39話 カルネシア
「マスター、お二人をお連れしました。」
受付嬢さんの案内でやって来たのは、二階の奥の一室。
「入って良いわよー」
中から聞こえてきたのは若い女性の声だ。
まあエルフの国だから、ほとんどの人が若い声若い顔だが。
受付嬢さんが扉を開けて、中に入るように促してくれる。
部屋の中で待っていたのは、白っぽい金髪を肩の上で切り揃えた、エルフの女性だった。
細身だがエルフにしては筋肉質で、背筋が伸びていて姿勢がいい。
もしかしたら隙がないというやつかな?
加えて内包する魔力が濃密で、魔力量も相当なものだ。
この人は絶対にハイエルフだな。
「はじめまして。第一王子のグロリオーサです。」
「同じく第一王女のトーリアです!」
「はいはじめまして。私の名前はカルネシア。カルネシア・マギア・ユグドラジールよ。」
「え、てことは……」
「そ!私はあなた達の叔母よ。お姉ちゃんがかわいいかわいいって言うから、ずっと待ってたのよ?早く会いたかったわ!」
「じゃあ、カルネシアさんは……」
「ママの妹なの?」
「そうよ!」
言われてみると、ママに似た顔をしているし、魔力の波長も近い気がする。
「でもそんな他人行儀じゃなくて、もっと気軽に叔母……お姉ちゃんと呼んでほしいわね!」
「えっと、カルネシア叔母……」
「お姉ちゃんよ?」
「カルネシアお姉ちゃん!」
「そうそう!まだおばちゃんなんて歳じゃないんだから、ちゃんとお姉ちゃんって呼んで欲しいわ。」
「へえ、いくつなんですか?」
「まだまだピチピチの528歳よ!」
「おおーママの半分くらいっすね。」
そんな他愛もない話をしていると、ここまで案内してくれた受付嬢さんがお茶を淹れてくれたので、ここからは座ってゆっくり話す事にした。
「それにしても、どうして王族の人が冒険者ギルドのマスターなんてやってるんですか?」
「まあ簡単に言うと天下り?」
「えぇ……」
「ふふ、冗談よ冗談!」
いやあんま洒落になってない気がしますけど。
「ほら、お姉ちゃんって魔法の天才じゃない?史上最年少の200歳で国王になっちゃうくらいだしさ。そんなお姉ちゃんと比べられて嫌になっちゃって、家出して冒険者になったのよ。それで気づいたらギルドマスターになっちゃったのよね。」
「あー確かにママは魔法に関しては本当に凄いですもんね。というか、ママって200歳で国王になったんですか?」
「そうよ。え、お姉ちゃんから聞いてないの?」
「まあ、魔法のことしか教わってないので……」
「アタシもなんにも聞いてなーい」
「全くお姉ちゃんたら……」
その後教えてもらった話によると、ママが180歳くらいのときに大きな戦争があって、そこでママが自慢の魔法で大戦果を挙げたのだそうだ。
世界樹の近くが戦場になったらしく、それを目撃した兵士や市民が大勢居た。
もともとカトレアさんとアイドルしていた事も相まって、そのあとの選挙で当時の国王を上回る票を獲得し、国王に就任したという。
「へえーそうだったんですね。」
「そんなこと一言も言ってなかったよね。」
「お姉ちゃんは本当に凄いのよ?まあ、魔法以外はちゃらんぽらんだけど……」
「魔法に関しては本当に凄いですよね。いつまでも追いつける気がしませんもん。」
「そうでしょう?嫌になったら私みたいに家出したらいいわ。うちのギルドで受け入れてあげるから。」
「そうですね、そんな時が来たらお願いします。」
もしかしたらカルネシア叔母お姉さんが家出したから、ママは王宮じゃなくて森の家で俺たちを育ててくれたのかな?
いや、パパと二人で暮らしたかっただけな気もするな。
その後話がひと段落したところで、先ほどの受付嬢さんがやって来た。
「マスター、試験の準備が整いました。」
「分かったわ。じゃあそういう事だから、訓練場に行きましょう。」
という事で一行はギルドの裏手にある訓練場へ。
小学校の運動場くらいの広さがあり、隅の方に訓練用の木人や、魔法など飛び道具の的などが並んでいる。
「トーリアちゃんは竜人って聞いてるけど、どんな戦い方をするのかしら?」
そう言いつつ、カルネシアお姉さんが小指の指輪から槍を取り出した。
「アタシはこの爪で戦うよ!」
トーリアもさっき貰ったばかりの爪を両手の指輪から出現させた。
「あれ、試験するんじゃないんですか?なぜ武器を?」
「言ってなかったっけ?試験って模擬戦よ。」
「え、戦うんすか。」
「カルネシアお姉ちゃん強そうだから、アタシ戦ってみたかったんだよね!」
「ああ、トーリアは相変わらず戦うの好きだね。」
「他のエルフなら適当な試験官が対戦するんだけどね。あなた達は強そうだから、私が見てあげるわ。」
先に試験をするのは、既にやる気のトーリアだ。
いつの間にか、この訓練場の周囲に多くの人が集まっていた。
しかも集まっているのは冒険者だけではなく、いつも城前広場で声援を送ってくれるファンの人達までいた。
「トーリアちゃん頑張れー!」
「あ!アタシのファンの人たち!ありがとー!」
「「うおおおおおお!!!」」
あれ?試験だよなこれ……まあいいか。
「さあ、まずは好きに攻撃していいわよ!」
「じゃあ遠慮なく!」
その宣言通り、トーリアは全身に鱗を纏い、本気モードだ。
「まずは一発いくよ!白雷魔法『ホワイトサンダー』!」
トーリアは右手を突き上げ、練り上げた魔力を空に放出する。
それは上空で白い稲妻と化し、カルネシアお姉さんに降り注ぐ。
「本当に白雷魔法を扱えるのね!流石私の姪っ子!」
カルネシアさんは空に突き上げた槍の先端から、円錐状の防御障壁を生み出して迎え撃つつもりらしい。
落ちてきた白雷は通常の倍くらい太いが、障壁の上を滑り落ち、大地に散っていった。
「トーリアの白雷を障壁だけで受け流すとは。流石叔母……お姉さん。」
「やるねーお姉ちゃん!」
「ふふん!これくらいは冒険者になる前から出来たわよ!」
そう言いつつも嬉しそうだ。
「次はこの爪の試し切りをさせて貰っちゃうよ!」
トーリアは次は翼を広げて接近した。
新しい武器のお陰で今までよりリーチが伸びているが、相手はそれを上回る槍。
トーリアは空を飛べるアドバンテージも活かして立体的な攻撃を仕掛けるが、カルネシアお姉さんはそう簡単に懐への侵入を許してくれない。
無理に詰め寄ったらその槍がトーリアの四肢を穿つだろう。
「槍の人とは初めてやるけど、やっぱりやりにくいね!」
「ふふ、でも動きは悪くないわよ。」
「ありがと!でも……『ホワイトブラスト』!」
トーリアは一度高く飛び上がってから、槍に穿たれるギリギリまで急接近、突き出した爪の先から白雷を放出した。
武器の爪で攻撃すると見せかけてからの、魔法攻撃。
これは直撃したかに思えたが
「おっとぉ!」
カルネシアお姉さんは目にも止まらぬスピードで避けた。
え、雷を避けるって可能なの?
「速すぎ!今のギリギリ見えなかったよ!」
「トーリアでも見えなかったのか?それはマジで速いぞ。」
「ふふん!お姉ちゃんに勝つためには、これくらいは出来ないとね。」
「アタシもそれくらい速く動きたいなあ。」
「トーリアちゃんならすぐ出来るようになるわよ。今でもそこらの冒険者じゃ目で追えないと思うわよ?」
「そうかなあ……」
トーリアは肩を落としているが、訓練場に集まっていたファンの人たちは目を丸くしているぞ。
彼らは目で追えなかったようだな。
「飛んでるトーリアちゃんもかわいい。」
「あの白雷を浴びてみたい!」
「こっちにも雷飛んでこないかなあ……」
目で追えなかったのではなく、トーリアしか目に入ってなかったみたいだな。
「てか、白雷なんて浴びたら死んじゃうだろ。大丈夫かな、トーリアのファンの人たち……」
だが、俺は他人の心配をしている場合ではなかったらしい。
「さ、次はグロウくんの試験よ。」
カルネシアさんはそう言って、槍をの切っ先を俺に向けてきた。




