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第四話 童心

「操太には、此奴を貸し出そうではないか」


 目の前に佇む魔導人形を前にして、操太は現状を忘れて完璧に魅了されていた。


 白銀の体躯は中世的で、一見するとマネキンのようだった。顔も大まかな凹凸だけが表現されているのみであり、のっぺらぼうと表現するのが適切だろう。


 屈強そうな筋肉がある訳でもなく、見るものを魅了する顔があるわけでもない。数多のギミックが搭載されている武具が装備されている訳でもない。


 しかし、操太の背中に流れる冷や汗は、この魔導人形が尋常ならざる物であることを、否応無しに示していた。まだ魔力糸を接続していないのにも関わらず、間違いなく自分以外では、これを操れないことを操太は直感で感じるほどだった。


つーちゃん(・・・・・)……この子、完全に趣味に突っ走ったよね? ははは」


「お主…ふふふ、そうだよ! そーくん! この子こそは、わたしの全部を詰め込んだ〝最強の目指す最強の存在〟だよ!」


「最強を目指す最強の存在って、最高にバカっぽくて中二で……ワクワクすぎる! はっはっは!」


「そーくん……」


 本来の操太と都来莉は、肩書きがなければ只の仲の良い幼馴染なのだ。それは、どこにでもいるような親友同士。二人を結びつける魔導人形は、いつだってどこでだって二人を夢中にさせる。


 そのことを何よりも嬉しく思うのは、都来莉だった。心から対等な存在として自分と関わってくれる友など、今の彼女が得られるはずがないからだ。操太でさえ、基本的には身分を弁えており、普段は一線を超えないようにしている。


 それが分かっているからこそ、彼女の心は踊るのだ。


「ねぇ! 糸を繋げてみてもいいんだよね!」


「もちろんよ! でも、この子はそーくんでも、操るのが難しいかもねぇ?」


 挑発するように不敵に笑みを浮かべる都来莉は、彼が操れない可能性など微塵も考えていない。


「ふふ……今の今まで、僕がつーちゃんの創った子たちを操れなかったことなんて……なかったよね! 〝空栗流糸操術奥義 天衣無縫〟!」


「奥義……って何!? 奥義なんて初めて聞いたんだけど!?」


「あたり……前だろ……くっ……見るからにやばいこの子には……僕の全力でもって向かってこいと……言われているようだからねぇえええ!!!! はぁああああああ!!!」


 不可視であるはずの魔力糸が、操太の身体中から溢れだし、その一本一本がまるで自らの意思を持つかのように目の前の魔導人形へと向かっていく。


「なんか……魔力糸って見えると、なんか……気持ちわる」


「ひどい!? ん? がぁあああ!?」


 操太の悲痛な叫びと共に、無数の魔力糸が魔導人形に接触するやいなや、操太が片膝をつき、額からは大粒の汗が一気に浮かび上がっていた。


「こ、こいつぁ……とんでもねぇ……じゃじゃ馬だぁ」


「すごい汗かきながら荒い息遣いなのに、笑顔って……贔屓目に見て、気持ちわる」


「だからひどいって!? つーちゃんの子に、僕の全てを注いでいるってのに、まだまだ満足じゃないって感じに、もっともっとって求められてるんだよ!? 最高じゃない!」


「言い方ね!? なんか凄く嫌なんだけどそれ!?」


 顔を真っ赤にしながら嫌がる素振りを見せる都来莉だが、その心は操太の言葉通りに、もっと操太を欲しがっていた。


「ふふふ、つーちゃんだって期待してるんでしょ? だって、顔がこれ以上ないってくらい嗤ってるよ! さぁ! これが僕の全力だ! 全部もってけぇええええ!!!!」


 操太は雄叫びとともに、魔力を全開放すると、雷鳴と共に部屋から影が消えるほどの光に包まれたのだった。


 当然の如く、雷鳴と共に爆発的に放たれた魔力は、半壊している屋敷の上空で争っていた龍人と吸血鬼にも届いていた。


 互いに命を削る戦いの最中でありながら、同時に屋敷へと目線が移り、大きく眼を見開いていた。


「おい、蜥蜴擬き。アレは……何だ。貴様が慌てふためいてないところを見るに、アレを知っているのだろう?」


「……お前……なのか?」


「おい、お前とは誰のことだぼばぁあ!?」


 龍人の呟きを聞き取った吸血鬼が、さらに詰めようとした瞬間、吸血鬼の顔面を金剛石をも砕くとも言われる龍人の渾身の拳が、文字通りに衝突していた。


 錐揉み回転で吹き飛ばされる吸血鬼に向かって、龍人は口が裂けんばかりに大きく開くと、大きく息を吸い込んだ。


「ぎっ! ぎざばぁ!? おでをごろづぅぎか!?」


「〝祖なる龍の息吹(ドラゴンブレス〟)


「ぎぎゃあぁあああ!?」


 間違っても息吹などとは表現されることはないであろう魔力砲が、龍人の顎から放たれると、吸血鬼を飲み込んだ。そしてその直後、吸血鬼がいたであろう一帯の空を、爆炎が包み込んだ。


「殺す気はねぇ。というより、それくらいでテメェが死ぬ訳ねぇだろうが」


 血反吐を吐き捨てると、龍人は屋敷のへと下降し始め、屋敷に降り立つ頃には人の姿へと戻っていた。


「お嬢は、操太と一緒にいるはず。ということは、さっきのあれは……そういうことだよな」


 困ったように頭を掻きながらも、表情では口元が緩む路地であった。


「だが、困ったな。お嬢の秘密の部屋は、屋敷のどこにあるかは俺も教えてくもらってねぇんだよなぁ。勝手に色々屋敷を改造しちまうもんだから、こう言う時に困るんだよ、まったくよ」


 半壊している屋敷の瓦礫の上に降り立った路地(ろじ)は、ジャケットから煙草を取り出し口に咥えると、両手でポケットを探るが、目当てのものは見つからなかった。


「クソッタレが、あのライターお気に入りだったのによぉ」


 瓦礫を蹴飛ばしながら、路地は火のついていない煙草を咥えながら、これからの事を考えていた。


 〝煙草の火が点かんのか。ならば、特大の火をくれてやろう〟


 直接頭に響くような声に、路地はすぐさま空を見上げたが、その光景を目にするとすぐさま龍人化していた。


「テメェが煙草の火をくれるとは、ご丁寧なこったなぁ! クソッタレが!」


 路地が見上げる空には、全身を酷く焼かれていながらも、爆炎を自身の魔力に取りこむことで燃え盛る巨大な火球を掲げる吸血鬼がいた。そして、間髪入れずに腕を屋敷に向かって振り下ろしたのだった。


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