21話 杖製作室
「お、この杖製作室っての面白そうじゃないか?」
練兵場から城に入った俺たちは、廊下をブラブラ歩きながら、気になった部屋に顔を出していた。
今俺の目に止まったのは杖製作室と書かれた扉だ。
「ふーん、杖作ってるのかな?行ってみる?」
「おう、行ってみようぜ。」
ノックをしてみると扉の向こうから「どうぞー」と声が聞こえてきた。
扉を開けるとまず目につくのは壁一面に飾られた杖だ。
杖といっても様々だが、ここで作っているのは魔法使いの杖のようだ。
「おー!めっちゃファンタジーじゃん!」
「杖がいっぱいあるー」
「いらっしゃい。おや、君たちはアンジャベルくんのお子さんじゃな。」
「はい。グロリオーサです。」
「アタシはトーリアです!」
「わしはマグワートという名じゃ。杖を作りに来たのかい?」
マグワートと名乗った男性エルフは、真っ白くてフサフサの髭を生やした老エルフだった。
加えて白くて癖のある長髪を後ろに流している姿は、いかにも賢者とか魔法使いが似合う風貌だ。
「いえ、今は城の探検中です。でも、俺たちも杖作って良いんですか?」
「ほっほっほ、探検とは。若いうちは色々見て回るといい。杖を作りたかったらわしに任せてくれ。最高のものを用意しよう。」
「いいんすか!?じゃあ俺、あの壁に飾ってあるような、でっかいのが良いんすけど!」
俺が指差したのは、先端に大きな宝玉を抱えた、俺の身の丈よりも大きい杖だ。
「やっぱ魔法使いになるんだったら、でっかい杖は必須だよな!」
「お兄ちゃんあんなでっかいのが良いの?大きくて邪魔そうだし、重くて持ちにくそう。」
「トーリアはロマンを分かってないなあ。大は小を兼ねると言うじゃないか。それに、古今東西魔法使いといえば大きな杖!これは譲れないね。」
「えー。アタシはあそこの指揮棒みたいな杖の方が良いかな。ポリーハッターみたいじゃん?」
「むむ。その名前を出されると小さい杖を否定できないじゃないか。まあ、否定する必要もないか。とにかく俺は大きいのが好きなんだ。」
「ほっほっほ。グロリオーサくんはエルフの若者らしい考え方じゃな。やはり、皆一度は大きい杖を欲するものじゃよな。」
「ですよね!マグワートさん!」
「素材は何が良いかのう。王子の杖を作るのなら予算もたっぷり出よう、久々に腕によりをかけて作ろうかの!」
「お兄ちゃん、アタシは杖いらないし、他のとこ行ってくるね。」
「そうか、じゃあトーリアの武器が作れるところとか行ったらどうだ?マグワートさん、剣とかそういうの作ってるとこはないんですか?」
「それなら城の裏口を挟んで反対の位置に武具製作室があるぞ。防具も見繕ってもらうといい。」
「ありがとうございます!じゃあお兄ちゃん、また後でね!」
「おう!夕飯の時には戻ってくるんだぞ!」
「それじゃあグロリオーサくん、この椅子に座ってじっくり話し合おうか。まず、杖の素材なんじゃがな……。」
「どんなのがあるんですか?」
「やはり一番は世界樹の枝じゃろうな。」
「世界樹の枝って切っちゃって良いんですか?」
「ダメじゃぞ。世界樹を傷つけたら死刑じゃ。じゃが、世界樹は自然と枝を落とすことがあるんじゃよ。それをわしらは利用させていただいておる。」
「そういうことだったんですね。じゃあそれでお願いします。」
「ほっほっほ!世界樹の枝を使うなら宝玉も良いものでないとな!好きな色は何色じゃ?」
「色ですか?好きなのは赤ですけど。」
「赤じゃな!それなら赤龍の魔石から作った宝玉か、世界樹のリンゴから作ったものでも良さそうじゃな……。」
「ちょ、ちょっと待ってください。好きな色とかで決めて良いんですか?なんかほら、得意な魔法系統とか、適性みたいなものは?」
「そういったものも一応あるが、ハイエルフに得意不得意なぞないから好きに選ぶと良いぞ。」
「あ、そうなんすね。」
ざっくりしてんな、ハイエルフ。
「あと、赤龍ってパパ、じゃなくて竜王陛下と同種のドラゴン族ですよね。魔石なんか使っちゃっちゃって良いんですか?」
「全てのドラゴンがエルフと友好的な訳ではないでな、討伐する事も稀にあるぞ。それに、普通に死んだドラゴンの素材は市場に出回るんじゃ。」
「それ、遺族とかが止めないんですか?」
「なんでじゃ?」
「え?いや、死体を素材みたいに扱うのって、色々うるさいでしょう?」
「魂が成仏した後の抜け殻にどうこう言うやつは居らんじゃろ。むしろ、故人の遺したものはきちんと活用せんとあの世から怒られるわい。」
「な、なるほど。」
つまりこういう事かな?
この世界では魂の存在は広く認知されていて、魂が成仏した時点でその人はもうこの世に居ないと。
だから抜け殻である死体は故人そのものではなく、故人の遺産という扱いなのかな?
死体を素材として切り売りするのは、遺産分配みたいなものってことだろうか。
合っている自信はないが、この世界では死体よりも魂の方が重要そうなのは分かった。
前世だったら到底受け入れられないんだろうな。
「それにじゃな、ドラゴンみたいな全身が魔法素材みたいな生き物、ただ土に埋めるのは勿体無いじゃろう!」
あ、そっちが本音みたいっすね。
「あれ?エルフが死んだ場合は、どういう葬式をするんですか?」
「普通のエルフの場合は、知り合いが集まって魂が成仏したことを確認した後、国の守護竜たちが喰らって糧とするぞ。」
「食べちゃうんですね。」
前世でも鳥葬ってあったし、名付けるなら竜葬かな?
「普通のエルフって事は、ハイエルフはどうなるんですか?」
「エルフから進化したハイエルフはドラゴン族と同様じゃ。素材として使われておる。わしの杖も、わしのひい爺様の遺骨で作った杖じゃぞ。」
壁に掛けているどれかを取りに行くのかと思ったら、マグワートさんが座ったまま手を突き出した。
人差し指に着けている指輪に魔力が流れたかと思ったら、その手の中に杖が出現した。
ちょ、そのひい爺様の杖も気になるけど、指輪から杖が出てきた事も気になるんすけど!
なにそのオシャレアイテム!
「ちょ!その杖、今指輪から出てきましたよね!どうなってるんですか!?」
「な、なんじゃ?今からこの杖の素晴らしさを説明しようと思っておったのに……。まあよいか、これは武器をひとつ仕舞っておくだけのよくある指輪じゃよ。見るのは初めてか?」
「よくあるんすか!?みんな持ってるって事っすか!」
「まあ、基本的にはそうじゃな。大して魔力を使わんし、人間も使っとるじゃろ。近衛兵団なんぞは、すぐ抜けるように帯剣しておるがな。」
「おおおお!俺も欲しい!」
「なんじゃ、変なところに食いつくのう王子さんは。まあアンジャベルくんも変わったところがあったし、血筋かのう。」
確かに自分でもなんでこんな食いついてんのか分かんないけど、指輪から武器出てくるのかっこよすぎないか!?
前世では指輪なんて邪魔だと思ってたけど、この世界ではちゃんと意味があるみたいだし、今世ではジャラジャラさせてみても良いかもしれないな。
指輪から武器が出てくるし、ネックレスや腕輪から鎧が出てきます。靴もアンクレットに収納出来るので、この世界は割と土禁です。
寒い日に厚着をすると、店に入ったら暖房が効きすぎてて、上着が邪魔になりますよね。
あれも、収納できます。現実に欲しい。




