3話 エルフママの胎内授業2
「ごちそうさまでした!」
「ご馳走様。」
「「ごちそうさまでした。」」
「……はぁ。」
ひたすら飯テロを味わった俺は、やっと目の前から食べ物が無くなってため息をこぼした。
俺が見ているのは、ママの視界を共有したものだ。
だから、ママがパパのことが大好きで、同じくらい食べることも好きなのがわかった。
つまりどういう事かというと、パパの顔と食べ物しか映らなかったのだ。
まあ、人化したパパはイケメンだし、料理は美味しそうだし、それ自体は良いんだけど。
「ねえ、食べ終わったみたいだし、さっきの質問の続きしても良い?」
「良いわよー。何の話だったっけ?」
そうなのだ。
ママはパパの顔と料理しか頭になかったらしく、俺の話を聞いちゃいなかったのだ。
というか食べるのに夢中で、声が言葉になってなかった。
しかも、パパも従者二人も食べるのに夢中だったし。
何はともあれ、食文化が現代日本並みなのは良いことだな。
「えっと、エルフの王とドラゴンの王が結ばれたのは分かるんだけど、俺が呼ばれた経緯が知りたいな。」
「そうね。アレイクスと結婚したのはここ200年くらいの話でね、もちろん普通に子供を作ろうとしたんだけど――」
「待って待って、200年?ママたち何歳なの?」
「私が985歳で、アレイクスが1005歳よ。」
「お、おう。これがエルフクオリティ。」
「それで、子供自体は作れたんだけど、産まれた子に魂が芽生えなくてね。普通はお腹の中である程度肉体が作られると、自然と魂が宿るのよ。でも、エルフとドラゴンの子供には魂が宿らなかったのよね。」
「そうだね。多分、僕が変化した身体だったのが影響してるんだと思うんだけど、変化しないとアンを愛せないからね。」
「そんなことないわよ!アレイクスの変化は完璧よ。多分、もともとの種族の差が大きすぎるのよ。」
「そういえばドラゴンって人じゃないよね?魔物とも違うの?」
「どちらかというと、魔物に近いね。知性があって言葉を話せるから、種族として認められているよ。」
「それになんと言っても強いのよ、ドラゴン族は。話が出来て強い種族を、魔物だなんて言えないわよ。」
「なるほど。それで、その宿らなかった魂の代わりを俺が担うって事?」
「そうよ。理解が早くて助かるわ。最初はこの世界の魂にしようかと思ったんだけど、折角だから異世界から連れて来ちゃおうと思ってね!」
「その当時、アンは異世界を観測する魔法の開発に成功してね。異世界を覗き見るのが趣味だったんだよ。」
「異世界の魂なら面白い事が起きそうじゃない?それに、異世界の文化は見てて面白かったわ。特にアニメと漫画が最高で――」
なるほど、それで初めて出会った時に、玉を集めてドラゴンを呼ぶなんて話が出てきたのか。
ママ、アニメにハマった外国人みたいだな。
「だから、君には期待しているよ。この世界に異世界の風を巻き起こしておくれ。」
「俺に務まるか分かりませんが、精一杯生きてみます。」
「とは言っても、君の世界のためにも、君が異世界の魂を持つことは、秘密にしておいた方が良いだろうね。」
「そうなんですか?俺、内緒話を抱えておくの苦手なんですけど。」
「今はママの他には、異世界に干渉しようという者はいないけどね、君が異世界から来たと知ったら、多くの人が異世界に興味を持つことだろう。そうしたら、良からぬ輩が異世界に害をなすかもしれない。」
「なるほど……。」
そういえば、俺はママに殺されたんだったな。
良からぬ輩ねえ……。
「あ、言っておくけど、あたしは基本見る専よ。あなた以外に手を出してはいないし、出すつもりはないわよ!」
本当かなあ。
知らない人について行っちゃいけません、っていう有名な言葉があるんだけど、俺ミスったかな。
「まあ信用できなくても無理はないけどね。僕のお嫁さんということで、信じてみておくれ。」
「確かにアレイクスさんは信用できますね。では、パパに免じて、ママに殺されたことは許してあげましょう。」
「あっちょっそれは……。」
「え?アン、もしかして、たまたま死んだ魂じゃなくて、わざわざ殺して連れて来たの?それはダメだよ。」
「ち、違うの、この子が『隕石で死んで異世界転生したい』って言ってたから、隕石落としてあげただけで……。」
「その言葉を真に受けて、隕石を落としたって?それじゃあ、信用してもらえなくても仕方ないね。というか、今頃大変なことになってるんじゃないかな。」
「あう……。ごめんなさい。」
「ま、まあパパもその辺で。俺も異世界転生したいって言ったのは本当だし、前世に未練はないから。」
ずっと読んでたなろう小説の続きは気になるけど、アニメの続きも見たいけど、その程度だし。
ああ、でも異世界転生できるって分かってたら、友達に自慢してきたのに。
「まあ、やってしまったものは仕方ない。当の被害者が許しているなら、僕が今更言うことじゃないか。むしろ、監督責任を問われる立場だね。僕からも謝罪させてくれ。妻を止められなくてすまなかった。」
「いや!大丈夫だから!ママが無闇に人を殺す人じゃないなら全然!」
パパが真面目過ぎて、逆に申し訳なくなって来た。
実際俺はあんまり怒ってないし、むしろ喜んじゃってるし。
「私だって必要のない人間は殺さないわよ!人を殺人鬼みたいに言わないでよね。」
「必要があったら殺すんだ。」
「そりゃあ私はこれでも国王だからね。国に仇なすものはキチンと始末するわよ。」
すぐ忘れそうになるけど王様だったな、ママって。
でもしっかりしたパパが居るから、この国は大丈夫そうだ。
「じゃあこの話はここまで。で、次の質問なんだけど、何を聞こうかな?あ、ママが治めてる国について知りたいな。」
「そうねえ、まず名前はアルフヘイム連合王国。基本的には三つの国からなる連合王国よ。私の王家があるのがバーベインズ魔法国。魔法国は世界樹の南に首都があるわ。エルフ族最大の魔法研究所があるわね。」
ふむふむ、連合王国って聞いてたし、いくつかの国から成り立ってるのか。
前世でいうところのイギリスが近いのかな、よく知らないけど。
「次に、クレマチス工業国。ここは世界樹の東にある国で、さらに東に行ったところにあるドワーフの国と交流があるわ。その影響で工業が盛んで、我が国の技術力を支えてるわ。」
ドワーフも居るのか!
東側にドワーフね、いつか遊びに行こう。
「最後に、オーキッド商業国ね。世界樹の西にあって、海に面しているわ。船を使って他の大陸との取引が盛んに行われているわ。我が国の財務を司る部署は、いつの時代もここにあるわ。」
西は海かあ。
お魚食べたくなったら西に行けばいいんだね。
「そして国王だけど、それぞれの国に王家があって、大体500年周期で、全国民の人気投票によって国王を決めるわ。」
「王家が三つもあるの?」
「元々は一つの王家だったらしいんだけど、すっごい昔に三つに別れたらしいわよ。その時の事は神話として今でも伝承されてるわよ。」
「どんな感じで分裂したの?」
「じゃあアルフヘイムの成り立ちから、軽く説明するわね。」
―――――――――
遠い遠い昔。
あるとき、世界樹はいくつかの生命を生み出した。
世界樹の因子を受け継ぎしヒト、エルフ。
ヒトと植物の間の生命として、ドライアド。
大地を緑に染め上げる、数多の植物。
そして、それらを治めるために、ハイエルフ。
それら生み出されし生命は、互いに支え合い、世界樹からの恵みを得て暮らしていた。
そしてまたあるとき、エルフたちの元に旅人がやってきた。
まずやってきたのは、ドワーフ族だった。
やってきたドワーフ族は、エルフに鍛治を教えた。
それに最も影響を受けたのが、当時の第二王子クレマチスだ。
彼はドワーフと友になり、鍛治の世界にのめり込んだ。
彼はドワーフの国を訪れ、次第に交流を持つようになった。
次にやってきたのは、獣人族だ。
彼らは海を渡ってこの地に辿り着き、エルフに狩りと農耕を教えた。
それに最も影響を受けたのが、当時の第一王女オーキッド、三兄妹の末っ子だった。
彼女は獣人族の男と恋に落ち、獣人の国を訪れた。
そうして一度は国を離れた二人は、しばらくして世界樹の下に戻ってくる。
そして二人はそれぞれに、ドワーフと、獣人と交流する都市を築くと宣言して、世界樹から少し離れたところに村を作った。
やがてその村は町になり、都市になり、国になった。
そして当時の第一王子バーベインは、二人の兄弟と協力して、アルフヘイム連合王国を作り上げた。
―――――――――――
「大体こんな感じのお話よ。」
「へえーそんな歴史があるんだね。そして、一代で村から国になってるのがエルフクオリティだね。」
「ただのエルフじゃあ国までは作れないでしょうね。私たち王族は、生まれながらにしてハイエルフだから。少なくとも、普通のエルフの10倍は生きるわよ。」
「ちなみに普通のエルフの寿命は?」
「大体1000歳から10000歳くらいかしらね。」
「じゃあハイエルフは10万年も生きるの!?そんなハイエルフが遠い昔って言う伝承、果てしないな……。」
「ああ、ハイエルフは基本的に寿命は無いらしいわよ。でも、歴代の国王は、事故や病気や戦争なんかで、既に死んでしまってるらしいけど。もしかしたら、今も生きてる人もいるかもね。」
「……ちょっとスケールがデカ過ぎて理解が追いつかない。」
「王族だけがハイエルフなんじゃなくて、エルフ族なら誰でも、ハイエルフに進化する可能性があるらしいわよ。進化する条件はよく分かってないんだけど、魔法が得意な人が進化する傾向にあるらしいわ。」
「ほえー」
「あんた、また自分から聞いといて興味無くなったわね。」
「あ、バレた?ちょっと真面目な話が続いちゃったからさ。あはは……。」
「まあ、もう暗くなってきたし、そろそろ寝ましょうか。」
「おやすみなさーい。」
「じゃ、アレイクス。ベッドに行きましょ!」
「うん、行こうか。今日はぐっすり寝れそうだ。」
……そういえば、俺は魂だけど、寝るのだろうか。