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episode5

 襲撃から目を覚ますと、空には満天の星が輝いていた。そして頭には柔らかい感触。これには思い出がある。と思っていると、星を見上げる俺の目の前に覗き込んだ美しい顔。まさしくシャロンさんだった。


「うえ! シャロンさん!」

「どうしたの? また喧嘩?」


 俺は憶測のままトビーとその仲間とも言えないので、仕方なくそうですと答えるしかなかった。


「どうやら今回は負けたみたいね」

「はい……。でも闇討ちだったんスよ?」


「はいはい。取り敢えず手当てしてあげる。どっちかっつーとあんたの家のほうが近いね。薬とかある?」

「それなりには……」


「じゃ立ちなよ。肩を貸してやるから」

「ありがとうございます」


 それはそんな気はなかった。なかったのだ。しかし足がもつれて腹への痛みもあり、ふらついてすがるものを探した。そして彼女の胸を強く掴んでしまったのだ。だが柔らかい感触に慌てて、それを放すとそのまま尻もちをついてしまった。


「何やってんのさ」

「す、すいません。胸を……」


「仕方ないよ。大丈夫さ」

「ま、マジですかぁ……。ふひー、良かった」


「でもやらしい気持ちで触ってきたら今度は張り飛ばすからね」

「う、うす……」


 俺とシャロンさんは、俺の小屋の一室へと入ると、そこでシャロンさんは手当てしてくれるための準備を始めた。


「ほら、上着脱いでよ」

「で、でも腕が思うように上がんなくて……」


「まったく。手間がかかるね」

「すいません」


 シャロンさんは、俺の上着を優しく脱がせてくれ、俺の肉体に目を丸くした。


「へー、あんたカッコいい体してんのね」

「そ、そうっすか?」


 シャロンさんは、そこでアザの部分に膏薬や湿布を貼ってくれたり、消毒をつけたり、包帯を巻いてくれたりした。

 好きな人に側にいられて甘い香りを吸わされた上に体を触られていたらたまらない。徐々に俺の吐息は荒くなっていた。


「シャロンさん……」

「ん?」


 俺は彼女の身に触れ、キスをしようと彼女の姿勢を下げようとした。シャロンさんも気付いたようで、膝をついてくれたので、そこでキスをした。

 そして彼女の胸に触れた。彼女は一度目は手を弾いたが、もう一度触れると抵抗しなかった。


「シャロンさん……」

「うん……」


「ベッドに、行きましょう……」

「うん……」


 俺は足を引きずりながら、彼女を寝室に誘った。シャロンさんは、そのまま抵抗もせずについてきてくれた。

 俺の上半身は何も着けていないままだ。俺は彼女の服に手を掛けると、彼女はそこで少しばかり抵抗をして顔をそらした。


「ジョエル……。私もジョエルのこと好きだよ。好き。でもね、中途半端な気持ちならここから戻って欲しいんだ」

「中途……。そんな気、頭からねぇっす。シャロンさんを心から愛して、将来を共にしたいです」


「バカ……」

「バカでもなんでもいいっす。シャロンさんが好きだ!」


 彼女は自身の服に手を掛けて腹辺りまでたくしあげる。するとそこには、胸に掛けて真っ赤な火傷の痕があった。


「昔はね、私と母は伯爵さまに南の屋敷を与えられていたの。でもね、ある時火事になって母は焼け死んで、私にはコレが残ったの……。どう? 幻滅した?」

「バカなこと、言わんでください!」


 俺は痛い身のことなど忘れて、彼女をベッドに押し倒していた。


「そんなことで俺のシャロンさんへの思いが変わるわけないじゃないですか! 見くびらんでください!」

「そっか……」


「はい! シャロンさん、愛してます!」

「そう……、いいよ、ジョエル、来て──」


「はい!」


 俺とシャロンさんは、そこで愛し合った。二人して初めての行為。俺はそれが終わった後で、彼女の髪を撫でていた。


「可愛いよ、シャロン……」

「う、お前呼び捨てにしたな?」


「いいじゃないですか。結婚してシャロンさんって呼んでたらおかしいでしょ?」

「うーん、でもお前に言われると違和感あるんだよなぁ~」


「こだわるなぁ」

「ね。ジョエル?」


「はい?」

「あんた私を裏切らないわよね? 私イヤだからね。父を見ているとそう思うの。勝手に母に手を出して、私を作ったとて、それからは見向きもしない、勝手な男は、さ。嫌いだよ。そういうの」


「大丈夫です。俺はシャロンさんが居ればなにも要りませんよ。シャロンが最初で最後の女です」

「そっか。私もね、これだって信じた男だけだったの。ジョエル、あなたは私の最初で最後の男。私の火傷を見せるってのはそういうこと。いいわね? あなた以外にこの傷は見せない。分かった?」


「マジですか! 分かりました! 俺、一生を掛けてシャロンさ……シャロンを守るよ」

「お前も違和感あんじゃん」


 そんなことを言い合いながら微笑みあった。幸せだ。俺はこの時、最高に幸せだったのだ。




 それからと言うもの、シャロンさんはローラが編み物を終わり、屋敷へ帰るのを見送ると、俺の小屋に来て夕食を作ってくれたりした。そんな日は二人で朝まで過ごす。楽しい毎日だ。


 俺は仕事が終わって家路に着くと、路傍に美しい赤と白の花が咲いている。回りを見ると、農家の娘らしきものが三人、その花を摘んでいたので声をかけた。


「すいません。この花は俺も摘んでいいでしょうか?」


 すると娘たちは顔を見合わせて笑い出す。


「もちろんだべさ。サテンの花は山野の雑草。誰のものでもねぇべ。兄さんも女子(おなご)さ送るんけぇ?」

「はは、そうです。では俺も遠慮なく」


 娘たちに混じって俺も急いでそれを摘んで花束を作った。これをシャロンさんに渡せばどんなに喜んでくれるだろうかと想像しながら。

 その時、ちょうどローラがシャロンさんの家から出てきたところだったので、俺は薔薇垣へと寄って声をかけた。


「おい、ローラ」

「ひゃうん! ジョ、ジョエルくん!?」


「お前、今帰り? ねーちゃんは家の中か?」

「あ、お姉さまは今日はまた町に用足しに出てて、そのう、私に場所だけ貸してくれたっていうか、そんな感じで……」


「ふーん。ねーちゃんいねーのかよ。ま、いーか。じゃ、これ」


 俺は摘んだばかりの花束を突き出した。ローラは真っ赤な顔をして、それを受け取っていた。


「女は花が好きなんだろ。お前とねーちゃんで分けろや」

「あ、あの! お花にはいろんな色があって、私もお姉さまも好きで、キレイで匂いも好きで、はい、大好きで……」


「はーん。そんなに好きなのか。じゃあ良かったよ」

「あの! これジョエルくんだと思って大事にする! しおれそうになったらドライフラワーにしたり、ポプリにしたり……」


「は? そんな大層なもんじゃねーけどよ。じゃ、ねーちゃんによろしくな」

「ジョエルくん」


 俺はローラに手を振って、小屋へと帰っていった。その時のローラがいつまでも俺の背中を見送っていることに、俺は気付かないでいたのだ。

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