第四話 聖の擦り傷?
新学期が始まると、10月末の行事、文化祭の準備が始まった。
「おまえはウエイターをやってくれ!」 健児が俺のところに来て言った。
「客寄せのためだ!おまえがいれば満員御礼なのだー!」
拳を上に振り上げる健児は、一人盛り上がっていた。
俺は健児がしきる模擬店「だんごの楽園」という女子をターゲットにした団子屋を
手伝う事になった。
クラスのイケメン上位5人が、なぜか黒服を着て接客をすることになった。
聖はアニメ・漫画部の後輩たちにたのまれコスプレをして客寄せをするらしい。
それと同時に、龍星高校の文化祭イベントの目玉である「ミス龍星コンテスト」に
推薦された。
出場する女子は、校内で一次審査の投票を行い、選ばれた15名は文化祭三日目の
午後に行われる決勝に出場する。
たぶん聖の優勝は間違いなしだ。
数日後、窓の外をボーッと眺めている俺の前に、石田と文化祭実行委員のメンバーが
現れた。
「たのみがある!」 いつになく目の奥に炎が燃えている石田に少しビビった。
「な、なんだよ。」
「頼む!」
「お願いします!」
石田と実行委員の数人が俺の前で手を合わせ拝んでいる。
「だから、なんだよ…」
男子数人に囲まれて拝まれて、小心者の俺は汗をかいていた。
「ミスコンの優勝賞品になってくれ!」
石田の言葉が理解できない。
「あぁ?!賞品…?」
「そうだ!賞品だ!優勝した女子に軽くでいいからキスをしてくれ。ポッペでいい!」
なぜか石田は両手拳を天に向けて叫んだ。
「大岡先輩校内一のイケメンだから、先輩がキスをする!なんて大盛り上がり
間違いなし!なんですよ!!お願いします!」
石田に続いて2年の実行委員が言った。
「お願いします!!」 みんなに声を揃え頭を下げられた。
俺は少し考えた。
優勝は…聖に決まっているようなものだ。
えっと、つーことは、聖とキス…ホッペと言えども、キ…スゥゥ。
俺はドギマギと汗をかいた。
聖と出会ってから、いろいろな汗をかいている俺だが、キスの妄想の汗は
いろいろな毛穴から出た。
「い、石田の頼みじゃ断れないよ、クラスメイトだし、学級委員だし」
俺は冷静を装った。
「いいのか!大岡!!」
「ありがとうございます!大岡先輩!」
俺は内心うれしさいっぱい、花いっぱいであったが、
「あぁ、キスだけだろ」
などと、女子とはホッペにでもキスをしたことがない俺ではあるが、
女慣れしている素振りでOK を出した。
そして数日後、張り出されたミスコン募集のポスターには、優勝者賞品として
「食堂食券2000円分並びに3年B組大岡城のキス」と書かれていた。
募集には、俺のキス目当てで過去最高の100人弱の女子の応募があり、
実行委員会は大喜びだった。
優勝は聖に決まっているので、俺の気持ちは余裕だ。
文化祭準備が忙しくなると、俺と聖は別々に帰ることが多くなり、
その日も学校からの帰宅時間が遅く、すでに暗くなっていた。
俺が、マンションに続く坂道を登り歩いていた時、少し先の角から聖が出てきが
俺には気づかず、聖は前を歩いていた。
聖をびっくりさせようと、静かに大股で歩き近づいた。
「わっ!!」
「うわっ!!」
聖のキャッ!というのを期待したが、思いのほか大きな声で驚いていた。
振り向いた聖は
「キャー、いやだぁ、城。びっくりしちゃったぁ」 と、いつもの聖だ。
しかし、聖の髪は少し乱れていて、腕からも血が出ていた。
「どうしたの?!血が出てる!」 俺は驚いて聖の腕を掴んだ。
「…さっき、そこで…転んじゃったの」 聖は下を向きながら言った。
「早く帰って手当てしよう、痛くない?」
「うん。大丈夫…軽くすっちゃっただけだから、心配しないで」
俺は聖の手を取って家まで急いだ。
聖の手は小さくはないが、細くて指が長いと、握っていてわかる。
初めて…手をつないだぞーーー。少し有頂天な俺がいた。
聖の家には救急箱がないというので、俺の家に行き、おふくろに手当てをして
もらった。
「よかったわぁ~聖ちゃんの顔に傷がついてなくて。かわいいお顔なんだから
これからは気をつけるのよ」 おふくろの声に
「は~い、気をつけます!お母さん!」 と、聖が言った。
おふくろのことをお母さん…と呼んでいる姿は嫁姑のようだ…
俺は未来予想図などを想像して一人口元の口角を上げ、ニヤけてしまった。
「城、もぉ何?ニヤニヤして気持ち悪い子ねぇ」
おふくろに言われ、口元を引き締めてみたが引き締まらず、妄想はふくらみ、
すでに俺の頭の中には、聖の間に子供が二人出来ていた。
聖の怪我から一週間経ち、朝いつものように、マンションロビーで聖を待っていた。
エレベーターから出てきた聖は、膝に大きな絆創膏を貼り、手の甲にも絆創膏が
貼られていた。
「どうしたの?!それ!」 俺はまたまた驚いた。
「んー、あのね…えーと、昨日!昨日ね、学校の帰り道に横縦公園で…
あそこで小さい子がジャングルジムから落ちそうになって、受けとめたときに
すっちゃったぁ」
聖は、エヘッと舌を出して笑った。
「痛くない?大丈夫?気をつけろよな。最近一緒に帰れないんだから」
俺は彼氏ぶった。
「うん!文化祭終わったらまた一緒に帰れるよね?」
そう言うと聖は手を繋いできた。
「あたりまえだろ!あんまり心配させんなよな」
俺は聖の手を引っ張って歩き始めた。
そしてその日から一緒に歩く時は手をつなぐようになった。
う、うれしい…。