47話 月に行ってもらうわ!
一週間ぶりですね。(エルフ感覚)
月のデータがダウンロード出来ましたので更新します。
でも月に到着するのはもう少し先です。エルフになったつもりでのんびりとお楽しみください。
「あなた達には、月に行ってもらうわ!」
「「月ぃ!?」」
おつかいを頼まれたと思ったら、行き先は月だと言われた。
前世では海外どころか、本州からも出たことがないのに。
でも最初の海外旅行が月っていうのも悪くない。
「そう、月よ!じゃ、頼んだわね!」
「いやいや!頼んだわねじゃないよ!」
「ふふふ、冗談よ。ちゃんと説明するわ。」
「いやいや……」
冗談って言ってもママだからなあ、説明もなしにいきなり宇宙船に放り込むくらいはやりそうだけど。
「あなた達にはね、私のパパとママを呼んできて欲しいのよ。」
「ママのパパママっていうと、俺たちのおじいちゃんとおばあちゃん?」
「そ!あの二人、私の生誕祭には帰ってくるって言ってたのに、一ヶ月経ってもまだ向こうにいるのよ。もうお祭り終わっちゃうじゃない!年寄りは時間感覚ズレててダメね。」
「ちなみに何歳?」
「確か、3500歳くらいじゃなかったかしら。」
「あ、思ってたより若い……いや若いか?」
「まあそういうわけで、よろしくね。」
「呼ぶだけなら、別に俺たちじゃなくていいんじゃないの?」
「そうだけど、折角だからしばらく月に滞在して、顔見せて来て欲しいんだって。」
「なるほど、それで公務って言ったんだね。」
「そういうこと。ついでに社会勉強もしてきなさい。月も面白いと思うから。」
「「はーい!」」
ママとの話が落ち着くと、離れて待っていてくれた姉貴たちが、こちらにやってきた。
「私は獣人の冒険者、パン太郎と申します。アンジャベル女王陛下、お初にお目にかかります。グロリオーサ殿下には大変よくしていただいて……」
「ああ、そんなかしこまらなくて良いわよ。グロウの友達になってくれてありがとね。」
「そうそう、ママに敬語とか使わなくて良いよ、姉貴。」
「いや、そんなわけにはいかないだろう。」
「だーいじょうぶよ!人間じゃあるまいし、言葉遣いなんて細かいこと気にしないわよ!」
「我ら獣人も気にする方なのですが……」
いつも凛とした姉貴が、ママの前ではたじたじだ。
そりゃあ、国の王様がこんなフランクに話しかけてきたら困るよな。
「ならルカは気にしないぞ!」
「あら、ルカちゃんは素直でかわいいわね!」
「シャシャシャー!ルカは素直で良い子だぞー!」
ママはルカを気に入ったらしく、後ろから抱いて頭を撫でくりまわして可愛がっている。
「パン太ちゃんもママに甘えて良いのよ?」
「いや、その、流石にエルフの王をママと呼ぶのは……」
「もー頭が硬いわねえ。」
まあ、他国の、それも多種族の王をママと呼ぶのは俺も無理だと思う。なんかごめんな、姉貴。
「というか、ルカはそもそも敬語とか話せるのか?」
「シャシャー!よく分かったなグロウ!無理だぞ!」
「ルカに敬語は似合わないしな。」
「そもそも海の中に敬語なんてないんだぞ。王様なんて奴も居ないしな。」
「え、魚人の王様とか居ないの?」
「さあ?どっかには居るかもしれないけど、ルカは知らないぞ。」
「そんなもんなの?」
「海は広いからな!」
前世でも地表の7割が海だと言われていた。
大地の2.5倍もの広さがあるのだから、たとえ王様が居たとしても知らない事もあるか。
地上の王様だって何十人も居るんだから。
「そっちの舞花ちゃんはどう?鬼の住んでる島って魔族の大陸の隣でしょ?ママに会えなくて寂しくない?」
「いや、私は……」
「ほらほら、この国に居る間は私のことをママだと思って良いから!」
ルカに抱きついていたママはルカを離し、今度は舞花に抱きついた。
舞花は照れてはいるが、嫌がってはいないみたいだ。
ママはしばらく舞花を可愛がっていたが、次第に興味が移り、今度はリアンの元へやってきた。
ちなみに、リアンはベールと一緒に畑に埋まって寝ていた。首から上だけが地面から出ている格好だ。
「あなた睡拳の使い手なんですって?」
「スゥ……スゥ……」
リアンは眠っている。
「殴りかかったら起きるかしら。」
ママがリアンの頬をペチペチ叩いているが、起きる気配はない。
「リアンは悪意のない攻撃、脅威でない攻撃では起きませんよ。」
「あらそうなの?詳しいわねパン太ちゃん。」
「一応、このパーティのリーダーですので。」
「じゃあ、睡拳の道場の場所とか聞いてない?」
「それは本人も分からないらしいのです。」
「うーん、みんなそう言うわねえ。」
「うちの国にあるのにママも知らないの?」
まあ、ママは魔法以外はあんまり知らないからそのせいかもしれないが。
「そうなのよ。うちの国の中にあるのに、もう何万年も発見されてないのよ。」
「眠りながら彷徨うと辿り着けるんだっけ?門下生も覚えてないわけか。」
「らしいわね。アルフヘイムの七不思議とも言われるわ。」
ママはみんなに一通り絡み終えると、「さて」と言って立ち上がった。
「折角子供たちで遊んでたのに邪魔しちゃったわね。うちの子が友達連れてくるなんて初めてだから、私も舞い上がっちゃったわ。」
「いや、森の中のポツンと一軒家だったんだから、そりゃ友達なんて連れて来ないよ。」
衛生写真で見たとしても、屋根もなく、結界が張られているだけだから、誰も家だとは思わないだろうけど。
「いえ、こうして女王陛下と知己を得られたことを光栄に思います。」
「パン太ちゃんは本当硬いわねえ。」
姉貴はしっかりしてるなあ。というか姉貴だけだな、しっかりしてるの。
「じゃ、月へ行くのは明日だから、よろしくね二人とも。」
「はーい。」
そこへ、ベリルと泥遊びしていたトーリアが、良いことを思いついたという顔で戻ってきた。
「ねえねえ、ルカちゃんたちもアタシたちと一緒に月に遊び行こうよ!」
「なに!良いのか!?」
「良いよねママ!」
「別に4人くらい増えても問題ないわよ。」
しかし、姉貴に冷静に却下されてしまった。
「ルカ、私たちはギルマスに仕事を頼まれているから、二人と一緒に行くことは出来ないぞ。」
「ええー!なんでだ姉貴ー!」
「そもそも、月には冒険者ギルドもないし、私たちはやることがないだろう。」
「旅行すれば良いじゃないか!」
「それも良いが、そもそもだな、月は地球ほど水がないから、魔法で水を作り出すのも苦労するぞ。泳ぐのは我慢しないといけないかもな。」
「むむ、泳げないのはツラいな……」
「というわけだ。すまないな、グロウ、トーリア。」
6人で月まで旅行出来るかと思ったが、彼女たちにも予定があるらしい。
姉貴がすまなそうな顔で謝ってきた。猫耳もしょげている。
「いいよいいよ。地球に戻ってきたらまた遊ぼう。」
「そっかあ、折角仲良くなったのにお別れだね……」
トーリアが目に見えてしょんぼりしてしまった。
この世界に来てからはじめての友達だから、寂しいんだろうな。
「トーリア、そんな顔するな。きっとまたすぐ会えるぞ!」
「そうかな。うん、そうだね!」
トーリアはルカに励まされ、二人の顔に笑顔が戻った。
さっきまでバツの悪そうな顔をしていた姉貴も、今はほっとしている。
「こう見えて、私たちは冒険者の中では忙しい方なんだ。依頼者から指名される事もある。」
「そうだぞ。ルカたちはこう見えて忙しいんだ!」
「そうなんだ。この前も安定感あったもんね!」
トーリアが言う通り、この前のクエストもこのパーティと一緒に居ると安心感があった。
姉貴は森の事や冒険者の常識なんかを丁寧に教えてくれたし、ルカ、舞花、リアンの三人もいろいろ気を回してくれた。いや、リアンは寝てたか。
でもよく考えたら、王子と王女の初クエストの引率なんて、優秀なパーティじゃないと依頼されないか。
そんな優秀なパーティが暇しているはずもない。
俺が内心で納得していると、視界の端で、ママがふわふわと欠伸を溢し始めた。
「ふわ……そろそろ眠くなってきたから、私は先に王宮に戻ってるわね。みんなも暗くなる前に帰りなさいよー」
「「はーい!」」
その後しばらく、俺たちは別れを惜しむように喋り続けた。
別に、今生の別れというわけじゃないんだけど、星を離れるからか、少しでも思い出を増やそうとしていたように思う。
暗くなった後はみんなを王宮に招待した。世界一豪華なパジャマパーティーだ。
晩御飯を食べて、風呂に入って。
そして、俺たちは大部屋に布団とクッションを敷き詰め、夜が更けるまで遊び倒したのだった。




