22話 死体の使い道
「わしの杖の話をしても良いかのう?」
「あ、すみません。どうぞ話してください。」
「こほん!まずこの宝玉なんじゃがな、ひい爺様の脳と心臓、その他全ての臓器を煮詰めて、世界樹の葉や根で調整して、最後に目玉を核に結晶化させたものじゃ!ハイエルフの魔力の全てが詰まっていると言っても過言ではないぞ!」
「ほほう、内臓を煮詰めて作ったんすね。目玉を核に……。」
緑色の透明な球体を覗き込むと、中心の目玉と目が合ってしまった。
こんにちわ、マグワートさんのひいお爺様。
うーん……微妙に俺のホラーセンサーに触れる見た目だな。
「ちょっと不気味ですけど、凄まじい魔力を感じますね。ママやパパより強いかも。」
「それはそうじゃ。ひい爺様はニ万年くらい生きたハイエルフだったそうじゃからな。」
「へえ、凄い長生きですね。」
「そうか?ハイエルフの平均寿命くらいじゃろ。」
「あ、平均なんだ。」
「大体ニ万年くらいで何かしらあって死ぬらしいな。わしはまだ八千歳くらいじゃから、よくわからんがな。」
「あ、八千歳なんですね。」
まだまだエルフの時間感覚に慣れる日は遠そうだ。
前世ではマイペースって言われるくらいのんびりした性格だったんだがなあ。
「まあそんな事は良いじゃろ。次はこの骨じゃ、ここはひい爺様の右大腿骨でな、ここは右脛じゃ。それでここが……」
マグワートさんの骨解説を小一時間聞いていたが、つまるところ、ハイエルフは余すところなく高級素材という事らしい。
「マグワートさんの杖が素晴らしいのはもう十分に分かりました。それで、王族の遺体、つまり俺は死んだらどうなるんですか?」
「ふむ、まだまだ語りたいところなんじゃが……今日はこのくらいにしておくか。そうじゃなあ、王族の場合は少し複雑でな、最高級の魔法素材なのは間違いないのじゃが、人によってかなり異なるな。」
「どういうことですか?」
「わしらエルフは寿命が長いから、人間のように年功序列じゃとか、敬意の概念は薄いんじゃ。それでも生まれながらにハイエルフである王族には、流石に敬意を払っておるから、市場に流したりといった適当な扱いは出来んのじゃ。」
「なるほど。」
俺としてはこんな見るからにお爺ちゃんなエルフにくん付けで呼ばれてもスルーしていたけど、よく考えると不敬だな。
てことは、コンメリーナさんは確か三千歳とか言ってたのにめちゃめちゃ敬語使ってくれてたのは、珍しい方なのかもしれないな。
「じゃあ例えば、今までの王様の死体はどんなことに利用されているんですか?」
「そうじゃなあ、有名なのは初代国王陛下じゃな。かのお方は10万年ほど生きられたそうなのじゃが、最後に遺言というか、設計図を遺されてな。自らの死体を触媒に、世界樹を守る結界を維持する魔道具を設計なされたのじゃ。じゃから、次代の国王陛下が国の総力をあげてその魔道具を完成させたと伝わっておる。」
「おお、自分の死体を触媒に。」
「ちなみに、今でもその魔道具は稼働しておるぞ。玉座に座ったまま世界樹と一体化し、我らを守護してくださるそのお姿は、エルフならば一度は拝んでおいた方が良いじゃろう。」
「確かにそれは凄そうですね。」
なんか、前世の神話とかでそういう話ありそう。
というか、そういう神社あったような気がする。
ああ、初代様は神様なのか。
10万年も生きたのなら、人間からしたら神様と何も変わらないよな。
いや、エルフからしても神様みたいなものなのかも。
俺やママをくん付けで呼ぶマグワートさんが、終始敬語で話すくらいだもんな。
「その後、初代様の意志を継いだ幾人かの国王も、世界樹の結界の維持に利用されておるよ。今では10名ほどが世界樹に祀られておる。」
「俺もそこに加わるのもアリかもしれませんね。」
「ほっほっほ。まだまだ十歳かそこらじゃろ?まだまだ死んだ後のことなど考えんでええわい。一万年くらい生きてからで間に合うぞ。」
「まあそうかもしれませんね。」
とは言っても、俺は一回死んでいるからな。
それに、前世では結構本気で死にたいとか思ってたし、ついつい考えてしまうんだよな。
もし今の俺が死んだら、歴代の国王たちに並んで世界樹に祀られるんだろうか。
たかだか十五歳のハイエルフじゃあダメか。
それならあと一万年くらいは生きないといかないな。
まあ、今の人生はのんびり生きても誰も文句を言わないどころか、エルフからしたらせっかちな部類だから、一万年くらい生きても苦じゃないだろう。
「さて、まあそんな過去の事などどうでもいいじゃろ。子供は未来のことだけ考えんか。お前さんの杖を作るぞ!」
俺のしんみりした気分を感じ取ったのか、マグワートさんが話を変えてくれた。
なんか、ママもだけど、普段子供っぽいくらいに好きなことしてるのに、時々年長者の気遣いを見せるよな。
ハイエルフって面白い人たちだ。
「そうですね。じゃあ俺の杖は赤竜の宝玉を使ってください。」
「よしきた!今ある在庫だけでは不十分じゃから、明日仕入れてこよう!他に要望はあるか?形とか、色とか。」
「そうですね……。俺はハイエルフですが、ドラゴンの血も入っているので、ドラゴンをモチーフにした杖がいいですね。」
「おお!いいのいいのう!そういうのじゃ!ドラゴンに宝玉を持たせるか!いや、咥えさせてもいいのう!」
「杖にするなら東洋風の龍の方が良さそうですね。でもパパは西洋風の竜だし、迷いますね。」
「東洋ってなんじゃ?」
「あ、えーと、蛇みたいな細長い身体の龍って居ないんですか?」
「おお、そういうやつもおるぞ。海とか月とかにおるドラゴン族じゃな。確かにその方が杖にはしやすそうじゃが、我が国の王子が持つ杖となると難しいかのう。」
「あーやっぱそういうのありますよね。じゃあ杖の先端にドラゴンを乗せるとか?」
「ふむ、宝玉は先端に付けるとして、その上に装飾で乗せるとするか。アレイクス殿をモチーフとするなら、シルバーかプラチナか、スノークリスタルでも良いか?いや、赤竜の魔石と反する属性は流石に使えんか……?」
あれ?ママと俺はくん呼びなのに、パパは殿なんだ。
いや、分かるよ。分かるけど、ふーんなるほどね。
あと、この話はまた小一時間かかりそうな予感がしたので、ここらでお暇しよう。
「あ、じゃあその辺はおまかせって事で。多分そろそろ晩御飯なので、僕は失礼しても良さそうですかね。」
「ん、おお良いぞ。そうじゃな、わしも食事を取るか。杖はまあそこそこかかるから、出来たら連絡するとしよう。」
「わかりました。それじゃあ、お邪魔しました。」
晩御飯の時間なのは嘘じゃ無いと、俺のお腹が告げているのでさっさと退室する。
廊下に出た俺は、トーリアと合流するべく、武具制作室とやらへ向かう事にした。




