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夢魔

それから時はうつろぎ先見の儀から二年近く過ぎた


イヴフィニア、聖徒の地下で百人近くの不審死が出たことも得たいの知れない儀式が行われたことも、国民は何一つ気付くことなく、変わりなく営む


そんなものだ


ジオンは執務の合間にふと寒々しくなってきた空と街を眺め思う


あるいは気付いていてなお知らぬふりをしているのかもしれぬ


ジオンは息を吐く


「そういう国だ」

今度は声に出す


イヴフィニアは


ジオンは目をつむる


あれから何度か式典など類いでグルドと面会したが

先見の儀や始まりのヒト、両儀の双子についてグルドは一度も口にしていない


ジオンは深く息を吐く


時折ジオンはあれは悪い夢だったのではないかとさえ思う


宰相も騎士団長も同じようなのか

お互いに話題にすることもない


それくらいジオンにとって現実感のない、既視感のない出来事だった


しかし、その日の午後、それは夢ではなかったとジオンは思い知ることとなる


それは1日の一通りの執務を終えジオンが執務室を出ようとするときだった


「ジオン様、これをお渡しするよう仰せつかってきました」


そこには○○教の正装をまとった男が一人頭を下げて立っていた


差し出された手には丸まった羊皮紙に蝋がおされたものがあった

「グルド様より授かりました

必ずジオン様御本人にお渡しするようにと」


ジオンは目を丸くする


「グルドが…?」


ついにきたか


ジオンは思わず息をのむ


「はい、中身は御部屋で一人で読んでいただき内密に、とのこと」



「わかった、確かに受け取った」


ジオンは男から羊皮紙を受け取る



男はそれを見るとそそくさと頭を下げた


それを見てとり、ジオンはそそくさと自室へと急いだ


後からついてくる、身辺兵達がそれは一体なんのか、物言いたげだ


いつもなら軽く会話などするが、さすがに今回は自室に入って一人になるまではジオンは黙りを決め込んだ


はぁ


自室に入りジオンは息を吐く

嫌な汗が額に流れる


自室の机に向かい、持っていた書類と一緒に羊皮紙もドサドサと机におき、ジオンは深く皮張りの椅子に雪崩れ込む


ジオンはまた一息つく、しばしの間虚空を見つめる


先見の儀からおよそ二年ぶり、とうとうグルドから応答がきた


神の支配

ヒトの滅亡

始まりのヒト

両儀の双子

これらの謎をジオンには調べる余裕などなかったがグルド調べてくれていたのだろうか


国の世界の危機かもしれないのに丸投げにしすぎたか


ジオンは一瞬そう頭によぎったが、すぐに頭を振り払った


いやこれで良かったのだ

素人のジオンが闇雲に調べても、王としての威厳を無くすだけだったかもしれない

また一つ息を吐いてジオンは羊皮紙を手に取りペリペリと蝋をはがす


とりあえず今は真実を知りたい


ジオンはそう思い開いた羊皮紙の上の流麗な文字を読む


間違いないグルドの字だ


そこには丁重な謳文句の後にシンプルに一文だけ描かれていた


~新月の夜七時に自室に迎えをやります、暖かい格好にてお待ち下さい~


これだけ…


ジオンは軽く目を見開いたが、またも冷や汗が額を伝った


だがこれではあのときと同じだ


先見の儀の時と


ただ違うのは前回は宰相と騎士団長も一緒だったが今回はジオン一人だと言うこと


ジオンは顔の前で手を組む


またあそこにいくのか


地下式典場に


そして今度はジオン一人、それほどに機密事項なのか、


今度は何を見せられるのか


「やれやれ…」


ジオンは深く深く息を吐いた


先見の儀の、時の精霊の言葉を思い出す


ここが分岐点である


まったく…


ジオンにはなにが分岐点なのか皆目見当もつかなかった


だから


「行くしかあるまい」


寒々しい声が広い部屋にしんと響いた



そして新月の夜


ジオンは再び地下の式典場に来ていた


前回先見の儀を行った時と同じ高台に今はジオンとグルドただ二人だけいる


そして階下の広いグラウンドの端には檻にいれられた、3人のヒト

男が2人女が1人

3人とも若い、精霊人の場合長命のため見た目には歳はわからないが、3人共に精霊人の証である琥珀の瞳をしている

そして確かなのは3人とも怯え、怒りなにかを叫んでいる


これだけでジオンはまたも嫌な予感しかしないのであった


ここに連れてこられまだ5分ほど

ジオンはグルドからまだ何の説明も受けていなかった

ただ間違いなく嫌なことが起こるであろうことは予見せずにはいられなかった


ジオンは息を吐いてグルドに訪ねる


「グルド、一体なんのつもりだ

こんなところに我を呼び出して何を見せるつもりだ

それにあそこに捕らわれてるのは精霊人ではないか?

もし、そうならこれが表にばれれば、○○精公国との国交に関わる」


精霊人はイヴフィニアにはいない

5stでは大半は○○精公国に、

後の精霊人ら少数民族として、ニゲル帝国のある北方に集中している


つまりはあそこにいる3人が精霊人の場合、誘拐してきたということになってしまう


しかしグルドはまた例の太い笑みを見せて頷く


「はい、間違いなく精霊人でございます

、精霊人でないとこれからお見せすることが意味を無くしてしまいますからね


ですがあやつらはニゲル帝国で奴隷として売られていたのを買ってきたとのことなので、精公国と国交に関わることはございませんのでご安心を」


ジオンは息を吐いた

「そういう問題ではない…」


しかし言っても無為な気がしてグルドは軽く頭を抱えた


「一体我に何を見せるつもりだ?

精霊人では意味がない?どう言うことだ?」


すると再びグルドはにんまりと笑う


「ジオン様、かつて先見の儀で精霊が言っていた

始まりのヒト、両儀の双子についてご説明いたしましょうか」


ジオンはようやくと思う

やはりグルドには検討がついていたのだ

ではなぜ2年もの間が空いたのか

ジオンはその疑問をなんとか飲み込んでグルドに向き合った

「ああ、頼む」


するとグルドはわざとらしく咳き込む


「あー、まず始まりのヒトとは6stに住まう精霊人、クレイドルのことを指します。」

「!」

それにジオンはなぜ今まで気付かなかったのだ!と思わず舌打ちをする

「そういうことか…」

6stにはクレイドルしか精霊人はいない

クレイドルは300人ほどの少数の精霊人で、争いを厭いルイリンガルと、国交を結びセントーレというルイリンガルの西の沿岸にある、小さな小島で細々と暮らしているという


そう、昔教師に習ったのをジオンは今やっと思い出した


そこにグルドが続ける


「そして両儀の双子ですがクレイドルの子供は必ず双子で産まれるそうです

つまりは両儀とは、光属性と闇属性の双子のこと、先見の儀式から一年後に産まれた陰陽の双子が予見の言う世界を調和するという双子のことです」


ジオンは疑う

「そんなものなのか?本当にクレイドルと言いきれるのか?」


グルドは首をふる

「それはあくまでも、憶測に過ぎません、確証はありません

ですがクレイドルを昔から始まりのヒトと呼ぶのは確かなようです


それにクレイドルは少数民族で争いを厭いますがその力は絶大と言われ、天候を操り、海や大地を割るほどの力のあり根下界最強とも言われております」


ジオンはまだ納得がいかなかった

だがもし、両儀の双子がクレイドルの子供だとすれば、予言のいう神の支配から世界を救ってくれる存在となるはずだ

ジオンは尋ねた

「では、その双子はどこに?」


それにグルドは満面の笑みで答えた

「双子はクレイドルと共にセントーレにおります、ですが排除の手はずはすでに整っております」

ジオンはいきなり意図しない言葉に意味を飲み込めなかった

「排…除…?」

ジオンはあわてて問い返す

「誰を…誰を排除するのだ?」


するとグルドはお得意のにんまり顔でふんぞり返る

「もちろん、両儀の双子でございます」

ジオンはあっけにとられる

「な…、何を言っておるのだ?!先見の儀では両儀の双子は神の支配からヒトを救い世を平定すると言っていたではないか?その両儀の双子をなぜ排除になる!?」


すると今度はグルドが驚いたように目を見開く

「ジオン様こそ何をおっしゃるのです?我々○○教は遥か昔より、神を崇拝するもの、神の子なのです

その神の所業を邪魔をするものがあれば排除する、当然ではありませんか?」


ジオンはあっけに取られる


確かに、確かにそうだ、ジオンが産まれる前から○○教は神を崇める教団、

だが…

「その神が、ヒトが半数近く滅亡に追い込むのだぞ?それをわかっているのか?」

しかしグルドの表情は変わらなかった

「もちろんでございます

神が望むのであればヒトが滅亡するのも天命なのでしょう、我々は神に従います」

「ッ…」

この、頭の固い大司教では話にならない

ジオンは言葉を失った

確かにジオン自身も○○教の一員ではある

国教なのだ、毎朝毎夕の神に対する祈りも週末のミサも欠かしたことはない


だが、今回はそれとこれとは話は別なのだ100万ものヒトが死ぬかもしれない

それと己のの信心を秤にかけることは絶対に間違っている

ジオンは息を吐いた


「グルド、両儀の双子の排除をやめるのだ、今すぐにだ」

できるだけ静かな声でジオンは言った


すると驚いたようにグルドは目を見開いた

「ジオン様?!」


しかしジオンの表情を見てとるやグルドしばし黙り小さく息を吐いた


「それは、王としてのご命令ですか?

それとも私情ですか?」


ジオンもしばし黙る

イヴフィニアにおいて○○教の権力は強いたとえ王としての命令であったとしても恐らくは通らない、ジオンがグルドに命令を通す場合、宰相と騎士団長3人分の合意がいる

しかし今はその2人はいない


これは自分の落ち度だ


無理矢理にでも宰相と、騎士団長を同行させておけば良かったのだー


こういう時自分の経験の無さ、脇の甘さをジオンは思い知ることが多々ある

ジオンは絞り出すように言った


「王としての命令だ」


するとグルドは申し訳無さそうな顔をつくって見せる

「申し訳ありません、ジオン様」


ジオンにはその顔も言葉も嘘でできているのはわかりきっていた


「たとえ、王命だとしても私情だとしてもその命令にはお応えできません」


ジオンはもはやなにもかも投げやりな気分だった

「そうか」


聞いてもいないのにグルドは続ける


「まずわかっていると思いますが、○○教にたいして王命は、宰相、騎士団長の2名の推薦もないと下せません、そして私情ですが、我々は王ではなく神に従う身、そのような意見を聞くわけにはございません

また、仮にジオン様が後々になって今回の事を罰しようとも我々はただ神に従ッたまでの事、我々を裁くことは叶わないでしょう」


ジオンは息を吐く

自分の国がこうなのはわかりきったことだった

王などはお飾りのようなものだ

「わかった、もうよい、お前がここで企んでいる事はなんなのだ、我に何を見せようとしている?」


それにグルドは満足そうににんまりした


「ジオン様は物わかりの良いお方であられる」


それが褒め言葉なのかなんなのかジオンは深く考えまいと無視した


グルドは気にした風もなく話し始めた


「ジオン様は夢魔という生き物をご存知でしょうか?」

「夢魔?」

ジオンは幼少時代勉学に漬け込まれていたときの記憶を探る

「確か1stの道管近くに存在し、微精霊を食す生き物ではなかったか?」

するとグルドはにんまりと笑う

「さすがジオン様、その通りでございます」

なぜだかジオンはさきほどからジオンに侮られているような気がして落ち着かない

「うむ、で、その夢魔がどうしたというのか?」


グルドは満足そうににんまりと笑った

その笑みに一瞬ジオンは寒気のようなものを感じる

「ではジオン様、この話はご存知でしょうか?

夢魔を手なずけ精霊人の暗殺を生業にしている一族がいるという話…」


ジオンは目を見開いた

「精霊人の暗殺…?」

ジオンは思ったままを口にだす

「まさかそんな…暗殺などと…そんな話は聞いたことがない

夢魔は低級生物だ、ヒトなど殺す個となどできぬはずだ」

しかしグルドはまたもにんまりと笑う

「それは世間一般の概念でしょう

ですが、本当に精霊人を食う夢魔がいたとしたら?さらにはその夢魔を操る術を持った人間がいたとしたら?信じられないでしょう?だからこそ暗殺などということが成り立つのです」


ジオンは押し黙った

確かにグルドが言うことは荒唐無稽ではあるがジオンが知らぬだけで本当のことかもしれない

だがだとしたら…

そしてジオンはそこで気付いてしまう


「まさか…

両儀の双子をクレイドルを…

夢魔で暗殺しようと言うのか?」


そこでグルドは何がおかしいのか大きく笑った

「ご名答でございます、ジオン様!

我々○○教は、両儀の双子を除するのに夢魔を扱うことにしたのでございます

なにしろ、争いを厭うと言えどその力は、根下一と唄われている種族ですからね、ですがいくらそんな一族と言えどエレラルの類いが一切通じない夢魔の前に無力のはずです、」


ジオン寒気を押し殺しながら言う

「エレラルが一切通じないだと?」


グルドは微笑む

「作用、今ご覧にいれましょう

おい、準備を」

グルドは近くにいた教徒の手をあげる


すると教徒の2、3人がすぐさま下へ続く階段を足早に降りていった


しばらくすると教徒達は2人のなにやら奇怪な出で立ちの男女2人を連れてグラウンドに現れる


ジオンは冷や冷やしながらその2人を見聞した

グルドが今お見せしすといった、つまりはこれから行われるは殺し

ジオンは年若いとはいえ一国の王、幼き頃より生臭いことには慣れっこだった

それでも、とジオンは思う


罪人でもないヒトが殺されるのを王として黙って見てていいものなのか


とはいえ思ったところで今のジオンには殺戮を止める権限を持たない


全くなんと形ばかりの王か…

ジオンは息を吐く


せめて、この目に焼き付けよう

決して目をそらさず最後まで見届けよう

ジオンは一人決意する


そこにグルドがジオンの隣に達奇っ怪な男女2人を指指しながら言った

「ジオン様、ご覧ください

あれが夢魔使いです」

ジオンは頷いた

年のころは若い、服は質素な黒に地肌が見えぬようにかすべて包帯が巻かれていた、腰にはなにやら小包が二つ、小さな坪が一つ

そして手にはなにやら笛のようなものを携えている

あれで夢魔を操るのだろうか?


しかし真に奇っ怪なのはその眼だった

彼らの両眼がある場所には分厚い包帯が巻かれなにやら目を模した絵が描かれていた

それはまるで、一眼しか目を持たぬ夢魔を表してるようだ


ジオンは足先から寒気がはってくるを感じる


グルドが解説を始めた


「夢魔使いは1stに住まう少数民族で遥か昔より独自に夢魔を扱う術を持っていたそうです

両眼を隠すのは笛で夢魔にしか聞こえぬ音域を出すために、目をふさぎ幼い頃から聴力を鍛えるためらしいです」

ジオンは簡潔に答えた

「そうか…」

なんとむごたらしい真似をする一族であろう、ジオンはうつむく


イヴフィニアが、あるのは6st

ジオンはせいぜい5stの○○精公国くらいにしか赴いたことはない


それが1stなるとこんな奇っ怪な一族もいるのか


ジオンは驚きつつ、グルドは一体どうやってこの一族に行き着き、話をつけたのであろう?と思った

だが聞いたところでどうせ反吐が出る真実しか聞けない気がしてジオンはこの疑問を飲み込む


と、その時だった

ガラガラガラガラ

音をたてて、おりが上がる音がグラウンドに響く


グルドがにんまり顔で言う

「ジオン様ご覧ください、始まりますよ」

いよいよ殺戮が始まるのだ

ジオンは息をのみ、できるだけすべてを見逃すまいと目を見開いた


夢魔使いはそれぞれ携えていた笛を唇にあてなにやらふく素振りをする


しかし何も音など聞こえてこない


しかし、まもなく夢魔使いが持つ壺からそれぞれ二体ずつ夢魔が這い出すように現れた


大きい!


ジオンは息をのんだ


それはジオンが昔読んだ書物で見たものとだいぶ違っていた


見た目は黒い幽霊のような浮遊体

大きな一眼と、とげどげしい牙がいくつもついた口のみを持つ


しかし圧倒的に、違うのはその大きさ


本来なら小型の犬程度のはずだがグラウンドにいる夢魔はそれぞれが象のように大きい


そこで察したかのようにグルドが笑う

「さすがヒトを食っているだけあってでかいですな」


ジオンは無視した


そういうことなのだろうか?

ジオンが思惑しているとグルドがなにを勘違いしたのか言う

「ジオン様、夢魔はもとより、精霊か精霊人しか食わぬゆえ、人間には無害です、ご安心して閲覧してください」


ジオンは息を吐いた

「精霊か精霊人しか食わぬのか…」


なるほど暗殺に利用されるわけだ


そこにとらわれていた精霊人達の叫び声が響いた


「貴様ら、どこのどいつだ!

我らをどうするつもりだ!こんなことして許されると思うなよ!」


ジオンとグルドは声のありかを注視する


若い男2人、おりを出て、両腕を構えている

女一人はおりの中のすみに隠れひたすらに怯えている


そこへ再び夢魔使いが聞こえぬ笛をふく


それが殺戮の合図だった


夢魔4体はそれぞれが避けた顎をバクリと開る

物々しい牙と赤黒い舌が露となる


そして夢魔はそのまま精霊人達の方へゆっくりと、決して早くはないスピードで向かう


驚いた精霊人達は各々詠唱する

「金色の刃よ、現れよ!」

「大いなる水よ、敵を切り裂け!」


4体の夢魔に水で出来た、いくつもの刃が襲う


しかしそれはすべて夢魔を通りすぎて派手な音をたてて向かいの壁を破壊した


放った精霊人は青ざめる

「なんで…」


もう一人の精霊人は金の剣を持ち夢魔に立ち向かう

しかし先ほどと同じく斬っても斬っても斬檄は夢魔を通りすぎて行く

精霊人は焦る

「くそっどうなってるんだ!」

精霊人達はやむくもに攻撃を連発する


ドガががっ


しかしそのすべてが虚しく夢魔を通り抜け反対側の壁を破壊する


「う…うわあぁあ!」


精霊人達はよろけ転びながら背を向けて夢魔から逃げ出す


するとおりに残された精霊人の女が絶叫する


「いゃああ!こないで!

守り手よ!守れ!!」


女が両手を前に掲げると

三枚の透明な壁が女の前に現れる


しかし夢魔はその壁を難なくすり抜ける


女は恐怖でひきつる


「いっいやぁぁ!」


それに先に逃げていた男2人のうち一人が

片方に指を指す

指の先には2人の夢魔使い


「おい!夢魔がだめでもあいつらを殺れば!!」


荒い息をのみもう片方の一人もうなずく


「俺が囮になる、お前は近づいて背後から狙え」


男達はうなずき、左右に別れる



しかしその間に残された女はついに夢魔に相対していた

バックリと開かれた夢魔の口が女に向かって振り下ろされる


女はうずくまって絶叫する

「いやぁぁ!っああぁ!」


ジオンは思わず口元を押さえる


白目を向いた女から血飛沫があがる


そこに覆い被さるように残りの夢魔が次々と女を飲み込んで行く


時折肉片が飛び、凄惨な臭いがこもる


ジオンは鼻をおおう


むごい…


しばらくして夢魔達がその場を離れる

そこにはもはやおびただしい血のあとと、肉片と骨片しかなかった


ジオンはひっくり返りそうになる胃を必死で押さえ込みながら

両の眼をギリと開ける


せめて、見届けると決めたのだ


その時だった


夢魔使いの一人が

爆風で吹き飛ばされる


夢魔使いは悲鳴もあげず、地面に落ちて、転がり、起き上がらない


「やった…これで」


背後をついた精霊人が小さくかいさいをあげる

しかしすぐに凍りつく


今や四ひきの夢魔が彼めがけて襲いかかってきていたからだった


「なんで…」


男は恐怖に顔をひきつらせ、小さく呟き、夢魔にその半身を屠られる


またも血ぶしきがあがり

先ほどの女と同じような顛末で男のあった形跡はなくなってしまう


ジオンはガタガタと震える体と混みあがる胃液を必死で押さえる

そこにグルドの声だけが響く


「バカなことを、夢魔使いは夢魔に自信を攻撃するものを滅せよと命令してある全く無意味なことを…」


それを言い終わるか、終わらないかのうちに最後の一人の断末魔と血渋きが上がった


ジオンたまらずしゃがみこみ、そこに嘔吐する


一通りはいても寒気と一緒に先ほどの映像が脳裏に張り付いていてなかなか、胃の不快感が収まらない

そこにグルドの落ち着いた声が響いた

「ジオン様大丈夫でございますか?

たてますか?おい!」

すると控えていた○○教徒2人が現れジオンに介添えする

ジオンはそれを振り払いなんとか立ち上がり、壁に寄りかかり人行き着く

「大丈夫だ…」


グラウンドでは何人もの教徒がうろうろしていた


場を清めるもの


夢魔使いを介助するもの


ジオンはそれらをボーッとしながらグルドに呟いた


「あれをクレイドルに差し向けるのか?」


グルドはうなずく

「はい」


ジオンはグルドに立ち向かう


「正気か?両儀の双子はまだ赤子だろう?赤子にあんなむごい真似を?!」

しかしグルドは微動だにせずこたえる


「赤子だろうと、子供だろうと関係ありませぬ、問題はそこではありません、

あくまで神に対向するという無礼が許されぬのです」

ジオンはグルドを睨み付ける


「そんなことをすれば親や一族のものが黙っておるまい

それにクレイドルには隣国のルイリンガルと深い縁があると聞く

いずれ結託しイヴフィニアに攻めて参るやもしれぬ!」


しかしグルドは太く笑うだけだった


「そこは心配ありません」


妙に自信のある不気味な笑みにジオンは不吉さを感じた

「心配ない?…」

グルドがにんまりと笑む


「今回の件はルイリンガルの3貴族が一人ハライパイ様のご協力のもと行われますのでクレイドルは赤子諸とも一族根絶やしします」


グルドは目を見開く

「なん…だと!?」


ルイリンガルで3貴族と言えば、王権を持っている権力のある貴族だ

クレイドル一族根絶やし?!

どう言うことだ?!

グルドは一時思考が止まる


それに答えるようにグルドは口を開いた


「ハライパイ様にあたっては前々からルイリンガルの王権がクレイドルの意向によって決まるのが時代遅れだと感じていたご様子

私達の噂をどこかで耳にいれたのか、すぐに協力を惜しまないと言ってくださいました」


ジオンはうめく

「そんなバカな…」


確かにルイリンガルでは、3貴族からクレイドルが、王を選び結婚すると聞いたことがある

そうすることでクレイドルはルイリンガルという後ろ楯を得、

ルイリンガルはクレイドルという強い血を得る

という共存をしていると教師に習ったのをジオンは頭から引っ張り出す


しかしこれでは


「これではルイリンガルの裏切りではないか

しかもそれにイヴフィニアも結託している」


しかしことびれるふうもなくグルドはただうなずき続ける


「左様です、ですが必要なことですから」


ジオンは目を見開く

できるだ限り凄みをつけてグルドを睨み付ける


「やめろ」


しかしグルドは動じない


「やめろ、とは?」


ジオンはさらに睨み付ける


「クレイドルの惨殺をだ

いいか、今はいいかもしれぬ

だがいずれ必ず報復を受けるぞ

それを身を持って知るのは他ならぬイヴフィニアの民なのだぞ?!

お前にはそれがわからぬのか?!」


グルドはわざとらしく肩をすくめる


「ジオン様、失礼ながら最初にもうあげましたがジオン様のご命令は宰相と騎士団長の推薦がありませんと…」

ジオンは思わず叫んだ


「そういう問題ではない!」


これにはグルドは何事かと少し身をすくめる

ジオンはそこに静かにいい放つ


「今すぐにクレイドル惨殺を取り止めるのだ」


グルドは小さく言う


「そう申されましても…」


ジオンは畳み掛ける


「このようなことをしていたことはいずれどのような形であれ国民の耳に入る

罪のない精霊人を惨殺したことが知れれば、国民が内乱やクーデターを起こすやも知れぬ、手遅れになる前にやめるのだ!」


しかしグルドは一時項垂れたようにし、そしてスッと顔を上げた


「申し訳ありませんジオン様」


ジオンは驚く


「クレイドル惨殺計画は明日明朝

すでに夢魔使い千人、○○教紋章部隊三千人、セントーレ向けて八時間前に出立しております

…もう止めることは誰にもできないのですよ」


ジオンはただ目を見開いた



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