表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/55

2話 エルフママの胎内授業

「さて、じゃあまずは、あなたに外の世界を見せてあげるわね。」


「まだ胎児なのにどうやって見るんですか?」


「今やってる念話と同じよ。音だけじゃなくて、私が目で見た映像も送るだけ。ほいっと。」


アンジャベルさん、もといママがそう言い終わると同時に、急に頭の中に映像が流れ込んできた。

頭っていうか魂の中かな。

まるで自分の目で見ているような、どちらかというとVRゴーグルで見てるような感覚だ。


「どう?ちゃんと見えてる?」


「うん。ここは、森の中?」


「そうよ!ここが我が家よー」


目に映るのは森の中に切り開かれた広い空き地に、地面に直接机やベッドが置かれた光景だ。

地面にベタ置きの木箱とか、地面にベタ置きのクローゼットとか、地面にベタ置きの調理台とか……。

これは、なんというか……


「エルフって原始人なの?」


「失礼ね!エルフはこの世界でも最先端の魔法技術を誇る、50万年不敗の最強種よ!」


「そんなに歴史があるのに、こんな床も壁も無い、ズボラなマ〇ンクラフトみたいな家に住んでるの?」


「床と壁はちゃんとあるじゃない!ほら見てあそこ!結界の境目が見えるでしょ!」


そう言ってママが視線を動かすと、送られてくる映像も動いて、目的の場所が俺にも見える。

地面に生える雑草が不自然に途切れていて、地面に段差が出来ている。

よく見ると、家(と呼べるかは怪しいが)の中は草が一本も生えてない上に、地面が固められてるように見える。


「確かに何かの境界が見えるね。あそこに結界の壁があるの?」


「そうよ!私たち家族と許可した数人、それと空気と光だけ通す結界ね。虫も魔物も1匹も通さないし、気温も調節してくれる優れものよ!」


「なにそれすっご!我が家最高!」


「でしょお!もちろん、私が作った結界よ!」


「ママすごい!」


「ふふん!もっと褒めていいわよ!なんたって私はエルフいちの天才魔法使いだからね!」


「よっ!日本一!いや、異世界一!」


そうやって二人で盛り上がっていると、不意に知らない男性の声が聞こえてきた。


「一人でなにを盛り上がってるんだい?」


「あ、アレイクス!」


そう言って、ママが振り返った先に居たのは、なんと、真っ白いドラゴンだった。


四足歩行の西洋風のドラゴンだ。

龍じゃなくて竜の方だ。

頭には二本の立派なツノが、後ろに流れるように生えていて、メチャクチャかっこいい!


「うおおおおお!ドラゴンじゃん!」


あまりにもかっこよくて神々しい白竜に、俺は思わず歓声をあげた。


「おかえり、アレイクス。」


「ああ、ただいま。ところで、今聞こえた声は、もしかして?」


「そうよ。今の声は私たちの息子の魂の声よ。」


「やっぱりそうか。元気で若い魂のようだね。」


「えっと、もしかして俺の声が聞こえてるんですか?」


「ああ、聞こえているよ。アンが念話を外に飛ばしてくれているからね。はじめまして、息子よ。」


「は、はじめまして。えーと、アレイクスさん?」


「うん。これからよろしく頼むよ。」


そういって、白竜は軽く頭を下げて、挨拶してくれた。

口が少し開いてるのは、多分、微笑んでくれたんだと思う。

というか、デカすぎて表情とかよく見えない。

口を開いたらママが縦に入れそうな大きさだ。

背中に乗って飛んだら気持ち良いんだろうな。


「じゃあ、アレイクスも帰ってきたし、晩御飯にしましょうか。リーヴィア!リーヴェン!ご飯の準備するわよー!」


「あれ、まだ家族がいるの?俺のお兄ちゃん?」


「違うわよ。あの二人は私たちの従者よ。」


おお、そういえばママは女王様なんだった。

いや、あれ?女王様って森の中に住んでるのか?

もしかして、自称女王様のマッドサイエンティストなんじゃ……。

いや、マッドウィザードか。


ズボ!ズボ!


「お呼びですか女王陛下」

「お呼びですか女王陛下」


えっ……。今、地面から子供が出てきた……。

しかも頭からでけえ葉っぱ生えてる……。


「ママ、この子たちはナニ?エルフじゃないよね?」


「ああ、あなたの世界には居ないのか。この子たちはドライアドって種族よ。私たちエルフとは、同じ世界樹を母とする親戚ってところかしら。」


「ドライアド……。」


ドライアドちゃん達は、肌は白くて、身長は小学一年生くらい。

少し眠そうな、ぼーっとした顔をしている。

しかし一番の特徴は、頭のてっぺんから生えてるデカい葉っぱだろう。


「はじめまして、王子殿下。私は女王陛下付きの従者、ベイルリーヴィアです。よろしくです。」


ママ付きのドライアドさんはベイルリーヴィアと言うらしい。

頭の葉っぱが大きな一枚でピ〇ミンみたいだ。


「はじめまして。私は竜王陛下付きの従者、ベイルリーヴェンです。」


アレイクスさん付きのドライアドさんはベイルリーヴェンか。

頭の葉っぱは細いのが二枚で、アレイクスさんの角みたいだな。


「はじめまして。そのうち王子として生まれてくる者です。名前はまだないです。」


そんな風に挨拶を交わしていると、アレイクスさんがなんかでっかい猪を引き摺ってきた。


「今日はイベリコボアを獲って来たよ。」


「やるじゃない!じゃあ今日は猪鍋にしようかしら。」


「僕はとんかつと生姜焼きも食べたいな。」


「「かしこまりました。」」


なんかみんなで仲良く料理を始めてしまった。

肉体がない俺は見てる事しか出来ないのだ。

暇だし聞きたい事色々聞こうかな。


「ねえ、ママ。質問していい?」


「いいわよー。何が知りたいの?」


「まずは、エルフとドラゴンでどうやって子供が出来たのか聞きたかったんだけど、その前に、そこにいる白髪の男の人は誰?」


俺は魂の中でママの目の前にいる男性を指差す。

白髪で白い肌のイケメン青年だ。

おでこから角が生えてて、おしりから尻尾が生えてるし、背中には翼もある。


「誰って、パパよ?アレイクス。」


「そうか、ドラゴンって人型になれるんだ。これでどうやって子供を作ったのかは納得できたよ。」


体の大きさが違いすぎて、物理的に無理そうだもんね。


「ドラゴンがみんな人型に変化出来るわけじゃないわよ?大体のドラゴンは、ドラゴンの身体のまま小さくなって、幻影魔法で人型に見せてるだけ。でも、アレイクスはちゃんと、身体の組成を人型に組み替えてるのよ!だから、エルフの私とも愛し合えるってわけ!アレイクスは特別なのよ!」


「そうなんだ。アレイクスさんは凄いドラゴンなんですね。」


「ハハハ。こう見えてもこの国の守護竜王だからね。そんな事より息子よ、アンジャベルのことはママと呼ぶのかい?僕のこともパパと呼んで欲しいな。」


「じゃあ、これからパパって呼ばせて貰いますね。あ、いや、呼ぶね。」


「うんうん。パパって響きがいいね。」


「ねえ、パパが言ってた守護竜王ってなに?」


「守護竜王というのはね、このアルフヘイム連合王国を守護するドラゴン族やワイバーンの纏め役だね。」


「てことはママの部下ってこと?」


「いや、アンの部下というわけじゃないね。対等な立場だよ。共に国を守り、世界樹を守る者だからね。」


「そうね。互いに要請は出せるけど、命令は出来ないわ。」


「そうなんだね。それじゃあ次は、その世界樹ってのを教えて。」


「世界樹というのはあそこに見える大きな木のことだよ。」


人化したパパが指差した方を見ると、遠くの方に大きな木が見えた。

富士山みたいな感じだな。


「世界樹はアン達エルフや、リーヴェン達ドライアド、それと全ての植物の生みの親と言われているね。」


「へー凄いんだね。」


人間で言うアダムとイブみたいなもんかな。


「てことは、エルフって植物なの?」


「違うわよ。世界樹の因子を受け継いだ人間って感じかしら?ちなみに、火山の因子を受け継いだのがドワーフで、獣の因子を受け継いだのが獣人族よ。魔族ってのもいるけど、あいつらは何の因子なんだか分かんないのよね。その他を魔族って一纏めに呼んでる感じよ。」


「ふーん、いっぱい居るんだねー。」


「あんた、自分で聞いといて興味なくしたわね。」


「そ、そんな事ないよ?ちょっと説明パート飽きたなんて思ってないよ。」


「ふーん?まあちょうど出来上がったし、続きはご飯食べてからね。」


いつのまにテーブルの上には大量の料理が並べられていた。

猪鍋をメインに冷しゃぶサラダ、とんかつ、生姜焼き、ポークステーキ、ハンバーグ……、って肉ばっかりだな。


ああ、パパはドラゴンだし肉が好きなのかな?


ドライアド二人の前には大盛りサラダが置いてあるし。


めっちゃ美味そうだな、お腹空いてきた。

って、あれ?

俺、ご飯食べられなくね?

え、俺見てるだけ?


「ねえママ、俺、見てるだけかな?これ。」


「あ、味覚も共有する?やれると思うわよ。」


「出来るの!?する!やって!」


「ちょっと待ってね。ここをこうして、こうなって……」


ママが目の前に魔法陣を浮かせて、なんかグリグリいじってる。

黒電話のダイヤル回すみたいな風情があるな。


「よし!これで多分、味も感じられるようになったわ!」


「ありがとう!」


「それじゃあ!いただきます!」


「「「いただきます。」」」


「味わいます。」


「じゃあまずは鍋のスープを飲むわよ。」


おおおお、急に味がやってきた!

うまい!

あのデカい猪の出汁が出てて最高!


「お次はお肉ちゃーん。あむ、もぐ。」


肉の味が魂に直接響くぅー!

めちゃめちゃ美味しい!

けど……。


「肉の出汁が染み込んだ白菜が最高ね!」


うん、最高に美味しいねママ。

美味しいんだけどね、美味しいからこそかな……


「ママ、味覚は共有しなくていいかも。」


「え?なんで?美味しくなかった?」


「いや、美味しかったんだけど。味だけ感じるのに、匂いも食感も、何よりお腹に溜まる感触が無いのが虚しい。」


「そ、そう……。」


「ご飯は産まれるまで我慢するね。」


「わ、わかったわ。ごめんね?」


「ううん大丈夫……。」


……こんな美味そうな料理が目の前にあるのに!

パパがあんなに美味そうに肉を頬張ってるのに!

なんて酷い飯テロだよ!

産まれたら絶対に腹一杯ご飯食ってやる!


この時の俺は忘れていた。

産まれたばかりの赤子は、固形物を食べれないことを。

ましてや。脂っこい肉なんて当分食べられないということを!!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ