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あるギルドメンバーの遺書シリーズ

あるギルドメンバーの遺書~リナリーside~

作者: 美月木壱

本作は、少し前に日間ランキング2位・月間9位をいただきました「あるギルドメンバーの遺書」という短編

https://ncode.syosetu.com/n4695hi/

また現在日間ランキングに載せて頂いている「あるギルドメンバーの遺書(裏)」という短編

https://ncode.syosetu.com/n9013hr/


の続きになります。

単体でも楽しめるようになっている作品ですので、お気軽にお楽しみください。


 あなたが亡くなって、もう三ヶ月が経ちました。


 世界はゆっくりと確実に、終わりに向かっています。


・・・


 拝啓、ここにはもういないあなたへ。


 あなたと私が出会ったのは、私がまだ十七歳の頃でしたね。

 私の実家は王都の近くで冒険者向けの滞在宿をやっていて、あなたが訪れたのは春の暖かい夜のことでした。

 初めから礼儀正しいあなただったけど、私はその当時、冒険者というものが大嫌いでした。

 だって私が見てきた冒険者というのは、誰もかれも傲慢で人の気持ちを考えない者ばかりです。


 見下され、笑いものにされるくらいならまだマシな方。

 家賃の踏み倒しなど、二人に一人はやっていました。さらに救いがないのは、それを悪いことではないと、冒険者は皆本気で思っていたからです。

 だから、踏み倒すのはむしろ……優しい方が多かったのでした。だから私は優しい冒険者を信じることが出来なかった。

 だから、私は初めて会ったその日、あなたにひどいことを言ってしまったのだと思います。


「早く出て行って」なんて、今考えれば酷い話です。


 けれど貴方は良い方でした。傷付いたリスのような私に優しく接してくれた。

 今思えばひどいことも言ったと思います。最初から疑ってかかっていたのだからーー特に貴方と一緒にいた人達は、私のよく知る冒険者そのものだったから。

 けれどあなたは違っていた。たとえばさりげない親切。一緒に買い物に行った思い出。花瓶を壊した責任を擦りつけられそうになったときも、あなたは自分の身を挺してかばってくれた。

 そういった色々なことがあって、私はあなたに惹かれていきました。


 あなたはこの下宿に、二年も居てくださいましたね。


 その間、あなたはいつも、「他のメンバーと平等に扱ってくれて嬉しい」と言っていましたが、私からすれば心外な誤解です。

 私にとってあなたは特別な人だったのですから。

 父に注意されるほど特別扱いをしてしまったのですから。


 平等に扱った? そんなことを言われたら、私は寧ろ悲しい気持ちにすらなります。私の心は、あなたに知られることすらなかったのです。

 それがどういう意味を……どういう感情だったかというのも、もうあなたには届くことはありません。


 あなたの心はいつも、何かに苦しんでいたような気がします。

 それが何故かは、あなたはいつも口にはしなかったので、はっきりとはわかりません。

 けれど、ギルドの誰かのせいのような、そんな直感がありました。

 あなたはギルドの誰かと会うと、いつも苦しそうな顔をしていたから。私はそれに寄り沿うことしかできなかった。


 あなたが全身に浅い傷を作って帰ってきた時、ダンジョンの敵によるものじゃないと薄々分かっていたのに何も言ってあげられなかった。

 ギルドの人達は元気そうなのに、あなただけが丸一日何も食べてないような顔で帰ってきても、その理由もどことなく分かっていたのに、ご飯を作ってあげることくらいしかできなかった。


 何もしてあげられなかった自分をとても責めました。どうしてこうなる前に、と……今更何を言ってももう遅いけれど。

 つまらないお喋りばかりしてごめんなさい。


 でも、言葉があふれて仕方ないのです。

 貴方に伝えたかった、伝えられなかった言葉が。


 あなたは亡くなる前日、突然私の部屋に来てプレゼントをくれましたね。あなたが私の部屋に来るのは初めてだったから、ドキドキしたのを覚えています。


 渡されたのはペンダントでした。

 ……いや別によかったのですけど、あのですね、ペンダントを贈ることの意味をご存じですか?

 永遠に一緒にいたいという意味なんですって。流石に照れたのを覚えています。

 でも、嬉しかったことはそれ以上に覚えています。

 ……どうせなら、現実になってほしかったけれど。


 あなたは私にペンダントを渡した後、最後にこう言いました。

「もし時が来たら、君の思うままに行動してほしい」と。


 その時は意味がわかりませんでしたが、今ならよくわかります。

 終焉魔術で世界が緩やかな滅びに向かいつつある中ーー先程私の前に手紙が現れました。

 あなたが残したもう一枚の本当の遺書。私だけに見える手紙。これがメッセージだとすぐに気付きました。

 私は先程それを読み、色々なことを考えて、そしてあなたの遺志について考えていました。


 あなたはこの手紙を破ってくれと言いました。

 私を護るためだというのはわかりきっていました。

 私はそれに応えなければならないのも分かっていました。


 でもごめんなさい。本当は嫌です。


 だってこれはあなたがくれた、最初で最後のプレゼントなんですから。壊したり破ったりできませんよ。

 愚かな女と思いますか?

 私もそう思います。

 

 でも、もうあなたがいない世界に左程興味もないんです。だったら、あなたから貰った善意を胸に抱いて、あなたのために死ぬ方がずっと良い。

 終焉魔術で死ぬことはないけれど、手段はそれだけとは限らない。あなたと同じ方法だってある。

 あなたはきっと怒るでしょうけど、これが私の決意であり、精一杯の愛だと。

 勝手にそう考えていました。

 

 でも、思ったのです。

 世界はあなたが最初に指定した場所ーー世界の西側を起点に、終焉魔術で確実に滅びに向かっている。そんな世界を救う手段を持っているのに、放置しておくのは私自身が許せない。

 だからあなたの復讐は私が潰させていただきます。世界は私があなたから救い出す。


 ーーあなたの復讐は、概ね達成できています。

 終焉魔術が発動して二週間。あなたの遺書が露見して数ヶ月。エルザ達はあなたの望む通りの罰を受けています。もうエルザは自分の目でものを見ることができなくなりました。ミーシャは美しい顔を失い、オーディンやアルファルドは戦うための腕を無くした。


 私は彼等とは違う。

 この目で全てを見届ける義務があります。

 だから私は手紙を破る。

  

 記憶を失っても構いません。必ず思い出すのだから。

 貴方の魔術は本当に強い。だからきっと、私が記憶を取り戻すこともとても困難でしょう。私には魔力がもうないから、何かの魔術を使うことも難しいでしょうね。


 でも私は貴方の魔術に勝ってみせます。

 終焉魔術も喪失魔術も超えた先に答えはある。魔術の代償に記憶を喪失させるのならーーこの世のどこかに、その記憶を取り戻す方法があると思いませんか?

 今はただの下宿屋の娘でも、いつかあなたも、あの女も凌ぐ存在になって、必ずあなたを思い出す。

 

 その時まで一度、お別れです。

 どうか待っていてくださいね。必ず記憶の中で会いに行きますから。


 その時までに、世界が私を忘れてくれているといいけれどーー


お読みいただきありがとうございます。


面白かったと思っていただけたら、画面下部の☆☆☆☆☆を星で評価いただけると作者がとても喜びます。


また、ブクマしても良いぞ、という方がいらっしゃいましたら是非いただけると幸いです。

これからも作品づくり頑張ってまいります。

よろしくお願い致します。


※日間ランキングに載せていただきました!ありがとうございます。

※6/30の7~8時過ぎ→12時過ぎに「エルザside」を投稿します。


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▼▼▼遂に連載を始めてしまいました。短編で書いていたストーリーの裏で起こっていたという話です。是非どうぞ▼▼▼

【連載】あるギルドメンバーの遺書〜解〜


― 新着の感想 ―
[一言] 一作目は「語りすぎない」という点で大変素晴らしい作品でしたが、それに対して続編となる(裏)およびリナリーsideは「答え合わせ」以上の内容が無く(特に本作リナリーsideは顕著です)、シンプ…
[良い点]  リナリー思った以上に強い女性ですね。 [一言]  どっちかだと?両方だ!両方くれ!
[一言] 両方読みたい
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