28話 カカのチョコレートショップ
「いやあ、まさか自分がカードゲームになってるとはな。」
「アタシ達が森から出てきたのは昨日なのに、いつからカードになってたんだろうね。」
「いや本当にな。森でのんびり暮らしてただけなのに。」
「でもせっかくだからカード買っていこうよ!」
「え、自分のカード欲しいか?」
「まあちょっと恥ずかしいけど、でも記念に欲しいじゃん!それに、ママのカード欲しいし!」
「あー確かに、ママのカードは欲しいかも。」
俺たちは次の試合が始まった舞台から離れて、会場に隣接されているカードショップに向かった。
カードショップといえば、中古のカードがズラーッと並んでるイメージだが、大通りの会場だからか、新品のパックを売っているだけみたいだ。
「最新のやつ3パックください。」
「お兄ちゃん、3つくらいで欲しいの出るの?」
「いや、欲しいのは出ないぞ。でも3パック買いした方がレアなやつが出やすいんだ。」
「そうなの?」
「まあ、俺だけのジンクスだから、トーリアは沢山買うといいぞ。」
「じゃあアタシは一箱ください!」
「ありがとうございましたー」
ちなみにこのカードゲーム、現国王や歴代国王なんかが登場している関係なのか、国が発行しているらしい。
おおかた、ママが前世のカードゲームを見て開発したんだろう。
レジの横にパックを剥く用の机とゴミ箱が並んでいるので、そっちに移って開封の儀だ。
「お、これ誰だ?バーベインって……ああ、この国を作った人か。」
俺が買ったパックから出たのは、金の長髪を後ろで結んだ超絶イケメンエルフのキラカードだ。
この人が俺のご先祖様なのか。
転生したこの身体はめちゃくちゃイケメンだなあって他人事みたいに思ってたけど、ご先祖様からイケメンだったんだな。
「ん、これ魔力を流し込めるな。おお!」
カードに魔力を流し込むと、カードに魔法陣が描かれ、空中にバーベインさんの姿が投影された。
エフェクトとともにポーズをとった後、魔法を使っている。
「これ実はめちゃくちゃ高性能なんじゃ……?」
このカードは触った感じ、魔法陣が刻まれているようには感じない。
もちろん、印刷で魔法陣が描かれているわけでもない。
それなのに魔力を流すと魔法陣が出現するということは、魔法陣は確かに存在するわけで……
俺がこのカードの魔法陣の精緻さに戦慄している横で、トーリアはバリバリと袋を破いている。
「ねー!アタシ、一箱も買ったのに全然レアカード出ないんだけど!」
「諦めろトーリア、そういうものだ。一箱に何枚レアカード入ってるかは決まってるからな。」
「あ!出た、けどだれこれー!」
「第8代国王パウローニャ。誰かは知らんけどご先祖様だろうな。」
「アタシもっと買ってくる!」
「ほどほどになー」
じゃあ俺は屋台でお茶でも買ってくるか。
さっき緑茶の屋台を見つけたんだよね。
ママは紅茶派だったから家では紅茶を飲んでたけど、やっぱ緑茶の方が好きだな。
「ふぅー。あったかい緑茶うめー」
「お!赤ちゃんのお兄ちゃんでた!」
「ぶぅーーー!!!」
俺は漫画みたいにお茶を吹いた。
「生まれてすぐのお兄ちゃんってこんな感じだったんだね。」
「げほっげほっ……な、なんで赤ん坊の俺がカードになってんだよ。」
「ママが作ったんじゃない?」
「ああ、なるほど……」
ママなら、「うちの息子可愛いでしょー!」とか言って無理やりねじ込みそうだな。
「あ、パパとママも出た。」
「さっきの試合で出たカードと衣装が違うな。」
「同じ人でも何種類かあるみたいだね。あ、アタシだ。」
「じゃあ一通り揃ったし、大通り以外の店も見にいこうぜ。」
「賛成ー!」
俺たちはカードを魔法ポーチに収納して、試合会場を後にした。
ゴーレム馬車がゆっくり走る車道を渡って、手近な路地に入って少し歩く。
すると、それまでの石畳の道が途切れ、未舗装の道に切り替わった。
「この辺は大通りとは雰囲気がずいぶん違うな。」
「かわいい木の家が多いね。住宅街なのかな?」
「にしても、舗装されてないのはなんでだ?田舎ってわけでもないだろうに。」
急に雰囲気の変わった街並みを眺めながら歩いていると
ズボッ
と聞き慣れた音がして、道からドライアドが出てきた。
そしてそのまま近くの家に入って行った。
「びっくりした……。なるほど、ドライアドが出入りするから舗装されてないんだな。」
「へえ、この辺はドライアドちゃん達が住んでるんだ。どおりで可愛らしい家が多いわけだね。」
そのままドライアドの住宅街を散歩していると、一軒のお店を発見する。
コテージみたいな洒落た木造のお店だ。
「ねえねえ、あそこ。チョコって書いてない?」
「お、本当だ。『カカのチョコレートショップ』か。行ってみるか?」
「うん!いこ!」
俺がお店の玄関のノブに手を近づけると、自動で奥へ開いた。
「うおお!自動ドアじゃん!」
魔力の流れを感じたから、魔法で動く自動ドアだ。
「何喜んでるの?お兄ちゃん。」
「これ、木製の自動ドアだぞ!しかも内開きの!」
「まあ珍しいとは思うけど、そんなに興奮する事?」
「するだろ!かっこいいだろ!」
「お兄ちゃんて変なところに拘るよね。あのうるさい魔法とかさ。」
「うぐっ……」
「先行くよー」
くそう。ロマンのわからんやつめ。
トーリアに続いて中に入るとチョコの甘い香りが鼻をくすぐる。
店内にはガラスのショーケースとカウンターが並んでいて、その奥に一人の女性エルフがいた。
「いらっしゃいませーって王子様!?王女様も!?」
「え、バレた!?」
「なんで!?サングラス付けてるのに!」
サングラス付けてるだけじゃダメだったか?
もしかして大通りでもバレてたけどスルーしてくれてたのか?
「あ、すみません!私たちダークエルフは、偽装とか変装を見破るのが得意な種族なんです。でも安心してください。今日お店に来たのは内緒にしときますから!」
言われてよく見てみると、店員さんはエルフと同じ長い耳をしているが、肌が黒い。
「今日来たということは内緒にしときますけど、お店にサイン飾っていいですか?お二人のサインください!」
「あ、はい。それは良いですけど。」
「やった!こんな日のために高級世界樹葉書を用意してあるんですよ。これにお願いします!」
店員さんが渡してきたのは色紙くらいの大きさの葉っぱだった。
それは葉脈が綺麗に押しつぶされて真っ平で、そのまま紙として機能するような葉っぱだ。
なるほど、確かに高級世界樹葉書。
ちなみに、ママに「王子たるもの、サインは必須よ!」と言われて何度も練習させられたので、サインは書ける。
エルフ語の文字で書いた名前と、グロリオーサの花模様のサインだ。
本当にサインをする機会があるとは思っていなかった。
「こんな感じでいいですか?」
「書けたよー!」
「わあ!ありがとうございます!早速飾らせて貰いますね!」
店員さんはカウンターから出てきて、店の目立つところに飾ってくれた。
「それで、私、実はお二人のファンでして。このカードにもサインくださいませんか!?」
そういって差し出して来たのは、さっきのカードゲームのカードだ。
成長した最近の俺と、トーリアのキラカードだ。
「あ、それやってるんですね……まあ、良いですけど。あ、名前とか書きます?」
「ありがとうございます!私ったら名前も名乗らずにすみません!私、この店の店長のカカって言います!」
「あ、店長さんだったんですね。はい、これでどうですか?」
「アタシも書けたよ!はいどーぞ!」
「ありがとうございます!もう一生大切にします!」
「あはは、それはどうも……」
エルフが一生大切にしたら、いったい何百年保存されるんだろうか。




