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第六話 ログ

 ドラク・キュライという真名をもつ赤眼で隻眼の吸血鬼は、一歩も動けないでいた。


「……貴方は、焼かれたはずでは?」


「いや? 僕は(・・)、焼かれなかったよ」


 操太の言葉を聞き、数秒考えた結果、ドラクは前を向いたままでだったが、操太の言葉の意味がわからなかった。


 ドラクは、確かに自らが顕現させた業火によって、主の家に混乱を生み出す元凶である男を焼いた。殺意を持って、一切の手心をかけずに、本気で焼殺させるだけの火力だった。それなのに普通に話せる操太に対して、状況が把握できずに混乱していた。


「つーちゃんに、何をしようとしてたの?」


「……一型家の御令嬢である都来莉(つくり)様に対して、従者の一人に過ぎない私如きが、危害を加えるようなことは……」


「危害という言葉がでてくる時点で、正直アウトなんですけどね」


「……は? はぁあああああ!?」


 ドラクが奇声を発したのは、頭がおかしくなったというわけではない。視界が一瞬にして空一面へと変わったからだ。


「放り投げられた!? あれは……まさかこの状況は……!?」


 操太は、ドラクの背後から片腕を掴んだと同時に、上空へと全力でぶん投げた。抵抗する暇なく上空へと戻されたドラクは、当然そのことに驚愕したのだが、それ以上に屋敷を見下ろしたときに戦慄した。


 操太が空に向かって両手を突き上げていたからだった。否、正確に言えば、ドラクに対して一目見てし背筋が凍るほどの魔力が、収束していたからだ。


「〝星に成れ〟」


 操太が口にしたのは、短くも力強い詠唱だった。そしてその詠唱と共に両掌から放たれた光は、まさにレーザーだった。


「ひぎゃぁああぁああああ!?」


 まさに断末魔といって差し支えがないほどの絶叫が、空に響き割ったが、光線が空の彼方へと伸びていくとともに、絶叫も小さくなっていった。どうやら、光線と共にドラク自体が巻き込まれながら、吹き飛ばれていった為だろう。


「痛ッ……くそ……容赦なく焼きやがって、あのクソ蝙蝠め。しかし、まぁ……ざまぁみろと言ったところだが、殺しちゃいねぇんだろうな?」 


「貴方と同じで、なんで一型家に使えているのか不思議なくらいの高位の存在ですから。アレくらいだと、死ぬほど痛いだけでしょう」


「その上、星になるほど吹っ飛ばされたってか。同情はしねぇが、哀れだな……」


 操太により吹き飛ばされた方向の空を眺めらがら、路次(ろじ)は呟く表情は安堵していたが、そのあとすぐに眉間に深い皺を寄せると、思いっきり操太の頭にゲンコツを落とした。


 落としたのだが……


「いてぇな!?」


「いやいや、それ殴られた僕の方の台詞ですからね? 魔力を纏わせていないただの拳でさえ、中の僕に衝撃与えるって、どんだけの力こめたんですか? 生身だったら、僕首取れてそうなんですけど」


 まるで金属同士が衝突したような音が、その場に響くと、路次(ろじ)のイラついた叫びと操太の避難めいた声が交錯していた。


「あの蝙蝠野郎をぶっ飛ばすような(やから)が、この程度で頭が飛ぶわけねぇだろうが。それで? 今のお前は、結局のところどんな状態だってんだ。姿かたちだけでなく、気配も操太のそれだが……僅かだが、違和感を感じる」


「龍人族が超感覚を持っているとしても、違和感を感じとらせてしまったと言うのは、まだまだ僕の腕も未熟ですね……心が高揚し過ぎているということでしょうかね、全く」


「・・・・・・言葉とは裏腹に、まだ顔はだらしなく緩んだ顔してんぞ」


 路次(ろじ)の〝今の操太はどうなっている〟と言う問いに、操太は答えずにあからさまにはぐらかしたのだが、それを察した路次(ろじ)は目を瞑りながら頭を掻いたあと、先ほどの問いなどなかったかのように話を始めたのだった。


「それで? うちのお嬢は、今どうしてるんだ」


「あー・・・・・・、果ててますね」


「果てて・・・・・・ん? 果ててる?」


「えぇ、自室の研究室のベッドの上で」


「ベッドの上で? 果ててる?」


「果ててますね」


「あの僅かな時間にか?」


「えぇ、さっきの僅かな時間に」


「操太……お前、凄いんだな……いや、お嬢の感度が高い可能性もあるか? いや、いきなり果てたということは、やはり操太のテクが……」


「え?」


「まぁ、なんだ。その……お嬢をよろく頼む! 幸せにしてくれよな!」


「ん? いや、え?」


 このあとすぐに、操太と路次の二人で研究部屋に行き、都来莉(つくり)が果てた理由が、自身の最高傑作が何の不具合もなくいきなり操太に繰られたのを見て、喜びが限界突破して彼女が失神したということを、路次(ろじ)が知り、心底自身の従者に呆れられる都来莉(つくり)、という一幕があったのだった。


 三人は合流すると、比較的に無事だった屋敷一室へと移ると、今後の動き方について相談することになった。


(さん)兄様の筆頭従者を、私の婚約者が吹っ飛ばしただから、それはもう、アレしかないわ」


「まぁ、そうなりますなぁ。はぁ〜、そうなっちまいうよなぁ」


 都来莉(つくり)は悪そうな笑顔を浮かべながら、路次(ろじ)は哀れみを包み隠さず顔に出しながら、両者は操太を見ていた。


「……嫌だよ?」


「まだ何も言っておらぬよ、愛しの婚約者殿?」



「こうなっちまったのは、完全にうちのお嬢のせいなんだが……男なら覚悟を決めなくちゃならん時も、人生にはあるってことよ」


「いや、だから、絶対に、嫌、だから」


「操太よ、お主は昨年設立された〝魔王討伐者育成機関〟通称【蠱毒の学園】に入学して、お主が世界最強であることを証明し、我が夫として相応しく、そして目障りな羽虫が手出しすることができないほどの、圧倒的な力という抑止力をもっていることを証明し、私との祝言をあげるのだ!」


「気合いだ! 婿殿!」


「ふざけんな! 設立して一年でついた通称が〝蠱毒〟とか、もう説明を聞かなくても最悪だろうなっことがわかりすぎる! 絶対に嫌だぁあああ!」


 かくして、稀代の繰り師の人生の歯車は、同じく稀代の人形師の幼馴染によって木っ端微塵に破壊され、彼は誰の歯車にもなれないような人生をこれから歩ことになるのだった。


 この物語は、人形を人知れず裏方から繰ることを至上の喜びとしていた青年が、表舞台へと引き摺り出された結果、世界に自身の存在を証明し続ける記録(ログ)である。



 『序章 完』

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