34話 親の心子知らんぷり
「もう!出かける時は一言声かけて行きなさいって言ったじゃない!本当に心配したのよ?」
城に帰ってくるなり、心なし焦った表情をしたママが出迎えてくれた。
「あはは、ごめんね?」
「ごめんなさい!」
「謝れば良いってもんじゃないのよ!しかも、面倒なのと戦ったって言うじゃないの!」
「まあ、ちょっと危なかったけど、結果的には余裕で勝てたし……」
「アタシも、ちょっと腕を斬られたくらいで……」
「ちょっと!トーリア怪我したの!?それを先に言いなさいよ!ちゃんとポーションで治した?傷跡残ってない?」
なんかママがいつにも増して心配してくれるな。
森で魔物を狩って帰ってきた時は、こんなに心配されなかったのに。
あ、それはコンメリーナさんが陰ながら護衛してくれてたって言ってたっけ。
今回は戦ってる途中で到着したって言ってたから、ママが心配するのも仕方ないか。
このお説教は甘んじて受けよう。
だが!
子供はこういう時、親の心配ってのは鬱陶しいんだよね。
なのでちょっと反撃。
「ねえママ、これ。」
俺はポケットから認識阻害のサングラスを取り出す。
「そ、それは……!」
「これ、ママが使ってた物だって聞いたんだけど……?」
「あ、いや、それは……」
「ママもこっそりお城を抜け出してたって聞いたよ?」
「え!誰がそんな事言ってたのよ!というか!誰にもバレてないはずよ!」
ズボッ
と現れたのはリーヴィア
「女王陛下が幼少期、よく城を抜け出していたのは、城の皆様がご存じでございますよ。」
「嘘でしょリーヴィア!」
そこにコンメリーナさんが追撃する。
「陛下、未だに一人でおでかけになられるのはおやめ下さい。王子殿下にお渡ししたペンダント、あれを是非とも陛下にもお持ち頂きたい。」
「ええ!コンメリーナまでそんな事言うの?なんでアタシまで持たなきゃいけないのよー!」
ふふふ
今回のお説教はこの辺で済みそうだな。
俺がしめしめと息を潜めていると、トーリアが小声で話しかけてきた。
「ナイスお兄ちゃん!」
「ふっふっふ。これくらい容易いことよ!」
「おぬしもワルよのー!」
「「はっはっはっは!」」
俺とトーリアはひっそりと笑い合った。
――――――――――
さて、一通り話が済んだので、聞きたかったことを聞こうと思う。
「ねえママ、あの人たちはなんなの?」
「そうねえ、ざっくり言うと、うちの歴史に度々現れる悪者って感じ?」
「マジでざっくりだね。」
「だって私もあんまり知らないし。」
「陛下……」
コンメリーナさんが肩を落としてママに白い目を向ける。
「あ、いや!むかーし、習ったような、習わなかったような……」
「当時の教育係が泣いておりますよ。」
「あうっ……」
「これでは他の貴族に示しがつきません。良い機会ですから、殿下と一緒に復習なさってください。」
「フン!あんな頭の固いジジイどもにどう思われようと知ったこっちゃないわよ。あいつらが過去の自分に胡座かいてる間に、私の方がよっぽど魔法を上手く使えるようになったじゃない!」
「まあ、古い価値観に固執しているエルフが少なくない、というのは私も同意いたしますが。それはそれとして、陛下には復習してもらいますよ。」
「はーい……」
その後、一通りのダークエルフに関する歴史の授業が始まった。
曰く、そもそもダークエルフとは、突然変異で生まれた肌が黒いエルフの事を指すらしい。
彼等は闇魔法のみを扱えるが、5000年前まではそれが発見されていなかったため、エルフなのに全く魔力が無い忌み子として、産まれてすぐに捨てられていたそうだ。
この辺はカカさんから聞いた話と一緒だな。
そして、今日出会ったブラックリリーとその仲間たちだが、彼等はエルフの長い歴史に何度も登場しているらしい。
エルフの国が今みたいに3つに分かれてから起こった戦争では、彼等ブラックリリーが暗躍していた可能性が高いという。
しかしながら、相手はエルフと同格のダークエルフである事に加え、隠蔽や対魔法に優れた闇魔法を操っていた。
したがって、追い詰めては逃げられを繰り返していたという。
それでも、闇魔法の発見以降は研究が進み、少しずつ追い詰めていっているらしい。
「しかしながら、そもそもダークエルフの個体数が少なく、未だ闇魔法の全容は解明できておりません。そのため、世界樹の結界のアップデートが追い付いておらず、今回のように侵入を許してしまうのです。」
「なるほど。確かにあいつら、闇に紛れて消えたりして、神出鬼没だったもんなあ。」
「あのナイアって女の人、すぐ消えちゃったもんね!」
俺たちがさっきの感想を口にすると、コンメリーナさんの目が怪しく光った。
「ほう、もしや、あの場にダークエルフが居たのですか?」
「居ましたよ。なんで世界樹を傷つけるんだって聞いたら、めっちゃ怒ってましたけど。」
「詳しく聞かせていただいても?」
コンメリーナさんの事情聴取に丁寧に答えていくと、今まで謎に包まれていた部分が少しだけ明らかになったようだ。
「人間たちは、そのダークエルフを姫と呼んでいたのですね?」
「そうですね。斧の人、マイケルとかはお嬢って呼んでましたね。」
「ふむ……今まではダークエルフが金で人間の傭兵を雇っているのだと考えられていましたが、どうやら認識を改める必要がありそうです。」
「自分達はブラックリリーの実動部隊だ、とも言ってましたね。」
「そうですか。その辺についても、後日、彼等に直接聞き出すとしましょう。」
話がひと段落すると、ママがいい笑顔で話しかけてきた。
「さ!つまんない話は終わりにして、もう遅いから、お風呂入って寝ましょう!」
「ママ、だいぶ前から飽きてたよね。」
「あ、バレてた?そういうグロウだって、もう終わりにしたいでしょ?」
「もちろん。ママもよく分かってるじゃん!」
「お二人とも……」
俺とママは、二人仲良く意気投合した。
コンメリーナさんがため息を溢していたが、もう終わりにした俺とママの耳には入らない。
「やっぱりお兄ちゃんとママは似てるね」
トーリアが小さい声で呟いていたが、もちろんこれも聞こえていない。
その後、俺たちはパパと合流して、みんなで宮殿の大浴場に向かった。
――――――――――
「そういえば、パパは何してたの?」
「僕は守護竜達と打ち合わせさ。なんでも今日、侵入者が出たらしくて。」
「あ、それ俺たちが戦った人たちでしょ。」
「アタシが倒しました!」
トーリアが「えへん!」と胸を張って答えると、パパは知らなかったようでかなり驚いている。
「えっ二人が遭遇したのかい!?というか戦ったって、怪我は無かった?」
「最初はアタシも鱗を出してなくて、ちょっと腕を切られちゃったけど、すぐ治したから大丈夫だよー!」
「なんだって!?本当に大丈夫だったかい?ポーションはまだ残ってる?」
「もーパパったら心配し過ぎー!これくらいの怪我、森にいた時は毎日だったじゃん。というか、パパとの模擬戦の方が大怪我だったよ?」
「それとこれとは別だよ!パパはちゃんと手加減してるからね!」
「もっと言ってやってよアレイクス。この子達、全然反省してないのよ。」
「反省してるよー!ねっお兄ちゃん!」
「そうそう、反省してるって。反省してまーす!」
なぜかまたお説教が始まりそうだったので、俺とトーリアはさっさと服を脱いで、風呂場に逃げ込んだ。
「あっちょっ!話はまだ終わってないわよ!」
「終わったよー!」
「終わり終わりー!」
まあ、大浴場といっても限度があるわけで……
俺たち二人は早々に捕まり、パパとママが納得するまで二人の話を聞き続けるのだった。




