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9話 魔法を教わる!

妹が産まれてから一年。

俺は三歳、妹は一歳になった。


「ねえママ、そろそろ魔法を教えてほしいんだけど。」


その日の朝、俺はママに尋ねてみた。

折角エルフに転生したから、魔法が使いたくて仕方がなかったのだ。


「そうねえ、トーリアも新しい肉体に慣れてきたみたいだし、丁度いい時期かしらね。」


「アタシも魔法使えるの?」


「使えると思うわよ。ハイエルフもドラゴンも魔法が得意な種族だし、大丈夫でしょ。」


「ほんとお!?じゃあ早くやろーよ!」


「慌てないの。まずは朝ご飯を食べちゃいましょう。」


朝ご飯なんて言っているが、ほぼ昼ごはんである。


実はこの星の一日は、朝12時間、昼12時間、夜12時間、の36時間周期なのだ。

この星の1時間は前世の1時間と同じだ。

前世の世界を覗いてる時に測ったので間違いない。

ちなみに朝日は大体朝の6時くらいに上り、夜の6時くらいに沈む。


そして今は昼の3時なので、多分この世界でも昼ごはんだ。

まあこの家では、その日の最初のご飯を朝ご飯、次を昼ごはん、最後に夜ご飯、それ以外はおやつなので、そんな事はどうでもいいが。


「今日の朝ごはんはホットドッグにしようかしら。」


「いいね。昨日のスープの残りも温めるね。」


「アタシはママのミルクー!」


「いいわよーこっちへいらっしゃい。」


「わーいママー!」


妹は産まれてから、幼くなったように感じる。

これがあれか、肉体に精神が引っ張られるってやつか。

俺よりも眠ってる時間が長かったからかな?


――自分もかなり幼くなっている事には気づいていないグロリオーサであった。


ん?誰かなんか言ったかな。


「さて、朝ごはんも食べたし、魔法の授業を始めます。」


「わーい」


「待ってました!」


「まずあなた達に言っておくことがあるわ。魔法は大体なんでも出来るけど、まず自分のため、そして次に人のために使いなさい。無闇矢鱈に魔法で他者を傷つけてはダメよ。」


「わかりました!」


「悪い事はしません!」


「ふふ、素直で良いわね。魔法には無限の可能性があるけど、その可能性を、他者を傷つけるために使わないで欲しいの。誰かを助けるために使って欲しいわ。」


「任せてママ!俺は前世で少年漫画を読んで生きてきたからね!」


「アタシも痛いのはイヤだし、カワイイ魔法を使いたい。」


「とは言ったものの、敵を前にしたら容赦は不要よ。自分が傷つく前にぶっ殺しなさい。やられる前にやる。この精神でいなさい。」


「「はーい。」」


「トーリアの学校を見てた感じ、あなた達の世界でも原子ってものは教わってるのよね?」


「化学は俺の得意教科だよ。」


「アタシはこの前習ったところだから薄っすら覚えてるよ。」


「じゃあ原子の構成要素はどう教わった?」


「陽子と中性子が集まって核を作って、その周りを電子が回ってる、だったよね。」


「そんな感じだったと思う。」


見たこと無いから、嘘だとしても分かんないけど。

でも、世界が小さい粒が集まって出来てる、っていうのはそんな気がする。

砂を限界まで細かくしたら、いずれ一つになりそうだし。


「そう、それはこっちの世界でも同じよ。でも一つだけ違うことがあって、こっちの世界では魔法子って要素があるのよ。」


「魔法子?」


「アタシ達の世界にはないの?」


「そうなのよ。だから私が覗いても誰も気づかないんだけど、そのせいで隕石を落としたり雷を落としたりするのは大変だったわ。」


「あ、そう……。」


そんな頑張らなくても、なんかもっと穏便に……、いや、過ぎたことか。


「それで、この魔法子に働きかけるもの全般を『魔法』と呼ぶわ。そして、その働きかける力を『魔力』って呼ぶわね。」


「ふむふむ。」


「そして一応、基礎魔法は火、水、風、土、の四系統があって、最初はこれを教えるわ。でも、魔法の可能性は無限大よ。想像力と魔力の扱い方次第で、いろんな魔法を生み出せるのよ。」


「おお!魔法っぽい!」


「異世界って感じだね、お兄ちゃん!」


「でもその前の前に、まずは自分の中の魔力を制御する訓練よ。これが地味で面白く無いけど、一番重要な事よ。命に関わるわ。」


「い、命に?」


「人を殺すにはどうしたら良いと思う?」


「えっと、首を切るとか……。」


「心臓を刺すとか……かな?」


「違うわね。相手の血液を沸騰させたり、脳内を燃やしたり、心臓に穴を開けるだけで良いわ。」


「……。」


「魔法子というのは全ての物質、分子、原子に含まれるわ。もちろん私たちの体の中にもね。そして、魔法とは魔法子を操る技。つまりね、私はあなた達の中の魔法子を操って、体を粉々に分裂させられるわ。」


「こわ……」


「ね……」


俺とトーリアは、目を合わせて震え上がった。

魔法ってめっちゃ怖いんだね。


「もちろん、口で言うほど簡単じゃ無いわ。でもね、私なら大抵の相手に今言ったことが出来るわ。それを防ぎたかったら、私と同じくらい魔力制御に長けているか、私に近づかないことね。あまり離れてると効果が無いから。」


ママの怒りを感じたら真っ先に離れよう。

遠く離れてからお説教を受けよう。


「ちょっと、なんで離れるのよ二人とも。」


「いや、なんでもないよ?」


「そ、そうだよ。ちょっと後ろ歩きしたかっただけ……。あはは。」


「苦労して産んだ我が子にそんな事しないわよ!失礼しちゃうわね!」


「もちろん、信じてるよママ……。あはは。」


「アタシも!信じてるよママ……。」


確かに、前にドライアド二人に軽く聞いたけど、ママは俺を産むまで何十年も苦労したらしい。

それに、今までの生活で、そんな事する人じゃ無いのは分かってる。

でも怖いものは怖いだろ!

あんな話されてビビらんやつ居ないだろ!


「ごほん!ということで、まずは自分の中の魔力を感じ取って、動かしてみて!」


そ、そうだ、俺の魔力操作がママくらいになれば、何の心配も無くなるんだ。

よし、頑張るぞ!


実はこの三年の生活で、体内の魔力はなんとなく分かるんだよね。

こう、モヤッとした、フワッとした、うまく言えないけど。

これを、動かすんでしょ?こうかな?

こう、腹に力を込める感じで……。


「お、グロウは出来てるわね。トーリアは流石にまだ分かんないかしら。」


「うーん、よく分かんない。」


「じゃあトーリアは、魔力を感じるようになるまで、お兄ちゃんの見学ね。」


「はーい。」


「じゃあグロウ、あなたは今動かしてる魔力を、身体の全分子まで行き渡らせなさい。」


「ぜ、全分子?全細胞じゃなくて?」


「普通のエルフだったらそれで良いけど、あなたはハイエルフなんだから全分子を制御しなさい。そこまでやらないと、私の魔法に打ち勝てないわよ。」


「頑張ります!!」


やっべー、さっきママと同じくらい出来る様になろうって決意したのバレてる。

全分子とか出来るかなあ……。

そりゃママに抵抗できる人なんていないよ。


「まあ、そんなすぐ出来ないから、焦ることはないわ。ハイエルフでも100年くらいはかかるから。でも、毎日ちゃんと訓練する事。いいわね?」


「イエス!マム!」


「イエスマム!」


「良いお返事ね、じゃあ今日は夕方まで魔力制御訓練をしましょうか。」


「イエス!マム!」


「お兄ちゃんがんばー」



――――――――――



「そろそろ日が暮れ始めたし、何か一つ魔法を使いましょうか。」


めっちゃ疲れた……。

ノリでイエスマムとか言ったけど、夕方までって長くね?

昼3時にご飯食べたから、8時間くらい魔力制御してた事になるんだよ。


これがエルフクオリティか。

エルフってのんびり屋なイメージだし、実際にママはのんびりなんだけど、同じことをのんびりずっと続けられるんだな。

前世より1日が長いから、のんびりの感覚も長いんだ。


「じゃあちょっと庭に出るわよ。」


ママの号令で俺たちは庭に出た。

まあ、庭と言っても、結界の外ってだけで、家から見えてるんだけど。

我が家は開放的過ぎる家です。清々しいですね。


「火、水、風、土の中で何か使ってみたい魔法ある?」


「その四つなら、やっぱり火かな?」


「じゃあ右手に魔力を集めて、こう唱えてちょうだい。『起こすは火。我が力のひとつでもって、突き進め。フレイムボール。』」


ママが呪文を詠唱すると、突き出された手のひらから、直径1メートルほどの火の球が生み出されて飛び出した。

それは直進して、的に見立てた大岩に直撃して爆ぜた。


これだよこれ!ちょーかっこいい!


「さ、やってみて。」


「『起こすは火。我が力のひとつでもって、突き進め。フレイムボール。』」


突き出した俺の右手の前に、直径1メートルの火の球が生み出された。

それはすぐに飛び出して、真っ直ぐ大岩に向かい、直撃した。


「うおおおおお!!!かっけええええええ!!!!」


「すごいお兄ちゃん!本当に魔法使ってる!」


「最高だぞ!トーリア!」


「いいないいなあ!アタシも早く使えるようになりたい!」


「これぐらいなら、魔力を感じられなくても使えるわよ。」


「ほんと!?やってみて良い!?」


「いいわよ。あそこの岩に手を向けてね。」


「『起こすは火。我が力のひとつでもって、突き進め。フレイムボール』」


トーリアが詠唱を終えると、トーリアの突き出した両手の前に、直径1メートルほどの火の球が現れて放たれた。

そして真っ直ぐ飛んで、目標の大岩に直撃した。


「すごいすごい!アタシにも出来た!」


「すごいぞトーリア!完璧だ!」


「うんうん。二人ともよく出来ました。」


「凄いね、呪文を唱えるだけで魔法が使えるなんて。」


「本来は魔法を使うのに呪文の詠唱なんて必要ないわよ。でもそれだと感覚が掴めないから、初心者用の詠唱魔法があるの。どのくらいの魔力をどう放出すると、どんな魔法が生まれるのか。それを理解するための魔法ね。」


「なるほど、だからママも俺もトーリアも、同じ大きさの火の球だったんだね。」


「そうよ。『我が力のひとつ』っていうのが魔力量を示していて、今くらいの火の玉になって、『突き進め』って命令で直進するのよ。」


「おお、意外と簡単なんだね。じゃあ起こすは水って言ったら、水の球が生まれるの?」


「少し違うわね。『起こすは火』、『流れるは水』、『吹きつけるは風』、『踏みしめるは土』この四つね。」


「なるほど、じゃあ。『吹きつけるは風。我が力のひとつでもって、突き進め。……えっと、ウィンドボール』」


俺の右手の先に風の弾が生み出され、飛んでいって消えた。

大岩はビクともしていない。

風魔法はあれだな、見えないからよく分かんないな。

螺〇丸みたいなのを期待してたんだけど、すげえ地味だった。


「なんか飛んでった気がするけど、よく分かんないね、お兄ちゃん。」


「うん、俺も思った。風魔法は地味だね。」


「あら、そんな事ないわよ。というか、初級の魔法が派手だったらどうやって練習するのよ。」


「それはそうか。じゃあ高位の風魔法ってどんなの?」


「じゃあちょっと見せてあげましょうか。あの大岩をぶった斬るわよ。」


「おお!そういうのだよ!流石ママ!分かってるぅ!」


ママが大岩の前に立つと、辺りに強風が吹き始めた。

まだ詠唱もしてないのに、ママの中で魔力が渦巻いてるのがわかる。

そして、初めて見る真剣な顔で、朗々と詠唱を始める。


「『吹き荒ぶは風。全てを巻き込む風の刃よ、かの者を一刀のもとに別ちたまえ。風の吹くままに、我が力を与えん。」


詠唱が始まると、ママの頭上で風が激しく渦巻いて、向こうに見えていた雲が、今は歪んで見える。

辺りに吹き付けていた強風がピタリと止み、頭上の大気だけが動いている異様な光景。


「断て、風絶一刀。』」


頭上に渦巻いていた風が勢いよく振り下ろされ、大岩が真っ二つに割れる。

それだけじゃなく、その先に広がっていた森が、大地が、真っ二つに割れている。


「す、すげえ……。」


「ママ凄い……。」


「あ、いけない。加減を間違えちゃったわ。」


そう言ってママはまた魔力を練り上げ始めた。


「こうしてこうで……ホーイ。」


ママの掛け声で、割れていた大地が盛り上がって元通りになった。

よく見ると少し盛り上がってるけど、何も知らなければ何も気付かないだろう。


「まあ、切っちゃった木は薪にでもしようかしらね。熾火で焼いたお肉はまた違う美味しさがあるし。」


そんなことを言いつつ、ママが指先をフリフリ。

すると、真っ二つに割られた巨木がふわふわ飛んできて、一瞬で乾燥されて使いやすい大きさに割られていく。

小さくなった薪がママの腰のポーチに吸い込まれて消えていった。


「なんか、俺達が使った魔法って、初歩も初歩なんだな……。」


俺は同意を求めてトーリアを横目で見た。


「今のママを見てると、魔法って果てしないね。」


良かった。トーリアも同じ気持ちだったらしい。


あんな「ホーイ」なんて間抜けな掛け声で、あんな訳わからん魔法使われたら、詠唱して喜んでたのが馬鹿みたいだよ。


「あら?どうしたの二人ともそんな顔して。」


「いや、ママって凄いなって思って。」


「ね、ママが味方で良かったと思った。」


「私はあなた達の味方よ。ほら、おいで二人とも。」


「「はーい。」」


そうだな。今はママが味方である事を喜ぼう。


「そろそろアレイクスが帰ってくるから、ご飯の準備しましょうか。」


よし、これから毎日しっかり魔力操作を練習して、魔法の勉強頑張るぞ!

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