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イヴフィニア

根下歴1236年

6st 北東 人間の国 イヴフィニア


聖都


その日若き国王であるジオン=イヴフィニアは国教である○○教の大祭グルド=イヴフィニアに教会へと招かれていた


嫌な予感は普段式典などを催す広間ではなく地下に通された辺りで感じはじめていた


(臭いー)

地下へとむかう薄暗い傾斜のかかった階段は点々と松明の灯りにともされながらゆらゆらと不気味にはるか下まで続いている

しかしジオンは言葉に出さず

案内役の官吏についてただ下に下にと下る

しかし進むに連れてその匂いは確信足るものに変わる

風に乗って鼻腔を刺激する悪臭


同じことを感じたのか、護衛で連れてきた聖都騎士団長のビル=イヴフィニアが低くうめく

「なんの匂いだ?まるで排水溝の中にいるような…


それに同調するように聖徒太宰オッド=

イヴフィニアも、頷く

「これと似た匂いを嗅いだことがございます、スラム街です

これ、案内の、者我らをどこへ連れていこうとしている?グルド氏はどこだ?」


これに前を進む官吏は振り返る事もなく答えた

「地下の祭典場でございます

グルド様もそちらにございます」

「グルド氏はそこで一体何を?

我々はただ式典があるとしか聞いておらぬ」

ジオンは間髪を容れずに答えた


官吏はさすがに振り返る

「申し訳ありません

私からは何も

グルド様はただお連れするように、としか命じられておりません

どうかお許しを」

そして深々と頭を垂れる


ジオンはため息を吐いた


行くしかない


「わかった、行け」


官吏はそそくさと顔をあげ

また、前を先導し始めた


不吉は目の前にまで迫っていた


30分ほど下っただろうか?

そこには薄暗い空間が広がっていた

匂いは先ほどから比べ物にならないほど鼻腔をついていた


そこにどこからか現れた別の官吏が4人にマスクを差し出す


ジオンは奪うようにマスクを取りすぐに装着する

他の3人にも、例外なくそれに倣う

それだけで不快感が徐々に収まった


ようやく息をつき、ジオンは官吏に再び聞いた

「ここが式典場か?」


それにマスクをつけた官吏が重々しく頷き答える


「作用でございます、さ、グルド様はこちらにおいでのはずです」


ジオン達は大人しくそれにしたがった






「これはこれは、国王様


このような場所までご足労いただきありがとうございます」




グルドは威厳のある背の低い恰幅のいい老人だった


ジオンは内心怒りを抑えながらなるべく平静に答えた


「して、グルド


なぜ我々をこんな場所へと呼びつけた


式典とはなんだ?


ここで何をする?」


するとグルドは悪びれた様子もなくにんまりと笑う

「予言をいただくのですジオン様

先見の儀です」


ジオンはその言葉にピタリと体を止めた

「…先見の儀だと?」

それにグルドはさらににんまりと笑って見せた

ジオンはふとなぜこの男はマスクなしで平静にいられるのか?と疑問に思った

しかしすぐに疑問を頭に丸め込む

グルドがその口許の皺をさらに深く刻みながら話し始めたからだった


「左様で、ジオン様、事が事なので秘密裏にこうして地下深く潜って準備して参りました

何しろ依り代を100人近く集めないといけませんですから…

そのために、ジオン様に口外することが難しかったのですよ」

ジオンは、息を飲む

「先見の儀…百人…依り代…では実にに?」

それにグルドは先ほど同じ皺の深いにんまり顔で頷く


そこに業をにやした騎士団長が割り込む

「失礼ながらジオン様発言をお許しください、先ほどからの、先見の儀とは?100人の依り代とこの匂いは関係があるのですか?」

それにはジオンにかわり太宰が答えた

「先見の儀とは、イヴフィニアで時代の節目節目に行われてきた、天の精霊に未来を問い予言をいただく儀式のことだ」

ジオンはそれに頷く

「だが、ここ数百年行われたという記録はなかった

ので、我も書籍でしか実態を知らぬ」


ここでジオンは息を吐いた


「書にはこう書かれていた

100人の生け贄と引き換えに天の精霊を召喚すると…」

それに太宰は顔を背け、グルドはにんまりと笑い、騎士団長は顔をしかめ叫ぶ


「では!この悪臭の源とは!」


グルドは吐き気を催しそうな笑顔を張り付けたまま頷く


「はい、この地下に

イヴフィニア中の、罪人100人余り閉じ込めております

誠に勝手ではありますが、お忙しいジオン様に変わり手配しておきました」


「…!」


此にはジオンを筆頭に太宰、騎士団長は口をつぐんだ


なんということだ


ジオンは眉をしかめる


ジオンは若い、父がみまかり成人して、即位したのがわすが一年前

まだ21にしかならない

国政に関わってまだ一年でしかない

それでも国王だ


いくら秘密裏にとはいえ

いくら罪人とはいえ100人もの、人の命


国の大事に何も知らされてなかったとは己の無力さに憤りを覚える


だが○○教は国の国教会でその大祭司であるグルドの発言権は高い

いくら王とはいえ万能ではない

ジオンはただ頷くしかなかった


「良い、で、儀式はいつ始めるのだ

そしてなぜ今先見の儀を行う?

なにかよからぬ星でも出ていただろうか?」


これにグルドはまたも嫌らしい笑みを浮かべる

ジオンはどうにもこの笑顔が好きになれなかった

「先見の儀は本日行います

そのためにこんな穴ぐらまでお呼びしたのです、ジオン様の一声があればすぐにでも始めることが可能です」

ジオンはまたも口をつぐむ

100人もの、命を自分の一声で失わせなければならないのだ

王ならば、罪人の処刑など山ほど行ってきたし見てきた

しかし、数の問題ではないと頭ではわかっていても重くのしかかるものがあった


そんなジオンの考えなど露ほど感じてないだろうグルドは続けた


「先見の儀は我々○○教に秘密裏に伝えられてきた、闇の儀式


前回行われた二百年前の儀式のさいにお告げがあったのです」


ジオンはハタとする

「お告げ」


グルドは頷く

「はい、二百年前に二百年後に世界に変異あり、と…」


「変異?」

ジオンは首を傾げる


グルドは首を降る

「わかりません、ですから先見の儀を行って再び予見をいただくのです」

「なるほど」

ジオンは顎に手を置く

騎士団長がやっとわかったと言わんばかりにため息をついた

「そういうことか」


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