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8話 妹の出産 そして

妹がこっちの世界に来てから約一ヶ月、そのあいだ彼女の魂が目覚める事はなかった。

俺の時は一週間くらいだったらしいんだけど、個人差があるらしい。

でも、一ヶ月も返事がないと流石に心配になってきて、パパもママもそわそわしてる。


「今日辺り産まれるかな?ママ」


「そろそろだと思うんだけどね。今のところ静かね。」


「どんな子が産まれてくるか楽しみだね。」


「あ、とか言ってたら来たわよ!」


「おお!急だねママ!」


「よし、リーヴィア、リーヴェン。今回も頼むよ。」


ズボッズボッ


「お任せください。」


「女王陛下、こちらに。」


俺も何かしてあげたいんだけど、従者のドライアド二人が素晴らしい手際だし、そもそも一歳児が出来ることなんて何もないんだよな。

いや、もうすぐ2歳になるんだった。

でも出来ることはないんだよな!


「ママ!頑張って!妹も頑張れ!」


何もしてないけどハラハラする。

これが有名な、出産の時の手持ち無沙汰なお父さんか!

うちのパパはきちんと魔法で補助とかしてるのに!


「おぎゃあああああああ!!!!」


「無事に産まれました。」


「産まれました。角と尻尾が生えてますね。人型の竜王陛下に似ています。」


「本当だ。僕に似た白い角と翼、それに尻尾が生えてるね。髪も白色だ。」


「ふぅ……。良かった。無事に産まれてくれて。」


「良かったね、ママ。ありがとうママ。」


「グロウも見守ってくれてありがとうね。心強かったわ。」


「いやあ、俺は何も出来なかったし。そんな事言われても申し訳ないというか。」


「ふふ、そんなことないわよ。ほら、二人でこっちにおいで。」


俺は産まれたばかりの妹をリーヴィアから受け取って、ママの顔に近寄った。


「かわいい子ね。将来はパパに似てかっこよくなりそうね。あなたの名前はトーリアよ。トーリア・マギア・ユグドラジール。どうかしら?」


「あぎゃあああああ!!!(それどころじゃないぃぃぃいい)」


「そういえば、産まれたばかりの身体は敏感で、魂が調整する時間が必要なんだったわね。」


「そうだよ。あの時期は本当しんどかったな……。息をするのもしんどいんだから。」


「じゃあまずはママのおっぱい飲むかしら?」


「ぎゃあああ……ぱくっ……あむあむ」


「あ、ちょっと噛まないでよ?まだ歯がなくても痛いんだから。」


「あら、飲みながら寝ちゃった。ふふふ、グロウとおんなじね。」


「そ、そうだったかな?」


なんか赤子の頃の話されるの恥ずいな。

一昨年の話なんだけどな。


と、そこへ聞きなれない声が響く。


「いやあ素晴らしいね。最高だよキミたち。」


そんな家族団欒に水を刺す声が、俺の真後ろから聞こえてきた。

慌てて振り返ると、そこには、なんというか特徴のない茶髪の男が立っていた。

マジでその辺にいる人間の顔だ。


待て、この家はママ謹製の結界に囲まれてるはず。

そんな所に音もなく侵入出来るなんて、やばいんじゃないかこいつ。


「誰だお前は。」


「ワタシかい?ワタシはキミたちの父だとも。」


「はあ?なに訳のわからない事を言ってやがる。」


「本当だよ。ねえ、アンジャベルくん、アレイクスくん。キミたちからもワタシへの信仰を説いておくれ。」


はあ?こいつママとパパの知り合いなのか?

こんな覇気の無い、記憶に残りにくい男が?


「はあ、貴方はつくづく悪趣味ね。勝手に人の家に入らないでくれる?」


「僕もアンに同意だね。僕たちが貴方を信仰する事はないとも。だからといって雑に扱うつもりもないが、貴方はもう少し自重してもらいたい。」


なんか、ママもパパもちょっとだけ丁寧なんだけど。

もしかして凄い人?


「ママ、パパ、この人誰?」


「そうね、端的に言うと神よ。」


「神!?え!神様なの!?これが?」


くっそ地味なこのお兄さん?おじさん?が?

でも言われてみると年齢不詳な顔だし、どこか違和感があるし、神と言われれば神……か?


「そうとも!ワタシこそがこの星の神!そしてこの星そのものさ!」


「星そのもの?どういう事……ですか?」


「そのままの意味さ。キミたちと同じように、星にも魂があるのさ。そしてワタシの体は星そのもの。だからこの星の物質から作られたキミたちも、当然ワタシの一部なのさ。」


マジか。

それでさっき父だとか言ってたのか。

ええ、これが全人類、いや全生物の父なの?

なんかやだなあ。


「こいつはね、自分から生み出された生物の営みを覗き見る変態なのよ。興味を惹かれると、こうやって節操なく顔を出してくるのよ。本当悪趣味よね。」


いや、覗きに関してはママも人のこと言えないような……。


「だって、今ここで起きてるのは、数万年起きなかった、新たな人類種の誕生だよ?祝福しないわけにはいかないじゃないか!」


「新たな人類種?え、トーリアがそうなんですか?」


「そうともさ!ハイエルフとドラゴンの混血というだけならばキミも該当するけど、この子はその中でもさらに特殊。今ここで名付けるならば、竜人族という新たな種族なんだよ!」


「へえ、そうなの。わざわざ教えてくれてありがとね。じゃあもう帰っていいわよ。」


「つれないなあ。ワタシにも、新たな我が子の誕生をもっと祝わせておくれよ。」


「あまり子供に干渉すると嫌われるわよ。ほら行った行った。」


「しょうがないなあ、照れ屋さんなんだから。普段は二人してあんなに見せつけてくるのに。」


「余計なこと言ってないでさっさと帰りなさい!それに、見せつけてるんじゃなくて貴方が勝手に見てるんでしょう!」


いや、ママ、見せつけてます。

こればっかりはこの変な神様を支持しますよ。


「じゃあ、また会おうね。特にグロリオーサくん。キミは近いうちに面白い事をしてくれそうだ。いつも見守っているからね。」


「あ、やめてください。プライバシーの侵害です。」


めっちゃゾワッとしたわ。

やめてくれって言っても見るんだろうなあの神様。


言いたいこと言ったら、神様は空中に溶けて消えた。

この星そのものって言ってたし、分身みたいなものだったんだろうな。


「はーあ、なんか疲れちゃったわ。」


「そうだね。アンは今日はゆっくり休んでいてくれ。あとで体に良い食事を持っていこう。」


「そうさせてもらうわ。あ、グロウ、あなたもこっちにいらっしゃい。」


「うん、今日は一緒に寝ようかな。」


招かれざる客が現れて、なんか有耶無耶になっちゃったけど、無事に産まれてくれて良かった。

これからよろしくな、トーリア。

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