14話 今日も狩り!
「「ただいまー!」」
「帰ったわよアレイクス。」
「お、おかえり。初めての狩りはどうだった?」
「狩りっていうか、木こりだったね。」
「木ばっかり倒したもんね。」
「はっはっは。まあ何はともあれ、怪我が無かったなら何よりだ。」
「でも今日は肉になる魔物に出会えなかったから、夕食が寂しいわね。」
そう、今日はヴィラントレントしか倒してないから、肉は獲れてないからね。
いつもパパが獲ってくる魔物は大きいんだけど、パパがその日の内に食べ尽くしちゃうから、ほとんど残らないんだ。
という事で野菜だけの晩御飯だ。
「そういえばさ、ヴィラントレントは魔力を吸うとか言ってたけど、全然吸われなかったよな。」
「そもそも根っこも脆いし、全然歯応えなかったよね。」
「それはあなた達がハイエルフとドラゴンの子供だからよ。普通の人間なら根っこに締め付けられたら骨くらいは折れるし、魔力を吸われて動けなくなる魔物よ。」
「え!そんな危険な魔物に捕まってこいって言ったの!?」
「でも平気だったでしょ?エルフの魔力量で大丈夫なんだから、あなたたちなら大丈夫よ。」
「それはそうだけどさー。」
「アンはもう少し慎重になった方がいいね。」
「やっぱパパもそう思うよね!」
「アタシは別にあれくらいなら良いけど。」
「トーリアはママの味方よねえ。」
「明日はもう少し強いやつと戦いたいな。」
「まあそれには俺も同意するけど。てか食べられる奴がいい。」
「そうだねえ、明日は僕も離れたところで肉を狩って来ようかな。いつもより大きいやつが居たら嬉しいんだけど。」
「野菜だけだとやっぱり寂しいよね。」
―――――――――――
というわけで今日は昨日よりも森の深いところまでやって来た。
この先に川が流れてて、その付近には動物系の魔物が生息しているらしい。
「この辺だとどんな魔物が美味しいの?」
「そうねえ、川のそばならフライングシュリンプと騒ガニが美味しいわね。普通に牛や鹿が水飲んでたりもするわね。この辺の魔物はパパが近づくと隠れちゃうから、あまり食べられないのよね。」
「そういえば、パパよりママの方が魔力が多いけど、ママは近づいても平気なの?」
「私は魔力を遮断する結界を纏ってるからね。でもドラゴン族はこの魔法使えないみたいなのよね。だから、パパの魔力はいつもバリバリ流れてるわ。」
「ふーんそうなんだ。俺とトーリアは?」
「あんた達は量はそこそこだけど、魔力が若いから魔物が逃げる程じゃないわね。むしろ舐められて襲われるわよ。」
「魔力に若いとかあんの?」
「あるわよー。私はまだピチピチのアラセンだけど、一万歳越えたおっさんの魔力なんてカサカサよ。」
「ママが何言ってんのかわかんねえ。」
「アラセンってアラウンド千ってこと?」
「そうそう。トーリア正解よ。」
「なんで分かるんだトーリアは。」
「お兄ちゃんは頭が固いんだよ。」
「トーリアは柔軟すぎるよ。」
ダラダラ喋りながら歩いていると、木々が開けて小川が見えてきた。
日本じゃ見られない穏やかな川だ。
「おおー綺麗なところだなあ。」
「家がちゃんとしてたら、ここでキャンプとかしたくなるんだろうね。」
「そうだなあ。我が家は毎日がキャンプみたいなものだからな。」
「テントもないからキャンプでもないね。」
「あんな機能的な家のどこが不満なのよ。」
「いやあ、機能的なのは認めるよ?気温は一定で雨も風も虫も入ってこないし。」
「でもやっぱり壁は欲しいなって思うよ、ママ。毎晩ママとパパのイチャイチャを見せられるアタシたちの身にもなってよ。」
「良いじゃない減るもんじゃないし。」
「むしろ増えるんだよ、こう、モヤモヤが。」
「よく分かんないわね。」
「……これは何言ってもダメそうだね、お兄ちゃん。」
「……まあわかってはいたけどな。」
そのとき、ザッパァ!と川から何かが浮かび上がった。
「お、出たわね。あれがフライングシュリンプよ。」
遅れて振り向いた俺たちの目に映ったのは、赤い甲殻と黄色い衣。
その姿はまるで……
「エビフライじゃん!」
「エビフライが浮かんでる!」
「あれが美味しいのよー。」
いや!そりゃ美味しいだろうね!
あれじゃあフライングじゃなくてフライドシュリンプじゃねえか!
いいのか?トレントの次に倒すのがこんなので良いのか!?
「魔石の位置は頭よ!ちゃんと食べるところは残しなさいよね!」
「お兄ちゃんやっちゃえ!」
「あ、俺!?えーと、小さめキャノン!」
食べるところが残るように、俺は小さめの弾丸を一発発射した。
それは真っ直ぐエビフライの頭に向かって、頭に当たる直前に不自然に曲がって外れた。
「あれ?なんかミスったかな?」
「今のはフライングシュリンプの重力魔法の影響よ。」
ママが言うには、エビフライ(フライングシュリンプ)は、重力魔法で飛んでいるらしい。
その間、奴の周囲1メートルは奴の重力魔法の影響下にあり、弾丸のような実態を持つ飛来物を逸らすことができるらしい。
「俺の魔法、相性最悪じゃん!」
帰ったら物理じゃない魔法も覚えないといけないな。
反撃とばかりにエビフライが勢いよく水の弾を放出してきた。
「ふふーん。既に爆発防御結界を纏っているからな。飛び道具は効かないんだぜ!」
結界を身に纏っている俺は、目の前に迫る水弾を仁王立ちで受け止めて……
ボガァン!!
「うぎゃあ!うるせえ!」
俺の顔面に着弾した水弾は、想定通りに爆発防御結界が発動して弾き飛ばされた。
しかし、目の前で爆発が起こったせいで、俺はその爆音と閃光をモロに浴びてしまった。
「ぐおお……目がぁ……」
「何やってるのお兄ちゃん……」
「あら、あの魔法は自分から離れたところに張った方が良さそうね。」
「じゃあ次アタシがやるね!行くよー!」
俺はしぱしぱする目を凝らしてトーリアの動きを追う。
勢いよく飛び出したトーリアが、エビの頭に急接近して爪を一回振るうと、頭が斬り落とされた。
「あれ?なんか倒せちゃった。」
「重力魔法があるとか言ってなかった?トーリアは普通に飛べるの?」
「ドラゴン族の鱗には、他者の魔力を散らす効果があるのよ。トーリアにもその力があるのね。」
「あ、鱗なら出せるよ!こう、力を込めるとね……」
そう言ってトーリアが腰を落としてグッと力を込めると、全身に白銀色の鱗が現れた。
あ、こら、ガニ股になるのはやめなさい。女の子なんだから。
「おお、かっこいいな!それが竜人の本気って事か!」
「凄いわねトーリア!魔力が迸ってるわよ!トーリアと知らなかったらドラゴン族と間違えられるんじゃないかしら?」
「えへへ。ありがとう!この格好になると、いつもより力が出せるんだ!」
いやあかっこいいなトーリア。自慢の妹だ!
白銀の鱗を纏って、翼を羽ばたかせて、尻尾を揺らして……
あとはツノがもっと伸びたら、竜のときのパパと遜色ないな。
ジャバジャバ……ガチャガチャ……
「お、なんだ?何の音だ?」
「お次は騒ガニね!騒がしくなってきたわよ!」
ガン!ガン!ガン!ガン!
「爪を叩き合わせて鳴らしてるのか。確かに騒がしい蟹だ。」
「楽しそうな蟹だね。」
「ちゃんとリズム感あるな、この蟹。」
ガンガン鳴らしながら広がっていく蟹たち。
眺めていたらいつの間にか10匹くらいに囲まれてしまった。
「ママ、こいつらはどうやって倒せば美味しい?」
「そうねえ、殻が硬いから難しいのよね。弱いと弾かれちゃうし、強いと砕けちゃうし。」
「とりあえず殴ってみていい?」
「好きにやっていいわよー。」
「うおりゃあー!」
トーリアはいつの間にか武闘派になってるな。
前世で日本の女子高生だったとは思えないこと言ってるんだけど。
スケバンでも殴る前に「どこ見てんだぁ?」とかワンクッションあるだろ。
トーリアが殴りかかったが、狙われた騒ガニは爪で顔を隠して縮こまった。
トーリアの拳は甲羅を砕くには至らず、弾かれてしまう。
ならばと爪で切りかかるが、薄く傷を付けるだけに終わる。
「うーん、思ったより硬いね、この甲羅。」
「俺もとりあえず撃ってみるか、キャノン!」
ガァン!と弾かれて空の彼方に飛んでいった。
「本当に硬いな。流石、いつも甲羅を叩いてるだけある。」
「うーん、こいつらはしっかり身を残しておきたいし、私がやりましょうか。」
「ママだったらどうやって倒すの?前に見せてくれた風の刃で真っ二つにするとか?」
「風絶一刀?ああいう風で斬るのは、食材には使いたくないのよね。」
「そうなの?なんで?」
「風だけで硬いものを斬るのって、私からしても馬鹿みたいに魔力を使うのよ。だから風で砂とか砂鉄とかを擦り付けて削り斬るのよ。」
「あー、切り口に砂が残っちゃうのか。」
「そういうことよ。だから今回は、窒息させるわ。」
「またママが怖い魔法使おうとしてるよ。」
「血液を操るとか言わないだけマシだね。」
「魔法の勉強になるから、ちゃんと見ときなさいよ。まずはドーナツ状の結界で、あいつらだけを囲うのよ。この時、ちゃんと空気を遮断して密閉するのよ。
「サラッと言うけど、帰ったら空気を遮断するやり方教えてね。」
「もちろんよ!それで、囲ったら結界内の空気に魔力を送ってね、酸素を操って結界の上の方に集めるのよ。これだけで飛べない奴は窒息するわ。結界外に酸素を転移させたら確実だけど、今は魔力の無駄だからやらないわ。」
「サラサラッと習ってない事連発されてもわかんないよママ。」
「アタシも魔法はよく分かんない。」
「トーリアはパパから教わってないの?」
「飛び方とか爪に魔力を纏わせたりとかは教えてもらったよ。」
「あらもったいない。多分パパと一緒で雷魔法が得意だと思うわよ。」
「雷かあ……。じゃあアタシは魔法はいいかなあ……。」
「えーなんでよ。かっこいいじゃない雷。」
「まあ、覚えたくなったら覚えるよ。」
トーリアは雷で打たれて死んだからなあ。
雷苦手になっても仕方ない。
「それより、この蟹達もう動いてないよ、ママ。」
「あら、じゃあポーチにしまっちゃうわね。」
ママが指を振って魔力を放出すると、騒ガニがふわふわ飛んで、ママの腰のポーチに吸い込まれていく。
「その魔法ポーチ、俺も欲しいから作り方教えてくれる?」
「いいわよ。帰ったらやる事が沢山ね。」
「じゃあ今日はこのくらいで、早めに帰ろうか。」
「えーアタシはもう少し遊びたーい。」
ひと狩り終わって、俺たちはそんなことを言って気を抜いていた、その時。
「ガオオオオオオオッ!!!!!」
野太い獣の咆哮が響き渡る。
それは川の向こう、森の中から聞こえてきた。
ドドッ……ドドッ……と足音が近づいてくる。
「うわっ、なに今の声。」
「なんか強そうじゃない?お兄ちゃん。」
「今のはまさか……。二人とも、気を引き締めなさい。結構強いのが来るわよ。」
いつになく真面目な顔で、ママが言う。
「どうしたの急に。そんなにヤバいの?」
「今のがあの魔物の咆哮なら、あなた達を庇いながら倒せる相手じゃないわ。」
「えっ、そんなに?」
「強敵登場ってこと!?腕が鳴るね!お兄ちゃん!」
「そうね、あなた達も手伝ってちょうだい。でも、油断はしないでね。」
「わかった。気を引き締めるね。」
「昨日も敵が弱かったから不満だったんだよね。アタシの力を試す時がきたね!」
果たして、森から飛び出してきた魔物とは……。




