45話 実食!アナゴンダ!
「ただいまー!」
クエスト目標のアナゴンダを倒した俺たちは、その後は魔物に遭遇することもなく、王都に帰ってきた。
ルカのエコロケーションによる索敵は優秀だし、姉貴も耳や鼻が良いから、遭遇する前に回避できた。
王都に着いたらそのまま冒険者ギルドに直行して、姉貴に教えてもらいながら報告をする。
「お帰りなさいませ、グロリオーサ様。ご無事で何よりです。」
カウンターに向かうと、奥から前回のプロっぽい受付嬢さんが出てきて対応してくれた。
姉貴たちとのやりとりですっかり忘れていたが、俺、王子だったな。
「パン太さん、森の様子はどうでしたか?」
「特に変わりは無かったな。人間にも出会わなかった。」
魔物討伐の結果報告だけでなく、森に異変はないか、他にも魔物との遭遇場所なども報告するらしい。
どうやら冒険者は魔物の分布を調べる役割も担っているようだ。
今回は姉貴がきちんと把握してくれていたが、次回からは地図を見ながら歩かないといけないな。
「では、別室で素材を提供して頂きますので、ご案内致します。」
受付嬢さんに案内された先は、異様に広い部屋だった。
それこそ、裏の訓練場くらいの広さがある。
「こんな広い部屋あったんですね。」
「この部屋は魔法で空間を拡張してあります。魔法を解いてしまえば小さな部屋ですよ。」
「あ、そうなんですね。」
言われてよく観察すると、確かにかなりの魔力が満ちている。
王都のど真ん中に建てると土地が限られる代わりに、こういった技術は盛り込みやすいんだろうな。
「じゃあ出しますね。」
俺は魔法ポーチからアナゴンダの死体を全て取り出した。輪切りにされた巨大な蛇の胴体が部屋の端から端まで並んでいる。
受付嬢さんが一つずつ確認して、紙に記入していく。
「魔石は残っていますか?」
「粉々になっちゃいましたね。あった方が良かったですか?」
「無いよりはあった方が査定額は増えます。しかし今回は肉の納品の依頼なので、大丈夫ですよ。」
「なるほど。」
そういう事なら、次からは魔石が残るように気をつけて倒さないといけないな。
「だがグロウ、魔物は魔石を砕いて倒すのがセオリーだ。魔石を納品する依頼でも無い限り、破壊してしまって構わん。」
「そうなんですか?」
「パン太さんの言う通りです。無理に魔石を残そうとして、倒せるはずの魔物に返り討ちにされる冒険者は少なくありません。なので、ギルドとしても魔石の破壊を推奨しています。」
「なるほど。いのちだいじにですね!」
話しているうちに、死体の検分が終わったようだ。
「確認が終わりました。これにてクエスト達成です。おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
「それと、依頼主の料理店の店主が、皆様を招待したいと申しておりました。いかがなさいますか?」
「へえ。美味しいお店ですか?」
「はい。王都では人気の天麩羅料理店でございます。」
「おお天麩羅!そういう事ならお言葉に甘えようかな?このアナゴンダの天麩羅を食べさせてくれるって事ですよね?」
「はい。そう申しておりました。」
「じゃあこの後みんなとそのお店で打ち上げしようかな。姉貴もそれでいい?」
「ああ、ご厚意に甘えるとしよう。」
その後、カウンターへ戻り冒険者カードに情報を上書きして、待っていた四人と合流した。
「おかえりお兄ちゃん!どうだった?」
「無事達成したぞ。」
「おー!やったね!」
「それでな、依頼主の天麩羅料理のお店が俺たちを招待してくれるらしいんだ。」
「えっ本当!?行こ行こ!」
「そう言うと思って、店の場所を教えてもらってある。」
「さっすがお兄ちゃん!」
俺たち6人は、早速教えてもらったお店へと向かう。
目的の天麩羅屋さんは大通りから少し脇道に逸れたところにあった。
こじんまりとした店構えは、隠れ家風というやつだろうか。
「なんかちょっと高そうだな。ルカそんなにお金持ってないぞ……」
「向こうが招待してくれたんだし、大丈夫だろ。もし高くても、俺王子様だし。」
「そ、そうだったな。グロウはお金持ちだった。」
そうそう。こう見えて俺は王子様でお金持ちなのだ。
それにママの影響で人気もあるし、高いご飯食べるくらいで怒られたりしないだろう。
ビビってるルカを横目に、俺は何も気にせず扉を開けた。
「ようこそお越しくださいました。グロリオーサ王子、トーリア王女。」
中に入ると、カウンター越しに店主の男性エルフが丁寧な挨拶をしてくれる。
店内はL字のカウンター席になっていて、揚げているところを間近で見られるようになっている。
俺がL字の長い方の左端に座り、右にトーリア、ルカ、姉貴、舞花、リアンと並ぶ。
「アナゴンダの納品ありがとうございました。まさかお二人がクエストを受けてくださるとは。」
「あはは、まだ食べたことない魔物だったので気になったんです。今日はアナゴンダの天麩羅、食べれるんですよね!」
「もちろんご用意しております。先程ギルドから届きましたので、今裏で捌いているところです。」
「おおー!楽しみです!」
店員のエルフが細いグラスを持ってきてくれた。
「こちら食前酒のシャンパンでございます。」
「へーシャンパンって飲んだことないや。」
「アタシも飲んだことなーい!いただき……」
「待てトーリア。お前は飲むな。」
「えーなんでお兄ちゃん!」
「この前、酒入りのチョコで酔った時、大変だっただろう。」
「これくらいなら大丈夫だよ!」
「あっおい!」
俺の静止を無視して、トーリアがシャンパンを口にしてしまった。
「シュワシュワして美味しい!ちょっと甘いね!」
「あ、本当に大丈夫そうだな。」
前回はドラゴン用のアルコールが強い奴だったか。食前酒くらいなら大丈夫みたいだ。
「初めに、こちらお通しでございます。」
最初に出てきたのは3つの小鉢。
山菜の和え物と、なんかよく分からん丸いものと、なんかよく分からん四角いものだ。
あるある、材料も調理法もわからん得体の知れないやつな。
「おお、美味いなこれ。」
「よく分かんないけど美味しー!」
続いて茶碗蒸し、鴨のローストなどが続き、ついにアナゴンダの切り身が登場した。
「うおー!めっちゃ綺麗な肉!」
「美味しそう!」
薄いピンク色の肉は脂が乗っていて、てらてらといやらしく光っている。このまま食べても美味そうだ。
「これはアナゴンダの腹の部分で、トロと呼ばれる部位です。」
耳では店主の丁寧な解説を聞きながら、目はそのお肉だけを追いかけている。
白い天ぷら衣に潜らせ、油の中に優しく沈んでいく。
「新鮮な状態ですので、高温でカラッと揚げて、中はレアに仕上げます。」
そして油に落とされてから数分。
美しい狐色になった天麩羅を掬い上げると、油を切りつつ肉を休ませて、余熱で程よく火を通す。
「どうぞ。アナゴンダの大トロ天麩羅でございます。」
「おぉ……」
黄金に輝く天麩羅は、見た目にも美しく、食べる前からその味を期待させてくれる。
サクッと小気味いい音を響かせると、中からジュワッと肉汁が溢れ出してくる。
香ばしい香りと肉の脂の旨味がこれでもかと口の中に広がり、深いコクを感じさせる。
肉自体もフカフカで柔らかく、あっという間に無くなってしまった。
「うまぁ……」
「すっごい美味しかった!」
俺とトーリアは大満足。姉貴たちも、それぞれ舌鼓を打って満足げだ。
その後も他の部位の肉や、山菜の天麩羅などを食べつつ盛り上がっていたところ、舞花が突然に立ち上がった。
その顔はほんのりと赤く、食前酒から相当飲んでいたことが窺えた。
彼女はニコニコ笑顔でフラフラとこちらに歩いてきて、俺とトーリアの間に立つと、肩を組んで顔を寄せてきた。
「グロウ、トーリア、こんな美味しいご飯を食べられたのは二人のお陰だ。ありがとう〜」
「いやいや、そんな事ないよ。こちらこそありがとうな。」
舞花は酔うと饒舌になるって聞いていたけど、まるで別人みたいに朗らかだな。なるほど確かに可愛らしい。
「グロウはいいやつだなあ〜」
「いやあそれほどで、も……?」
あれ?舞花さん、俺の肩に回した腕が閉まってきてるんですけど。
「うぐっ苦しい……舞花、まいかぁ……」
「グロウの魔法も凄かったぞ。野営のときも結界のお陰で快適だったな〜」
「き、きいてくれ、キブ、ギブ……」
酒に酔っている舞花には、俺の声は届かないらしい。
「姉貴、たすけて……」
「はははー!そうなった舞花を振り解くのは私でも大変だ!まあ頑張れ!」
姉貴もかなり飲んでるな。援護は期待できそうにない。
「ルカぁ……」
「ルカにも無理なのだ。頑張ってくれグロウ。」
くそう誰も助けてくれない。
いや待て、反対側の腕にトーリアが捕まっているじゃないか。
気づいた俺はトーリアの顔を見るが、彼女もまた赤い顔でニコニコ笑っている。
「よく喋る舞花ちゃんも可愛いねー!チューしよチュー!」
「いいよ〜チュー!」
「おいトーリア、お前いつの間にそんな飲んだんだ!」
今気づいたが、トーリアの前には一升瓶が置かれていた。
中身はほとんど残っていない。
「あ、トーリア!舞花とチューするなら、その……ルカともするぞ!」
「いいよー!ルカちゃんもチュー!」
「トーリア〜私ともハグしよ〜」
「はーい!舞花ちゃんとハグー!」
「舞花!俺も巻き込まれてるって!いてててて!」
舞花は鬼のパワーで俺とトーリアをまとめて強く抱きしめて、トーリアはルカとキスをして、訳の分からんことになっている。
「姉貴!見てないでなんとかして!」
「はは、グロウも飲めば良いじゃないか……ふぁあ……」
「おいちょっと寝ないで姉貴!じゃあリアン!」
「グゥ……」
「姉貴が寝るならそりゃリアンも寝てるよな!ちょ、店主!」
「ふふふ、冒険者さんは賑やかでなくちゃね。」
「楽しんでないで助けてくださいよー!」
せっかくの高級店なのに、酔っぱらいに絡まれ、まとめ役の姉貴もお酒を飲んで寝てしまった。
その後、俺も負けじと酒を呷って、店主や従業員もお酒を飲み始めて、夜遅くまで続く宴会となったのだった。




