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第五話 聖…そうだったのか…

文化祭10日前になり、ミスコン15人選ばれ名前が、張り出された。

もちろん聖は入っていた。


それから2日後、朝、聖を待っていたが中々マンションロビーに下りて来なかった。

携帯に電話してみたが出ない。

5分過ぎても来ないので、聖の部屋まで行ってチャイムを鳴らした。

が、無反応で心配になった俺は、自宅に戻りおふくろに事情を説明して

万が一のためにおふくろが預かっていた聖の家のスペアキーを受け取った。


おふくろは町内会の朝掃除のため出かけるので、俺一人で聖の家に行った。

もう一度チャイムを鳴らしてみたが、同じく無反応だった。

「あー、初めて彼女のお宅にお邪魔するのに無断侵入かよ…」

俺はドアに鍵を差込み、ゆっくりとまわした。


ドアもゆっくり開けて、まずは顔だけを玄関に突っ込み覗いて聖の名前を呼んだ。

「ひ、聖…?いる…?」

シーンとしている。

そして玄関に入り、ドアを閉めた。


部屋の作りは俺のところとほぼ一緒だったため、俺はリビングに向いドアを開けた。

誰もいなかった…


「いないのかな…どこ行ったんだろう…」

俺は一歩リビングに足を入れた。

何かを蹴ってしまった。

………えっ?何?…これ。

足元に転がっている黒い棒を拾った。


…黒い棒が二本、チェーンで繋がっていた。

「こ、こ、これは、ヌ、ヌンチャクゥゥゥ?!」

ヌンチャクだった。

横にはボクシンググローブが右、左と離れて落ちている。


そして、ふと前方斜め右奥を見たら、

「サ、サ、サンドバックゥゥゥゥ?」


もっと奥には

「えっ?!なんだ!あれは…木?木?」

それは、木の丸太に横からいくつかの棒が突き出ているものだった。

昔、香港のカンフー映画でみたことのあるカンフーの練習用に使う等身大の木の人形だ。

それと同じものが置かれていた。


なぜ、こんなものが!!

俺の体からたらりたらりと汗が出てきた。

いつもとは違うしあわせの汗ではない…


「聖の部屋は、乙女チックで…ぬいぐるみがたくさんあって…ピ、ピンク色で」

それは俺の想像だ、いいんだ!たとえ、聖がカンフーとか格闘技が好きでもいいんだ!!

かわいい聖には変わらないのだから!

俺は自分に一生懸命言い聞かせた。


とりあえず、見なかった事にし自分を落ちつかせたあと、寝室と思われるドアを開けた。

ベッドが置いてあり、誰かが寝ていた。


聖だ…


「聖?」 俺はすぐさまベッドに近づき聖を見た。

「どうした?具合悪いのか?」

「う~~ん」 聖は赤い顔をしてうなされていた。

おでこに手を当てたら、すごく熱かった。


「う~~ん」

聖は体が熱いのか掛けていた布団から腕を出した。

「うわっ!うわっ!うわー」 腕と肩が出た。

は、は、裸だぁぁぁ。

俺はうろたえ、一歩後ろに後ずさり右・左と一人で、あせりのステップを踏んでいた。


やばい、やばいー、どうしようーー。

「う~ん、熱い…あつ…い…」

聖はそう言うと、今度はおもいきり布団をめくった。

全身が顕になった。

ぜ、ぜん、全身、は、裸――――!

俺は全裸の聖を見てしまった。

天と地がひっくり返るということはこういうことだったのかーーー。


が、我に返り、聖が冷えてはいけないと思い、震える手で布団を掛けなおしてあげた。


顔を確認した。聖だ。確かに聖だった。

少し布団を上げて聖の胸を見た。

「ない…ない、女子にあるはずの胸のふくらみ二つというものが、な…い」

---コイツはペチャパイなんだ、そうだ、相当なペチャパイだ。


次に足元から布団をめくってみた、そして閉じてみた。

もう一度確認のため、足元の布団をめくった…

「あ…あるぅぅ。か、下半身についてい…る。それも、俺より多少大きいものが 

 …ついて…いるぅぅぅぅぅーーー」

俺は大の字の形のまま、どこかの暗闇に吸い込まれていった。


「うわぁぁぁ」

勢いよく後ずさり、壁にへばりついた。


聖が…男になっている。

いつの間に変身したんだ!!

熱が出ると男に変身するとか?!

などとわけの分からない俺の考えがうずめくこと数分。

「う~ん、ん~、熱いよぉ…」

聖が赤い顔のまま、うなった。


どうしたらいいんだ!俺は!

おふくろを呼ぶわけにもいかない。

とりあえず、薬だ!体温計だ!水枕だ!


俺は自分の家に戻り、全てをそろえて聖の部屋に戻ってきた。


「落ち着け!自分!」 と深く深呼吸をして、聖の熱を測り、水枕を作り、

汗をかいている聖の体をタオルで拭いた。

制服を着ているきゃしゃな聖からは想像できないくらい、細いが筋肉質な体だった。

「いつもの…聖じゃない、グスン…」

俺は半泣きしながらも、

「あっ、薬飲ませなきゃ」

「水水~」

「コップコップ」

などとウロウロした。

人間ビックリした時やパニクった時、声に出してブツブツと一人ごとを言って

しまうことを、この時知った。


俺がせっせと聖のお世話をしていると突然、俺の携帯が鳴った。

「うおっ!な、なんだ、俺の携帯か…びっくりしたぁ」


「城?聖ちゃん、いたのー?」

町内会から戻ってきた、おふくろが心配してかけてきたものだった。

俺はなんと言っていいのか分からず、


「えーとえーと、なんか風邪みたいで…」

「えぇ?!風邪?ママすぐ行くから」

ヤバイよ!こんなの、おふくろが見たらひっくり返っちゃうよ!

聖が男だったなんて…


「いい!いい!来なくて大丈夫だから!!」

俺は必死だった。

「どうして?!とにかくママ今から行くから、あなたは学校に行きなさい。

 遅刻の理由はママが連絡しておくから~」

「いや…あの…」

俺がうろたえている間に、おふくろの電話は切れた。


切れた携帯を眺めつつ、俺はどうしていいのか分からず溜息をついて

ベッド脇にたたずんでいた。

バタバタとおふくろの足音が聞こえてきた。


もう…おしまいだァーーーー。

俺は天を仰ぎ目を閉じた。


ベッドルームにおふくろが入って来た。


「城、あんた、まだいたの?早く学校に行きなさい。聖ちゃんは心配いらないから、

 ママにまかせなさい」

おふくろは、そう言いながら聖に近づいた。


「いや…実はね、おふくろ…」 

俺の声を無視して、おふくろは聖のおでこに手を当てている。

「熱は?あらまぁ、赤い顔しちゃってかわいそうに」

「あの…おふくろ?あのね」 俺の声はまた無視された。


「あらまっ!パジャマ着てないじゃないの。どこにあるのかしら、パジャマ」

おふくろは布団から出ている聖の肩を見て言い、別の部屋にパジャマを探しに行った。


その間も俺はベッド脇にたたずんだままだった。

どこからかパジャマを見つけて来たおふくろが布団をはがそうとした。


「うわーーーー!だめだよ!布団めくっちゃダメだぁー」

俺は必死に布団を押さえつけた。


「なに!病人の頭の上で大声出してるのよ、あんたは!どきなさい!」

おふくろは俺を横に押しやり布団をめくった。


…もう、おしまいだ…おふくろ、気絶するかも…


「聖ちゃん、もう大丈夫だからね。お母さんが来ましたからね~パジャマ着て

 暖かくして寝ましょうね~、後でお粥作ってあげますからね~~」

何事もないかのように、おふくろは全裸で寝ている男の聖に話しかけ、

パジャマを着せはじめた。


「ぇ…え…ええーーー」

俺は、またわけが分からなくなった。

よく、わかりません…この状況がよく、わからなーーーい!!


「城!いつまでボーーっとそんなところにいるの!早く学校に行きなさい!」

おふくろの声で現実に戻され、俺は聞いた。

「おふくろ…聖、おとこ…だよ」


「そんなもん、この姿見ればわかるでしょ!付いてんだから!」 

「いや…おふくろ、ビックリしないの?聖、男だよ…」

「そんなこと、とっくに知ってたわよ」 おふくろは平然と言った。

「そうなんだ。とっくに知ってたんだ…って、ええーーーーなんて?

 今!なんて言いましたぁぁぁ?!」

俺はもう完璧にわけが分からない。


「パパもママも聖ちゃんから聞いて知ってたわよ。城の帰りが遅いとき、三人での

 食事の時、話してくれたのよ。だますのは心苦しいからって!」

「ええーー!俺聞いてないよ!全然知らないよ!」

「ママが言わないでいいって言ったの。だってさぁ、あなた彼女できたって

 うれしそうだったし、ママもパパも聖ちゃんみたいな、かわいい子が娘だった

 らいいなぁ~なんて!」

俺はもう開いた口が塞がらなかったし、全身の力も入らなかった。

両親にもだまされていた…


俺はヨロヨロと部屋を出て、鞄も持たず学校の方に歩いていた。

そして、通学途中にある横縦公園のブランコに腰をかけ、ジャングルジムを見た。

「聖…ジャングルジムから落ちそうになった子を助けたって言ってた。

 お助けウーマンじゃなくて、お助けマンだったのか…」


「でもなんで女装なんてしてんだ?」

「学校にはバレてないのか?」

「どうして男なのに、あんなにかわいいんだろう…」

「聖は男だけど…俺の彼女なんだよな…」

俺はブランコにずっと座り続け、いろいろなことを考えた。


5時を知らせるメロディーが町内に響き渡った。

その音で俺は、今日一日学校も行かず、公園にいたことに気がついた。


家に帰ると、おふくろは聖の部屋に行っているのかいなかった。

俺は自室に行き、考える事が多すぎて一つも答えのでないまま、ベッドの上に

仰向けになって寝転んだ。



トントン…

部屋のドアを叩く音がした。


「城?お夕飯用意してあるから、パパと食べてね。ママ、聖ちゃんのところで

 一緒にお粥食べるから」

おふくろの声がドア越しに聞こえた。

時計を見たら7時を回っていた。

おふくろが家に戻ってきて夕食の仕度をしていたことにも気づかなかったし、

腹が減っている事も気がつかなかった。


ダイニングに行くと、おやじが炊飯器からご飯をよそっていた。

「おう!早く座れ。今日は二人でメシだ」

おやじも知ってたんだよね…


「おやじ…なんで言ってくれなかったんだよ」 俺は気の抜けた声で聞いた。

「だって、おまえ、彼女できたって喜んでたろ?」

それはおふくろからも聞いたよ…


「でも、男だぜ!聖、男だったんだぜ。自分の息子の彼女が男ってわかったら

 普通ビックリするって、というか反対するっていうか…」

「ん!まぁな!少しびっくりしたよ、パパも。でも、まぁ今の世の中、男同士ってのも、

 ありじゃないのか?本人同士がいいんなら。まっ、孫の顔を見れないのは寂しいが」

おやじは、さといもの煮っころがしをつまみながら言った。


本人同士って、本人は何にも知らなかったんだよ。

それに、なんで孫の話までなってんだよ。

確かに、確かに俺の妄想の未来予想図では聖との間に子供が二人いた。

しかし、それは聖が女であることが前提だ。

俺は、おやじとおふくろの頭の中を覗いてみたかった。

親の顔も見てみたかった…じいちゃんとばあちゃんの顔が浮かんできた。

…いやいやそんなことは、どうでもいい。


8時が過ぎたが、おふくろはまだ戻って来なかった。

俺は聖の部屋に行った。


「おふくろ?聖の具合どう?」

俺は恐る恐るベッドルームのドアを開けた。


おふくろはチラリと俺の方を見て言った。

「あら、来たの?やっぱり恋人が病気だと心配なのね~」

恋人…って。

俺はもう何も言うことはない…このままこの場に流されよう。


「今さっき、また眠ったところよ。熱も下がってきたし、お粥も食べてくれたし

 明日もう一日お休みさせるから先生に言っておいてね」

「うん…」

聖は静かに眠っていた。

顔だけ見ていると…女子だ。女の子みたいだ。


「ねぇ、おふくろ…学校って、知らないんでしょう?聖のこと。よく女として

 転校できたよね…」

「知ってるらしわよ。理事長とお父様が知り合いなんですって。あと、校長先生  

 と担任の佐伯先生も知ってるって言ってたわ」



なにーーー!サエドン?サエドン!知っていて俺に聖と付き合えって言ったのか!!







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