10話 魔法は1日にしてならず
初めて魔法を使った翌日。
「今日は昨日の魔法を無詠唱で使う練習よ。」
「そんないきなり使えるの?無詠唱って。」
「出来るんじゃない?私はその日の内に出来たわよ。まあ私は天才だけど、ハイエルフならそんなに難しくないはずよ。」
「ふーん。ちなみにどうやってやるの?」
「昨日撃った魔法を無詠唱でやるだけよ。」
あ、これあれだ、ママって天才肌だ。
それで出来たら苦労しないよってなるやつだ。
「とりあえずやってみるよ。」
昨日は、こう、手に魔力を集めて、んで、んで……。
「どうやったら魔法になるのこれ……。」
「分からなかったら、詠唱して魔法を使って、その感覚を覚えなさい。それを無言で真似するのよ。」
「『起こすは火。我が力のひとつでもって、突き進め。フレイムボール。』」
詠唱が終わると俺の右手から、直径1メートルの火球が放たれて、ママが斬った大岩に当たって爆ぜる。
それで無詠唱でこれを真似する、と。
うーん、なんか、右手に集めた魔力を、どうやったら火になるのかがよく分からない。
「あ、そうそう。普通は四つの魔法を撃ち比べて、各属性への魔力の変換の仕方を覚えるんだったわね。あと三つ撃ってみなさい。」
「なるほど。えーっと水は、『流れるは水。我が力のひとつでもって、突き進め。ウォーターボール。』」
直径1メートルの水球が真っ直ぐ飛んでいき、大岩に当たって弾けて、大岩が水浸しになる。
「んで風が、『吹きつけるは風。我が力のひとつでもって、突き進め。ウィンドボール。』」
昨日も使った、見えない風の球が飛んでいく地味魔法。
濡れた大岩を乾かした。
「最後に土が『踏みつけるは土。我が力のひとつでもって、突き進め。アースボール。』」
これは、直径1メートルの乾いた泥団子だな。
大岩に当たって粉々に砕けた。
なるほどこれは初心者用だ。
この四つの中でフレイムボールだけが危険過ぎる。
1メートルの泥団子も当たったら痛そうだけど。
「確かに、四つとも魔力の感じが違う。上手く言葉にできないけど、違うのはわかった。」
「あとはそれを再現するだけよ。」
ママは簡単に言うけど、それが難しいんだよね。
プロ野球選手だって、ボールに合わせてバット振ってるだけだよ。
でもそれを再現できないからプロなんだよね。
「うーん、こう?違うな、こう……。」
「グロウは時間かかりそうね。トーリアは自分の中の魔力わかった?」
「うーん、なんとなく、分かったような分かんないような。」
「ふむ。まあ二人とものんびり練習しなさい。エルフの格言でね、大抵のことは100年やったら出来るようになるから。」
「それ格言なの?あとスケールデカすぎ。」
エルフとんでもねえな。
人間が100年練習したら死んじゃうよ。
あと、寿命長い影響なのか、ちゃんとコツコツ積み重ねるんだね。
でも考えてみれば、サボるにしても、100年間ずっとはサボっていられないか。
時々サボりながらでも、100年積み重ねれば結構な量だもんな。
「じゃあ私は異世界覗いて今週のジ〇ンプ読んでるわ。」
「行ってらっしゃーい。」
――――――――――――
さらに次の日。
「昨日は結局諦めて、魔力操作の訓練してたし、今日は成功させたいな。」
魔力操作だって、まだ細胞を支配する事も出来てない。
目標の分子を支配するってどんだけ先なんだろ。
今は腕とか胴とか、大雑把に支配してるけど、こんなんじゃ血液操られて血管破裂させられちゃう。
せっかく転生したのにそんな死に方は絶対に嫌だ。
「『起こすは火。我が力のひとつでもって、突き進め。フレイムボール。』」
火球が手の先から飛んで行って大岩に当たって爆ぜる。
「んで、これを再現する、と。ふぬぬぬ……。」
お、なんかいけそうかも!
ボッと手の先に火球が出てきた……けどデカすぎ!
直径三メートルくらいある火球になっちゃった!
「ママ!これ!どうしたらいい!?」
「おーおっきくなったわねえ。」
「久しぶりに会った親戚か!じゃなくて!撃って良いのこれ!?」
「私が消火してあげるから大丈夫よ。」
「良いんだね!頼んだよ!」
直径三メートルの大火球が飛んで行って、大岩にぶつかって炎が弾けた。
かと思ったら、弾けた炎は見えない壁に当たって、飛び散ることはなかった。
そしてそのまま、周りへの被害は無く鎮火した。
「今のは、ママが結界を張ってくれたの?」
「そうよー。あれくらいなんて事ないから、バンバン撃ちなさい。むしろ、火球を手元に置いておく方が危ないわ。」
「確かに、めっちゃ熱かった。よし、この調子でバンバン撃とう!」
そうして俺が火球をバンバン放っていると、トーリアも自分の魔力を掴めたようだ。
「ママ、魔力を動かすってこんな感じ?」
「そうそう!よく出来たわね!」
「えへへー。お兄ちゃんがずっと魔力を動かしてるから、なんとなく分かったの。」
「他人が魔法を使ってるところを見るのも大切よ。言われなくてもそれを実践出来るなんて偉いわね。」
「えへへー!ママいっぱい褒めてくれる!」
「ママー、俺も褒められて伸びるタイプ!」
「ふふふ、グロウもよく出来てるわよー。もう火球の大きさを調節出来るようになってるわね。偉いわよ。」
「こんな甘々授業ならいくらでも出来るよ。」
「じゃあ次のステップに行きましょうか。グロウは火球の軌道を曲げてみて。トーリアはグロウがやってた無詠唱を練習しましょうか。」
「はーいママ。」
「無詠唱難しそうだなあ。これ無詠唱じゃないとダメなの?」
「うーん、ダメじゃないけど、実践でいちいち詠唱なんてしてる暇ないのよ。人間や獣人はあまり放出系の魔法が得意じゃない種族だから、詠唱してる魔法使いが多いけどね。」
「確かに、戦ってる時に喋ったら舌べろ噛んじゃいそうだよ。」
「まあその代わり、人間や獣人は魔力を体内で扱うことに長けててね。肉体強化系の魔法を扱うのは、エルフよりも優れているわよ。剣術や槍術は、人間や獣人の道場がエルフの国にもあるわ。」
「剣!アタシ、剣も使ってみたいかも!」
「剣かあ。使えたらかっこいいんだろうけど、俺、前世で武術系の授業全然ダメだったんだよな。そもそも運動神経がない。」
「え、お兄ちゃん体育ダメだったの?」
「全然ダメだったよ。背はそれなりに高かったから、運動できると思われがちだったんだけど。50メートル走は8秒台だよ。」
「えっ……。アタシより遅い……。」
「だろうね。みんなその反応する。」
「へー意外。お兄ちゃん運動出来そうなのに。」
「うん、みんなそうやって言うね。でも出来ないんだなこれが。柔道も剣道も、相手の隙とか全くわかんなくて、いつ仕掛けても防がれるのに、俺は全く防げないで倒されるんだよね。」
「ふーん。アタシは運動得意だったからよく分かんないや。」
「じゃあ二人がもう少し大きくなったら、パパに剣を教わりましょうか。」
「ママ、今の話聞いてた?俺は剣とか出来ないと思うんだけど。」
「あら、あなたこそ、私が言ったこと忘れたの?大抵のことは100年やったら出来るようになるものよ。」
「そういえばそんなこと言ってたね。そこまで言うなら10年くらいはやってみようかな。」
「そうそう。少しずつでも10年やったら様になるものよ。エルフにだって凄腕の剣士は多いのよ。」
「へーそうなんだ。エルフって魔法か弓を使ってるイメージだった。」
「まあ、剣士より魔法使いと弓使いの方が圧倒的に多いのは事実ね。」
「なんかそれ、後衛職ばっかで、戦争とか起こったら大丈夫なの?」
「大丈夫よ。過去の戦争ではドワーフとの共同戦線を張る事が多かったそうだし。仮にドワーフが居なくても、私たちの軍団防御結界を破れる相手なんてそうそう居ないから。」
「それ、油断してやられるパターンのやつじゃ……。」
「まあ国全体を見たら油断はあるでしょうね。50万年不敗だし。でも負けてないだけで痛い目は見てるから、ちゃんと軍事の研究も続いてるし、大丈夫よ。それに、あまり多くを望むものじゃないわ。」
「なんかママが王様みたいなこと言ってる。」
「ね、たまに思い出すよねママ。」
「失礼ねあんたたち!不敬よ不敬!国でやったら重罪なんだからね!国に帰ったらお母様とお呼……ばないで。ずっとママって呼んで欲しいわ。」
「ふふふ、承知致しました。お母様。」
「ふけーをおゆるしください。おかあさま。」
「ああ!やめて!ママって呼んで!」
「やあ、魔法の練習は順調かな?」
「あ!パパ!おかえりなさい。お母様に教わって無詠唱でフレイムボールを撃てるようになったよ。」
「私もおかあさまのお陰で魔力を掴めたよ。」
「お母様?急にどうしたんだい?」
「なんか国に帰ったらお母様とお呼びってお母様が。」
「ち、ちがうの。いや違わないけど。大臣たちは黙らせるから、ママって呼んでよお願いだから!」
「今日は一日お母様とお呼びさせていただきます。先程の無礼をお許しください。」
「おゆるしください。おかあさま。」
「なるほどそういうことか。ふふ。アンジャベル国王陛下、本日の狩りの成果です。どうぞお納めください。」
「ちょっと!アレイクスまでやめてよ!やだ!寂しい!アンって呼んで!ママって呼んで!」
「ふふふ、ごめんごめん。アン、ご飯を作ろうか。」
「ごめんねママ。ちょっと面白かったから。」
「ごめんね、ママ!アタシもちゃんとママって呼ぶよ!」
「もう!みんなイジワルなんだから!今日は私の好きなものを作るわよ!」
「わかったよ。君の好きなものを食べよう。」
「いつもみんなの食べたいものを作ってるけどね。」
「お兄ちゃん、そういう事は言わないの。」
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