第二十三話 イケイケメンメン・コンテスト 4
「スタンバイお願いします」 スタッフの人の声がした。
審査会議が終わったらしい。
俺たち10人はステージに並んだ。
日野は、まだライトの当たらない暗いステージで俺の方に顔を向けて
親指を立て自分に向けて動かしていた。
たぶん「グランプリは僕がいただいた」と言いたいのだろう。
ステージにライトが交差し始めた。
まずは「準グランプリ」の発表だ。
「第5回イケイケメンメン・イケメンコンテスト!準グランプリは---」
「No.3 池田綿雄さんです」
俺でも日野でもなかった。
「さぁ、グランプリの発表です!」
司会者が言うと、またステージが暗くなりライトが交差した。
「第5回イケイケメンメン・イケメンコンテスト!グランプリは!!」
テケテケテケテケ~~~とドラムの音がし、司会者が口を開いた。
「No.18!登戸祐二さんーー!」
登戸君だった。
―――やっぱり、かわいいし年上の女性にもかわいがられるタイプだよな~
メンズたちが登戸君におめでとうを言い、握手をしていたので
俺も、
「登戸君!おめでとう~」 と言ったら俺の差し出した手を無視して抱擁してきた。
―――えっ、俺はただ握手を…
登戸君が前に出てトロフィーとかいろいろと貰っている時、日野を見た。
落ち込んでいる…
とりあえず、これでこの戦いは終わった。
日野もグランプリを取れなかったことに俺はホッしていた。
いきなり司会者の声がマイクを通して会場に響いた。
「ここで、今回は特別賞がございます」
司会者の言葉に会場が少しざわついた。
元々特別賞なんてない。
司会者が続けた。
「審査員の方々から、グランプリは惜しくも逃しましたが、どうしてもどーしても賞を
差し上げたいメンズの方がいるということで、今回は審査員特別賞を急遽設ける事に
なりました」
そして発表された。
「では、発表いたします。第5回イケイケメンメン・イケメンコンテスト
特別審査員賞は---No.21!大岡城さんです!」
―――えっ、お、俺…?!
会場の3Bのみんなの万歳が聞こえた。
登戸君は俺に「キャ~おめでとう~」と言ってまた抱きついてきた。
―――……キャ~って…?キャーってなに?登戸くん?
審査員長がコメントを言った。
「大岡さんは、いままでにないタイプでした。鍛えられた肉体美!そして
カンフーを愛する熱い心!審査員一同、胸を打たれました」
聖のカンフーの思いの受売りで俺は特別賞を貰ってしまった。
特別賞のトロフィーと副賞は後日自宅に届けられることになった。
控え室に戻ると日野が来て言った。
「勝負はまだ終わっていない!」
「えっ?なんだよ!俺、賞貰ったじゃないかー」
日野は人差し指を俺の目の前で左右にチッチッチッと振って
「城君はグランプリでは、なーーーーい!この戦いは次に持ち越す!
ぶっははははは~~」
「ずるいぞー!日野!おい…おーい」
日野は俺の話も聞かず、控え室から立ち去った。
―――ざけんなよ。
俺が日野の後姿を見送りながらブツクサ言っていると
「大岡君~~連絡先交換してくれるかなぁ」 登戸君が言ってきた。
俺は登戸君とメアド交換をした。
「僕、これから関係者の人達と会わなきゃならなんだ。だから今日はこれで
お別れだけど、必ず連絡するから待っててね!」
「お、おぅ…」
「あっ、大岡君ってさぁ…」 登戸君が顔を赤らめながら聞いてきた。
「ん?なに?」
「うん…大岡君て、ノンケ…なの?」
―――えっ?あっ、ん~~、のん気なタイプではないよなぁ俺。
「別に…違うよ」
俺が答えると登戸君はまた目をキラキラさせ、今度は瞳の中に星を散りばめ
「ほ、ほんと?!わぁ~~い」
と、うれしそうな登戸君は、待っているスタッフの人のもとに行き、
「ばいばーい、大岡君!絶対メールするからね!」 と言い去っていった。
なぜ、登戸君はそんなに「のん気」にこだわるのだろう…
俺が「ノンケ」の意味を知るのはもう少し先のことになる。
メンズのみんなもバラバラと控え室を後にした。
俺は廊下で待っていた聖に、さっきの日野の発言を話した。
「あいつもしつこいよな。でもまぁ、当分は大丈夫だろうけど」
「もし、またなんか言ってきても、俺戦うから。聖のために戦うから!」
そう俺は聖に宣言した。
その後、日野からの挑戦状を何度も受け取ることになるとは、この時
まったく考えていなかった。
そして、春には登戸君が秋田から上京して来て…
うっ、思い出しただけでも…
俺は聖と会場の外で待っていてくれた3Bのみんなとサエドンと両親と合流した。
みんなから「おめでとう!」を言われ、また万歳をしてくれた。
―――みんな!ありがとう!
みんなが協力してくれたおかげだ!!