『水族館』★★★★★
水族館に来てから、しばらく、仲間と話していた。
「見て、あそこの、前を歩いているカップル。良いなぁ」
「お前みたいに、時々後ろ向きになる奴も居るけどな」
「……ふん、ほっといてよ。ボクは好きで、こうなったわけじゃないんだぞ」
仲間は「ごめんごめん」と軽く流す。
「あ、女の人がこっちに来る!」
ボクの声を聴くと、仲間は、長い四肢を使って、彼女にアピールし始めた。
「……無理だって」
「いや、ワンチャン有るぜ! お前はいつも後ろ向きだな。やっぱり、近づかれたら、腰曲げて逃げんのか」
「うん。警戒心が強いもんでね。それに、あんなキレイな女性。ボクらとは棲む世界が違うよ」
やはり、女の人は、ボクらには全く興味が無かったみたい。チラッと見ただけで、通り過ぎた。
「ほらね。メインは、イルカとかペンギンとかなんだよ」
「アイツらって何喰ってんのかな?」
「……君は、見た目通り、いつも横道にそれるね」
「たしかに」
◇
第十五段目は、『エビとカニの談話』です。
……まず、わかりましたかね?
水族館で会話しているのは、人間ではありません。逃げる時に後退する(後ろ向きに進む)エビと、足の構造上、横向きにしか動けないカニの会話です。
この性質を知らなければ、成立しないギミック(=仕掛け)はマズかったでしょうか。偶然彼らの性質を知って、書きたくなったから作品にしました。
もう少しエビとカニの共通の性質を利用した方が面白かったですね。例えば、『ジャンケンではいつもウニに負ける』みたいな(※チョキの手はザリガニです。間違えました)。
あとは、『仲間は泡を噴いていた』というワードで、ミスリードを誘えそうです。
なんというか、惜しい!
水族館に来た。というワードで日本語の穴を探しました。『来た』ということは、人間が海の生き物を観に来たと思わせられると考えたのです。
気を付けたのは視点。
エビとカニは同じ水槽の中に入って、館内の人間を観察しています。その過程で出てきた、カップルや女の人をどう描写するのかに、かなりの神経を割きました。
あとは、私の創作の弱点である『キャラ付け』と『物語性』への挑戦です。
助言がありました。会話で叙述トリックを仕掛ける場合。登場人物は二人が望ましく、そこに何となくの『上下関係』を作るのが良いとも書かれていました。
今回は、ボケ(カニ)とツッコミ(エビ)にしてみましたよ! 上手くできているかな?
読み物として面白くなることが、レベルアップへの前提条件としました。まだまだ探せば『どうしてこの描写にしたの。違和感ありありだよ』という箇所が多々あります。
それでも、だいぶ物語性が出て来たから、【トリッキーレベル】アップです!
最後の『たしかに』=『確かに(たしカニ)』はシャレです。気付いてくれたら嬉しいです!