4話 出産!!
「う、産まれそうだわ……。」
「本当かい!?リーヴィア!リーヴェン!出産の準備をしてくれ!」
ズボッズボッ
「「かしこまりました。」」
……どうやら俺は産まれるらしい。
実は、さっきまで意識がなかったんだよね。
魂の状態でも寝られるらしい。
というか、赤子の側には産まれそうって感覚はないのかな?
「いつでも大丈夫です。陛下。」
「大丈夫です。陛下。」
「アン、頑張って。回復魔法はいつでも使えるからね。」
「ありがとう。アレイクス。」
ママ、頑張れー!
……応援することしか出来ないんだよな、俺。
しかもさっきまで寝てたから、どこか他人事というか。
あ、ママ送られて来てた情報が途絶えちゃった。
みんなの声も聞こえな……ちょっとだけ聞こえるかも。
なるほど、胎児に話しかけるやつ、ちゃんと聞こえるんだな。
何言ってるかは分かんないけど、パパがママを励ましてるのはなんとなくわかる。
うおっなんか押される!
あ、これ産まれるんですかね!?
産まれる側の体勢ってこれで合ってますかね!?
おおおおおお!!!!!
「……おぎゃあああああ!!!!」
うぎゃああああああ!!!!!
なにこれなにこれ!
寒いんだけど!眩しいんだけど!痛いんだけど!どこ!喉が!胸が!これ肺かな!?これ呼吸が苦しいのか!
ちょっと赤子敏感すぎじゃありませんかね!?
誰かなんとかして!!!
―――――――――――
「……無事に産まれてくれたみたいね。」
「ああ、元気に泣いているよ。元気なハイエルフの男の子だよ。しっかり魂が定着してくれたみたいだね。良かった。」
「ええ、良かったわ、本当に。」
本当に良かったわ。
彼をこの世界に呼んだ日から、1週間返事がなかったのよ。
魂が消えたわけじゃないみたいだったから、肉体に定着するために休眠状態なんだと、予想はしていたけど……。
この一週間、無事に産まれてくるか、気が気じゃなかったわ。
アレイクスが励ましてくれても不安が拭えなかった事なんて初めてよ。
これなら戦場に立つ方がよっぽど安心できるわよ。
アレイクスと結ばれてから約100年、何度も子供を産んできたわ。
でも、どの子にも魂が宿らなかった。
本来なら、私たち王族のハイエルフの血はかなり強いから、どの種族と結ばれても、ハイエルフの子が産まれてくるはずなの。
でも、ドラゴン族は私たちハイエルフと同格。
だから、赤子の中で主導権を争い合って、魂が芽生えないみたいなの。
それが分かるのだって、何年もかかったんだけどね。
それで、私は魂の研究を始めたの。
その結果分かったことは、今この世界に存在する魂は、各々の種族の因子を強く持っているから、別の種族の肉体には馴染めないみたいなの。
私とアレイクスの子供は、ハーフハイエルフであり、ハーフドラゴン。
エルフの長い歴史を紐解いても、両方の因子を持った存在は居なかった。
つまり、この世界に適合する魂は存在しない。
その時は流石に私も堪えたわ。
でも、アレイクスが言ってくれたの。
「僕たちは、まだ何千年と生きることができるんだ。だから、今すぐじゃなくていい。二人で色んな方法を考えよう。一つずつ試していこう。僕はこの命が尽きるまで、君と一緒にいるから、ね?」
すっごい嬉しかったわ。
それに、自分の旦那にここまで言われて、メソメソしてるなんて、歴代最強女王の名が廃るってもんよ!
それから私は、魂の研究を続けていたんだけど、あるときこの世界の魂とは全く異質な魂を見つけたの。
あれは確か、月に行った時に見つけたんだったかしら?
まあともかく、そこで私は異世界の存在を知ったのよ。
それからはもう私の得意分野よ!
異世界を覗く魔法なんて、開発するだけでもワクワクしたわ!
流石に、開発するのに20年くらいかかっちゃったけどね。
その後は異世界を覗いて、ハイエルフとドラゴンの子供になれそうな魂を探していた。
そしたら。彼を見つけたって訳。
見つけてからは、魂をこちらに運んでくる魔法を開発しつつ、彼の生活を観察していたわ。
そしたら彼の見てるアニメが面白くてね!
覗き魔法の改良もして、モニターにピントを合わせたりして。
まあそんな感じで、私たちの努力が、ついに結実したってわけよ!
産まれてすぐ声を出してくれて嬉しかったわ。
今まで、ピクリとも動かない我が子を何度も見てきたから、本当に嬉しかったわ。
これからの生活が楽しみね!
――――――――――――
「んぎゃああああああああ!!!!!」
「元気なのは良いんだけど、この子、なんて言ってるのかしら?お腹の中に居た時は簡単に念話出来たんだけど、私から離れたから上手く繋がらないわね。」
「ふむ、確かに赤子らしくて嬉しいけど、この子は言葉を話せるはずだよね。」
話せる訳ねえだろ赤子だぞ!
口がぜんっぜん動かないんじゃ!
ママもパパも高貴な身分だから分からなくても仕方ないかもだけど!
「うぎゃあああああああ!!!!」
「思考を読むだけなら出来そうだから、聞いてみようかしら。」
「そうだね、最初のうちはそうさせてもらおう。」
ちょっそんなこと出来るの!?
待って待って、プライバシーポリシーに同意してない待って待って。
「よしこれで繋がったかしらね。」
「おぎゃああああああ!!!!(赤子が言葉喋れるわけねーだろ!)」
「そ、そうね、第一声がそれで良いのかしら……。」
「ぎゃあああああああ!!!(良くない!良くないけど、身体が敏感すぎてうまく話せん!寒い!呼吸がしんどい!)」
「なるほど、産まれたばかりだから、新しい肉体の反応に魂が調整出来てないのね。これは、時間かけて慣らすしかないのかしら?」
「うーん、僕の魔法でアジャストしてあげられないこともないけど、自分で慣れた方が良いだろうね。」
「多分脳とか神経とかに作用させないといけないし、結構危険よね。死ぬ訳じゃないし、赤子らしく泣いてもらいましょうか。」
「んぎゃあああああああ!!!!(マジかあああああああ!!!)」
「とりあえず、おっぱい飲む?」
「ぎゃああああ……はむっ……ごくごく」
「あらかわいい。いっぱい飲みまちょうねー。」
おっぱいうめえ!
あー身体に染み渡るわあー
「そうだ、あなたに名前をつけなくちゃね。もう決めてあるのよ。ねえアレイクス。」
「うん。良い名前を考えたよ。」
「……ごくごく。」
「あなたの名前は、グロリオーサ。グロリオーサ・マギア・ユグドラジールよ。」
「あぅ……。(おおー)」
なんか強そうな名前だな。
いいねいいね。転生したって実感が湧いて来た!
けど、なんか、眠くなってきた……。
「あら?お腹いっぱいになって寝ちゃった。赤ちゃんしてるわね。うふふ。」
「良く食べて良く寝るのが子供の仕事と言うからね。これからが楽しみだ。」
「ええ、楽しみね。」