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49話 異世界の宇宙センター

「さあ、到着だよ。」


ズズゥン……と重厚な音を響かせて、俺たちを背に乗せたパパが着陸した。


ここはスペースポート ユグドラシル。

言ってしまえばユグドラシル宇宙港、そのまんまの名前だ。


その中のここは、ヘリポートのような広くて平らな場所だ。

前世のヘリポートと違うのは、床がフローリングのように木材を敷き詰めて作られている点だ。


パパの背中から降り、ウッドデッキと呼ぶには大きく頑丈過ぎる床に降り立った。


「ここが世界樹の頂上!そしてスペースポートか!」


「おおー!フローリングみたいに見えるのに、ツルツルで石みたいに硬い!ふしぎー!」


下から見上げる世界樹は、その大きな身体に安心すると同時に、空を覆い隠していて恐ろしくもあった。

逆に上から見下ろしたときは、一面の緑が広大な草原のようにも見えて爽快だった。


そして実際に頂上に降り立つと、意外にもただの高いところとしか感じなかった。

太陽が近いからここが高いと理解できる程度で、世界樹が高すぎて何も見えないから、もっと低い山の上の方が感動するかもしれない。


いや、むしろただ高いだけと思えるところが、世界樹がとんでもないことの証明だろうか。

風が吹いても飛び跳ねても少しも揺れないなんて、とても木の上に居るとは思えない。


「やっと床に降りられたですー」


「でもベリル、土じゃないから潜れないよ。」


「世界樹の上なら大丈夫ですよ。僕らの母なんですから。」


「それもそうですね。ベリルより安心できます。」


「む、ベール生意気です。僕より言葉が上手いからって。」


「私は母さまから学んでるし、庭師のホーマンさまからも教わってるんですよ。」


ベリルとベールのドライアド二人は、床に降りて早々口喧嘩を始めた。

口数が増えたのは安心した証かな?


その後、近くの建物から出てきたエルフの女性の案内で移動を開始する。


「じゃあみんな、気をつけてね。グロウ、トーリア、お義父さんとお義母さんに会ったらよろしくね。」


「うん!気をつけるよ。」


「パパも気をつけてねー!」


「ありがとう。月の人たちとも仲良くするんだよ。」


「大丈夫だって。」


「そうそう、パパってば心配しすぎ!」


パパと別れた俺たちは、少し歩いて四角い建物に入った。


前世でもそうだったけど、空港とか宇宙センターってよく分かんない四角い建物がいっぱいあるよね。

きっとそれぞれ意味があるんだろうけど、部外者にはわからないよね。


通されたのは控え室のようで、椅子とテーブルなどが並んでいた。

そこで少しの間待っていると、案内のエルフさんが移動式のハンガーラックを引いて戻ってきた。


「殿下方は、こちらのベストをご着用ください。」


彼女が差し出してきたのは、一見するとなんの変哲もない皮のベストだ。

しかし、少しでも魔法陣の勉強をしていれば、それが尋常でないものだとわかる。


このベストはまず生地の皮そのものに超複雑な魔法陣が刻まれ、それを縫い合わせる糸で回路を組み、装飾の刺繍でそれを増幅させている。


「こ、これ、とんでもないじゃないですか!なんですかこのベスト!」


「お兄ちゃん、これ何が凄いの?確かにオシャレで綺麗だけど。」


「トーリアは魔法陣はあんまり教わってなかったか。これは凄いぞ。そうだな、城のゴーレムの数倍凄いって感じかな?」


トーリアは前衛で動きながら扱える魔法を中心に教わっていたから、魔法陣にはあまり詳しくない。それだけじゃなく近接戦闘の訓練もしていたしな。


「流石は殿下です。陛下は本当に、魔法のことは丁寧に教えておられたのですなあ。」


ルスローさんがどこか遠くを見つめながら、ボソリと呟いた。


そ、そうなんですよ。本当に魔法に関しては叩き込まれましたよ。


「このベストは一言で言うなら、これを来ていれば宇宙空間で活動できる魔道具です。呼吸も出来ますし、紫外線や宇宙線から着用者を守ります。」


「つまり、宇宙服って事ですね。」


このベストは着用者の魔力を吸って体の表面に張り付くような結界を生成する。

それは結界内の空気を外に漏らさず、結界外から有害な宇宙線などが侵入するのを防ぐ役割がある。

また、結界自体に相当な強度があり、もし結界が壊れたとしても自動ですぐに再生成される。


さらには呼吸で生み出された二酸化炭素を分解して、酸素を生成する機能もあるため、大気圏外では必須の装備と言えるだろう。

他にも細かな機能が盛り沢山だ。


「ドライアドのお二人にはこちらを、ルスロー閣下にはこちらを。」


次にベリルとベールにもベストが配られたが、刺繍や魔法陣の形が俺たちのと違う。


「二人のは俺たちのと違うんですか?」


「お二人はドライアド用のベストですので、酸素を生成するのではなく、二酸化炭素を生成する機構になっております。」


「え、ドライアドって二酸化炭素を吸ってたの?」


俺は驚いてベリルの方を向いて聞いてみたが、彼はキョトンとした顔だ。


「さあ?そうなんです?」


「いや、なんでベリルが知らないのさ。」


「だって、僕が吸ってるのは空気です。にさんかたんそ?っていうのは吸ってないです。」


「ああ、まあ習ってなきゃそうだよな。」


ドライアドが人間と同じ知識を学ぶ必要はないし、知らなくても無理はない。


ドライアドが二酸化炭素を吸収して酸素を吐き出しているのだとしたら、かなり植物に近い生態なのだろう。


「ルスローさんのベストも結構違いますよね?どう違うんですか?


「私のは一般的なエルフ用です。」


「え、じゃあ俺のはなんなんですか?」


「殿下のベストはハイエルフ専用のものです。無尽蔵に酸素を生成し、結界の強度も高く、非常に高性能なのですが、魔力の消費量が多過ぎるのです。ハイエルフ以外が着たら、すぐに魔力切れになってしまいます。」


「へーじゃあ他の人は制限があるんですか。」


「そうなります。エルフ用、ドライアド用はともに丸一日の着用が限度になります。他の種族ですと、人間用のものは酸素を生成する機能がなく、小型の酸素ボンベを腰に装着します。結界も最低限だけですね。」


「おおう……意外と夢がない。」


魔法のある世界とはいえ、なんでもは出来ないんだなあ。特に人間は世知辛い。

俺はハイエルフだから、魔力に関してはなんでも出来るに近いけど。


その後、ベストを着て、シャトルの発射場へと案内された。


ちなみに、このベストは前のボタンを留めることで魔力回路が繋がり、結界が生成される。

だから袖を通すだけなら魔力は消費されないのだ。


「本日、皆様に乗車いただくシャトルはこちらになります。」


案内された先にあったのは、俺が思っていたものとは違って、かなり小さなものだった。


それは、西洋風の白いガゼボのような見た目をしていた。


ガゼボというのは、西洋風ファンタジーでお貴族様が庭園でお茶するときの場所。日本では東屋と呼ばれる、屋根と柱だけの建造物だ。


目の前にあるこれは、ガゼボとは違って屋根は高く壁もあるが、装飾が沢山ついているのでやはり印象はガゼボだ。

中心に超巨大な黒紫色の魔石が据えられ、それを囲むように六本の柱が聳えている。


「こんな小さくて地球から出られるんですか?というか、どうやって飛ぶんだこれ?」


前世のロケットはその大部分が燃料タンクで、その下にロケットエンジン、上の方に少しだけ人や物を乗せていたはずだ。


目の前にあるこれは、どうみても推進装置がないし、燃料タンクもない。いや、燃料タンクは中央の馬鹿でかい魔石か。


「推進方式は重力魔法で、床下に約100層の魔法陣が組み込まれております。燃料は中央の人工魔石で、世界樹から魔力を分けてもらっています。」


「あー重力魔法。」


それがあったか。

俺の持ちネタの銃魔法だって、重力魔法で弾丸に推進力を与えているのに、なぜ忘れていたんだ。


なまじ前世の記憶があるせいで、ロケットとは大きい物というイメージがあった。


「おー!でっかい石ー!」


俺がシャトルのつくりを詳しく聞いている間に、トーリアは中央の魔石をペタペタ触っていた。


「見て見てベール、おっきなプランターがあるです!土があるです!」


「ベリル、はしゃぎ過ぎですよ。母さまみたいにもっと落ち着いて……」


「そんなこと言って、ベールもウズウズしてるのがバレバレです。もっと素直になるです。」


「うぅ、折角頑張ってたのに……わ、私だって早く土に入りたいです!」


「ふふーんそれで良いんです。さ、早く行くですよ!」


ベリルとベールは仲良く手を繋いで乗り込んで行った。

さっきは口喧嘩していたけど、基本的には仲良し姉妹だからな。


今気づいたけど、シャトルの中には椅子が人数分とテーブル、そして深めのプランターが備えられていた。

ベリルとベールの二人は早速プランターに埋まっている。


「それでは、皆様はシャトルの中でお寛ぎ下さい。準備が整い次第アナウンスいたします。」


その言葉に従い、俺は魔法ポーチからお茶とお菓子を取り出して、椅子に座って寛いだ。すぐにトーリアがやって来て、俺が出した菓子をボリボリ食べ始める。


そうしている間に準備が整ったようで、カウントダウンのアナウンスが始まった。


「1分……59……58……57……」


いよいよ宇宙へ旅立つという実感が湧いてきた。

今回はどんな旅になるのか楽しみだな。

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