第二話 聖の淋しさ
考えてみれば、サエドンに言われたからと言って俺は一度も「付き合う」と
彼女には言っていない。
が、俺も彼女がほしかったし、聖はかわいいし、女子と話すのが恥ずかしい俺
としては、トントン拍子に事が運んでサエドンに感謝だ。
帰宅部の俺は健児たちと帰ることが多い。
この日、健児が聖に一緒に帰ろうと誘った。
聞くと、聖の自宅と俺の家は同じ方向ということがわかった。
健児たちと途中で別れて、俺は聖と二人になった。
「聖の家ってどこ?」
「えーっと、住所は横縦町のプレディンシャル・横縦マンション。知ってる?」
ええー!
「俺の家と同じだよ、横縦マンション」 俺が言うと
「え~、そうなの?すごい奇遇だね!うれしいなぁ。テヘッ」 と、聖は笑った。
―――や、やっぱ、かわいい…
この思いがけない展開に俺はまたまたサエドンに感謝をし、聖との運命を感じ、
心の中はハッピーでいっぱいになった。
「あっ、ちょっと待ってて。私、お弁当買ってくる」
聖が数件先に見えた弁当屋に走って行った。
「ごめんね、おまたせしちゃって。これ、夕ご飯なの」
聖が弁当の袋を少し上に上げて見せた。
「家、今日は一人なの?」 俺が聞くと
「うん!いつも一人だよ。お母さんいないし」
―――そうか、お母さん亡くなっているんだ。まずいこと聞いちゃったなぁ。
お父さんの帰国で聖も一緒に帰ってきたんだよな。
「あっ、お父さんは?仕事で遅いの?」
「ううん。父は香港にいるの」 聖が言った。
「えっ?お父さんの帰国で帰ってきたんじゃないの?」 俺は聞きなおした。
「本当は私、一人暮らしなんだ。先週までは父も一緒に日本に戻ってきてたん
だけど、もう香港に帰った、女のところに…」
聖は寂しそうに微笑んだ…ように見えた…俺には…
なんか複雑なんだなぁ、聖の家族。
「一人暮らしなんて、寂しいだろ?」 俺は自分の足元を見ながら聞いた。
「ん?日本に来てまだ一週間しか経ってないけど、もう慣れちゃったぁ」
聖は明るく言おうとしていた…ように見えた…俺には…
マンションに着き、明日の朝マンションロビーで待ち合わせの約束をして
聖は10階へ、俺は15階へそれぞれの自宅に帰った。
俺は夕食の時、おやじとおふくろに聖のことを話した。
転校生の女の子が同じマンションに一人で住んでいるということだけを言い、
付き合うことになった、ということはまだ内緒にした。
「じゃぁ、じゃぁ!お夕食はできるだけ誘ってあげなさい!」
と、おふくろがうれしそうに言い、おやじはおやじで、
「かわいい子なら、いつでもウエルカムだぞ!」 と二人で盛り上がっていた。
聖の母親は亡くなっていて、父親は別の女と暮らしている。
「もう慣れた」と言っていた聖だが、広い家の中で一人で食事をしていると
思うと俺はなんだか悲しくなってきた。
その夜、俺は聖のことをずっと考えて眠りについた。