第二十四話 聖の両親
大学も受かり、コンテストも終わった。
高校生活も残すところ、数日間の登校と卒業式のみとなった。
卒業式まで登校する日も少なかったが、3Bの仲間とつるんで遊びに行ったり
していた。
健児は俺と同じ私立大学に、あっ、日野もだ…
相川は体育大学へ
石田は国立大学へ
聖は「オレはファッションデザイナーになるぜ!」 と言い服飾専門学校へ
行くことになった。
3Bのみんなも進学や就職がそれぞれ決まっていった。
卒業式2日前、卒業式に参列するため聖の父親が日本に帰国した。
「今、成田なんだけどマンションに着いたら、父さんが城の家に挨拶に
行きたいって言ってんだけど、いいか?」
聖から連絡が来た。
おやじとおふくろは、いそいそと部屋を片付け始め、俺は一応ジャージから
それなりの服に着替えた。
―――初めて会うからなぁ、聖のお父さんと…
俺は受験よりコンテストより緊張していた。
―――聖のお父さんだったら、きっとダンディなんだろうなぁ~
などと俺はまた勝手に想像していた。
4時過ぎにチャイムが鳴った。
俺の心臓も鳴り始めた。
―――き、来ちゃったよ。うぅぅぅドキドキだぜ。
おふくろが玄関に出向き、リビングに聖たちが入ってきた。
聖の横にはずんぐりむっくりした男性と、ものすごく美人な女性が立っていた。
不釣合いな二人だったが
「おう、城。オレの父さんと母さんだ」 聖が言った。
―――えっ…お、おとう…さん!ええーー、お母さん?
聖のお母さんは亡くなっているはず…
あっ、継母か…
「じょ、城です」
俺は一応、聖の両親に挨拶をした。
「いつも聖がお世話になっているようで、ありがとう、城くん」
その継母はやさしい口調で言った。
「いや~、熊山から聞いて、城くんが傍にいてくれて本当に感謝してます」
お父さんは深々と俺に頭を下げた。
ちなみに熊山とは理事長のことだ。
「いえいえ…」 などと俺も頭を下げた。
―――しかし、このおやじからよく聖みたいなきれいな子供ができたよなぁ。
あっ、お母さん似か…聖は。でもこの女性は継母だよな?
つーことは、亡くなったお母さんもそうとうな美人だったのか…
このおやじ、見かけによらずモテまくり体質?
もしかして、金で囲ってるとか?
いやいや、それはないよな…
などと、俺は想像を張り巡らせていた。
「もぅ、この子ったら小さい時から暴れん坊で、お腹の中にいた時なんて
ボンボン蹴って、早く出せーみたいな。ほほほほ~」
聖の継母の話で、おふくろたちは盛り上がっていた。
―――そうなんだ、腹の中にいたときから暴れてたんだぁ、聖…
腹の中…?継母なのに腹の中?
俺はわからなくなり、昨日買った雑誌の話を口実に聖を自分の部屋に連れて行った。
「聖のお母さん…」
「ん?オレの母さんがどうした?結構美人だろ?城のお母さんも綺麗だけどな。
オレ、まじ母さんに似てよかった、父さん似だったら城も困るだろ?」
聖はそう言い笑ったが、
「ま、継母じゃないの?!」 俺は聞いた。
「…へっ?」 聖の顔がハニワのようになった。
「なに?なんの話?オレの母さん、あの人だけだけど…?」
「転校してきた日、言ったじゃないか。お母さんいないって。で、お父さんは
香港の女の所だって…」
俺の言葉に聖が笑い出した。
「おいおい、オレの母さん勝手に殺すなよなぁ。母さんは家にいない。
それに香港の女の所って母さんの所って意味だしぃ」
そういって聖はまた笑い出した。
俺は勝手に聖の生い立ちを創作していたのか…
この後知った事実は、聖のお父さんが「崎田権次郎」。
「GONJILO」 という世界的有名な日本人ピアニストだった。
俺でも知っている名前だ。
ピアニストにしては少し短めの指だが、女性が弾いているのではないだろうかと
思わせる綺麗なやさしい音色を奏でることで有名だった。
―――しかし、聖がお母さん似でよかった…
みんなで食事をしながら、俺はそればかり考えていた。