元で何かを囁いている。

 カイトは眉をひそめて嫌そうな顔をした。


「それは本当なのか?」


「間違いなさそうだよ。困ったねぇ。まぁ、カイトが追い返せば済む話だけれど」


「それはそうだが……」


 カイトは腕を組んでため息をつくと、モニカを見つめた。


(何か私に関係ある事なのかしら……)


 なんとなく嫌な予感がしていると、玄関の扉が大きな音を立てて開いた。


 また誰か来たのかと視線を向けると、モニカがこの世で一番会いたくない人物が立っている。


 ピンク色のドレスを身にまとい、金髪の髪の毛を綺麗にカールしたレジーナだ。

 満面の笑みで玄関から入ってくると、集まっていた一同をぐるりと見てからカイトに駆け寄って抱き着いた。


「カイト様、わたくし待ちきれなくてやって来てしまいましたわ!」


「はぁ?」


 全く理解できないとカイトは顔を顰めると抱きしめてくるレジーナを力いっぱい引きはがしてダミアンに突き飛ばした。

 よろけたレジーナは今度はダミアンの腕にそのまま抱きついた。


「いやだわぁ。カイト様、やっと私が来たのにどうしてそんな酷い事をするのかしら」


「お前が何を言っているのかさっぱり分からないんだが、一体何をしに来たんだ」


「もちろん、新しい花嫁ですわ。モニカなんかより私の方がカイト様の花嫁にふさわしいですわ」


 全く理解できないレジーナの言動にカイトとダミアンは顔を見合わせている。


(ど、どうしてレジーナがここに居るの?もう二度と会うことは無いと思っていたのに!)


 もう一生会うことは無いと思っていたレジーナの姿を見ているとだんだんと気分が悪くなってきて視界がグルグルと回る。

 手にしていた箒に掴まり立っているのがやっとの状態だ。


 荒く息を繰り返しているモニカの異変に気付いてカイトが近づいてきた。


「モニカ、顔色が悪い」


「すいません。少し気分が悪くなってしまって」


 レジーナを見たショックで倒れそうなのだがそれを正直に言う勇気がなくほうきを支えにして弱々しくモニカは言った。

 カイトはモニカが呼吸をしやすいように背中を撫で、レジーナに鋭い視線を向ける。


「新しい花嫁などいらない。俺の嫁はモニカだ」


 自分の事を嫁と宣言してくれたカイトの言葉が嬉しいはずなのに、ショック症状から抜けられずモニカの足に力が入らなくなる。

 倒れそうなモニカを抱き上げるとカイトはもう一度レジーナを睨みつけた。


「さっさと出て行け!」


「そんな、こんな遠くまで来たのですからせめて一晩だけでもいさせてください」


 くねくねと腰を揺らして両手を胸の前で組んで、涙を貯めた大きな瞳でカイトを見上げるレジーナ。

 演技がかったレジーナの声色と態度にカイトは眉をひそめた。


「ダメだ」


 カイトが宣言するが、ダミアンが間に入ってくる。


「いや、確かに一晩でも泊めたくないのは分かるけれど。実際問題、馬と従者を少し休ませてやらないと可哀想だよ」


 ダミアンの言う事ももっともだと思ったのかカイトはモニカを抱き上げたまま天井を睨んだ。

 しばらく考えた後、ダミアンに視線を向ける。


「お前の家にあの女を泊まらせろ」


「嫌だよ。僕のお嫁さんと子供が嫌がるよ!」


 レジーナに聞こえないように小声で抵抗するダミアンにカイトも声を潜めた。


「ならば砦に泊まらせるか」


「なおさら無理でしょう!あの女が隊員とねんごろになったらどーするの!下手したら妊娠して、この村に踏みとどまったりして。僕、この村にあの女がいるのは嫌だよ。モニカちゃんだって嫌でしょう」


 だんだんと薄暗くなってくる視界と息苦しさで荒い呼吸を繰り返しているモニカの耳にカイトとダミアンのヒソヒソ声が聞こえる。


(レジーナがどうして嫌われているのかしら。あんなに綺麗なら新しい奥さんに最適よ。きっとカイト様も傷が無い美しいレジーナを好きになるのよ)


 カイトとレジーナが楽しく話している映像が思い浮かんでモニカは絶望的な気分になりながら目を閉じた。

 




 『私はカイトに殺されたのよ』


 綺麗な金色の女性が必死に訴えている。

 純白のドレスを着て、頭には白いベールをかぶっている。

 美しい花嫁は必死に訴えてくる。


『私は幸せになりたかったのよ。あの人と、あの人こそ運命の人だったのに……』


 しくしく泣いている声が耳についてモニカは目を開いた。


「夢?」


 寝ていたのにも限らずスッキリしない気分だ。

 カイトに抱き上げられたところまでは覚えているが、レジーナが屋敷に来たことも夢だったのかと寝たまま天井を見つめる。


「まさか、レジーナがこんなところに来るとは思えないわよね」


 一年中曇り空で霧が出ている薄気味悪い地へ来るとは思えずモニカは一人ごとを言って自分を納得させる。

 窓の外を見ると薄暗くなってきていて夕時のようだ。

 朝から随分寝てしまった。


 起き上がろうとするが目が回りとても立ち上がれる状況ではなく仕方なくベッドに横になった。


「どうしたのかしら、私……」


 重い頭を枕に乗せて呟くと、ドアが乱暴に開かれた。


「あらぁ、いい部屋ね」


「レジーナ……様」


 やっぱり突然やってきたのはレジーナで夢ではなかったとガッカリしながらモニカは呟いた。

 あれが夢だったらどれだけ良かったか、なぜレジーナが来たのか、どうして自分の部屋に入って来たのか全く理解できずモニカは寝たまま視線を向ける。


「あんた、良い思いしているそうじゃない。こんないい部屋を与えらえて、素敵な洋服を着て、モニカには不相応よ。それに髪の毛までお洒落にして、贅沢しているんじゃないわよ」


 一方的に言うとレジーナはクローゼットの扉を開けて洋服をあさりだした。

 ナタリアのお古のワンピースを取り出して自分に似合うか鏡に合わせて見ている。


「これ素敵ね。高級な布を使っているし、色もアンタより私にあうわ~。それに、カイト様ってとっても素敵じゃない。モニカより私の方が妻に似合うわよ」


 とんでもないことを言うレジーナを見つめてモニカは緩く首を振る。


「レジーナ様はどうしてここに来たのですか?」


「アンタじゃカイト様に失礼だからよ。美しくもない親なしのモニカじゃカイト様に失礼でしょ。どうせカイト様に愛されていない形だけの妻なんでしょう?私だったら直ぐに愛してもらえるわ」


 確かにレジーナの美貌ならカイトも好きになるかもしれない。

 モニカは涙が出そうになるのを堪えてレジーナから目を逸らした。

 視界に入っているだけで吐き気がこみ上げてきそうになるからだ。


(家を離れるまでは何とか大丈夫だったのに。久しぶりに意地悪レジーナに会うと辛いわ……)


 ずっと我慢して過ごしていたが、レジーナの居る世界が辛くて体が拒否をする。

 心も辛いが体がついて行かないのだ。


 レジーナの事をカイトが愛してしまったらどうしよう。

 

 そう考えるだけで今にも吐きだしそうになった。






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