第八話 擦り傷オンパレード
そして次の日からまた、いつものように手をつないで登校した。
なぜ手をつなぐのかと言われると、聖がつないで来るからだ。
教室の中で俺は聖から目が離せなくなっていた。
女子とも男子とも楽しく話している聖は女子そのものだった。
やっぱり、かわいい…
俺のフィルターは壊れてしまったのだろうか…
聖の正体が何時バレるかという心配と、自分の聖に対する思いで俺は一人苦しんでいた。
文化祭3日前、俺は8時ごろ帰宅した。
「聖ちゃん、今日は夕食要らないって来なかったのよ」
おふくろの言葉で心配になり、俺は聖の部屋に行った。
玄関の鍵はかかっていなかったので勝手に入り、リビングのドアを開けた。
「聖、メシ……どうしたんだよ!それ!」
テーブルの上に絆創膏や塗薬が散乱していて、聖は急いでTシャツを着ようと
していた。
「聖!おまえ…見せてみろ!」
俺は聖が着ようとしていたTシャツを脱がし取った。
「ハハハ~はぁ…」 聖は苦笑いをして「テヘッ」と首をかしげて笑った。
…やめてくれ、その顔と体のバランスに俺はまだ慣れていない。
聖の体は、全開バリバリ青たん満開だった。
「おまえ…やったのか…」
「いやーー、つい…」
聖の言葉に俺はうなだれた。
「なんかさー、横縦北高の細田?あいつ、すんげー生意気でさぁ、中坊相手に
カツアゲなんかしちゃってたわけよ、でさー」
聖は言い訳を始めた。
「でさー、じゃないし…横縦北高の細田って悪い事大好きで有名なんだよ!
危ないだろ!」
「あ~大丈夫!どーってことなかったよ。お付みたいのが10人位いたけど
順番にやっつけて、最後に細田に一発お見舞いしといたからさ!」
聖は俺の心配をよそに言った。
横縦北高の細田というヤツは、いつも仲間を引き連れて繁華街をうろつき、
カツアゲはもちろん、傷害事件もいくつか起こして少年院に何度か送られ
ている札つきの悪だ。
それを相手に勝利してきたらしい聖は、どんだけ強いのだろう。
「もうすぐ文化祭でミスコンに出るんだろう?顔は気をつけろよなぁ」
俺は傷の手当てをしながら言った。
「わかってるって!優勝賞品は城のキスだもんなぁ」
忘れていた…聖の言葉で思い出した。
俺のキスが優勝賞品にも入っていたんだ…
聖が優勝したら、そしたら…俺は聖とキ、キス…。
ヤバイ…俺のファーストキスは、男となのか。
俺がそんなことを考えていたら聖が言った。
「あっ、もしかして、城、女知らないとか?キスもしたことない…とか?」
俺の顔を覗きこんで聞くのはやめてくれ…
「城って、なんかクール気取ってるけど、本当は女とかに絡むの
恥ずかしいんじゃないの?」
ず、図星だ。ビンゴだ。おまえには透視能力があるのか…
「ん、んなことねーよ」 俺の否定の言葉には力がまったくない…
「でも、聖が優勝したら俺とキスだよ、男同士でだよ」
俺は聖をチラッと見て言った。
「ぁあ?オレ?キスぐらい別にいーよ~。なんなら今、練習しちゃう?」
聖はそう言うと、俺のあごを持ち、上に上げた。
聖に見つめられた俺は一瞬記憶が逃避行した。が!
「うわーー。や、やめろ!な、なんで今おまえとキスしなきゃなんねんだよ!」
俺はソファから立ち上がった。
「ぁんだよ、恋人同士じゃないの?オレたち」 聖は顔色も変えずに言った。
「そ、そういう問題じゃない!と、とりあえず二度と喧嘩すんなよ!」
俺はあせりにあせりまくってテーブルの角とか棚の角とかに足をぶつけつつ、
最後にドアで顔面を強打し、聖の笑い声を背に受け、家に戻った。