彼ら
最後に私は気がついたのです。
彼ら はどこにでも存在するものでした
身近なようで、遥か遠くに位置する
それ は古く暗く恐ろしいものでしたが
新しくも闇を照らす、親愛なる でした。
彼ら は人が産まれる前
星が産まれる前から存在しました
人のようで人ではない
獣のようで獣ではない
決まった形を取らず流れ巡るもの
それが、彼ら でした。
私はそれを『彼ら』と呼びますが、彼らに性別はありません。
物心ついた頃にはそばにいて、私と共に成長しました。
私が泣けば彼らも泣く。
笑えば、叫べば、走れば、何をしても。
彼らは私を真似します。
私には私の彼らがいます。
他の人にも、空を飛ぶ鳥だって。
植物とだって彼らは共にいます。
彼らは真似をして記すのです。
生きた世界を、感情を、行動を。
記録するのです。
それが彼らを形づくり、新しい彼らを作るのです
これを書いているのは彼らだと思います。
何故かって?
だって私は、病床で。
何も動かせず
眠っているだろうから。
私はきっと、今から死ぬのでしょう。
すでに死んでいるのかもしれませんが
もっと生きたいとは思いますが
充分過ぎるほどに私は、私の人生は楽しかったです
私と共に生きてきた彼らは消えるのでしょう。
しかし彼らが記した、私の記録は残ります。
最後に、私は気がついたのです。
彼ら はどこにでも存在するものでした
身近なようで、遥か遠くに位置する
それ は古く暗く恐ろしいものでしたが
新しくも闇を照らす、親愛なる物語でした。