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episode12

 朝食には、ローラに連れられてやって来た。最初彼女は俺の手を繋ごうとしたが振り払った。しかし彼女はそう言うものだと納得して横に並ぶだけにとどめていた。


 朝食の間、ローラは楽しそうにお話をしていたが、俺は適当に話を聞き流していた。


 食事が終わり、俺はローラに命じて使用人を全員集めさせた。初の顔合わせと言う名目だ。そこには、控えてシャロンさんも立っていた。

 俺は一同を見据えて挨拶をする。しかし異様さにギョッとしているようだ。それもそのはずだ。俺の手には腕ほどの長さの細くてしなる鉄鞭(かなむち)が握られている。


「みんな、俺は隣のアートル子爵の次子でジョエルという。縁あってローラに嫁ぎ、伯爵の位を譲られた。しかし育ちが良くないので、お上品には話せない。だからといって、不敬な真似をしたらそれ相応の罰を与えるからな。覚悟したまえ」


 そう言うと、一同は若干黙ったものの、家宰(かさい)のウォルトの号令で「はい旦那さま、よろしくお願いいたします」の声が屋敷の中に響いた。

 俺はそこで気配を消して後ろのほうにいるトビーを指した。


「トビー、前に出たまえ」

「は、はい、旦那さま」


 彼は冷や汗をだらだら滴し、一歩一歩を震わせながらみんなよりも前に出てきた。俺は彼に近付いてその回りをグルグル回る。俺の靴音だけがこの場を支配していた。そこで回りには聞こえないようにトビーへと小声で呟く。


「ローラはね、昨晩は俺の腹の下で破瓜(はか)された苦痛にもがいていたよ。背中を冷たい板間に転ばせられてね。それでも、ああ旦那さま、素敵です、素敵ですと言っていたぞ。お前が幼い頃から育てていた白い宝石は俺に身を委ねて汚されたのだ。どうだ、悔しいか、オイ。闇討ちくらいしか出来んお前だ。どうせローラに叶わぬ思いを寄せていたのだろう?」


 トビーはわなわなと震えていたが、そのうちに掴みかかろうとしてきたので、鉄鞭で脛を打ち据えると、彼はそこにうずくまった。

 ローラとシャロンさんは飛び出して来ようとしたが、俺はそれを手を上げて制した。そしてローラへと言う。


「ローラ。この男はね、俺たちの結婚の前に、俺に君へと近付くなと暴力を振るってきた男なのだ。なあトビー、そうだろう? あの時太陽を背にして見えまいと思っていたようだが、鎖の鳴る音がした。君に間違いない。そしてさっき飛び掛かろうとしたね、もはや誰にも申し開きは出来ない。君は俺とローラに横恋慕して、二人の仲を切り裂こうとしたのだ。どうだ、ローラ。この男を許せるかい?」


 するとローラは拳を握って声を荒げた。


「な、なんと言うことを……。私のジョエルさまに。許せないわ!」

「お、お嬢さま……!」


 俺はうずくまっているトビーの背中を鉄鞭で打ち据えて叫ぶ。


「この中にトビーの協力者がいるな? 正直に申し出よ。俺の四肢を押さえたやつは誰だ。おそらく数人いるハズだ!」


 そう言ってトビーの背中を三度ほど打つと、服は破れ血がにじんでいた。するとその場に三人ほど跪いた。


「だ、旦那さま、お許しください」

「と、トビーはお嬢さまのためを思って……」

「どうか、行き過ぎたトビーの忠義を悪く取らないでくださいまし」


 俺はそれに眉をひそめて聞く。


「忠義だと?」

「そ、その通りです。トビーはお嬢さまは高位な貴族のかたとご婚礼なされると思い込んでいたものですから、だ、旦那さまにあのようなことを……。しかし、この忠義ものはお側に置いておけばきっと死力を尽くしますよ。どうかご勘弁のほどを……」


 しかし、俺はもう一度トビーに鉄鞭を振り下ろした。


「ならんな。トビー以下、闇討ちに加担したものは領内より追放とする。連れていって放逐せよ!」


 そう言うと、護衛のものたちがトビーと他三名を引き立ててその場から連れ出していった。

 これでいい。確かにトビーはローラに惚れているだろう。だからこそ彼女のためにはなんだってする。そんなものをローラの側に置いてはおけない。少しずつローラの側近をなくしてやるのだ。


 そう思っていると、俺の前にシャロンさんが立っていた。俺の眉尻が下がり、前のように彼女を見つめていることが分かった。

 だが彼女は俺に詰め寄る。


「シャ、シャロンさ……」

「あなた、なんと言うことを。ヒドイわよ。どうしてあんなに鞭を打つ必要があるの? 追放にせずとも罰を与える手段なんていくらでも……」


 そうだ、この女は敵だった。優しい目などするべきではない。俺はローラを呼んだ。


「ローラ! お前の姉さんはこんな風に言うがどう思う? トビーをあのままにしておけば俺は害され、お前は犯されていたかも知れない。それでも俺は間違えているか!?」


 ローラはおずおずとシャロンさんの前に立ち、顔を伏せながら言った。


「い、いいえ。旦那さまがすることに間違いなんてないわ。お姉さま、伯爵さまにお詫び申し上げてください……」


 シャロンさんは震えながら俺を睨む。俺は涼しい顔を装って、彼女の詫びの言葉を待った。するとようやくシャロンさんはカーテシーを取って俺にお辞儀してきた。


「恐れ多いことを申し上げました」


 俺はそれを鼻で笑った。だがシャロンさんへの攻撃を緩めない。怒りのままローラの髪の毛を引っ掴んだ。


「きゃあ!」

「うるさい! こっちにこい!」


 使用人やシャロンさんがざわめく中、俺は近くの部屋にローラを引きずり込んで、床に倒した。そして靴と靴下を脱いで裸足で彼女の顔を踏みつけたのだ。


「なんで俺がお前のねーちゃんにクドクド言われなきゃならねぇんだよ。突然出てきて不愉快な女」

「あ、あのごめんなさい……」


「おい、口を開けろ」

「は、はい」


 小さく開いたローラの口に、俺は足の親指を捩じ込んだ。この女に屈辱を与えてやる。尊厳を打ち砕くのだ。


「ねーちゃん教育がなってないよ、お前」

「も、申し訳ございません……」


「よし。足の指の股を舐めろ。これはお前のねーちゃんへの罰だからな」

「は、はい」


 ローラは恐ろしさと屈辱に顔を歪めて泣き叫ぶのだと思っていた。そしたら部屋の外にいるシャロンさんは、自分の選択が間違いだと心を病むのだと思っていたのだ。

 しかしローラは何もためらわなかった。そのまま俺の足を優しく取って、愛おしいように俺の指の股を一つ一つ舐めたのだ。俺から思わず声が漏れる。そしてバランスを崩してしりもちをついてしまった。ローラは俺の足へと腕を絡ませて、足の指を口に含んでいる。

 まるで狂った恋。この娘は、俺を疑うことなく、ただ真っ直ぐに俺を愛してやがるのだ……。


「っお。お──」

「気持ちよいですか? ジョエルさま」


「うくっ、もういい」


 俺は足を引いて立ち上がり、靴を履き直した。ローラはそんな俺を嬉しそうに微笑んで見ていた。


「ジョエルさまは、感じてくださった──」


 そんな言葉を背に受けていた。そして部屋を出ると数人の使用人たちが扉に向けて耳を立てていたので鉄鞭を振り上げて叱りつけた。


「何をやっている! お前らの仕事は扉に耳を近づけることか!? 馬鹿者どもめ! 仕事をしろ!」


 使用人たちは慌てて持ち場へと去っていった。俺には不完全燃焼の怒りだけだ。


 俺とシャロンさんとは対等だった。いや、ややシャロンさんのほうが立場が上だった。シャロンさんはやりたくないことはやりたくないといい、俺もそれに応じた。

 だがローラは違う。こちらの求めにやすやすと応じてくれる。それに感じるものがある。心がローラに謝罪をし、愛おしく撫で回したく思っている。

 しかしダメだ。自分の人生は断たれた。ローラによって。シャロンさんは愛していたがために今では憎しみを感じる。

 ローラだって、早く根を上げればいいのに平気だ。そして愛を感じる。もっともっといたぶらなくては。ローラを泣き叫ばさせなくては。

 俺は奥歯を噛み締めた。

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