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双子の行方

6st東、獣人の大国ガウディオにて故郷であるセントーレと身内であるクレイドル達の大量死の事実を耳にしたのは、ノーマン=a=クレイドルとリサ=e=クレイドルにとって寝耳に水だった、事が起こってから2日もの時が過ぎた時の事だった


ガウディオとクレイドルははるか昔から交流があり、ノーマンとリサは大使として、長期滞在の途中だった。

他にクレイドルは二人、ノーマンとリサの手伝いで双子のセレク=w=クレイドルとクレセ=g=クレイドルのみだった

残された4人は聞いた話に狼狽し、涙した、しかしそれだけでは納得が行かず、4人は危険を承知でセントーレまで赴く


そこで未だ煙のあがる故郷を目にして絶望するのであった


負の感情に慣れない4人は込み上げる、悲しみや、憎しみ、怒りに戸惑い、嘆くが生き残りがいるという情報を小耳に挟み、ノーマン、リサのみ5stに向かう


しかし5stの人間の大国ニゲル帝国のスラム街で、生き残りのクレイドル達の足取りは途絶えしまう、もともと奴隷文化があるニゲル帝国では、5stに住まう多くの精霊人達を奴隷として支配していたため、たかだか十数人のクレイドル達の行方を追うにはあまりにも情報が混雑しすぎていたのだ

ノーマンとリサはやむ無く探索を一度諦め一度ガウディオに戻り今後についてガウディオの王と話をすることとした


当時のガウディオ王は若き金色の獅子の獣人ルズミ=シシ=ガウディオと言った

若いが11ある州や多種多様の獣人達をよく束ね、活力ある政治を行っていた


帰宅するとルズミはすでにクレイドル達の方針を定めていてくれた


「クレイドル達には1州における貴族の地位と城を手配する、他国からのいかなる干渉からも我等がお守りすると約束しよう」


その言葉にノーマンとリサが驚く

「貴族の地位なんて…そんな…いけません」

「いくら精霊人といえど精霊人に権を与えては不満のある一族もおりましょう!」

しかしミズル王は首をふる

「その点については問題ない

すでに州会合で満場一致で合意は得ている」

ノーマンとリサは驚く

「満場一致?」

ミズルは頷く

「我が国においてもはやソナタ達の境遇を知らぬものはいない、ソナタ達にはもはや帰るべき故郷もなく、寄り添うべき家族も失くしてしまった、それでも精霊人が争いを好まぬのは周知の事だ、そんな主らを誰が見過ごせようか、我等はソナタ達を受け入れる決断をした、そのためにイヴフィニアやルイリンガルと争いを招いたとしても、だ」

それに4人は言葉を失う

ミズル王の言葉にノーマン以外の皆が感極まって涙を流した

ノーマン両肩を震わせながら頭を下げた

「御所遇に心より感謝致します

このご恩は生涯子々孫々と伝えて忘れません」

城はこじんまりとした白い石作、小さな湖に囲まれていて、青い屋根のものだった

「城は大昔人間の職人に作らせたものらしい、古いが我々風では寒季においてはクレイドルには寒かろう?手が行き届くように、世話人を用意するが故好きに使ってくれてかまわない」

リサは改まる

「こんな立派な城を…ありがたき所存です

我々4人には手に余る広さですが…」

それに皆からちらほら失笑が起こる


『セントーレの悲劇』と呼ばれるようになった事件から3ヶ月が過ぎようとしていた、しかしノーマン以外は皆未だに悲しみから抜け出せなくいた


ノーマンとクレセとセレクは両親を

リサに至っては両親と将来を誓い合っていた婚約者を失くしていた


リサの喪失は大きかった


食事も睡眠もろくにとれずにリサはどんどん憔悴していった


それを重く見たミズル王はリサを城の庭に案内する

リサはフラフラと後を追う

それをセレクとクレセが介抱しながらノーマンが先頭に立つ

ノーマンは首をかしげた

「ミズル殿、どこへ?申し訳ないがあまり遠くには…」


いいかけたノーマンは連れてこられた場所を見てはっとする


城の東の対岸湖のほとりにはこじんまりとした森が広がっていた

そこには無数の光の粒のようなものが浮遊している

リサが小さく呟いた

「微精霊…こんなにたくさん…」

それにミズル王は答えた

「ここはガウディオで一番微精霊の多いと言われる場所なのだ、しかも1州は一年を通して春のような陽気が続く、微精霊は精霊人を癒すと聞く、少しはソナタ達に喜んでもらえただろうか?」


リサはうつむいて、ボロボロと涙をこぼす

「お心遣い…感謝致します!」

若き獣人の王の細やかな気配りに4人は感嘆する

ミズルは気持ちのいいすじ雲が入った空を見上げる

「クレイドルの寿命は400年近くと聞く、いつか私が大地に還っても、子供や孫達を見守ってくれないか…」

それにノーマンは深く頷いた

「もちろんです」

それにミズル王は快活に微笑んだ



時を同じくして、ルイリンガル、北東

○山脈の中腹、夜、ルイリンガルでは季節は寒季に入ったばかり

しかし、○山脈の中腹は厚い雪雲が覆い、猛烈な吹雪が、ビュウビュウ吹きわたっていた、その中で今にも壊れそうな山小屋が雪の中ポツンとあった

半ば雪に埋もれかけたそれからは灯りがチラチラと灯り、ひとの気配があった


「うぇーん、うぇーん!」

「あーー!あーー!」


山小屋の中は暖かい

暖炉には火水晶がくべられ明明と炎が燃え盛っている

その上で何か野菜が入ったスープのようなものが小型の鍋でグツグツ煮え立っている

そしてまだ幼い子供が二人、小屋に響き渡る声で泣いていた

一人は赤毛の子、もう一人は青毛の子

二人共胸にキラリと輝く宝石がついていること以外は至って普通の双子だった

そこに、赤毛で背の高い女の獣人がスープの味見をしながら双子に声をかける


「はいはーい、もうできますからね~、お腹すきましたね~」


「あーー!」

「うぇーん!」

しかし双子は一層泣きわめく


少し疲労の色を覗かせた赤毛の獣人、フィアはそれでも笑顔を絶やさず、器にスープをもりわける

ふーっふーっと熱さを冷ましながら

テーブル代わりの小さな丸太にまでスープを運ぶ

そこでフィアは腰袋から小さな瓶を取り出し、ふたを開ける

なかにはほんの少し透明な液体が入っていた

フィアはそれを器に一滴ずつ足らすと瓶を見つめた、瓶は空に成っている

「また、涙を出さなくちゃ…」

不死鳥の涙には癒しの力があった

ろくに食料が取れない寒季、せめてもの栄養になればとフィアは自身のなみだを定期的に双子に与えていた

とはいえまだ幼い双子、副作用など過剰接種をを恐れてフィアは様子を細かく観察し本当に少しずつ少しずつ与えていた

フィアはスープを冷ましながらスプーンで混ぜ小さく息を吐く

フィアは一千年近く生きる不死鳥の獣人だ

不老不死、それだけ長く生きていればいろいろある、育児の経験もそれなりにあった

だが精霊人の育児は初めてで、それも双子でまだ一歳と少しときた、これにはさすがのフィアも参っていた

それも潜伏中である

フィアの翼にかかればガウディオまではものの30分で行けるだろう

だが、全速で飛ぶには、双子はまだ幼すぎた

その上で青毛の方の赤子セインフォートは血を浴びてしまい、少しの刺激でもすぐに熱を出してしまった


これでは無理だとフィアはガウディオへ帰るのを一時的に延期することにした


双子が3歳になるまで、目標はそれと決め

フィアはルイリンガルの奥深くで隠とん生活をすることに決めた


しかし、居場所を特定されるのを恐れ1ヵ所に長期滞在はできなかった


そのため食料調達や移動など目立たぬよう獣化はせず深くマントをかぶり徒歩で行った


ルイリンガルではもうセントーレの悲劇と、名付けられた、あの悲劇は国中に広まっているようだった

フィアはスープを双子の口に交互に運びながら、先週食料調達の際拾った新聞をチラリと見る


見出しには大きく「セントーレの悲劇

から3ヶ月、現王ハラパイ氏処刑決行」

と書かれていた


フィアはスープをかき混ぜあーあーとおかわりを要求する赤毛のグランレデイオの口にスープを流し込む

グランレデイオは首にまいた前掛けをぐちゃぐちゃにしながら、喜んで2本だけ生えた前歯を出して笑う

「美味しいですね~」

フィアはグランレデイオににっこり笑いかける

しかしすぐに少しうつむく

あの悲劇を生んだ一因の一人が死んだ

ルイリンガルは敵ではない可能性が高い


だが、あの日ルイリンガルで五人のクレイドルが殺害され一人のクレイドルが逃亡していた

内二人は悲劇があったその朝に連絡船がこないことを不審に思い赴いた男が二人

待ち伏せしていたハラパイの部下に殺られている残りの3人はもともと

ルイリンガルに嫁ぎ、一生をそこで過ごすことになっていた女が3人だったが二人は自室にいるところを何者かに暗殺されている

そして最後の一人は嫁いだばかりの女、しかしこの女はジュエムである息子を連れルイリンガルから逃亡に成功している


ルイリンガルとクレイドルは古くから盟約で結ばれていた

そもそもルイリンガルは建国の際にクレイドルの力を借りている

だからルイリンガルの国旗にはクレイドルを象徴する翼のある女が描かれているし、100年に一度クレイドルはルイリンガルの貴族に嫁入りしている、

その際にいくつかある貴族の中からクレイドルは王を選び、選ばれた貴族は後百年間王家となるのだ

そんな関係から今回のようなクレイドルを排除を目的とする活動は昔から度々起こっている

だがそれらは全て未遂や小規模に終わっている

なぜならルイリンガルの貴族はお互いにお互いを監視し合っているからだ

つまり本来ならこうなる前に抑止力が働くのだ

だが、それが今回なかった


フィアは今度は青毛のセインフォートの口にスープを運ぶ、セインフォートはモグモグと一生懸命食べる、セインフォートは女の子なのでグランレディオより小柄だ、フィアは笑う

「美味しい、美味しいですねー」


スープを混ぜる間再びフィアは熟考する

殺されたクレイドルは後宮に入っていた

、王を選んだクレイドルは後宮に入り、そこで一生を過ごす、人間との間に産まれる子には通常コアクリスタルはない、大概ジュエムという体のどこかに水晶を宿して産まれてくる子がほとんどだ、彼らジュエムは高い魔力、人間より長い寿命、それが特徴だった


長い間にルイリンガルの貴族はほぼクレイドルのハーフがクオーター、になった

後宮に入り、クレイドルを殺せるほどの地位、フィアにはそれが貴族の中にハラパイの共謀者がまだいるということを暗示している気がしていた

それか貴族、王族といったものが腐敗して国そのものが機能していないのではないか?


なんにせよフィアはスープをかき混ぜる手を止める


ルイリンガルは味方ではない

単なる深読みかもしれない、でも可能性がある以上双子の命を危険にさらすわけには行かない

フィアは虚空を睨み付けた


「あーあー」

「うーっ!」

しかしすぐに双子におかわりを催促されフィアは慌てたようにスープをふーふーする

「はいはーい、今あげますよー」


ビュービュー

外ではまだ雪が吹雪いていた



それから余念の月日が流れた


双子は5歳になっていた、自我をしっかり持ち、会話もできるようになっていた


思っていたより時間がかかってしまったけどそろそろガウディオに向かわないといけない


フィアは、落ち葉で遊ぶ双子を見つめながら思っていた


フィアは焦っていた

セインフォートが病弱だったため遠征を、延期にし延期にし気づいたら一年が経ってしまっていた

このままルイリンガルにいてはまた、寒季がやってきて移動にはむかなくなってしまう


しかも、どうやら双子は最近になって真名を得てしまった様子だ

真名とは、クレイドルがコアクリスタルを扱う時に使う名前のことらしい

詳しくはフィアにもわからない

ただクレイドルはこの実名と『聖言葉』を使ってエレラルを操る

つまりはいよいよフィアの手に余る時が来たということだ


その時いきなりセインフォートの悲鳴が聞こえた

「きゃああ」

フィアとグランレディオは同時に反応する

「どうした?」

「どうしました?」

セインフォートは右腕を血まみれにして泣きじゃくる

「うぇぇん」


フィアはほっとして息を吐く、軽症のようだ


「枝で腕を切りましたか…」

そこにグランレディオがふんぞり返る

「よおぉし!おれが治してやる!泣き虫セイムシ!」


フィアは驚いて振り返る

「え?」

グランレディオはすでに手をセインフォートに掲げている

「行くぞ~」

『陽愛』

フィアは驚き目を真ん丸にする

グランレディオの手のひらが輝きセインフォートの腕の傷はみるみるうちに癒されていく

セインフォートは目を丸くする

「レディオすごーい!傷なおったよ~もう痛くないぁーい!

ねぇ!ねぇ!フィアも見て!」

フィアは驚いて腰を抜かしてしまった

齢千と弱、腰を抜かすことなどもうないと思っていたが子供の成長とは侮れないものだ

フィアは顔を上げた

雲ひとつないすみきった青空

「どうしましょう!」

グランレディオが聖言葉を会得してしまった、これが普通なのか異常なのかフィアには判断できない

それなのにまだ分別のつかないたった四歳で攻撃的な言葉を覚えてしまったらどうしよう

どう、対処する?どう、教える?


「…」

フィアはしばらく固まった?

双子が心配して近くに来る

「フィア?」

「お腹痛いのか?」


フィアは目をつむる

ここまでだ

フィアは、ばっと顔を下げて双子を抱き締める

驚いた双子はきゃーきゃー声をあげる

フィアは顔を上げるとにんまりと笑う


「行きましょうか!」


双子はキョトンとする

「どこへ?」

フィアはさらににんまりと笑う

「決まってるでしょう?」

フィアはすみきった青空に手を伸ばした

双子は?マークでいっぱいになる

フィアは鼻息荒く答える

「獣人の王国、ガウディオへです!」

ついにこのときが来た!フィアは双子を抱いて立ち上がった



それは○の暦の半ばの事だった

王直轄地である0州は常に春と夏の繰り返し、ちょうどその境目の陽気の日だった


見張り役の鳥族達は昼は交代で常に上空から目を光らせている

日が沈んでからは梟族や、ももんが族などが見張りに当たる


見張りの中の筆頭の鷹族のウォン=タカ=ガウディオはその日、見張り台で指揮をとっていた


ガウディオにおいて侵入者は城につく前にどんな手を使っても洗い出される

まずは玄関口で鳥族の目にかかり、市中では犬族の嗅覚によりあぶり出される


しかし今日のお客は例外だった

見張りからあわただしく戻ってきたもの達がウォンのもとへ来る

ウォンは落ち着いて聞いた

「どうした?」

部下は若干上ずって答える


「東より鳥影、色は朱

恐らくはフィア様かと…」

ウォンは驚く

「フィア様?、不死鳥のか?

死ぬことはないと思っていたがようやくお帰りになられたか?」

言うとウォンは足早に階段に向かう

「行くぞ、出迎えねば!」

「は!」

部下達はそれに従う


フィアはその日明朝ルイリンガルを経った

双子はまた口内に入ってもらった


双子を配慮してスピードは抑え途中小さな島で休憩を取り、一時間半ほどしてガウディオの島形が見えたときにはさすがのフィアも快采をあげたくなった

心配していた、追手や罠、見張りのようものは一切なく、フィアはガウディオの見張り場に優雅に着地し、そこの獣人達に出迎えられる


ウォンは敬礼する

「フィア様よくぞご無事で!

帰られた際は知らすよう王命ですので、ご了承ください!

本当によくぞお戻りくださいました」


フィアはそれには答えず首に下に向けると口をあけた

すると口内から赤と青の子供が転がり出てくる

ウォン達は何事かと驚く


しかし赤毛の男の子はすぐ立ち上がり叫ぶ

「うぇー!びちょびちょだー!」

しかし青毛の子供の方は苦しそうにうずくまっている


それにフィアははっと気付きすぐフォルムインすると青毛の子供抱える


「いけない、熱が出てしまっている…ウォン、今は詳しい事は話してる暇はないわ、この子達を王宮に運びたいの…」

ウォンは戸惑う

「しかし、その子供達は…?」

フィアは応える

「クレイドルの生き残りです」

「!」

それにその場にいた全員がはっとする


ウォンは子供達の胸元を見る

クレイドルならばあれがあるはずだ


赤毛の男の子の胸にはキラリと光る赤い星のような宝石が輝いている


コアクリスタルがある

ウォンは呆然とする

「ではこの子達は本当に?」

あの悲劇の生き残り…

そこにフィアは強い口調で言う

「そうです、この三年私が守り抜きました、王宮にクレイドルの方もお呼びください、こちらの子は発熱しています!一刻もはやく!」


それにウォンははっとして部下に命令する

「お前達は一州のクレイドル城へこれを伝えにいけ、私達はフィア様達と王宮へ向かう、残ったものは警備を続けろ!」


見張り場は一気にあわただしくなる


フィア達はウォンの案内で恐ろしい高さの見張り場から階段を使い下っていく

グランレディオが今にも落ちそうにはしゃぐ

「うぉーたっけー!すげー!」

フィアはそれをとがめる

「レディオ様!落ち着いてください!落ちますよ!」


しばらくして無事地上におりると大きなとかげに荷車がついた車が用意されていてフィア達はそれに乗り込む

その時タオルをもらいグランレディオは自分で体をふく

「ひゃー水浴びしてーなぁ」

フィアはタオルでセインフォートをふきながら声をかける

「セイム様?お加減はどうですか?」

それにセインフォートはうっすら目を開ける

「ごめんなさいフィア、私またお熱出ちゃったね、獣人の王様とかクレイドルの人達怒らないかなぁ?」


フィアは息を吐く

とりあえずしっかりしゃべれるくらいの意識はある

「大丈夫ですよ!そんなことで怒るような者はここにはどこにもいません」

するとセインフォートはほっとしたように笑い、そのまますぅすぅと眠りに落ちてしまう


荷車はゆれガタゴドと道を行く

御者席にいるウォンが声をかけてくる

「15分くらいでつきますがゆえ、ゆっくりなさってください」

フィアは軽く会釈する

「ありがとうございます」


セインフォートはあの悲劇の日、自身の母の血を浴びてしまった、すぐにリリスが清浄してくれたが、セインフォートの体が弱いのは恐らくはそれが原因だと考えるのが妥当だ

精霊人は往々にして血に弱い傾向がある

本質が精霊なので争いを好まず、防衛のために戦うことはあっても殺しもほとんどない、そのため、どのステージの精霊人もほとんどが少数で、なかには絶滅寸前の種族もある、その一つにクレイドルも入ってしまうのだが…

フィアがふと考えにふけってると荷車が止まった

はっとして窓から外を除くとむき出しの岩でできた高い高い城の階段の前にきていた

ガウディオの王がすむガウディオ城だ

その城は強固で鋭い岩岩が立ち並ぶ

およそ人間には登ることもできないであろう

そこに荷車の扉が開き、外からウォンが声をかける

「フィア様、王宮にお着きしました、失礼ながらここからは徒歩で行くことが慣習となっております」

フィアは、頷いた

「わかってます」

言いながらフィアはグランレディオを見た

「レディオ様歩けますか?」

しかしグランレディオはいつの間にか寝入っていた

「すーっすーっ」

フィアはあらあら…と声に出す

ウォンが気兼ねしたように声をかける

「長旅で疲れてしまったのでしょうね」

フィアは頷いた

二人ともまだたったの五歳



しかしその小さな体に不釣り合いな大きな力と宿命を背負っている


フィアは涙ぐむ

まだこんなにも小さいのに…

ウォンはそれを察し声をかける

「よろしければ、この子は私が…」

フィアは頷いた

「お願いいたします」



その日の午後、ノーマンとリサ、セレクとクレセはフィアが戻ったので、王宮まで来てほしいとだけ聞いた

4人は午前の一州の政務が終わり、皆で昼を済ませ、夕食まで思い思いに午後を過ごすところだった

とかげのひく荷車にひかれながら

ノーマンが深刻な顔で言った

「フィア殿と言えば不死鳥の…確か長の息子のグランレディオ様の使獣になったと聞いていました」

それにリサは頷ずく

「つまりあの日セントーレにいた可能性が高い…内実を詳しく知っているのかもしれない…」

言いながらリサは自分で自分で肩を抱いた

それにセレクとクレセがリサをフォローし、ノーマンが言い聞かせるように優しく言う

「リサ、無理をしなくていい、私が詳細を伺うが故、三人は頃合いを見て下がれるよう私がミズリ様に図ろう」


リサは真っ青な顔で頷いた

「ありがとう、ノーマン…でも」

リサはうつむいた

「いつまでも目を背けていては…」

言いかけたリサをセレクとクレセが反論する

「そんなことありません!」

「リサ様はちゃんと向き合っておいでです!」

それにリサは肩をすくめる

クレセが心配顔をする

「まだ、眠れない夜もあるんでしょう?皆知ってます…だからご無理をなさらないで下さい…誰もそれを責めません」


それにリサは


うつむいた

「誰も責めないか…自分だけおめおめと生き延びて…ただ生を堕落する

こんな私を父や母や…彼が見たら、果たして褒めてくれるだろうか?許してくれるだろうか?」

言いながらリサの瞳からポロポロと涙があふれでる


まだ早すぎだ

ノーマン、クレセ、セレクは

お互い顔を見合せ首をふった

リサにはまだ真実を知るには心の傷があまりにも根深すぎる


セレクとクレセがリサを抱き締めていった

「許すも赦さないもありません」

ノーマンも続ける

「いいですかリサ?私達はただ生きているだけで、彼等の意思を継いでいるのです、だから生き方は関係ないのですよ」

リサは下をむいたまま押し黙る

「…」

あれから四年過ぎたがリサの心の傷は未だ癒えない

かといってノーマンとクレセとセレクも傷ついてないわけではないが、4人は未だ残された者の傷みを引きずっている

毎年セントーレに弔い行っているがそれ以外は4人はなにもできないまま、あの日の傷も癒せぬまま、ただ時だけが過ぎていく

ノーマンは荷馬車から外を見上げる

確かに私達は生きることに堕落しているかもしれない

だが、それ以外どうすればいいのか、まだ答えは見つかっていなかった


グランレディオは眠りながら誰かの泣き声を聞いたような気がしていた


あー泣き虫セイムがまた泣いてんのかな?

慰めてやらねーと…

でももうちょっと寝てから

セイムとはセインフォートに彼がつけた愛称だった泣き虫セインフォートだからセイムシ、略してセイム、大人にはちょっと理解できないかもしれない、でもグランレディオはこの呼び方が気に入っていたし、フィアも、なにも言わなかった


グランレディオはまた、泣き声を聞いた気がした

今度は前こっそり助けた人間の子供かと思った

フィアには、重々人間と関わるな、見つかるな、話すなと常々言われていたが、放っておけなかった

グランレディオはフィアが寝てる隙をついてこっそり近くの街や村をしばしば覗きに行っていた

人間が暮らしている様子や、街にある本やガラス細工、見たことのない食べ物や飲みものやおもちゃ全てが五歳のグランレディオにとって新鮮で面白く、やめられない遊びとなっていた

だからその日グランレディオは子供が小さな崖から落ちるのを目撃してしまった

すぐに親が来て介抱するが、子供はどうやら頭を強くうち、出血し左足も骨折してしまったようだ。二親は狼狽し、必死に子供に声をかけたり、血を止めようと布で押さえたりしていた

どうやら、回復系のアイテムや紋章やエレラルなどは持ち合わせてないらしい

しかし、血は止まらずそのうちに母親が狼狽しおいおいと泣き始めたのを見て、グランレディオはさすがにかわいそうになった


そこでグランレディオは大きく息を吐くとよおし、と大きく息を吸って、パッと茂みから飛び出した、

フィアごめんよ!心の中でフィアに謝罪をする

二親は驚いてとっさに子供をかばうが

しかしグランレディオの姿を見て二親は戸惑う

「子供?いや琥珀の瞳…精霊人…?」

しかしグランレディオはそれに構わずスーッと手早くと子供に手をかざす

『陽愛』

グランレディオの手がパーッと輝く

最近覚えた癒しの言葉だ、効果はセインフォートで何度か実験済みだった

それと同じようにキラキラと光る砂が子供の出血を止め傷は癒えていく

それを見て二親は大層驚く


グランレディオは続けて足にも聖言葉を使う

たちまち傷は癒える

そこで子供はパチリと目を開け、ムクリと起き上がる

「父さん?母さん?」

二親は泣きながら子供を抱き締める


グランレディオはそれを見て小さく息を吐く

聖言葉は使うと疲れるのだ

そこでグランレディオは自分のコアクリスタルをまじまじと見た

「人間にも使えるんだなぁコレ」

不思議だ、この胸ついた赤い宝石はコアクリスタルと言ってクレイドルの証らしい、でもそれしか知らない


そこに二親はグランレディオの前にひれ伏してきた

グランレディオは驚いて手近にあった木の幹に隠れる

「精霊人様!息子をお助けいただいてありがとうございます!」

「このご恩は一生忘れません」

グランレディオしばらく黙っていたが、小さく「いーよ」と言ったそして

「じゃあ俺もう行くから!」

そういって駆け出そうとした

しかし二親はひき止める

「お待ちください、まだお礼もなにも…」

レディオは今になってフィアに後ろめたくなってくる

「いーよ、俺行かなくちゃ、怒られちゃうから」

それでも二親はひき止める

「せめてお名前を!、」

「グ…レディオ!」

グランレディオは本名を名乗りそうになり、フィアに本名を名乗ってはいけないと再三言われていたことを思いだし、かろうじて飲み込み、自身の愛称だけ伝え、今度こそ一目散にその場を逃げ出した

一度も振り替えらなかったので、あの三人がどうなったかグランレディオにはわからなかった

子供は元気になっただろうか?

レディオはうっすらと目を開けて、それが夢だったことに気づいた


「っく、グスッ、ふっ、あああっ!」


しかし、まだどこかで泣き声が聞こえる


誰か、誰か…子供じゃない、たぶん大人の人が泣いてる


どこか痛いのだろうか?

俺が治してやらないと…

グランレディオはそう思いパチリと目を開けた


フィアと、ウォンがセインフォートとグランレディオを連れて謁見室にたどり着くとそこにはすでに大勢の人が集まっていた

フィアは驚いて目を見開くがすぐに最奥に金獅子のミズリ王を目に止める

ミズリ王は目が合うと静かに頷いた

フィアも頷ずくとウォンにも頷き

ウォンとフィアは衆目を浴びながらミズリ王へと向かう

側近の一人が大声を出した

「フィア様の御成りだ!全員道を開けよ!」

ざわざわと人並みが2つに割れ二人の前に道ができた

フィアとウォンはセインフォートとグランレディオを抱きながら前へ前へ進む


ようやく、王の元にたどり着いた時、フィアとウォンはそのまま膝をついた


ミズリ王は玉座から側近の一人に命ずる

「ウォンと、変わってやれ」

側近は頷く

「御意」

側近はウォンのもとへ行くと、手を伸ばす

「私が変わろう、持ち場に戻るがいい」

「かしこまりまして!」

ウォンはグランレディオを丁重に側近に渡す、そして一礼すると謁見室から出ていった

それを静かに見守っていたミズリ王はゆっくりとフィアを見た

「さて…事情を聞こうか?フィア殿」


フィアはそれに膝まずいて答えた

「申し訳ありません、ミズリ王、ただいまこちらの子供は発熱してございます

元々体が弱く、このままでは衰弱しどうなるかわかりません、一刻もはやい介抱を望みます」

ミズリ王は頷いた

「ふむ、では…」

ミズリ王が側近を手配しようとするのを誰かが制した

「お待ちください!」

ノーマンだった

ミズリ王は静かに聞いた

「どうした?ノーマンよ?」

ノーマンに対してミズリ王は制されたことを咎めたりはしてないようだ

ノーマンは一度頭を下げて答えた

「私の目が確かならばそちらの子供達はクレイドルではないでしょうか?」


これには衆目が一気にざわついた

ミズリ王は一度子供達を見る

セインフォートとグランレディオを抱いたフィアと側近はそれぞれ頷く


ミズリ王はフィアを見る

「真か?フィア」

フィアは強く頷いた

「真でございます!」

ノーマンの後ろに控えていたリサやクレセやセレクが悲鳴をあげた

リサが倒れこれでしまったようだ


ミズリ王は気にした風もなくノーマンに向かって言った

「では子供の介抱はお前達クレイドルに任せた方が良さそうだ」

ノーマンは深刻な顔で頷く

ミズリ王はフィアに向かう

「フィア、ではその子供をノーマンへ」

フィアは立ち上がる

「わかりました」

フィアとノーマンは何度か顔を合わせ会話したこともあった、ノーマンはセントーレの大使だったので、フィアは斡旋してもらったのだ

フィアはノーマンに丁重にセインフォートを手渡すと小さく呟いた

「リリス様とファイ様の子です」

ノーマンも小さく呟く

「リリス様の?…」

フィアは小さく頷く

「あの日リリス様の血を浴びてしまい…」

それにノーマンははっとする

「すぐに処置を…!」


それを見ていたミズリ王が言った

「そちらの子供も連れていくがよい、離してはかわいそうだ」


それにグランレディオを抱いていた側近が動いた時だった

寝ていたはずの子供は側近の腕からピョンと飛び降りる

完全に不意をつかれていた側近は驚くがグランレディオは気にも止めず大あくびをかますとうーんとのびる


そして辺りをキョロキョロ見回した

「すげーみんなしっぽと耳が生えてる!」

それにあわててフィアが叫ぶ

「レディオ様、王の御前です!はやくこちらへ!」

側近もあわててレッドを捕まえる

そこでレッドはノーマン達を見つけて大声で叫んだ

「あーーーーー!!!クレイドルだ!クレイドルがいるぞ!」

側近は耳元で叫ばれ声なき声をあげている

その隙にグランレディオは側近から再び抜け出しノーマン達へと走り出す


フィアはもう冷やひやだ

「レディオ様落ち着いてください~!」

ミズリ王はフフっと笑う

「こちらは元気な子供だな、子供はあれぐらいで良い!」


グランレディオはノーマンと初めて対峙した

「…」

「…」

お互いに見つめ合いノーマンは困惑している

ノーマンは心中ではファイに似ていると思っていたが、若い頃からガウディオに遠征していたため、子供の扱い方などわからない

するとそこにグランレディオは首をかしげた

「うーんお前泣いてないよなぁ」

「え?」

ノーマンの返しに答えずにグランレディオは真っ直ぐリサのもとへ向かった

両脇へ控えていたクレセとセレクはアワアワする

しかしリサは落ち着いて膝をついてグランレディオと目線を合わせた

リサはにこりと微笑む

「坊や、ここは王の謁見の間、静かにしないといけないわ、私と一緒にあちらへ行きましょう?」

しかしグランレディオはそれに答えずにリサをただじっと見つめ言った

「泣いてたのお前だな?」

リサはそれに少し驚く

「泣い…てた?」

リサはそれに少し微笑む

「それは私の目が赤いせいでしょう、さっき目にゴミが入ってしまって…」

しかしグランレディオは無視して続ける

「痛いのはそこだな?」

グランレディオはリサのコアクリスタルを指差す

リサはキョトンする

目の前の若干5歳の少年は一体なんのことをいっているのか、リサは思考停止してしまった

そこに側近が近づく

「申し訳ありません、今捕まえます」

しかしそれをミズリ王が阻止した

「良い!」

側近は一瞬驚くが、すぐに敬礼して王の隣へと戻る

「え?…は!」

ミズリ王はそこに笑う

「どうなるか見ていようじゃないか」


リサは目の前の子供を見つめ

とっさに胸のコアクリスタルを両手でかばう

「な、なにを言ってるのですか?いいですか?これを機に覚えなさい、コアクリスタルに触れるのは、不義に値します」


しかし、目の前の子供は真摯な瞳でリサを見つめていた

リサは戸惑い、辺りを見回す

この事態に誰もが止めに入らないのが不思議だった

フィアだけがなにか言いたげに口許を押さえている


リサはミズリ王を見た

ミズリ王はただ頷くばかりだった

まわりはただ静かにリサとグランレディオを傍観している

リサは驚いて目の前の子供を見つめた


皆が目の前の子供のなる様を見届けようとしている


なぜ?


しかしリサはそのなぜか疑問をストンと飲み込んだ

わかったからだった


目の前のこの赤毛の子供には力があるとわかったからだった

それも恐ろしく強大な力が


だから皆が静かに傍観しているのだ


いや、傍観せざるを得ないそんな圧力がこの子供にはある


リサは改めて子供を見つめた

まだ華奢な手足、首はたもとない

幼い顔の、両頬は朱に染まっている

リサは思う

まだこんなに小さいのにこんなにも強い力…

この先苦労するに違いない


だから私達がサポートしてやらねばならやい


そこでふとリサは思った

彼には私がどう見えているのだろう?

先ほど子供はリサに泣いているのはお前か?と聞いた

リサは子供に向かって話しかけた

「あなたには、私が泣いてるように見えますか?」

するとグランレディオは首をかしげた

「泣いてるようには見えないけど泣いてる声が聞こえるんだ」

そこでグランレディオは耳を澄ませる

「今も泣いてる声が聞こえる

助けてって聞こえるんだ」


リサは一瞬虚をつかれた

心辺りがあったからだ

あの日からずっと思って消えない心にこびりついて取れない虚無の塊

どうしてという疑問

もう、二度と会えない、生き残ってしまったという絶望


何年経とうと変わらない

一体いつまで…という苦しみ

深い

深い心の闇

「うっ」

まただ、また飲まれてしまう

リサはうめいた

その時だった

少年がリサの隙をついてさっと手を伸ばす

リサがあっと思った時にはもう、子供は呟いていた

『陽光』


瞬間的に辺りは光で埋め尽くされるまるで子供の手のひらからまるで太陽が生まれ落ちたかのように、光がこぼれ落ちる


リサは眩しくて思わず目を閉じた

閉じた時に目から涙が数滴こぼれ落ちた

暖かい…



リサが目を開けるとそこは慣れしたしんだ、リサの家族の家だった


リサはしばらくぽーっとする


パチパチと暖炉が燃える音がして、隣で父が本のページをめくる音がした


リサはおどろいて飛び上がる!

「父さん!」


それに父はなんだ?と顔をあげた

するとリサの後ろから懐かしい笑い声が上がった

「アッハハ、リサは明日からガウディオ遠征だでねぇ、しばらく会えなくなるねぇ、ほら飲みな、ホットミルクだよ

はちみつもたっぷり入れておいたからねぇ」


リサはまたしても目を見開く

「母さん…」


コトっと置かれたマグカップからは湯気があがっている

「う…」

リサは両目からぼろぼろと涙を流した


全部全部夢だったんだ


良かった…!


リサは母に抱きついた

「うわああぁ!」

母は驚いて狼狽する

「どうしたの?リサ!?」

リサは泣き崩れる

「ううっ私、私、ガウディオになんて行かない!ずっとずっとここにいるから!」

すると父がハハハと笑う

「どうしたんだ?リサ、お前がずっと嫁にも行かず家にいるならイヴァン君に婿にきてもらわないとなぁ!なぁ母さん?」

リサはその言葉にはっとする

「イヴァン…」

そこに父につられて母も笑う

「全くだわ!でもイヴァン君なら婿入りでも大歓迎だけどねぇ!」

それに父も大声で笑い、室内は明るい空気で満たされる

リサは母親にしがみつきながら、小さく言った

「母さん、イヴァンは今どこに?」

それに母親は笑いながら答える

「なんだい?りさ?マリッジブルーってやつかい?大丈夫、大丈夫!母さんも結婚するときはそれはそれはブルーになったものよ!」

それに父が笑いながら返す

「なにいってんだお前!マリッジブルーになったのは俺の方さ!そんな俺をお前が鬼の形相で式場まで引きずってったんだろうがよ!」

母がそれに笑いながら答える

「あら?そうだったかね?忘れちまったよ!何百年前の話だと思っているんだい?」

「だからって捏造はするなよ、捏造は」

父が笑いながら返した時だった

部屋の玄関が勢い良く開く

ガチャ!チリンチリン

「ただいまー!」

玄関扉の鈴がなって聞きなれた声が響く

リサは驚いて玄関扉を凝視する

そこにはリサと同じような顔と紫の髪をした若い男性がたっていた

リサは目を潤ませる、その頬を涙が伝った

「兄さん!」


それに笑いながら母親が声をかける

「おやヴァルター今日は早かったね、リサはマリッジブルーなんだよ」

ヴァルターは上着を脱ぎ、棚にかけながら笑った

「ああ、マリッジブルー?外でイヴァンが待ってるんだけどダメだったかい?」

リサはそれに羽上がった

「イヴァンが!?」

イヴァンはリサの婚約者だった

イヴァンが生きている!また会える!話せる!

リサは心に染み付いていた闇がジュワジュワと音をたてて消えていくのを感じた


当たり前だ

だってあれは悪い夢だったのだから


リサは恐る恐る母親から離れる

「母さん私イヴァンに会ってくる」

母親はそれに朗らかに応える

「ああ!会ってしっかり話しておいで!」


リサはまるで生まれたての子牛のようにおぼつかない足取りで玄関に向かう

ドクンドクン

やっとたどりついて扉を力の限り引く

ドクンドクン


真っ白だった

雪こそ止んでたものの外は20センチほど降り積もって銀世界となっている


ドクンドクン

リサはキョロキョロしてイヴァンを探した

すると後ろから声がかかる

「リサ」

ドクン

懐かしい、優しい低い声


リサは後ろを振り返った

リサははっとする

「…イヴァン…」

リサの視線の先に肩まである銀髪を1本に束ねた青年がいた

毛皮を着込んでいるが線が細く華奢な感じはするが、不思議とひょろひょろという感じではなく、優しげに琥珀の瞳を細めリサに微笑みかけている

「さっきヴァルターさんと橋で会ってね、一緒に来たんだ」


リサはそれに首をふりポロポロと涙を流す

「う、う、うわああぁ!」

リサは雪でまろびながら、イヴァンに向けて走り出す

それにイヴァンは驚いてリサを抱き止める

「リサ!?どうしたの?!」

リサはきつくイヴァンにしがみつく

それにイヴァンは力強く応えてくれる

「うわああぁ、イヴァン!イヴァ…ン!私…私ずっと、ずっとあなたに会いたかったの!」

動転したリサにイヴァンは優しくリサの頭を撫でて答える

「リサ…なにか怖い夢でも見たのかい?

大丈夫、僕はずっとセントーレにいるよ?君から離れたりなんて絶対にしない」

それにリサはさらに泣きじゃくる

「うわああぁん」

イヴァン、イヴァン、イヴァンだ

この声、この体、この腕、この匂い

全てが懐かしく、愛おしかった


リサは膝から崩れ落ちる

綿のスカート越しに雪の冷たさが伝わってくる

そんなリサをイヴァンは膝をついて抱き締めた

「リサ、落ち着いて、大丈夫、僕はここにいる」

「イヴァン…」

20分くらい経っただろうか

リサとイヴァンはずっとそのまま抱き合っていた

その間はリサはずっと泣いていたが、涙はもう、出なかった

スカートはすっかり雪を染み込み足はすっかり冷たい

リサは歯の根がガチガチしてきてしまった

それを察したイヴァンがリサから離れる

「リサもう、うちに入ろう、このままでは風邪をひいてしまう…そしたら明日のガウディオ行きが…」

「行かない!」

リサは突発的に叫んだ

イヴァンは驚いてリサを見つめる

「行かないって…あんなに楽しみにしていたのに…どうして…」

リサはまた泣きそうになる

「みんなと離れたくないの…」

それにイヴァンはしばらくリサの様子を見るがリサが真剣なのを感じたのか息を吐いた

「わかった、でもそれなら明日は予定通りの時間に起きて謝りに行こう…船を出してくれるダルテさん達や見送りのみんなも来るだろうからね、リサ以外にもセレクとクレセも行くから、遠征は中止にはならないだろうけど」

リサはうつむいた

そうだった、リサはガウディオ行を心から楽しみにしていたし、島のみんなも総出で送り出してくれようとしてくれてた、それに…

「セレクとクレセ…」

リサの胸がちくっと痛んだ

夢で何年もリサの苦しみを共有してくれてた二人、それにノーマン

でも…

リサはうつむいた

あれは夢だったんだ


その日リサは大人しく家に戻りイヴァンも帰っていった

二人の結婚はリサの遠征が終わった三年後の予定だった

その間は遠距離恋愛になってしまうがリサとイヴァンはお互い信じ合っていたし、毎日手紙を書くことを約束していただが、遠征に行かないとなるとこの先どうなるのか、結婚は前倒しになるんじゃないか


リサはそんなことを考えながら布団に入ると、このまま目をつむっては、またあの悪夢に戻るんじゃないか、と恐怖を覚えた

だからその日はリサは母親と同じ布団で眠った

母親は笑ってリサを軽く撫でる

「全くどうしちまったのかねぇ?リサは、」

母親の声と匂いと暖かい布団でリサはストンと眠りに落ちた

久しぶりにゆっくり眠れた気がした


次の日は普通にやって来た

リサが心配していた悪夢に戻る気配もなく

父も母も、兄もいて暖かい部屋でみんなで朝食を食べた

リサは不思議な気分だった


それからみんなで東の港まで行き、ダルテさんにリサは行けないということをみんなで謝りにいった


家族はリサがガウディオ行を泣いて嫌がるのを察し、誰もリサを責めることはなかった

母親と父親はダルテに笑って話しかける

「どーもマリッジブルーになっちまってねェ!急にイヴァン君と離れるのが怖くなっちまったようだ、すまねぇな」

それにダルテ一家は笑う

「いいっていいって!リサちゃんも年頃だからな仕方ないな!」


リサは乗船していた、セレクとクレセに花束を手渡した

島の温室で育ていた○○の花だ、今朝はやく花育ての○○さんからもらってきたのだ、リサは目に涙をため言う

「ごめん」

それにセレクとクレセははにかんで笑う「一緒に行けなくなったのは残念ですけど、あんなに素敵な婚約者がいたら行くのもいやになりますよ!」

「こら!クレセ!リサさんはもっと別の事情があるのよ!」

双子の掛け合いにリサは涙を浮かべて笑った


その後、船は無事出港した

リサをセントーレに置いて

リサは不思議な気分だった

あの悪夢ではリサは船に乗りガウディオに向かっていた

港ではイヴァンがいてお互い手をふり続けていた

でも今はそのイヴァンは隣で船に向かって手をふり続けている


それから一週間が過ぎた

リサは普通にセントーレで生活をしていた

ガウディオに行く前にしてたように、島のあちこちに父や母や兄、時にはイヴァンと一緒に仕事のお手伝いにいった

家畜の世話、樹木や野菜、花の管理、漁業や雪降ろし、赤ちゃんや子供のお世話等々…

そこでみんなたわいもない話をしながら1日の大半を過ごす、開いた時間はイヴァンと二人で過ごしこれからを語り合った


そして夜は母親と家事をするのを手伝い家族談笑し、簡単に湯を浴びると就寝した、リサは結局毎日母親と寝た、そうしないと眠れなかった


そんなある日だった

リサは朝早く井戸に水を汲みにバケツを片手に外へ出た


「ここはいいところだな」


リサは声の出所を見て固まった


外はいつもの朝日に雪がキラキラ輝く銀世界

だが、そこに不釣り合いに薄着の赤髪の幼い子供がいる


「え…?」


リサは一瞬なにかを思い出しそうになった

しかしリサはそれをすぐに払拭する


リサは子供を無視することに決めた

セカセカと早足で井戸まで向かう

すると子供はついてきた


「なぁ…」

子供は困った顔をしている

リサは良心がチクりと痛んだがあくまでも無視を決め込む

すると少年ははぁと息を吐いた


「俺まだ自分の力がうまく使えないんだ、だからあんたはもう2ヶ月眠っているけど起こしてやれなくて、でも今日やっと繋がったんだ」


リサはそこでピタリと止まる

「繋がった?」思わず声に出してしまってリサは慌てた

少年はほっとしたように言う

「あんたとだよ、なぁもう帰ろう?」

途端にリサは不安を覚える

子供が言ってることをリサは理解してしまった

でもリサは拒んだ

「嫌よ…」

だが、子供は続ける

「みんな心配してる!な!一回帰ろう?この力はどんなものかまだわからないんだ!危ないんだよ?」

リサはふるふる震えだす

「心配してる?誰が?」

「それは…」

リサは叫んだ

「私はずっとここにいるって決めたの!!」

木から雪が落ちる音が聞こえた

リサはボロボロと涙を流していた

もう、あの悪い夢には戻りたくない

あの虚しく深い闇のなか

リサはきつく握りこぶしを作る

「私は…ここでみんなといるの…たとえそれで死ぬことになっても」

そうだ…リサはここで死ぬみんなと一緒に、島と一緒に

「あなたになにがわかるって言うの?」


リサが投げつけた言葉に子供は何も反応しなかった


リサは不思議に思って顔をあげた


子供はまだ困った顔をしていた

「ここなら、オレの父ちゃん母ちゃんもいるのかな?」

思わぬ言葉にリサははっとする

そうだこの子は長の…


リサはうつむいた

すると子供が話しかけてくる

「なぁ?あんたオレの父ちゃん母ちゃん知ってる?」


リサはしどろもどろする

「あ…それは…知ってるけど…」

なんだかそれを肯定することはこれが夢だと認める気がした

リサは再び水を汲むことに集中した

「私には関係ない」

それに子供は少し傷ついたような顔をした

なぜかリサはそれにひどく動揺した

なぜ自分はこんなにもこの子供に冷たくしてしまうんだろう

前のリサは子供が好きだった

わからなかった、わかりたくなかった

でも子供を放っておけない

リサはため息をついた

バケツに水を汲み終わるとリサは子供に声をかけた

「ついてきて」

子供は何も言わず頷いた


リサはバケツをうんしょうんしょと家まで運び扉を開け台所の大鍋に入れる

隣で母親が野菜を切りながら言う

「ありがとう、リサ、次はハムギ作ってほしいんだけど…」

リサは母親に首をふる

「母さんごめん、ちょっと長に会いに行く用ができて…」

母親は不思議そうにする

「長に?」

リサはあわてて答えた

「うん、今から行ってくるから」

母親は笑顔で頷いた

「そうかい、長によろしくね、朝御飯には帰ってこれるかい?」

「うん!」

そういってリサは家を後にした


バタンと後ろ手で扉を閉めると、木陰から子供がでてきた、子供は笑って言う

「いい匂いするな」

しかしリサは冷たく言う

「長のところに案内したら帰ってね、私はここに残るから」

子供は肩をすくめる

「それはなぁ~」

リサはそれを無視してプイッと西を目指す

「ついてきて」

子供は気にした風もなく頷いた

それにリサは大人びた子だ

そう思っていた

このくらいの年頃ならもう少しやんちゃだった気がする

リサは

歩きながらちょいちょい後ろを振り返る

子供は辺りをキョロキョロしながらついてきていた

リサはたまらず言う

「足元みてないと、新雪にはまるし、木の根に転ぶよ」

子供は上の空で頷く、人差し指で透明な建物を指差した

「あれはなに?」

リサはため息をはく

「温室よ、炎と風の紋章を使って部屋を暖かく保って気候が悪い季節でも野菜や花を育ててるのよ」

子供は笑う

「へぇ!すごいおもしろい」

リサは不思議な気持ちになる

「温室はセントーレにはそこら中にあるわ、みんなで大事に育ててるのよ」

子供は嬉しそうに笑う

「すっげぇ~」

その笑顔にリサは胸がチクチク痛むのを感じた

なんで?

リサは歩くのに集中した

そのうちに白い上からみると十字型の建物が見えてきた

リサは子供に指差した

「あれが長達一族の家よ、昼から夕方ならだいたい長は面会室や事務室にいるんだけど今は朝はやいから、たぶん奥のプライベートな部屋にいるわ」

すると子供は頷いた

「なんか緊張する、父ちゃんも母ちゃんもはじめて会うからな」

リサはそうか、と思う

この子供も、あの日家族と故郷を失ったのだ、自分と同じに…

しかしリサははっとして首をふる

とにかくこの子供には、帰ってもらわないとならない

それからリサは子供と裏へまわった

するとそこで背後から声をかけられる

「おや、リサさん?」

ふりかえると、最近長と結婚したファイだった、身長も高く、ガタイもいいファイは真っ赤な赤毛だ、その顔も髪も子供によく似ていた

リサは挨拶する

「朝早くに申し訳ありません、長に用がありまして、謁見は可能ですか?」


その時子供が小さくつぶやいた

「父ちゃん?」

子供はリサの背後からしげしげとファイを見つめていた

それにリサは一瞥するがファイは特に気にした様子はないようだ

人の良い笑顔で言った

「大丈夫だよ、もうみんな起きた頃合いだよ、よんでくるよ」

リサは頭を下げた

「ありがとうございます」


ファイは頷いて館に入っていく

扉がしまってから子供はリサに聞いた

「なぁ?今のオレの父ちゃんかな?なんかちょっと似てた気がするんだ」

リサは息を吐いた

「そうね、たぶん、長の夫だからファイ様よ」

すると子供は感嘆したような声をあげた

リサはなんだか不思議な気分でそれを見ていた

子供はまるで自分を見ているようだ

しかし自分はこの子供をどうしようとしてるんだろう


自問自答していると扉が開いた

中から現れたのは長い青い髪の美しい女性だった

背後の子供が再び感嘆した声をあげた

リサは気にせず頭を下げる

「リリス様、早朝に申し訳ございません」

それにリリスは優しく微笑んだ

「いいのよリサ、気にしないで、どうしたの?」

リサは顔をあげる

「実はこちらの子供がリリス様にお会いしたいと申し上げまして…」

リサはそうして子供を振り返る

しかし子供はなぜか驚いた顔をしていた

するとリリスが不思議そうな声をあげる

「子供?」

リサはリリスを振り返った

「えっ?」

リリスはきょとんとしていた

リサはポカンとする

長にはこの子供が見えていない?

するとそこに子供が言う

「お前気づいてなかったのか?」

リサは振り返った、子供は真顔だった

「オレは、ここでは、まわりに見えてないよ」

リサは頭をハンマーでぶん殴られたかのような気分になった

そんなリサを長が気遣う

「リサ?」

リサはうつむいて首をふる

そうじゃない、そうじゃない

やめてやめてやめて

リサはその場を逃げるように走り出した「失礼しました」

かろうじて言った言葉は果たして聞こえただろうか?

長と子供が叫ぶ声が聞こえる

「ちょっと、リサ!?」

「おい!お前!」

リサは振り返らなかった

立ち止まったらなにかに追い付かれそうな気がしていた…

リサはそのなにかから逃げるように走った

肺が悲鳴をあげてかろうじて息をして、リサはようやく止まった

今朝水を組んだ井戸の前だった

はぁはぁはぁとリサは肩で息をしながら両手を膝におく

自然と涙が頬をつたった

リサは嗚咽をあげながら呟く

「違う、違う…」

「違くねーよ」

否定されてその声にハッとしてリサは顔をあげた

先程の赤毛の子供だった

大人のリサが全力で雪道をかけてきたというのに子供は汗ひとつかいていないし息もあがってない

リサは目を見開く

「あなたは…誰?何者?」

すると子供は胸を張った

「グランレディオ=クレイドル

陽光のクレイドルだ!」

リサはポカンとする

「陽光のクレイドル?そんなの知らない、あなたクレイドルなの?」


子供は憤慨し、自身の胸に親指をあてがう

「お前にはオレの胸に燦然と輝くこのコアクリスタルが見えねーのか?これこそクレイドルの証だろ」

リサはまじまじと子供を見る

確かにその胸には赤く燃えるような宝石が輝いている

そこに子供が怪訝そうに言った

「お前もしかしてなんでこうなったかも覚えてないの?」

リサはこの時大きな不安を覚えていた

なんとくこの子供はあの恐ろしい夢に繋がってる気がしてリサは怖くて否定したくてたまらなかった

しかしそれと同時に子供には不思議な暖かさがあった

だからどうしたらいいかわからなくてリサはとりあえず頷いた

確かにリサはこの子供をどこかで見た気がするが、それがどこだったか思い出そうとするとモヤモヤして思い出せなかった

子供はあちゃーと手を顔にやる

「だから戻って来なかったのか」

「戻る?」

リサの不安は大きくなる

リサは恐怖に怯え自然声が大きくなる

大きく首を左右にふる

「いやよ、戻りたくない」

それに子供が、困った顔をした

「そう言われてもなぁ、あっちじゃもう2ヶ月過ぎてるんだ、みんな心配してる」

リサは目を見開いてわなわなと震えた

「あっち?!私の世界はここよ!他のどこでもない!私はどこにも行かないわ!」

それに子供は驚いて口をぱくぱくした

リサはうつむいた、両手はまだふるふると震えている涙がパタパタと服に落ちた


しばらくたったあと子供が静かに言った

「お前はよっぽど傷ついていたんだな…オレも失ったけど、まだ赤ん坊だったし、正直覚えてない、それにフィアやセイムもいたから寂しいと感じたこともなかったよ…だからお前の気持ちオレにはわかんない…」

リサはそうだと思った

あの日リサは突然なにもかも奪われた

そして深い喪失感と悲しみの穴にはまった

傷ついていた

ものすごく

それでもリサの心の穴を埋めてくれるモノはなかったし、皆の心遣いが逆にリサを追い詰めた

だからリサは皆を心配させまいと平気なふりをした

そしたらいつからか眠れなくなった

そしてリサの深い深い心の闇は夜の闇に乗じてリサを少しずつ衰弱させていった


でもリサはあらがわなかった

これでいい

あらがう気力もなかったでもそれなのに終わらせる勇気もなかった


苦しかった


リサは子供を睨み付けた

「そうよ!私は傷ついてたの!苦しかったの!でもそれがなに!?あんたみたいな子供にそんなのわかるわけ無いでしょ!?一緒にしないでよ!!どっか行って!放っておいて!私はここで死ぬの!そう決めたのよ!」

リサは吐き切るように言って思わずむせる

それに子供は少し動じたような顔になったがすぐになにかを決意した顔になった

リサはむせながら口元を押さえる

「ゲホッゲホッゲホッゲホッ」

思えばこんなに自分の感情を爆発させたのは始めてだった

遠くの方で小さく自分が呟く

なにをやっているんだ、こんな小さな子供相手に…

リサの咳がおさまるとグランレディオは小さく呟いた

「放っておけるわけ無いだろ…お前はオレの仲間なんだから」

リサは涙と汗で濡れた顔をあげた

はく息は白い

寒いはずなのに暑い

「仲間…?」

リサを呟き返すとグランレディオと名乗った子供は至極真面目な顔をして言った

「ノーマンが言ってた」

「ノーマン…」

リサは優しげに微笑む、短い茶髪の男性を思い出した、ノーマンはガウディオの大使で、堅土のクレイドルだ、リサは彼を尊敬していた

ひどく懐かしい気がした

そこにグランレディオが続けた

「オレはまだ5歳だけど長の息子だから、成人したら長になるんだって!だからノーマンはオレが成人するまで長代理をするんだって!」

リサはそれに目を見開いた

「あなたが…長…?」

グランレディオは頷いた

「うん、だからお前もオレの仲間だ、リサ、だからオレはお前を放っておいたりしない!」

リサはまじまじとグランレディオを見た

ややつり目の琥珀の瞳がキラキラと輝いていて彼の荒い鼻息が白く流れていく


「だからオレがお前を助けてやる!!絶対みすてたりしない!」

リサはそれをボーッと聞いていた

グランレディオの言ってる意味がわからなかった 、だけど不思議と先程アレほど身内に渦巻いていたどす黒い感情はなかった

青い空に白い曇、島をおおう雪が銀世界となって広がっている


平和だった

リサの心は真っ白だった


グランレディオはそこに叫んだ

「お前が望むなら、俺が何度だってここに連れてきてやる!」


それにリサはピクリと反応した

「何度…でも?」

グランレディオは強くうなずく

「ああ!」

リサはへたりとその場に座り込んだ

なぜか急に力が抜けてしまった

しかし首だけなんとかあげグランレディオに問う

「毎日でも?毎日でもここに来てみんなに会える?」

グランレディオは再び力強く頷いた

「ああ!」

リサは胸の中が熱くなるのを感じていた、両目からあふれる涙は止まらない

「に、24時間でも!?」

それにグランレディオは大きく息を吸って、空に向かって叫んだ

「24時間だろうが!!」

「なんだろうが!!」

「オレが!!」

「何度でも!!」

「連れてきてやらぁーー!!!」

それはまるで獣の、咆哮のようだった

遠くで木から雪が滑り落ちる音がした

「うっ…うっひぐっ」

リサは救われた気がしていた

もうこの世界は誰にも奪われないことはな

リサが望めばいつでも与えてくれる

グランレディオはそう約束してくれたの今度はリサは嬉しくて嗚咽が止まらなかった


それにグランレディオがあきれた風に言った

「はぁーまだ泣くの、お前」

しかしすぐに笑顔になるとリサにその手を差しのべた

「さ、帰ろうぜ!みんな待ってる

あと、そろそろ帰らないとオレが倒れるから」

それにリサは苦笑いして、すっと後ろを向く、遠くに慣れ親しんだ我が家が見える、今ごろは朝御飯ができて母親が待っているかもしれない


でも

「大丈夫、また連れてきてやる、何度だってな!」

リサは振り返り涙を浮かべて笑った

次期長ならば敬語でなくてはならない

「行きましょう、グランレディオ様!」

そしてリサはグランレディオの手を握った

その手は思ったよりもずっと小さく、そして暖かかった

グランレディオは幼い顔を満足そうにして笑った












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