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15 楽しいピクニック 1

 モニカの毎日の仕事は犬の餌やりと、ポーラを手伝う事だったがナタリア達が来てから少しだけ変化した。

 ナタリアとノーラはモニカの作るお菓子を気に入ってくれて毎日楽しみにしてくれている。

 そして毎日午後はモニカの作ったおやつを食べながらお茶をするのが日課になっている。

 カイトが休みの日は一緒にお茶をすることもありモニカは毎日幸せだ。


 午後のおやつの仕込みをしていると、ナタリアとノーラが仲良くキッチンへとやって来た。


「モニカ叔母様。ピクニックに行こう!」


 元気よく言うノーラにモニカは首を傾げる。


「ピクニックですか?」


 ピクニックと言えば晴れた天気のいい暖かい日に出かけるイメージだ。

 今日も相変わらずの曇天で、屋敷の周りはうっすらと霧がかかっていてとてもピクニックという気分にはなれない。


「この子がどうしてもカイトと湖の畔でお昼ご飯食べたいって言うから……」


 困ったようにナタリアは言うが、あのカイトがピクニックをするというのも想像が出来ずモニカはますます首を傾けた。


「カイト様が一緒に行ってくれますかね?」


「行くと思うわよ。屋敷の近くの湖の畔なんて獣が出るかもしれないじゃない。護衛として必ず来てくれるわよ」


 確かにピクニックというよりは護衛という名目で渋々付き合ってくれそうだ。


「なるほど。それでしたら、急いでお弁当を作りますね」


「あっ、私は行かないからカイトとモニカちゃんとこの子の分だけでいいわよ」


「行かないんですか?」


「こんな曇っていて霧が出ている場所でピクニックなんて私は嫌よ」


「確かに、ピクニックという気分になりませんよね。でも、カイト様とピクニックはちょっと緊張します」


 ノーラが一緒と言ってもカイトと一緒に出かけるのは恥ずかしい。

 困惑しているモニカの耳にナタリアは囁いた。


「二人っきりになれないかもしれないけれど。頑張って自分をアピールしてきなさい。カイトは迫られると弱いと思うのよ」


「む、無理です」


 なんとかカイトをくっつけたいと思っているナタリアの助言だがモニカは首を振った。

 そんな大胆なことが出来ていたら意地悪ジーナにももっと対抗できていたに違いない。


「私だって嫌がる夫を追い詰めて結婚したのよ。……私だけを愛しているって言っていたのに、知らない若い女と抱き合っているなんて。許せない」

 

 思い出話から、夫の不貞を思い出して怒り始めたナタリアを宥める。


「まぁ、何かあったのかもしれないじゃないですか。私も頑張りますからナタリア様も気を静めてください」


「そうね。今、夫は関係なかったわね。カイトには言っておくから悪いけれど準備よろしくね」


「はい」


 機嫌が戻ったナタリアにホッとしてモニカは急いでピクニックに持って行く昼食を作る。

 じっと見つめているノーラにモニカは問いかけた。


「何が食べたいですか?」


「サンドウィッチがいい」


「わかりました。すぐに作りますね」


 初日に髪を引っ張ったことも忘れたのか、ノーラはモニカに懐いてくれる。

 そんなノーラに少しでも喜んでもらおうと急いでお弁当作りに取り掛かった。




 弁当作りが終わった頃、カイトがキッチンに顔を出した。

 ノーラはカイトに抱っこされて上機嫌だ。


「ピクニックに行くと言っていたが……。本当に行くのか?」


 渋い顔をしているカイトを見て行きたくないんだろうなと思いながらモニカは頷く。


「ノーラちゃんが行きたいそうです。私はお弁当を作りました」


 サンドウィッチとデザートが入ったバスケットを持ち上げるとますますカイトは眉をひそめた。

 抱き上げているノーラの顔を覗き込む。


「ノーラ、本当にピクニックに行きたいのか?曇り空で霧がかかっている湖に行っても楽しくないぞ」


「カイト叔父様とお外でサンドウィッチを食べたいの。モニカ叔母様も仕方ないからご一緒してもいいわよ」


 偉そうに言うノーラの言葉にカイトはため息をついた。


「ノーラがご所望をしているのなら仕方ない。歩いて行くんだぞ。それでもいいのか?」


 何度もしつこく確認をするカイトにノーラは頷く。


「大丈夫。ノーラ歩ける」


 断言するノーラにカイトは諦めたようだ。

 モニカに視線を向ける。


「湖までの道のりが悪いから俺はノーラを抱いて行く。モニカは歩いて荷物を持ってこれるか?」


「大丈夫です。……遠いんですか?」


 荷物を持てるのかという視線を向けられてモニカは不安になる。

 持てないほどの重さではないが、長距離となると別だ。


「すぐそこだ」


 カイト言うすぐそこという表現に不安を感じながらモニカは頷いた。


 

 (カイト様はすぐそこと言っていたけれど、どれぐらい歩くのかしら)


 ピクニックに行く気分でなくなったモニカはバスケットを手に持ちながらカイトを見上げた。

 休日で、ピクニックに行くというのにカイトは黒い騎士服に剣を差していていつでも戦える準備万端だ。

 モニカの脇には今日はクロが付いてきている。

 シロは館でお留守番だ。


「めったに出ることは無いが獣が出たら俺の後ろに居ろ。前には絶対に出るな、間違えて斬り殺すかもしれないからな」


 ニヤリと笑うカイトにモニカはコクコクと頷く。

 

「気を付けます」



 屋敷を出てすぐに裏の庭へと入る。

 カイトはノーラを抱えて木々の間の獣道へと入っていく。

 モニカも昼食の入ったバスケットを手に持ちながらカイトの後に続いて森に入った。


 かろうじて人が通れるぐらいの細い道があるが殆ど山道だ。

 雑草と木々の葉をかき分けながらカイトの後をついて行く。

 薄っすらと霧が立ち込めていてカイトから離れたら完全に迷子になりそうな予感がして必死に後をついて行った。

 

 森の奥に入るにつれて霧が濃くなってくる。

 少し先の道も霧でよく見えず、獣が出るのではないかと恐怖を感じながらモニカは必死に歩いた。


 とても楽しいピクニックという気分になれないままいつ獣に襲われるかとビクビクしながら歩き続けるとカイトが立ち止まった。


「ここがノーラが行きたがっていた池の畔だ」


 モニカとノーラに説明するカイトはうんざりした顔をして霧が立ち込めている湖を見つめている。

 濃い霧の合間に水面が見え隠れしているのが確認できた。

 湖はかなり広く、霧の奥に木々が見える。


「お屋敷の近くにこんなに広い湖があるなんて知りませんでした」


 水面を見ようとモニカは目を細める。


「霧が立ち込めていて遠くが見渡せないから知らなくても仕方ない。霧のせいで辛気臭いが、本当にノーラはここで昼ごはんを食べるのか?」


 ノーラを降ろしながらカイトは聞いた。

 

「カイト叔父様とお外でお昼を食べることが出来ればノーラどこでも嬉しいの」


 景色などどうでもいいというノーラの様子にカイトは呆れている。


(わかるわ。私もカイト様と一緒にお出かけが出来るのが嬉しいもの)


 お屋敷以外でカイトと一緒に居ることにドキドキしながらモニカも頷く。

 一緒に暮らしていても、会話をすることが多いわけでもない。

 ご飯以外は一緒に居ることがないために、こうして出かけられるのは嬉しい。


 たとえ天気悪くても、外で見るカイトは美しくてモニカは胸がドキドキして息が苦しくなる。

 家でくつろいでいる時のラフな格好も素敵だが、黒い騎士服姿のカイトが一番素敵だ。


 「モニカ叔母様、早くお昼を食べたいわ」


「あっ、直ぐに用意しますね」


 騎士姿のカイトに見とれていたモニカは慌てて荷物を降ろして昼食の準備に取り掛かった。

 うっそうと茂る草の合間に平たい場所をみつけて敷物を敷く。

 敷いた傍からノーラが喜んで座って来た。

 子供らしい可愛い行動に微笑みながら突っ立ったままのカイトを見上げた。


「どうぞ、お座りください」


 モニカに促されてカイトも腰を降ろすとノーラがすぐに膝の上に乗ってくる。


「カイト叔父様とこうして食べたかったのよ。カイト叔父様と結婚したら毎日こうやって食べようね」


「……それは遠慮しておこう」


 結婚という言葉に一瞬カイトは顔をしかめた。

 よっぽどトラウマがあるのだろう。

 モニカは4人の花嫁たちと何があったのか知りたいと思いつつ、サンドウィッチと温かい飲み物を注いで並べていく。


「カイト叔父様に食べさせてあげる」


 膝の上に乗ったままノーラがサンドウィッチを手に取ってカイトの口元に持っていった。

 ラブラブの恋人同士にやるような行動にカイトは嫌がりながら顔を逸らす。


「ノーラ、自分で食べられるから止めてくれ」


「嫌だぁ。ノーラこれがやりたかったんだもの」


 ムーっと機嫌が悪くなったノーラにモニカは敷物の端っこに座りながら問いかけた。


「どうしてそんなことをやりたいんですか?というかよく知っているというか……」


 自分が子供だった時はそんな知識があっただろうか。

 

(最近の子供はすごいのね)


 カイトはノーラの手からサンドウィッチを取り上げモニカに視線を向ける。


「姉夫婦のせいだ。あの二人は年中イチャイチャしているからそれを見て育ったノーラが真似をしたがるんだ」


「えっ、あのお姉さまがそんなことを……」


 美しいナタリアが夫とイチャイチャしているところを想像してモニカは顔を赤くする。


(確かに愛について語っていただけの事はあるわね。情熱的なのね……)


 不機嫌なノーラの機嫌を取るようにカイトは仕方なくサンドウィッチを膝の上で食べさせている。

 恋人というよりは親子に見えて微笑ましい。


 (いいなぁー私も膝の上に乗せてもらってサンドウィッチをカイト様に食べさせてほしいなぁ)


 子供に意外と優しいカイトの様子を見て羨ましくなりながらもサンドウィッチを手に取って一口食べた。

 




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