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24 地下室

 真っ暗な階段をランタンで照らしながらカイトを先頭に降りて行く。

 

「ちょっと怖いね」


 ノーラはモニカの手を掴んで一番後ろを歩きながら小さく呟いた。

 モニカも頷くが、ワクワクする方が勝ってしまい前を覗き込む。


「もしかしたら何か面白いものがあるかもしれないですよ」

「えー、だったらノーラ宝石がいいなぁ。キラキラしているの」


 ノーラとモニカの会話を聞いていたカイトが呆れたように口を挟んできた。


「宝石なんかあるはずがないだろう。どうせ倉庫か何かで使用しなくなって塞いだのだろう」


「そうでしょうけれど、夢があるじゃないですか」


 階段を降り切ると広い部屋へたどり着いた。

 がらんとして何も置かれていない部屋をカイトが手に持っていたランタンで照らす。


 石造りの壁には薄っすらと文字が掘ってあり、部屋の中心は青い石で作られたテーブルの様なものが置かれていた。


「なんか奇妙な部屋ですね」


 ノーラの手を引きながら中心に置かれているテーブルに近づく。

 青いテーブルは星座の様な模様と見た事がない絵柄でぐるりと囲まれていて中心がくぼんでいる。

 部屋の壁に書かれている文字も細かく、何が書かれているか不明だ。


「儀式的なものをするところにしか見えないな」


 顔を顰めたままカイトが呟いた。


「儀式をやっていたんですか?」


「聞いたことが無い。はるか昔に何かしていたのかもしれないな。埃っぽいから出よう」


「そうですね。宝石が無くて残念でしたね」


 既に階段を駆け上がっているノーラに言う。


 地下室を飛び出したノーラがナタリアに抱き付ながら頷いた。


「なーんにも無くてつまらなかった」


「そうなの?」


 階段を登って来たモニカとカイトに視線を向ける。


「儀式的な怪しい部屋だった」


 簡素に言うカイトにナタリアは意味が解らずモニカを見つめた。


「本当に変な部屋だったんです。模様が彫られた青いテーブルが中心に置いてあって石造りの壁は変な文字が書かれていました。魔女の儀式に使っていたような感じです」


「……うちの家系に儀式をするような魔女みたいな人が居たのかしらねぇ」


 ナタリアは妙な部屋を受け入れて頷いた。


「ナタリアさんは驚かないんですか?奇妙な部屋なのに」


「だって、花嫁が4人も変な死に方をしているんだしねぇ。何かあるわよ」


 思わず言ってしまったナタリアの言葉にモニカは落ち込んで目を伏せた。


「やっぱり、不思議な力が働いて死んでしまうんですかね。私が獣に襲われたのはカイト様の花嫁としているからですか?本当の花嫁でないのに……」


 怪我をしたことは自分の不注意でもあるが、4人も死んでいることを考えると今回怪我をしたのも殺しにかかってきているのかもしれない。


 あまり考えないようにしてきたがやはり、何か不思議な力が働いているのかもしれないとモニカは目に見えて落ち込み始めた。


 獣に襲われてから死の恐怖に直面し、死ぬことが恐ろしくなっている。

 心が弱っているからかもしれないが、以前より死というものに敏感になっているモニカが泣き出しそうなぐらい落ち込んでいるのを見てナタリアは明るい声を出した。


「大丈夫よ!死んだ前妻たちは本当にどうしょうもないことをしていたんだから!死んで当然。モニカちゃんはそんなことしないし、大丈夫!死なないわよ!」


「死んで当然の事ってどんなことですか?」


 すがるように聞いてくるモニカにナタリアは慌てて自分の口を塞いだ。

 余計なことを言ってしまったとそっとカイトを見ると鋭い視線が向けられる。


「姉上!」


「どうやって亡くなったのか気になります……」


 ナタリアに縋りながら聞いてくるモニカにカイトは首を振った。


「絶対に言わない、言うものか!あんな奴らの事を考えるだけで怒りが蘇ってくる!俺は仕事に戻る。この部屋には金輪際近づくな!」


 機嫌を損ねたカイトはそう言い残すとさっさと図書室から出て行ってしまった。

 怒らせてしまったことにまた落ち込んでいるモニカの背をナタリアは優しく撫でる。


「ごめんなさいねぇ。私が余計なことを言ったからカイトの機嫌が悪くなっちゃったわ。過去の花嫁の事をかなり怒っているから許してあげてね」


「いえ、私も気になってしまって。私は大丈夫なんでしょうか」


「大丈夫よ。あの子たちとは違うもの。絶対に大丈夫!」


 ナタリアが何をもって大丈夫と言っているのか不明だが、モニカは頷く。


「お母様、変な本がある」


 棚から落ちた本の中から自分が読みたいものを集めていたノーラがしゃがみながら一冊のボロボロの本を手に持っている。


「何かしら」


 薄汚れたボロボロの本を触るのも嫌だというようにナタリアは人差し指と親指で挟んで受け取ると机の上に置いた。

 薄汚れた本の表紙は文字が読めないほど劣化しておりナタリアは嫌な顔をしながらページを捲って中を確かめる。

 中に書かれている文字は全く理解できないが、地下室で見た文字と同じだとモニカは声を上げる。


「これとそっくりな文字というか記号が地下室に書かれていました!」


「嫌だわ。魔女の本なんじゃない?」


 嫌そうにボロボロの本をナタリアは見つめた。


「魔女?」


 魔女と聞いてノーラは嬉しそうに本を手に取ろうとするのをナタリアが止める。


「汚いから止めなさい。どうせろくなことが無いわよ。死んでしまうかもしれないわよ」


 死んでしまうという言葉にノーラも敏感になっているのかパッと本から離れた。


「ノーラもうこの本を触らないわ。モニカ叔母様も、お母様もダメよ」


「解ったわ」


 ナタリアとモニカは同時に頷く。


「魔女なんて本当に居るんでしょうか」

 

 死にたくないという一心で聞くモニカにナタリアは困ったように首を傾げる。


「さぁ。でも不思議な力というものはあると思うわ。カイトの異様な剣の強さとかも未知の力からきていると思うし」


 獣の首を一振りで落とした姿を思い出す。


「カイト様ってそんなに凄いんですか?」


「そりゃーそうよ。どんな獣でも一人で倒せるのはカイト以外居ないって言われているわ」


「それも魔女の力なんでしょうか……」


 だんだん未知な力があるのかもしれないと確信し始めて怖くなるモニカにナタリアは明るく笑う。


「そうねぇ。ま、私たちには関係ないわよ!」


 明るく笑うナタリアに落ち込んでいた心が浮上する感じがしてモニカも微笑んだ。


「そうですね。関係ないですよね」


 関係ないと言われると本当の妻と言われていないような気がして落ち込む。


(カイト様最近私に優しいから勘違いしそうになるのよね)


 自分が本当の妻になりたいという欲望がどんどん出てくる。


「大丈夫よ、きっとカイトもそのうちモニカちゃんを好きになってくれるわよ」


「きっとっていつですか?私、その前に死んでしまいませんか?」


 不安になっているモニカの情けない顔を見てナタリアは噴き出して笑いだした。


「可愛いー。小さい犬みたいねぇ」


「カイト様にも言われて、お姉さんにも犬と言われるとちょっと嬉しくないです」


「そんなことないわよ。犬って可愛いじゃない。こう、自分の子供とは違った可愛さっていうのかしら?髪の毛を切ったらますます犬っぽいわ」


 絶賛するナタリアにモニカは唇を尖らせる。


 カイトに切ってもらった新しい髪型は確かに以前より可愛くなった気がするが犬らしさはどこにもない。



「もう犬でもいいです。カイト様に可愛いと言ってもらえたので」


 モニカが諦めて言うと、ナタリアは手を叩いて応援してくれる。


「そうよ。カイトが人を褒めるなんてないんだから!」


「そう言っていただけると、ありがたいです」


「でも良かったわ。こうして恋話が出来るほど回復して。気分が落ち込んでいたら恋なんてどうでもよくなるものね」


 ナタリアの言う通り怪我をした数日は落ち込んでいた。

 これもすべてカイトのおかげだ。

 あの日のカイトは優しかったとモニカは思い出して恥ずかしくなってモジモジと下を向いた。


「モニカちゃんトイレ我慢しているの?」


「違います。カイト様が怪我をして動けなくなった私でも追い出さないって言ってくださったんです」


(それに優しく涙を拭いてくれたし。たとえ子犬と思われていても嬉しい)


 ニコニコしているモニカを見てナタリアも微笑んだ。


「それは良かったわね。お姉さん嬉しいわ」


 ぎぅーっとナタリアに抱き着かれてモニカは嬉しくて目を瞑った。


(みんな優しい。本当にありがたいわ)


 両親が亡くなってから忘れていた人のぬくもりを感じて涙が出そうになるのをぐっとこらえた。





 

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