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50話 いざ宇宙へ!

「56……55……54……」


カウントダウンが進む中、俺たちはテーブルで茶を啜っていた。


「ルスローさん、これ、準備とかないんですか?シートベルト締めたりとか。」


「大丈夫ですよ。ああでも、お茶は片付けた方が良いでしょうか。」


「ですよね。すぐ片付けます。」


俺はテーブルの上のお茶とクッキーを魔法ポーチに仕舞った。

すると、トーリアが好物を取り上げられた子供のような(実際そうなのだが)悲しげな顔で仕舞われていくクッキーを目で追っている。


「あー!アタシのクッキー!」


「またあとで出してあげるから、大人しく座ってろ。」


「はーい。」


子供みたいな事を言っていても、トーリアは前世を含めたら30歳だ。聞き分けは良い。


テーブルの上を片付けていると、「ポーン」という音が室内に響き、アナウンスが流れた。


「シャトルにお乗りの皆様は、全環境適応ベストのボタンをお閉めください。」


「このベストそんな名前だったんだ」


ベストのボタンを全て締まると、魔力回路が繋がって体の表面に結界が生成される。

これでもし何かあって宇宙に投げ出されても、とりあえず死ぬことはない。


「30……魔力循環開始……27……26……」


シャトル中央の巨大な魔石が内側から光り始め、シャトル全体に魔力が行き渡る。


「15……フライトモードオン……12……機体防御結界展開……気流結界展開……」


窓の外に何枚かの結界が張られ、一番外側に上から下へ流れる風の結界が張られた。空気抵抗を減らすためだろうか。


「5……全システム準備完了……重力制御魔法起動……」


5秒のカウントダウンと同時に、一瞬重力がなくなり体が浮かびそうになる。そしてその直後、強い力重で全身が床に引っ張られた。

機体にかかる地球の重力を打ち消したあと、その余力で機内の重力を強化して、シートベルト代わりにしたのかな。


「0……飛行魔法起動、リフトオフ」


アナウンスと同時、俺たちを乗せたシャトルは浮遊を開始した。


「2……3……4……」


エンジンが無いから静かな出発で、上へ上がるエレベーターのような乗り心地。

しかしそれも最初だけで、グングンと速度を増し、エレベーターよりも強い負荷が掛かる。


シャトルにカメラが付いていたみたいで、発射と同時にその映像が壁に映し出されていた。


さっきまでいたスペースポートがあっという間に小さくなっていく。


少しして、「ポーン」と音が響き、アナウンスの声が響く。


「ただいまより、機内の重力魔法を解除いたします。ご注意ください。」


その言葉通り、俺たちの体を押さえつけていた重力がなくなり、機内はテレビで見たような無重力空間になる。


机と椅子は固定されていたようで動かないが、座っていただけの俺とトーリアは、フワフワと空中に浮かび上がった。


「うほー!浮いてるぞトーリア!」


「すごいすごーい!宇宙飛行士になったみたい!」


「みたいじゃなくて、なってるんだよ!本物の宇宙だぞ!」


「そうだった!すごーい!翼で飛ぶのと全然違う!変な感じー!」


俺とトーリアは初の宇宙遊泳に大いにはしゃいだ。


なにせ本当に浮かぶのだ。


そりゃあ地球にいた時から魔法で浮かんでたし、空も飛んでいたけど、本物は全然違う。

なんというか、作り物の浮遊じゃなくて、本物の無重力って感じ?

上手く言えないけど、無理やり地球の重力を躱してる飛行魔法と、そもそもどこからも引っ張られないのでは感覚が違う気がする。気のせいかもしれないけど。


「は!遊んでる場合じゃねえ!窓の外も見ようぜ!」


「見る見る!」


俺たちはテーブルを蹴って室内を飛び、シャトルの窓を覗き込んだ。


「おおー!これはまさしく、"地球は青かった"だな!」


窓から覗く地球は、前世の地球同様に海が広く、青い惑星だった。


「なにそれお兄ちゃん。」


「え、トーリア知らないのか?有名な宇宙飛行士のセリフだぞ。えーと確か、ガガーリンだったかな?」


「あー昔習ったかも?でもさ、こっちの地球は青いけど青々してるっていうか、緑も多いね。」


トーリアの言う通り、この世界の地球は青いが、それに負けないくらい緑が多かった。その理由はもちろん世界樹だ。


地球から離れて見てもデカい、デカ過ぎる。隣の山と同じくらいの大きさだぞ。

いや待て逆だ。世界樹と同じくらいの山ってなんだそれ?


「ねえねえ、世界樹の隣にあるあの山もおっきいよ。同じくらいの高さじゃない?」


「ああ、俺もちょうど同じこと思ってた。」


こういうことはルスローさんに聞くに限る。振り返って質問すると、やはり彼は欲しかった答えをくれる。


「あれはドワーフの住まう神山です。噴火の絶えない活火山で、100年前の噴火で火口が崩れ、現在は世界樹より僅かに低い山となりましたね。」


「おー!ドワーフが住んでるんですか!」


「世界樹より低いの!?あんなおっきいのに!?」


ドワーフが住んでいることも、世界樹より低いことも驚きの情報だ。


「低いといっても僅か数十メートルほどですよ。世界樹もあの山も成長していますし、また百年もすれば入れ替わります。」


なんてスケールのデカい話だ。

こんなにデカいのに、どっちもまだまだ成長中なのか。


「じゃあ、その反対側にあるあの大陸はどんなところなんですか?おっきい湖があるとこです。」


世界樹とドワーフの神山は陸続きだったが、その反対側には海を挟んで別の大陸がある。

大陸同士の飛び出ているところが海峡と呼べるくらいに近くて、恐らく船で渡るのも容易だろう。


それに、大陸の中に宇宙からでも見えるくらい大きな湖が存在しているのが特徴だ。


「あちらの大陸には獣人の国がありまして、全ての獣人はあの湖から陸に上がったと言われています。他にも我が国と親交の深い人間の国もございます。」


「おおー獣人!」


「じゃあ姉貴はあそこらへんから来たんだねー!」


「そうだろうな。じゃあこっちの世界樹がある大陸の、あの海沿いのところが、オーキッド商業国なんですね。」


「正解です。」


その後も俺たちは地球を見下ろしながら、ルスローさんを質問攻めにした。


ルスローさんは、地理の授業はこうすれば良かったのかなんて言っていた。

もしかしたら今後、エルフの地理の授業はシャトル内で行われるようになるかもしれない。


途中からベリルとベールもやってきて、みんなでしばらく地球を眺めていた。


ゆっくりと地球から離れていくのを眺めていると、少しだけ寂しく感じる。

けれどそれと同時に、これから月へ向かうという期待感もある。


「そういえば、月まではどれくらいかかるんですか?」


「丸一日ほどで着くでしょう。先に各人の部屋を決めておきましょうか。」


「部屋なんてありましたっけ?」


「ええ、この下に。」


ルスローさんがおもむろに柱に手を翳すと、小さな魔法陣が光って床に穴が開いた。


「うおー!かっけー!なにそのギミック!」


「お兄ちゃんがまた変なところで興奮してるよ。」


「ふふふ、分かりますぞ殿下。私も初めてこのシャトルに乗った時ははしゃぎましたよ。」


「あぁ、ルスローさんも男の子だった。」


穴の先は縦方向の通路が伸びているが、梯子などはない。

この先は無重力状態で使うことを想定した作りになっているのだろう。


中央の円筒状の通路の周りに6人分の個室があったので、各自の部屋を割り当てた。

その先にも扉があるが、そこはシャトルの機関室らしい。いくつもの魔道具と魔法陣があって、無闇に触れてはいけないと言われた。


この個室や機関室は、シャトルに乗り込んだときは見えていなかった。

シャトルの下半分は床下に埋まっていて、地下でメンテナンスしていたんだそうだ。


「殿下、そろそろ昼食にしませんか?各自の部屋に食糧があるはずです。」


「そうですね、お腹空きましたし。でも1人で食べるのも寂しいから、さっきの部屋に集まって食べましょうか。」


「賛成!じゃあアタシ、お昼に食べる分持ってくるねー!」


それから各自、割り当てられた自室からパック詰めされた食料をいくつか持ち出し、最初の部屋に戻ることにした。


宇宙で食べるご飯、わくわくするね。

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