お告げ
見たことのない動物だった
ジオンら一行はそれらを見て息を呑んだ
光の精霊は例えるなら角が幾何学的に生えた大きな金の牡鹿のようなもの
闇の精霊は例えるなら大きな真っ黒なカラス
目だけが、紅くギラギラと輝いている
「これが…精霊」
精霊はヒトの世界である根下界では存在しない、いや依代を媒体にせねばできない
なので3人とも精霊という存在を可視したのはこれが初めてだった
宰相が息を吐く
「このなんと…厳かで、禍々しいことか…」
ジオンは頷いた
精霊というものを同じ生き物という枠にはめていいものかジオンは迷った
精霊とは、時間や空間、性別、時には生死すら超越した存在だと幼い頃、教師に習ったのを思い出す
ジオンには正にそれを体現してるようにも見えた
そしてジオンは苦しみもがく贄となっている人々を見る
それを呼び出す代償がこれ…
では、一体予言とは?
これだけの代償を払い得る予言とは一体何なのだ?
それだけ世界を、震撼させる出来事が起こるというのか
ジオンは再び、グリドに視線を写す
グリドは例のにんマリ顔はそのままだったがどこか緊張気味に冷や汗をかいていた
しかしジオンの視線を受け取って深く頷いた
それにジオンは息を吐く
そして大きく顔をあげる
「光と闇の精霊よ!
我は第112代イヴフィニア聖国国王ジオン=デューク=デルセバ=イヴフィニアである
まずは天葉界より下ってくださったこと、礼を申し上げる」
すると驚いたことに精霊はしゃべった
光る牡鹿は妙齢の男性の、声だった
『ふむ、きっかり二百年だ、根の時はいつも早いもの、同じくヒトの命の灯火も消えてはまた、燃え盛り、また燃えるもの、見ていて不思議と飽きぬもの』
すると今度は紅い目のカラスが若い女性の声で鈴をころがすように笑う
『実、実に、ヒトに名を与えてもう1000年余り過ぎた、ヒトの業と欲とは尽きぬもの、精霊にはない、強い強い我、ヒトとは実に楽しい』
これにジオンは少し面食らった
精霊はまるでヒトの物差しで計れるものではなかった
誰に何をどう喋れば正解なのかジオンは一時困惑する
するとすかさずグルドが割って入った
「精霊様、私めは○○教第120代大司祭グルド=メガース=イヴフィニアでございます
発言をお許してもらえますでしょうか?」
すると二体の精霊はグルド見る
『ふむ、○○教太宰か、うむ、話せ』
「ありがたく存じます」
グルドは深く頭を垂れた
そしてゆっくりと起き上がる
「我々は二百年前にあなた方に再び先見の儀式のしてお告げを聞くように言われました
そのためこうして、あなた様方を再び根下へ誘ったわけでございますが、どうぞ我々に御告げを思し召しくださいますでしょうか」
すると、金の牡鹿が頷いた
「ふむ、そうだったな、その通り我々は根下の、先見を得ている」
そして金の牡鹿はチラリと紅い目のカラスを見、二匹は頷いた
御告げは突然始まった
ジオンは驚き耳をそばだてる
それはまるで詩のようだった
『これより先、根に上幹より神が支配の手を伸ばすだろう』
『これにより世界は荒れ、百年の間にヒトはその、半数が死に絶えるであろう』
四人はそれに固まる
ジオンは目を丸くする
「半数が死に絶える!?」
宰相も狼狽えようにうなる
「確か現在根の人口はおよそ200万人、
その、半数となれば100万近いヒトが死に絶えると…!?」
騎士団長も狼狽する
「いやしかしそんなまさか…」
しかしグルドだけは別の部分に驚いているようだった
「神の支配…」
ジオンはそれに軽く違和感を覚えた
神、確か根の上の上幹界に住まう、その名の通りヒトを超越し存在…
それぞれ闇を司る魔神と光を司る天神とがあるらしい
精霊とはまた別の存在でどちらかと言うとヒトに近いと言われている
ジオンはグルドを見つめる
確か○○教は神を祀る教だったはず、グルドには今の御告げはどう解釈を得たのかジオンは疑問に思う
しかしそこに2対の精霊が再び声をあげる
『しかしすでに我々は手を打った』
『然り…安心するがよい』
皆が困惑の目を精霊達にむける
『一年後、始まりのヒトから両儀の双子が現れる』
『両儀の双子、神の支配を鎮め、世界を調停するであろう』
ジオンは目を見開く
「始まりのヒト?両儀の…双子?」
『然り…』
二体の精霊は頷く
しかしその姿は光に透けるように薄く、声は遠のいていく
『もう時がないようだ』
『ヒトの王よ、ここが分岐点である、それによって150年後…』
しかしそこでブツン、と声は途切れ精霊の姿は霧を払ったように霧散して消えた
ドサッ
それと同時に最後の依代の一人が倒れた音が静寂に包まれし空間で響く
ジオン達4人は目を見開く
「150年後なんだと言うのだ?」
宰相がうつむく
「また先見の儀を行えと仰りたかったのでしょうか?」
するとそこに何か思惑しているであろうグルドが割って入った
「ジオン様、始まりのヒトについて私に心当たりがございます
至急お調べするので少々お時間をくださいますか?」
ジオンはグルドを見た
思えばこのときからグルドに対しジオンは違和感があったのだ
「そうなのか?
任せる」
しかし齢二十歳そこそこでしかないジオンには経験が足りない
ジオンはもっと重く見るべきであったのだ
精霊の言う分岐点とは何か
目の前の大司教が一体何を画策しているのか
しかしこのときのジオンには国を回すので手一杯でそこまで頭が回らなかった
だが、たとえジオンがここでグルドの画策に気づいたとして
これから起こる悲劇を止めることができたかはさだかではない
なぜなら運命はすでに回り始めていたからだった