ドノバン無双
「ああ!? なんだこのジジイ!?」
「説教してんじゃねぇぞ? 酒がマズくなんだろうが!」
「謝れだぁ!? 謝らせてみろやぁ! ここぁクタナツだろぉが! 強けりゃいいんだろがぁ!」
うっわ……こいつら……本当にガキだ……
しかも俺と同じよそ者か?
「いきがりたい気持ちは分かります。初めて訪れたクタナツで、舐められまいとする気持ちも。ですが、ここはギルドなのです。冒険者は皆仲間。助け合いが肝要なのです。心を開いて先達の声に耳を傾けていただけませんか?」
「ああ!? 先達だぁ? ジジイはお呼びじゃねぇんだよ!」
「ぎゃははぁ! まったくだぜぇ! 先達だってんなら強えぇとこ見せてみろやぁ!」
「お? 俺とやってみっか? 俺ぁつええぜっごばっあぁぁぁーーーー」
ぎゃあぁあぁーー! で、出たぁぁーー! ドノバン組合長! なんでいつも気配もなくいきなり現れるんだよぉぉーー!
「ドノバン。若い方をそのように殴るものではありません。彼らにも未来があるのですよ?」
「バカが! ダチぃバカにされて殴らねぇ奴がどこにおるんじゃあ! おうガキどもぉ! 有り金おいてさっさと消えろや!」
「なっ、て、てめぇこのジジっがっぼぁぁぁぁーーーー」
「お、おいザイラ!? よ、よくもやりやがったごおえええーーーー」
「まったくドノバンはその歳になっても昔のままですね。若者には優しくしてあげませんと」
「うるせぇんじゃあ! おうアステロイド! あいつらの懐から金だけ全部抜いとけや! 装備にぁ手ぇ付けてやるんじゃねぇぞ!」
「はいよー。まったくよぉ……」
ジャックさんや組合長とはタイプが違う、細身だが屈強そうな男が顎で使われている……
「おう吟遊詩人。とっとけやぁ」
「ありがとうございます。ですが私が受け取るのは銅貨一枚の約束です。残りは皆さんで飲まれてください」
結果的にあいつらは金を払ったことだし、吟遊詩人仲間に回状を回すのは勘弁してやるか。命拾いしたねぇ。そこまで考えて組合長は殴り飛ばしたんだろうな。やはり粗野なだけの男じゃないな。
「それでですね。今夜はあなたにノアさんのお腹を殴っていただきたくお連れしたのです」
「ああ? ワシがこいつをぉ?」
ちょ、ちょっと待てぇーい! 組合長に殴られるのか!? そ、そんな……
「ええ、もちろん軽くですよ? お腹の中にまで響くよう殴ってあげてください」
「そりゃあ別にいいけどよぉ……大丈夫なんかぁ?」
「ノアさんを舐めてはいけません。ここ数日でだいぶ強靭になりましたとも。ですが、私が鍛えたのは表面の筋肉のみ。内部まで鍛えるにはあなたの力が必要なのです」
ちょ、ちょっと待て……意味がまったく分からん……表面のみって何だ? 内部って何だ!?
「まあ、おめぇがそう言うなら構わんけどのぉ……おう吟遊詩人! 腹に全力で力ぁ入れとけや!」
「は、はい!」
お、俺だって! ジャックさんの地獄の特訓に耐えたんだ! 今度だって耐えてみせる!
ぽふっ
ん? 本当に軽く殴られ……「げおおおおおおおおおおーーーー!」
ぐがあああああああああ
は、腹が、奥が、がああああ……
苦し、い、息が……
「どうですか? ドノバンは魔物の外皮を傷つけずに心臓をぶち抜くこともできるのです。手加減して打てば直接内臓を鍛えることに応用できます。これを繰り返せばノアさんもきっと一流の吟遊詩人になれますね」
はぐああああああーーーー!
ジャックさんが、何か、言ってる……
苦しい……息が……
「さあノアさん。立ってください。ステージがあなたを待っていますよ。我々にあなたの素晴らしい歌を聴かせてください」
ごっふ……手を引かれ……起こされてしまった……
う、歌えと言うのか……この状態で……?
くそが……やってやる……
ここの奴らに……俺の歌を……
「ジ、ジャックさん……リ、リクエストを……」
「ふむ。そうですね。それでは先日と同じくドノバンの歌をお願いできますか?」
「り、リクエストありがとう、ございます……」
「ジャックよぉ……おめぇ鬼かよ……」
「聴いて……ください……」
『ドノバン無双』





