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42話 姉貴!

「お二人は森での狩猟に慣れていると伺っていますが、どの程度の魔物まで見たことがありますか?」


「そうですねえ……一番強かったのは多分プリティベアですかね。」


「あの熊と戦ったのですか!?」


「最初はママに助けてもらいましたけど、ちょっと前に二人だけで倒せました。まあ、正面からはまだ戦えませんけど。」


俺たち6人はギルドで受けたクエストを達成するため、世界樹周辺の森を歩いている。


前から黒豹の獣人のパン太さんと俺、トーリアとシャチ魚人のルカ、最後尾にエルフのリアンと鬼の舞花だ。


「あの熊はめっちゃ強いけど、お尻が弱点だから、遠くから不意をついて倒せただけですよ。」


実際この前倒した時も、トーリアが引きつけてくれている間に、俺が魔法で自分の気配を絶って遠距離からケツに一撃ぶち込んだだけだ。


「それはそうですが、トーリア王女お一人であの熊の相手をなさったんですか?」


「そうだよ!あの熊は最初舐めプするタイプだから、怒らせなければなんとかなるんだ!」


「ほう、それはギルドの魔物図鑑にも載っていない情報ですね。今度ぜひ資料を書き加えていただきたい。」


「まかせて!」


そんな風に賑やかに森の中を進んでいると、シャチの魚人のルカが、ふいに列を離れて何かを拾い始めた。


「何してるの?ルカちゃん。」


「見ろトーリア。猫じゃらしだ!」


「おっきい猫じゃらしだね。」


ルカが持っているのは人の掌くらいのフサフサが付いた猫じゃらしだ。確かに大きい。


「これをだな……姉貴ー!じゃらしだぞー!」


ルカはパン太さんの顔の前で、猫じゃらしを左右にフリフリする。


「ルカ、余計なことをするな。今はクエスト中だぞ。」


「シャシャシャ!目が動いてるぞー姉貴ー!」


「動いてない。私は真っ直ぐお前を見ている。」


パン太さんは口ではそう言っているが、その目は真っ直ぐ猫じゃらしを見ている。


「ほらほらーそろそろ手が出る頃じゃないかー?」


「やめろ。手が出るわけないだろう。」


「ほーれほーれ」


ルカはさらに目の前でふりふり、横に回ってふーりふり、後ろに回ってふーりふーり。


パン太さんはその度に体を回転させて追いかけて、そろそろ手が胸辺りまで上がってきた。

黒い猫尻尾もゆらりと不穏な動きを見せている。


「おい、今はクエスト中だ。」


頑張って上がった腕を戻そうとピクピクしている。


「おいやめろ……やめろって……やめろ!」


「シャシャシャー!www」


ついに痺れを切らしたパン太さんが、手を伸ばしてルカの持っていた猫じゃらしを奪い取る。


「くそぉ……いつもいつも俺で遊びやがってえ……」


「シャーシャシャシャ!こんな風に、姉貴は猫ちゃんだからじゃらしに釣られるんだ!」


「俺は猫じゃねえ!」


「姉貴、一人称が俺になってるぞー?」


「……私だ。私は猫じゃない。というか、誰のせいだと思ってる!」


「シャシャー!ルカは悪くないぞー!www」


なるほど、猫系獣人は猫じゃらしに釣られるのか。


「おい王子!今舐めたこと考えてただろ!」


「いや、考えてないですよ。」


「うそつけ!俺もやってみたいと顔に書いてあるぞ!」


「あ、それは書いてあります。」


「あ、アタシもやってみたーい!」


「王女もか!ルカめ、今は王族の前だから礼儀正しくしようとしていたのに、余計なことをしやがって……!」


「シャー!慣れない事するからだぞ!猫なのに猫被るからだ!」


「俺は猫じゃねえって言ってんだろ!」


めっちゃ丁寧で良い人だと思ってたのに、猫被ってたのか。

でも俺は今のパン太さんの方が自然体で好きだな。荒っぽい喋り方も冒険者っぽいし。


「俺のことは王族扱いしないで、グロウって呼び捨てにしてくれて良いですよ。俺も姉貴って呼びますから。」


「あ、アタシも王女じゃなくてトーリアって呼んで、姉貴!」


「そうか、じゃあグロウ、トーリア。ルカと一緒に木の上に吊るしてやる。」


「え、それはルカだけにして欲しいかな。」


「シャ!?グロウ裏切ったな!」


「そもそも組んでないでしょ。」


「アタシもお兄ちゃんもまだ何もしてないもん。」


「トーリア!お前はルカの味方じゃないのか!?」


その後逃げ回っていた俺とルカだったが、陸の上でシャチが豹に勝てるわけもなく、また、基本インドアなハイエルフが豹に勝てるはずもなく、呆気なく捕まってしまった。


トーリアはもちろん飛んで逃げた。

空を飛べるドラゴンに豹が勝てる理由はないのだ。


俺は顔に「俺もやってみたい」と書いてあっただけなのに、とんだとばっちりだ。


パン太は豹のように身軽な動きで、簀巻きにした俺たちを木の上に運び上げた。


「くだらん事やってたら日が暮れたな。今日はここで野営にしよう。」


「シャー……姉貴、悪かったから降ろしてくれー」


「俺はまだ何もしてないから降ろしてくれ姉貴ー」


「飯が出来るまでそこで反省していろ。」


「「はーい……」」


姉貴の怒りが収まるまで大人しくしておこう。


「よし、舞花、テントを設営してくれ。リアン、夕食は任せた。」


「ああ。」


鬼の舞花が背負っていた背嚢から丸められたテントを取り出して広げていく。


「ほい、姉貴。」


エルフのリアンが魔法ポーチから食材や鍋、テーブルなどを取り出して、並べていく。


「あれ、テントを建てるんだ。」


「まさかグロウは雨晒しの中寝るつもりだったのか?この世界樹の傘の下ならそれでも良いが、他の場所ではテントは必須だぞ。」


「ああいや、そうじゃなくて。結界を張ったらいいじゃないですか。」


「夜通し結界を維持し続けるなんて不可能だろう。」


「え?出来ますけど。」


「本当か?……ああ、グロウはハイエルフだったな。確かにハイエルフの魔力量なら可能かもしれんが、私たちには無理だからテントを張るんだ。明日の行動に魔力が足りなくなってはいけないからな。」


「なるほど。じゃあ今日は俺が張りましょうか?」


「そうだな、試しにやってもらおう。」


「その前に縄を解いて貰えると……」


「仕方ないな。……ルカはもう少しそこに居ろよ。」


「シャ!?」


解放されて地面に降り立った俺は、魔法で砲弾を創り出し、その表面に魔法陣を刻んでいく。


「それ、カルネシアさんに撃った弾だよな?爆発したりしないだろうな。」


「大丈夫ですよ。今は杖を使ってないし、刻む魔法陣も全然違います。」


「ならいいが、他にないのか?」


「作り慣れてるから、こっちの方が楽なんですよね。」


完成した砲弾型結界維持装置を地面に置いて、魔力を流した。


すると、半球状の結界が生成され、雨風を凌ぐドームが出来上がった。

森に暮らしていた頃の家と同じ性能で、空気は通すが雨も虫も通さず、温度調節も出来る優れものだ。


「どうですか?実家の結界です。」


「ちょっと前までこの結界の中で暮らしてたのに、なんだか懐かしく感じるよ。」


「俺とトーリアにとっては、王宮よりこっちの方が実家だもんな。」


トーリアの反応は上々、他のメンバーにも好評みたいだ。


「おお、これはかなり複雑な結界じゃないか?」


「お、姉貴、よく分かりましたね。虫除け魔物避け、温度調節なんでもござれなスーパー結界です。」


「これを夜通し張っていられるのか?」


「そうですよ。魔法陣をきっちり刻んだんで、魔力が切れない限り揺らぐこともないです!」


「おお、流石だな。念のため聞くが、明日の行動に支障はないな?」


「もちろんっす!姉貴!」


俺は親指を立ててグーサインを作る。


いやあ、本当に姉貴が出来たみたいで楽しくなってきた。


「はは、グロウが王子だと言うことを忘れそうだ。獣人の王族はもっと王者の振る舞いをするぞ?」


「そうなんですか?まあ、エルフはその辺曖昧みたいですよ。俺のママより年上の人がいっぱい居ますからね。」


「獣人からしたら、1000年も生きるなんて、想像もできないよ。」


「獣人の寿命ってどのくらいなんですか?」


「宿している動物にもよるが、私たち豹は最長で200歳くらいだな。そういえば、象などは1000年くらい生きられると聞いたことがあるな。」


「豹は200歳なんすか。」


前世で人間だった俺からすると十分長生きなはずだが、エルフとなった今では短いと感じてしまうな。


「ルカの生まれた海には500歳の長老がいるぞ!」


「おおーシャチって結構長生きなんだな。」


「あとは、近所に住んでたクジラのじいちゃんが一万歳超えてたぞ。」


「おお、一万歳か。」


同じ魚人でもそんなに違うんだな。


俺が種族の違いに驚いていると、夕食の支度をしてくれていたリアンから声がかかる。


「晩御飯出来たよ。」


「おおー美味そう!」


鍋の中にあるのはよく煮込まれたビーフシチューだ。事前に作ったものを魔法ポーチに入れていたのかな。

他にも鉄板の上にステーキや、ケバブみたいな物もある。


「みんなこんな食べるの?」


「ああ。うちのパーティは前衛が四人だからな。これくらいは食べないと力が出ん。」


「姉貴とルカは肉食獣だしな!」


「え、四人とも前衛なんですか?リアンも?」


リアンはエルフだけど、コンメリーナさんみたいに剣を使うのだろうか。


「魔法は使えるけど、後ろにいると眠くなっちゃうから、前で戦うの。」


「あ、そんな理由なんだ。」


「リアンの戦い方は面白いぞ。楽しみにしていると良い。」


そしてたっぷり夕食を食べたあとは、魔法で身体を綺麗にして、テントに入って眠りに落ちた。

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