32話 魔力量の大小が戦力の決定的差ではない
「舐めやがってこのクソガキィ……死ねやあ!」
無意識に失礼なことを言って怒らせてしまったせいで、マイケルは一気に距離を詰めてきた。
「えっちょっ速!」
想定の何倍も速く、下手したら森のあの熊ぐらいのスピードで駆けてきた。
気づいた時にはもう、目の前に斧が振り下ろされる瞬間だ。
ギリギリ目で追えない程ではないが、油断していた俺は体が動かない。
って、このパターン二度目だな!
「お兄ちゃん!ぼーっとしないで!」
目にも止まらぬスピードで、トーリアが間に割って入って、振り下ろされる斧を彼女の腕で受け止めてくれた。それはトーリアの肉を裂き、腕の骨あたりで止まった。
「はあ!?なんで斬れねえ!」
マイケルは切り落とせなかった事が不満だったらしいが、再度斧を振りかぶる。
だが、二度も食らってたまるか!
「防御障壁!」
俺はトーリアの前に防御障壁を展開して、マイケルの斧を受け止めた。
「んだ、その硬い障壁はぁ!」
マイケルは悪態を吐きつつも、二度も受け止められた事で一旦下がった。
頭に血が上っていても、判断は冷静らしい。
「トーリア、傷はどうだ?」
「もうポーション使ったから大丈夫!それより、お兄ちゃんこそ油断しないでよね。」
「いや、すまん。助かった。あいつら全然魔力少なかったから、完全に油断してた。」
「まあそれに関してはアタシも一緒だけどね。鱗を出してないとはいえ、あんな斧で腕を切られちゃうとは思わなかったよ。」
「ああ。魔物と違って、人は魔力量だけで判断しちゃいけないみたいだな。」
確か、人間や獣人は魔力量が少ない代わりに、少ない魔力を体内で扱う技術が優れてる、ってママが言っていた気がする。
なるほど、普通の人間にはあり得ない速さで動けたのは、そういう技があるのかもしれない。
「おい!そこの白いメスガキ!てめえなんだその硬さ!」
「おじさん口が悪いよ!あと、女の子に硬いとか言ったらダメだよ!おじさんモテないでしょ!」
「う、うるせえ!くそぅ……どこまでも舐めたガキどもだな!」
どうやら図星だったらしく、マイケルは涙目で、その顔がさらに赤く染まっていく。
ちょっとトーリアさん、火に油を注がないで!?
「アニキ!俺はアニキのこと好きっすよ!」
「慰めんじゃねえ!それに、俺は別にモテねえわけじゃねえ!」
「子供の戯言なぞに惑わされるな。鍛錬が足りんぞ。」
「わかってるよ!」
トーリアが追加で煽ってしまったから、またおかしな空気になる前に、こちらから仕掛けよう。
「次はこっちからいくぞ!『ガトリング』!」
俺は無数の弾丸を創り出し、空中に弾丸の帯を浮かべると、それを高速で連射していく。
「闇魔法『ダークベール』」
ボブが魔法を発動すると、俺と奴らのちょうど中間ぐらいに、地面から黒い幕が湧き上がる。
俺が撃ち出した弾丸がその幕を通過すると、急激に失速し、墜落してしまった。
「は!?なんでだ!?」
思わず尋ねると、意外にも、ボブは丁寧に説明してくれた。
「無知な小僧に教えてやろう。わしらが扱うこの闇の本質は吸収にあるのじゃ。じゃから、このダークベールを通貨した魔法はその魔力を吸い取られ、霧散する。物理的な弾丸は力を吸い取られ、地に落ちる。」
「え、魔法を無効化できるの?」
「フン。いくらエルフと言っても、その程度の魔法しか扱えん小僧なぞ、恐るるに足らんな。」
ボブは勝ち誇るように笑みを浮かべ、杖を弄んでいる。
「ちょっとトーリア、俺めちゃめちゃ相性悪いっぽいんだけど。」
「じゃあ今度はアタシの番だね!援護はよろしく!」
「おう、任せろ!」
「いっくよー!」
トーリアは翼を広げて駆け出した。
そのまま大地から足を離して、地面スレスレを飛行する。
マイケルの前まで接近すると、トーリアは指を開いて爪を突き上げる。
「やあ!」
「うらあ!」
マイケルは斧を振り下ろして迎撃する。
トーリアはその手で斧を受け止めると、魔法を発動させた。
「雷魔法『ライトニングブラスト』!」
斧を受け止めている掌から稲妻が弾け、斧を伝ってマイケルの全身を駆け抜ける。
雷がその身を焼き焦がすかに思えたが、その雷は着ている黒いローブに吸収されて消えてしまう。
いや、正確には、その身に纏った真っ黒い闇に。
「あれ!?アタシの雷は!?」
「残念だったなあ!こいつは闇魔法『ダークアーマー』あらゆる魔力を吸収してくれる最強の鎧だぜ!」
元から真っ黒い服を着ていたせいで、闇の鎧を纏っている事に気づかなかった。
「ちょ!さっきからズルいだろ!」
「はっ!エルフにズルいと言われるとは光栄だな!」
魔法を吸収されたら俺は攻撃手段が無くなるんだけど!
そんな風に俺が戸惑っている間に、ボブとその子分が詠唱を終え、魔法を発動させる。
「闇魔法『シャドーロック』」
まず、ボブの子分の黒ローブが、接近していたドーリアに向けて影を放つ。
トーリアはその影を踏まないように避けたが、狙いはトーリア本体ではなく、その影だったらしい。
影に入り込んだ途端、トーリアは避ける動作の途中で固まって立ち止まった。
「え?動けなくなっちゃった!」
「闇魔法ってそんな事も出来るのかよ!防御結界!」
俺は影を防ぐために、自分の周囲に結界を張った。
しかし、ボブの放った影は、そんな俺を嘲笑うかのように、何の抵抗もなく結界をすり抜けて入ってきた。
「ちょっと!?そんなアッサリ抜けられたら困るんだけど!?」
そのまま俺の影の中に入り込み、俺は動きを封じられてしまった。
「くそ!体が動かせない!……いや、若干動くな。」
「この魔法は影を固定するだけじゃからな。影の形が変わらない範囲でなら動かせるぞ。」
「ああ、なるほど。」
それで、体に隠れてた左手や口は動かせるのか。
「じゃがまあ、これで避けられんじゃろう。マイケル、首を刎ねるんじゃ。」
「任せな!」
あ、やべえ。
左手だけ動いても意味ねえじゃん!
マイケルは動けなくなったトーリアの前に立ち、斧を振りかぶる。
「ちょっとお兄ちゃん!これ何とかならないの!?」
「すまん!さっぱり分からん!」
「ちょっとーー!!!!」
闇魔法なんてママから聞いてないから、対処法が全くわからないんだよな。
というか、影を固定するってなんだよ!
どうやったら解けるんだよこれ!
「散々俺たちをコケにしてくれたなあ、クソガキ。」
「あはは……悪気はなかったんだよ?本当だよ?」
「言われた方が傷付いたらそれは悪口なんだわ。」
「ごもっともです……」
なんで絶体絶命の状況で敵に説教されているんだろう。
そしてマイケルが斧を振りかぶったとき、一か八か、トーリアがある魔法を発動させた。
「ただでやられると思わないでよね!白雷魔法『ホワイトサンダー』!!」
トーリアは自身に向けて真っ白い稲妻を落とした。
それは周囲を明るく照らし、マイケルとトーリアを飲み込んだ。
「ぐああああああああ!!!!!」
マイケルが絶叫を上げて倒れ込む。
反対にトーリアは、パパの血を引く白竜の特性で、雷でダメージを受けることはなく、むしろ自分の力にできる。
というか、あれ?この魔法は効くんだ。
「なっ自分を巻き込んで雷を落としたじゃと?あんな子供がそれだけの覚悟を……?いやそうじゃないわい!なぜ白竜にしか扱えんはずの白雷魔法を、その小娘が使っておるんじゃ!」
「お、ボブはこれがどんな魔法かわかるのか。」
「小僧、馴れ馴れしく呼ぶでない!いや、そんな事はどうでも良い。なぜ、白竜にしか扱えんと言われている白雷魔法を、その小娘が使えるんじゃ!」
「そりゃあ白竜の子供だからだよ。」
「そうだよ!アタシのパパはホワイトドラゴンなんだ!」
「馬鹿な!竜と人が子をなすなど、そんな事が……」
「なんだ、爺さんニュースとか見てないのか?この国の王女は竜とハイエルフのハーフなんだぞ。」
「は?王女じゃと?」
「そのとおり!アタシはトーリア・マギア・ユグドラジールです!」
トーリアがえへんと胸を張って名乗りをあげる。
「そういえば、俺たちはまだ名乗ってなかったな。お前たちは丁寧に名乗ってくれたっていうのに。俺はグロリオーサ・マギア・ユグドラジールだ。」
「なっ!エルフの王族……ということは、小僧はハイエルフじゃということか!?」
俺たちの名前を聞いた途端、ボブが焦り出した。
なんだか時代劇みたいで面白いな。




