第九話 暴れん坊登場
文化祭が始まった。
健児しきりの「だんごの楽園」は女性客100%。
俺たちイケメン5人の接客で初日と2日目ともに大盛況で両日共に
午後一には、だんごが売り切れでしまい、残りの時間は暇だった。
聖はアニメ・漫画部の呼び込みで初日は、人気アニメのかわいいキャラクターになり、
2日目はメイド姿で男子生徒たちを虜にしていた。
石田はカメラ小僧になり、写真を撮りまくっていた。
また新しい石田のキャラが出てきた。
はぁ~、みんな本当のこと知ったらどうすんだろう…
男でもいいのだろうか、みんなは。
俺は?俺は…聖が男でも…
やめよう、やめよう、俺は何を考えているんだ!
自分を見失うな!!城―!
最近は自分で言い聞かせることで精一杯だ…
文化祭最終日、3日目の午前中、「だんごの楽園」に聖とクラスメイトの
女子数人がやって来た。
「城~、来たよ~」
聖の声に振り向いた俺は驚いた。
団子を食べていた女の子たちは、聖を見てトロンとした目になった。
「な、なんだよ!その格好は!!」
俺は聖の腕をひっぱり隅の方に連れて行った。
「今日はこれなの~。ホストのコスプレ~、似合う?」
聖は細身の黒のスーツに身を包み、髪を真ん中から分け、少し色黒に化粧を
していた。
まったくもって「これからご出勤ですか?」状態のホストのいでたちであった。
俺を含む「だんごの楽園」のウエイター5人を蹴散らすほどの格好良さだ。
やはり、コイツはいい女であって、いい男でもあった…負けた…
「聖~早くおいでよ~」 友達に呼ばれた聖は、
「んじゃ!そういうことで!あっ、3時からミスコンで女になるから
ヨロシクな!キス…楽しみだな」
俺の肩をポンポンと叩いて友達の元へ行った。
「はい…だんご…」
俺は聖たちのテーブルに団子とお茶を置いた。
「違うでしょ?他のウエイターみたいに、やってよ」
「やだよ…」
聖が団子を俺の持っていたトレーにのせ直した。
「はい!やり直しぃ~」
同じテーブルの子たちもクスクスと笑っていた。
しかたなく俺は
「お待たせいたしました、お姫様。喉に詰まらせないようにお召し上がり
ください」
このフレーズを考えたのは健児だ…はずかしい…
「じゃ、あ~~ん」
聖が俺に向かって口を開けた。
サービスの一つとして希望者にはウエイターがお客さまに食べさす…
これも健児の案だ。クゥーーーー。恥ずい!!
「ほらっ、食え!」
俺は串に刺さった団子を、そのまま聖の口に突っ込んだ。
「んがっ、なにふんのよぉ」
「調子に乗るな…」
そんなことをしていると、聖の携帯が鳴った。
「あっ?洋ちゃん?どうしたの?」
聖は団子をモゴモゴ食いながら電話に出た。
クラスメイトの洋ちゃんからだった。
「今?城のだんごやさんにいる~」
城のだんごやさん…って、俺のじゃない!健児のだ!
「ぁあ?!すぐ、こっちに来て!!」
聖はそう言うと急に立ち上がった。
ドタドタとすごい勢いで息を切らし洋ちゃんが入って来た。
「どういうこと?!」 聖はあせった顔で洋ちゃんに聞いた。
「ハァハァ…い、いまね…ハァ、北、き、…み、水ぅ…」
俺は思わず洋ちゃんにテーブルにあったお茶を渡した。
「ハァーー、あのね!風ちゃんが!北高の連中に連れて行かれた!!
どうしよーーー!」
風ちゃんとは、クラスメイトで小柄なぽっちゃりとした聖の仲間だ。
別名、コロンちゃんとも呼ばれている。
洋ちゃんは続けて言った。
「聖が来るまで風ちゃんを預かっておくって…」
「場所はどこだ!!」
男になってる…
「なんか、この間のところ…って、そこに来いって…」
北高といえば、数日前聖がやっつけた細田たちか?!
「わかった!!」
聖は走り出した。
「待て!俺も行く!一人じゃ危ない!」
「どうした!城!」
健児の声にも振り返らず、俺は聖の後に着いた。
俺は正面入り口にある自転車置き場から、サエドンの自転車を拝借した。
サエドンの自転車はいつも鍵をかけていないので生徒たちが勝手に使っていた。
歩道を走っている聖に追いついた。
「聖―、後ろに乗れ!この間のところってどこだ!」
「街外れの廃墟の工場だ!」
俺は聖を自転車の後ろにのせ、指定された場所へ突っ走った。
「城、急げー!今日はズボンだ!ラッキ~~~」
俺の後ろで心なしか嬉しそうな聖の声を聞いた…
暴れられるからなのか…?
「風ちゃん大丈夫かな、ごめん!風ちゃん!」
俺の背中でブツブツ言っている聖を乗せ、今までこんなに漕いだことがないくらい
ペダルを一生懸命漕ぎ続けた。